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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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152話 対策

「あまりまどろっこしいのは好きじゃないから単刀直入に言おう。…ヴィンセントの意識が戻ったよ」

「!? 戻ったんですか…」


 遂に戻ったのか…。

 いや、ここに呼ばれた時点でそうなんじゃないかとは思っていたが…。


「だが…記憶の方がないらしくてな。ここ数年の記憶が飛んでしまったようだ」

「そんな…」


 マジか…。

 アイツは…洗脳されていただけでただの被害者に過ぎない。

 それは…あんまりだろうよ。ヴィクター様も浮かばれないだろうに…。


「だが一応意識はしっかりしていて、意思の疎通はできるようでな、特に障害等が残っていないのが幸いと言えるが…本人は混乱していたよ。私も会って直接話してみたが、私のことを覚えていなかったからな。今はセグランで療養中だ…」

「そうですか…」

「アイツがしたことは、本人の意思ではないことは我々は分かっている。だが、洗脳されていたことを証拠として提言できるだけの材料がないからね…アイツは罪を償わなくてはいけない。だが…その原因を作った奴が罪を償わないというのは、非常に腹ただしく思う」


 俺も同意見だ。


 あんの仮面野郎…ぜってーぶっ潰してやる。

 洗脳なんていう卑劣な行為で他人の人生壊すとかふざけるなよ…。


「アルファリアのことについては非常に残念に思う。…ただ、あの指輪については一部を除き解析が済んだよ」

「…それは?」


 怒りはあるが、それをどこへもぶつけることいできないことに更に怒りを覚える。

 だが、気持ちを切り替え今聞くべきことに俺は意識を向けた。


「指輪の解析はヨルムさんを始めとする特殊な機関に一任していてね…その研究チームの報告によれば、どうやらあの指輪には術者の魔力を吸収するという特性があるらしい」

「術者の?」


 はて? 他者じゃなくて術者とな?

 確かに指輪に触れたときは俺の魔力は吸われなかったけど、ヴィンセントに触れたときは確かに吸われたぞ…2回も。


 当時のことを思い出し、若干違和感を覚える。


「そうだ。君がヴィンセントと相対した時に魔力を吸われたという話は聞いていたから、ちょっとおかしな話だがね…。だが結論としてはそうみたいなんだ」

「不思議ですね…。指輪に自身の魔力を吸われる代わりに、自身の体もまた魔力を吸収する力を得る…ということですかね?」

「…結果だけ見ればそういうことだろう」


 んー? それって相反した性質同士だよなぁ。


「しかし…それってなんともハイリスクハイリターンなものに見えますね。指輪に吸われる魔力が少ないのであればご主人なんかはとんでもなく相性良さそうですけど…」

「…オイ、魔人化しかけるような物騒なものを誰が装備するかよ…」

「流石にそれは冗談ですよ。もしもの話です」


 今の話を聞いて誰が装備するってんだよ。

 まだ不明な点は多いんだぞ…。


 ポポの発言に若干馬鹿らしさを感じていると…


「…それで、残る問題はあのヴィンセントの姿になるんだ。ただ、あの魔力を放った原因…魔人化した理由については報告を聞いて……戦慄を感じたよ。とても信じたくない内容だった」

「戦慄…ですか…」


 戦慄と言う言葉に違和感を感じたのか、ポポが聞き返すように呟いた。

 だがその違和感と言うのは正しかったようで、学院長の表情は先ほどとは打って変わって優れない。どうやら本当に信じられない内容なのはすぐに俺も感じ取ることができた。

 そして…


「君は…魂というものを信じるかい?」

「は?」


 学院長から出た言葉に、一瞬呆けてしまった。

 まさか学院長から出た言葉が、魂などという一般的に考えれば思いもしないものであれば仕方ないだろう。


「聞くところによれば…あの指輪の性質を調べるために魔力波を検知したら…その波長が常に入り乱れて一定しなかったらしい。そして…」


 一旦溜めて…というより、言い出すのを覚悟するかのように、学院長はその続きを話した。


「魔力波を通してこう伝わって来たそうだよ。………助けて…と」

「それって…」


 助けてって…まさか…。


「恐らく、にわかには信じがたいが…人を犠牲にした素材で指輪は生成されていて、その犠牲となった人の怨念が助けを求めている…と、ヨルムさんからは聞いたよ」


 嘘だろ? あの指輪に誰かの魂が使われてて…今もなお助けを求めているって言うのかよ…。


「…つまりその怨念もとい、魂が装備者の中に侵食し、魔人化するほど人体の性質を変化させたのではと結論付いたらしい。…というより、それしか考えつかないというのが向こうの見解だ」

「人が…材料?」


 魔人化のメカニズムが多少なりとも分かったことにも驚きは確かにある。だが、それ以上に驚くべき点が俺を今支配している。


 魂がこの世界からなくなっているのは…その指輪の材料にしているためなのか? 

 いや…それだけにしてはやることがショボすぎる気がする。ジークは連中が1000年以上も前から動いていると言っていた…。それならもっと何か別の考えがあるんじゃないか?

 なんかこう…これは副次的な産物な気がしてならない。本命は別にあるように思える。


 新たな情報を今持っている俺の情報と照らし合わせ、正しい答えを導きだそうと試みるが答えは出ない。

 出るのは新たな疑問だけ…。無くなった分だけの疑問ができるというのは、先が見えないマラソンをしているかのようだ。ジレンマを覚える。


 にしても…


「それは…出来れば聞きたくなかったですね。ただ、その見解の信用性は置いておいて…よく魂なんてものを信じようとしましたね? 研究者って…そういうのを否定しそうな気がするんですけど…」


 科学者が不可解な現象を徹底的に解明…否定しようとするように、研究者もそれは同じはずだ。

 素直に受け入れるとは思いにくい。


 だが、俺のその考えは…次の学院長の言葉で納得という形に収まった。


「どうやら助けてという言葉の他にも…解放してくれ、もう嫌だなどの言葉も聞こえてきたそうだ。勿論他の言葉もあったみたいだが、たった一回だけ…それも偶然的に助けてと聞こえてきただけなら信じることはなかっただろう。でも、助けてという意味に近い言葉や、それを連想させる言葉もあるというならいた仕方ないことと言えると思うよ。これは…明確に助けを求める意思があると判断できる」

「それは…」


 ゾッとする…。

 魂だけが無くなっても…人は死ぬ。肉体がどうかは分からないが、そんな人が生きるために必要である唯一無二の部分が材料として扱われているのは…確かに信じたくない。

 こんな非人道的なことを…ハイそうですかと素直に受け入れるだけのモノを俺は持っていない。


「ご主人…」

「…大丈夫だ」


 ポポが俺を見て心配そうな顔をしている。

 どうやら俺の気分が優れていないと思ったらしい。まぁ実際気分は悪いが、とても気分が優れないというほどではない。


「ただ、あの指輪がどのようにして作られたかは分からないそうだ。なにやら古代の技術でも使っているのか、あの指輪には一部解析不能な部分が見られるようでね…。現代の知識だけでは到底理解しきれるものではないと言っていたよ」

「…そうですか。製法も分からないとなると…」


 また思案する。


 作ったのは間違いなく連中だ。なら『ゲート』に特別な何かが必要とされているように、この指輪の製法にも特別な何かが必要な可能性がある。

 ただ単純にこちら…現代の知識がまだまだ乏しいという考えも確かにできる。だが、連中はそんなちゃちな考えの斜め上を平気でしてくるような気がしてならない。

 事が事なだけに、1000年の重みは伊達ではないに違いない。




 この人にも協力を仰ごう。

 過去にギルドマスターと共に冒険者に属していて、その方面には影響力が強いのは知っている。2人のセットならギルドも早々に動いてくれる可能性は高くなるし。


 なら…事態解決のためにも、お願いをするべきだろう。

 今できることを精一杯やろう。


「ポポ…ナナ…いいよな?」

「良いんじゃないですか?」

「というか必要でしょ」


 ポポとナナに確認を取ると、賛成のようだった。


「どうしたんだい一体…。君たちで何やら考えがまとまっているみたいだが…」


 1人ついてこれなかった学院長が聞いてくる。


「学院長。ギルドマスターから色々聞いているなら…もう知っているんでしょう? 俺が何をしようとしていて、どんな奴なのか。そして仲間に…元連中の1人がいるってことも…」

「…うん。知っているよ。中々タイミングを切り出せなかったんだが…君から言い出すということは…」

「全てお話しします。だから…力を貸してください」




 ◆◆◆




 それから俺の全てを話した後…


「…驚きを通り越して何も言えないんだが?」

「ま、それならそれでいいんですけどね…。俺が今言えることはこれが全てです」


 ギルドマスターの文で分かっていたこととはいえ、多少驚きを覚えた様だ。至って冷静に見える学院長だが、少々表情が硬い印象を覚える。


「いや…しかし…。一応欠けていたものが繋ぎ合わさったかのように思えてくるな。なぜ君がそれほどの力を持っているのか…こちらの知識が少々乏しいのかも…」


 色々と合点がいったとのこと。それと東出身だから知識は疎い的なことでは流石に限界があったらしい。


「まぁあれだ…魂は…存在するということでいいんだね?」

「ハイ。神様から直接聞いていますから…」

「…神様か。私も会ってみたいものだね……分かった。ヨルムさんにはそう伝えておこう。他は要点以外は伏せておくから安心してくれ」

「お願いします」


 学院長は話が早くて助かる。

 余計な説明は不要だし、こちらが嘘を言っているかどうかについては、冒険者業や今の教師としての長年の経験で理解してくれる。


「ただ、君がこうして異世界人であることを認めたとなると…面倒事は増えるだろうな」

「それは俺も分かってるんですけど、具体的にはどのように面倒事が増えるかお聞きしてもいいですか?」



 物語じゃよくある話だから、お姫様が~とか、私の国をお助けください~とか、私に一生仕えろ~とか…そんな感じっぽいのはなんとなく分かる。

 大体予想はつくんだが、一応こちらの世界観点からの意見を知りたい。


「まず、君が異世界人であることは…きっと世界中にすぐに伝わるだろう。グランドルではまだ大々的に宣言してはいないとはいえ、人の噂はすぐに広まるものだ。ましてや異世界人などという興味を引くようなものであればそれはもっと顕著にね」


 やっぱしか…。


「そして、異世界人が過去に残して行った功績は色々と多いことから…君もそれと同様として見られ、様々な所から接触が掛かることが予想できる。例えばまず貴族は勿論、王族はこぞって接触を図ってくるだろう…。異世界人という希少な血筋とその才覚、それを取り入れるためにね…。まぁ要するに、子種を求められるわけだ」


 生々しいなオイ。


 学院長の言葉に顔が引きつって仕方がない。物語で見る内容が現実としてあり得るという事実に、どうしていいか思考が追い付かない。

 そして…


「うわぁ~、もしご主人がそうだとしたら…想像したくないな」

「嫌ですね…。猿みたいに盛る羽目になるんでしょうね…」

「寒気がしてくる…」


 ポポとナナがもし俺がそうなった場合のことを考えたのか、嫌そうな顔をしながら喋る。

 俺達は俺達で、その事を想像しては身振るいをする。


「…だが事実だよ。現に『英雄』と呼ばれた人は全世界の王族の姫と婚姻を結び、血は薄まったとはいえその子孫が各地にいたからね。セルベルティアの王族もそうだ。他のお二人は…そうではなかったみたいだがね。特に『賢者』は…」

「はぁ…節操が無いなぁ『英雄』さんは…」


『賢者』さんは常に賢者タイムだったから納得ですな。『勇者』さんは知らんけど。


 ちなみに、セルベルティアというのはココ…王都の名前である。


「…確かに、彼はその筋で有名だったようだがね…。その時は『断罪』が終結したこともあって問題にならなかったが、その後が大変だったようだね。彼の死後、各王族が『英雄』の血を引くことになって…どの王族が真にその血を次代に継いでいくかでまた争いが勃発したようだし」


 あぁそれね…知ってるよ。『賢者』さんの件よりも前に起こった事案で有名らしいね。

 なんというか…異世界人が現れると争いができる風潮でもあるんですかねぇ…。


「確かそれって…この王都にいる王族が勝ったんだっけ?」

「よく知ってるね。そうだよ、最終的にはセルベルティアが勝って問題は収まった…とは言えないけど、そうみたいだね。…だから、話を戻すけどここの王族には気をつけたまえ。今は昔ほどではないとは思うが…過去の栄光を再び手にしようとしてくる可能性はある。いや、間違いなくかもしれない…」

「…」

「王族ともなると影響力が他の比ではないからなぁ…。助けを求められる人というのは限られてくるし…何が対策として良いのかは私も分からないな…」

「そうですか…」

「力になれそうもなくて済まないね」


 申し訳なさそうに言ってくる。


「いえ、学院長は悪くありませんし…仕方ないですよ。俺の問題ですから…」


 この人が申し訳なく思う必要なんてない。


 でも…どうすっかねぇ?

 一番の理想は異世界人であることを隠してそのまま終わることだったんだが、もう覆せないところまでバレちゃってるからなぁ…。王族を相手にしなければいいって考えがあるけど、どうせ王族のことだ。必ず弱みを握ってからの強制パターンをしてくるだろうし…正直怖い。しかもこれは俺だけじゃなくて周りの人間も対象になるからあまり得策とは言えない…。


 いつもは軽くものを考える俺も、こればっかりは蔑ろにすることはできない。

 ちょっと難しい事案である。


 俺だけが対象ってなるんなら、あまり気にしなくてよかったんだけどなぁ。

 婚姻とかが一切なくて、安心安全、俺の後ろ盾となってくれる良心的王族はないんかな…。あるならそちらに身を寄せるわけじゃないけど…助けていただきたい。


 ………。


 あるわけないか…そうだよな。ちくせう。


 でも…それならアレ作っておいて良かったな。これを見越していたわけじゃないけど…十分役立つはずだ。




「大体こんなところかな? 何か君からはあるかい?」

「ご主人…他には何かありましたっけ?」

「いや…無いんじゃないか?」


 あらかた今回の用件は済ますことができたはずだ。

 もう…十分だろう。


「それならあと…これを君に」


 そろそろお暇しそうな雰囲気を漂わせると、学院長が何かを懐から取り出す。


「? なんです…コレ?」


 懐から取り出したのは、何やら綺麗な色をした結晶だった。それは以前災厄の時に見たものと似ており、恐らく同質のものと判断できる。


「毎回君にこちらに来てもらうのは忍びないからね、取り寄せておいたんだ。これから何度も連絡を取り合う必要がありそうだし…持っていてくれ」

「ということは…通信石ですね?」

「そうだよ。魔力の補充が多いから多用はできないけどね…。まぁ君には関係ないか」


 …多分。他の人の何十倍って魔力量はしてると思う。

 日に日に増えてってるな…。


 まぁなんにせよ…


「ありがとうございます! いやぁ…これで情報交換が少し捗りそうですね」

「うん。通信に出れるかはともかくとして、いつでも連絡してくれて構わない」

「了解です」

「それで…下手に弄ったりしないでくれたまえ。こちらとそちらの通信が上手くいかなくなっては困るのでな」

「あ、それは困りますね…気をつけますよ」




 王都まで来なくても情報交換ができるのは素直にありがたい。

 しかも、グランドルまで鮮明に音声が届くくらいだ。性能も悪くないだろうし、他の場所からも連絡ができそうだな…。


「さて、通信石も渡したし…君の仲間を見に行くとしようか?」

「へ…あ、ハイ」


 ここで学院長とはお別れかと思ったんだが違うらしい。俺達についてきてメンバーを見てみたいとのこと。


 …まぁ卒業したばかりの教え子がいるということもあるだろうが、俺と同じくSランクのヒナギさんに元連中の1人であるジーク、恐らくこの御三方が気になるのだろう。

 シュトルムとセシルさんも仲間内では知っている秘密はあるが、それは世間に広まってないから注目されないのは仕方がない。

 こうして見てみると…やはりこのパーティ面子に普通? の人がいないなぁと改めて感じてしまう。


 …あ、アンリさんは普通か。でも魔力循環を教えたから…それもあとどれくらいかって気がするな。

 テリスちゃんであれだし、きっともっとヤバいに違いない。

 正直もうランクなんて度外視していいんじゃね? とさえ思い始めている。


 う~む。色々と変わりつつありますねぇ。


「ハーベンスのことも気になるしな…どれだけ冒険者デビューしたかも気になる」


 と、席を立ちあがりながらそう学院長。


 それは…大学デビューみたいなものとして捉えていいんでしょうか? だったらアンリさん…髪型変えて大人っぽくなってますよ? めちゃんこ可愛いくて綺麗です。


 口には出さなかったが、内心でそんなことを思いながら俺も席を立つ。




 そしてそのまま流れるように、この部屋を後にしたのだった。

次回更新は土曜です。

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