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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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151話 変わりない2人

 なんやかんや、学院までたどり着いた俺達一行。

 その目に映るのは…懐かしの学院。俺の記憶と変わらない姿をしていて、思えばまだあれから2ヵ月しか経っていないんだなぁと思ったり…。

 ただ、この2ヵ月というのがいかに濃密な時間だったのか…改めて感じさせられる。


「へぇ~、これが噂に聞くこの大陸一の魔法学院…セルザード学院か…」

「ん、グランドルの学院とじゃレベルが違うね」


 グランドルにもテリスちゃんが通っている学院があるが、それとは比較にならないほどに大きいこの学院。規模でならグランドルの何倍以上も差があるだろう。


 正直…テリスちゃんはこの学院に来た方が良いのではないでしょうか?

 多分、あの歳で上級魔法が使える子ってほとんどいないだろうし、無償で入学、もしくは特待生という形で迎えられそうな気がする。


「アンリ様はここに通っていらしたんですよね?」

「ハイ。…この前まで通ってましたけど、ちょっと懐かしいです」

「そこでカミシロ様と出会ったんですね」

「えっと…ハイ」

「ご主人とアンリの出会いの場だね」

「まぁ…そうだな」


 皆それぞれで会話を紡ぎながら、門を潜り進む。

 この学院にこんな冒険者の恰好をした連中が入るのは珍しい光景だが、こちらには理由があるし特に気にする必要はない。もしも不審な事を考えているのであれば、容赦なく門番の人に連行されるだけだ。


「ん? …あ! ツカサじゃんか!? 久しぶりだなぁ!」


 そんなことを考えていると、この学院の守護者の1人である人物が俺の名を呼んだ。


「どうもフロムさん。お久しぶりですね、その節はご迷惑をお掛けしました」

「いやいや、一番迷惑を被ったのはお前だろうに…。どうしたんだ一体? つーかお嬢ちゃんもいるじゃねーか」


 俺の後ろにいたアンリさんに気づき、フロムさんの意識がそちらに一瞬移る。

 元々面識のある2人だし、気が付かない方がおかしい。


「ご無沙汰してますフロムさん」

「おう。元気そうで何よりだ。まさかツカサと一緒にいるとは思わなかったけどな…。そんでそちらは…?」


 アンリさんと軽く挨拶を交わすと、初対面である他のメンバーについて聞かれたので、簡単に紹介する。


「俺のパーティの人ですよ。…1人は違いますけど」

「それは俺な。俺は冒険者でも何でもねぇぞ」


 その人物に該当する奴が会話に入り込む。勿論ジークである。

 ジークは冒険者登録なんてものはしていない。あくまで俺達と一緒にいるだけという立場であり、そこに冒険者としてのしがらみや規約、行動理念などは存在しない。

 一応俺と『血の誓約』を交わしている関係上、俺の付き人という体裁はあるものの、そんなものはあってないようなものである。好き勝手気ままに動いている。

 だが、基本的に戦いのこと以外となると大人しいように思える。


「…一般人ってことか? その割には随分と面白い恰好してるが…」

「一般人とは言えないと思いますけどねー。一般人とは…」

「アハハ…」


 フロムさんの一般人と言う発言に、皆苦笑いしか出てこない。

 コイツを一般人と言えるのは、良くて初対面の人だけだ。数日…いや、数時間もあればすぐにその考えを改めることだろう。それくらいに一般人とはかけ離れた存在である。


「まぁそいつは置いておいて…俺はシュトルム、ちとこの場には不似合いだが…Cランクの冒険者で…見た目通りエルフだ」

「同じくこの場には不似合いだけど、Dランクの冒険者のセシル」


 シュトルムとセシルさんが軽く自己紹介をする。


「へぇ? 変わった構成してるんだな…」


 変わった構成というのは、ランクがかけ離れているということに対してだろう。

 普通パーティは±1くらいの差のランクが標準とされていて、今結成されている冒険者パーティの大半がその傾向にある。

 フロムさんは元冒険者だという話だし、そこに違和感を感じても仕方ないかもしれない。


「ちょっと特殊なもんで…」

「そうですね…。それで、私はヒナギ・マーライトと申します。大変身に余る光栄ですが…『鉄壁』の二つ名を頂いております」

「…は? 二つ名…? てことはアンタ…あのSランクの…?」

「えぇ…恐らく想像しているもので間違いないかと…」

「マジかよ…」


 ヒナギさんの言葉に大変驚いた様子のフロムさん。


 そりゃそうだ。俺は元々面識があったからいいものの、普通はSランクの人と対面するようなことなんてほとんどない。

 まぁ大半が重要な任に付いていたりするのが原因で、人目につくようなことがあまりないのも理由としてはあるにはあるが…。


 この世界ではSランクの人は非常に敬われるような立ち位置にあるようで、何かと特別視されることが多い。それは先ほどのヒナギさんに対する人々の反応からも分かることで、冒険者に属している者であればその傾向もさらに顕著となる。


「だが…聞いてた通り本当に美人さんだったんだな」

「あ、あの…?」

「あぁ悪いな。素直にそう思っただけだ、気にしないでくれ」


 若干反応に困ったような顔をするヒナギさんだが、フロムさんの物言いには俺も賛同せざるを得ない。

 なので…


「フロムさん…浮気ですか? 嫁さんが怒っちゃいますよそんなだと」


 茶化しを入れてみる。

 すると…


「馬鹿言え。そんなつもりで言ったんじゃねーっての」


 俺の茶化しに、即座に対応するフロムさん。


 まぁ分かってはいたことだけど…嫁さんへの愛は本物なようである。


「…で、後はお嬢ちゃんってわけか…。どうだ? 冒険者にはもう慣れたか?」


 アンリさんへと興味を移すフロムさんだったが、アンリさんが駆け出しの冒険者であることを分かっているため、自己紹介はいらないようだった。


「あ、ハイ。先生や皆さんもいるので…すっごく勉強になります!」


 そう思ってくれてるなら嬉しい。

 一方、フロムさんはというと…


「面子が特殊すぎて恵まれてると言っていいか分かんねーなもう…。ま、色々と頑張ってるなら何よりだ」


 アンリさんの言葉に肯定と取れるのか分からないようなことを言った。


 …確かに。

 もっとランクが近しい者同士の方が…良かったと思わないでもない。

 普通にフロムさんの言いたいことが分かってしまうのも事実なので、なんとも微妙な感じというか…。


「…っと、俺の方がまだだったな。俺はこの学院のしがない門番をやってるフロムっつーモンだ。よろしくな」

「それはそれは…コイツが随分とお世話になったみたいで…」


 ポンっと、俺の頭に手を置いて挨拶をするシュトルム。


「オイ、お前は俺の保護者かよ…」

「ま、そんなもんだろ」


 無いわ。それは絶対に無いわ。

 俺の保護者は良くてポポとナナだわ。

 それを見てフロムさんは…


「あー…なんかツカサの立ち位置がよく分かった気がするな。確かにそれなら保護者だわ」

「なんでそこで納得しちゃうんですか!? 違いますから!」


 ちゃうねん! 勘違いしないでもらいたい!


「ま、いいや」


 全然良くないんですがそれは…。


 フロムさんに勘違いされたままなのは癪だが…ちっ! ここは大人として諦めてあげましょう。


「それよりも…聞いたぜ? お前…Sランクになったんだってな」

「あー…おかげさまで」


 そう言えば…Sランクになったのって学院の依頼が終わってからの出来事なんだよな…。


「その知らせが来たときはこの学院で随分と騒ぎになってな、今年の入学試験…随分と倍率が高くなったって噂だぜ?」

「あ、そうなんですか…」


 それは…Sランクになった人が学院の講師をやったことで、この学院の知名度が上がったと言うことを言いたいんだろうか?


 へぇー、良かったねー。


「何だ…すげぇことしたって割にはあんまり驚いてねぇのな?」


 別にどうでもいいような反応をする俺を見て、フロムさんが意外そうな顔をしているが…


「だって入学者が増えたところで俺にはあんまり関係ないですし、どう反応していいか分からないですもん」

「そういうもんか…。そこは少しくらい誇りに思ってもいいと思うけどな」


 そういうもんか? 

 俺がもしこの学院の広報担当で、入学者を増やす取り組みをしてたって言うなら誇りに思ってもいいかもしれない。

 だが、俺は臨時で招かれて…偶然的にもその結果に繋げてしまっただけだ。棚から牡丹餅みたいなことで誇りに思うのはどうかと思う。


 やっぱり誇るんなら…自発的に、明確な意思を持って、そしてそれが自分の求めた結果だったかが実感できてこそだろう。少なくとも俺はそう思っている。


「それにしても、Sランクが2人もかよ…。ツカサ…お前はあれか? 世界最強のパーティでも作るつもりか?」


 と、急にそんなことを言われた。


「いえ…別にそんなつもりないですけど? 俺達は自分達が楽しそうだと思ったから一緒にいるわけで…そんなこと考えちゃいませんよ」

「…やっぱそうなるか。相変わらずの不思議ちゃんだな…お前は」


 何がでしょうか? 

 確かに周りから見ればそう見えなくもないかもしれない。だが、そんな考えは別にない。

 偶々だろ。



「…まぁそれは置いておいて…。アイザさんは…あれからどうなりましたか?」


 俺は…気になっていたことを口にする。


「もうピンピンして普通に仕事してるよ。今日は非番でいねーけどな」

「そうですか…」


 それを聞いて安心した。俺が知ってるアイザさんは…怪我をした姿のままだからな…。

 これはアンリさんに聞いていた通りのようだ。元気にしているとは聞いてはいても、やはり実際に見てみないと最終的には安心できないというかなんというか…。

 まぁ…そんな具合に心配だった。だから、今回会えなさそうなのは実に残念だ。


「そんで…急に何で学院に来たんだ? 何の用件だ?」


 ここで、ようやく本題を切り出せそうである。

 フロムさんからの質問に俺は答える。


「実は学院長から連絡がありまして、今日来てほしいって言われてるんですよ。……例の件です」

「例…? ……あー、アレか。ならちっと待ってろ。すぐに確認してくっからよ」

「はい、お願いします」


 例の件で伝わったのか、フロムさんが全て悟ったかのように動き出す。

 といっても、俺がここに来る理由としてはそれしか該当しなかったとも言えるが。




 それから俺達は、フロムさんが戻ってくるまでの間、門で時間を潰すのだった。




 ◆◆◆




 それから少しして…


「やぁ。久しぶりだね。あれから調子はどうだい?」


 極秘のため、そして皆にはまだ話してはいけないこともあり、ポポとナナだけを連れて学院長室にやってきた俺。

 皆にはそれまでの間時間を潰していてくれと言っておいたが、学院の中に入る機会なんぞほとんどないから、今頃あちこち回っていると思われる。

 アンリさんがいるし、案内役には困らないだろう。


「ボチボチですかねー」

「…まぁそのボチボチという言葉にどれだけの意味が込められているのかは知っているんだけどね。アルガントから文で色々と聞いているぞ? 随分と大変だったみたいじゃないか」


 なんだ…知ってるんかい。


「知ってるなら聞かないでくださいよ」

「そうは言っても、聞くのが手始めというものだろう」

「まぁそうですけど…」

「…君たちも久しぶりだね。相変わらず可愛いじゃないか」

「それほどでも」


 ポポとナナにも挨拶をする学院長だったが、ポポの反応が普通な一方ナナは…


「やっぱりそう思うよね? なのにご主人ときたらいつも邪険に扱うからさー…」


 こんなことを言いやがった。

 俺のどこに不満があるというのだっ!? 邪険に扱ったことってほとんどねーだろ!


「そうなのかい? なら…私の従魔にならないか?」

「え? それは…嫌」


 冗談だろうが、学院長からお誘いを受けるナナは…それを断った。


 あら…本心はそういうことなのね。

 ご主人安心しましたよ。コイツめ~。


「フフフ…仲が良いみたいだね」

「アハハ…」


 まるで手のひらで遊ばれているかのような話し方に、相変わらずだなと思ってしまう。加えて2つのメロンが描く曲線も素晴らしいままだ。


 そして…


「ハーベンスとはどうなんだい? 以前アルガントに送った文にも書いておいたのだが…」

「え? そうだったんですか? 俺…なんも聞いてないんですけど」


 え? そんな内容のこと書いてたのか?


「アイツめ…」


 学院長がまたかという顔をしてため息を吐く。


 そう言えば…ギルドマスターって前回もそんなことなかったっけ? 

 情報は簡潔に伝えないと意味がないぞ…大丈夫かギルドの長として…。


 …まぁいいや。直接影響したわけでもないし。


「まぁ…アンリさんとはその…恋人になりましたよ」

「ほぅ? なんだ…やることは終わったのかい?」

「いや…そういうわけではないんですけど…」

「ふむ…やはり男の子だね~(ニヤニヤ)。分かるよその気持ちは…だって男の子だからね」


 …やたらと男の子を強調するあたり、意地の悪さが十分に伝わってくる。


 そりゃそう思われても仕方ないとは思いますよ? 

 構図的には、我慢しなきゃいけないのにそれが出来なかった、ただの我がままな奴だしな。

 もっと言えば…俺達はまだ若い男女だ。性的なことに意識がついつい行きがちなことも考慮して、そっちの目で見られてしまうのも無理はない。


 …ま、そういう意味で恋人になったわけではありませんがね。…うん。


「…ま、世間話をするために来たわけでもないですし、本題に入りませんか?」


 俺は無駄話をしないでさっさと本題に入ろうと進言する。

 この話を続けるのは俺にとっては都合が悪い。勿論…反論できないという意味で。


「流した(ボソッ)」

「流したましたね(ボソッ)」

「うっせ!(ボソッ)」


 ポポとナナからジト目を向けられるが…うるせぃやい。


「? …うん。そうするとしようか」


 ゴホンッ! 気持ちを切り替えて行こうか?




 さてさて…どうなったのかね?

次回更新は木曜です。

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