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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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149話 ヘタレ脱却?

「遅れてゴメン!」


 一番遅れて、東の門へとやってきた俺。

 そこには、既に集合したメンバーが…俺を待っていた。


「あ、先生!」

「遅いですよご主人」

「ごめんごめん! 待たせた」


 今日、俺達は王都へと行く。学院長からこの前王都まで来てほしいとの連絡を聞き、行くことになったわけだが、シュトルムとセシルさんが最近王都に行っていないとのことでついてくることとなり、それじゃあメンバー全員で行こうということになったからである。


 危ない危ない…。なんとか間に合って良かった。

 もしかしたらがあるかもしれないし…用心するに越したことはない。


 と、遅れた理由を思い返す。


 ただ…


「あれ?」


 セシルさんだけが…この場にいない。

 どうやら、俺と同様に集合に遅れているらしい。何をしているのかは分からないが、セシルさんが遅れるのも珍しい。


 すると…


「ゴメンね。ちょっと遅れた」


 考える間もなく、セシルさんが現れた。


「あ、セシルさん…。俺も遅かったから人のこと言えないけどね」


 俺もセシルさんと似たようなもののため、強くは遅れたことを責めることはできない。


「何してたんだ?」

「ちょっと野暮用があってね…」


 シュトルムがセシルさんに遅れた原因を尋ねると、セシルさんはそう答える。

 俺と同様に、ちょっとした野暮用があったようだ。どんな用事かは分からないが、メンバーは全員各々で個人的なこともあるだろうし、不思議ではない。


 俺だって個人的な用事で今遅れたわけだし。


「ふ~ん? そうか…」

「じゃあ揃ったし行こっか? 皆はポポとナナに乗ってて。俺とジークは走るから…」

「…ま、そうなるわなぁ」


 メンバーも増えたことで、ポポとナナに乗って全員が移動することは…もうできない。定員オーバーだ。

 それならポポとナナよりも移動速度の速い俺とジークが、走るしかない。

 …冗談抜きで。


「あの…ごめんなさい、カミシロ様」

「あぁ気にしなくていいですから。どうせ王都まで走った所で大して疲れないでしょうし…な? ジーク」

「それな。軽いジョギングみたいなもんだ」

「そ、そうなんですか…。先生とジークさんって…本当に規格外ですね」

「まぁ…皆と比べたらアホなステータスしてるしね。なら仕方ないよ」


 俺とジークのステータスは…他の人と比べてはいけないと思う。桁違うし…。


「流石ご主人、パネェっス! 完走待ったなし!」

「距離はフルマラソンの比じゃないがな…俺もおかしくなったもんだ」

「会話が既におかしいことに誰も異を唱えないのもおかしいけどな」

「ん、確かに」


 皆で思い思いのことを言うが、確かにそう思う。

 最初の時は驚きの連続だったのか、そんな反応ばかりされたものだが、今ではこれだ。随分とラフ…というよりかは普通のこととして捉えるようになってきている。


「…アンリさんどっちに乗る? どっちもあんまり変わらないk……どうかした?」

「あ…いえ、な、なんでもないですからっ!」


 アンリさんは初めてポポ達に乗るはずだ。そう思ってどちらに乗るのか聞いてみたが…。

 なにやら様子がおかしい。顔を赤くしてモジモジとしている…。


 …尿意でしょうか? それなら待ちますから済ましてきていいですよ? 

 …流石に冗談だけど。


 …いや、さっきからなんとなく視線は感じてはいたんだが、アンリさん…ちょっと変じゃね? なんというか…学院での当初の反応とそっくりなんだが…。

 というか、レイピアを一緒に取りに行ったあの日からなんか変だ。避けられている気がするんだよな…。




 3日前に『安心の園』の廊下で鉢合わせしたら…


『あっ!? っ……!』


 いきなり踵を返してどこかに行っちゃうし…。

 一昨日は依頼で町を走り回ってた時に声掛けたら…


『…こ、こんにちは……』


 って、なんか少しぎこちないような変な反応されたし。

 昨日に至っては…


『………っ!』


 ですよ?

 こっちはそれに対して『!?』って反応したいところですわ。

 何が原因かさっぱり分からない。




「何やってんだお前ら…。ホラ、さっさと行こうぜ? アンリは早く乗れ」

「あ、はい…」


 そんな気まずい雰囲気だった俺達を、ジークが急かす。


 …なんでジークには普通に返答してるんでしょうね? ますます意味が分からない。


 ただ…




 どうしようかな…。

 シュトルムとヒナギさんと話をしてから色々と考えて、結構自分なりに準備(心の)はしてきたつもりなんだけど……このままだとちょっとなぁ。

 大丈夫だろうか?


「取りあえず、出発~」


 なんだか胸にモヤモヤが残ったまま、俺達は王都に向けて移動を始めた。




 今回の日程は、1日向こうで宿泊し、次の日は王都で自由行動をしようということになっている。

 ここ最近慌ただしい日々が続いていたこともあり、皆心のリフレッシュが必要だと判断し、その結論に至った。


 正直連中のことが気がかりではあるが、ずっと警戒しているというわけにもいかない。過度なストレスとなって自分たちがおかしくなることを防ぐためにも、こうして息抜きをすることは必要だろう。




 ◆◆◆




「ハイ、王都に到着~」


 2時間もかからないくらいの時間で、王都へと到着する。

 王都の門付近で、ポポとナナが降り立つのをジークと共に下から眺める。


 皆はどうかは知らないが、俺にとっては3度目の王都である。

 段々と王都までに掛かる時間も減ってきていて、通常だと大体3日は掛かるような距離の所を、少しの時間に短縮できるのは俺達ならではと思う。

 以前災厄で救援に来てくれたギルドの精鋭達でさえ軽く半日は掛かるところを、俺達はその約3倍以上の速さでこちらに来れていることから、正直早すぎるんじゃないかとは思うが…。


「やっぱり早いね…。この前東に行った時よりも移動早くなってる気がする…」

「そうだな。あん時よりも飛ぶの早かった気がするな」

「…約2ヵ月ぶりですね、王都は…」


 セシルさんとシュトルムは、東に行った時との比較をしてはそう評価をしており、ヒナギさんに至っては、少々懐かし気な顔つきで王都に戻ってきたことに何かを感じている様子だった。


 ジークは…


「相変わらずの門構えだな。これ…ぶっ壊してみてぇな」


 俺が王都に初めて来たときに驚いた鉄の門。依然変わらず厳格な相貌と雰囲気を放つそれを見て、そんな物騒なことを口走っていた。


 やめてください。君は本当にそれが出来てしまうから洒落にならないです。

 多分あの門に意思があったら怯えてると思います。


『あの…冗談ですよね? …違うの!? え…あ、ちょっ……マジやめて!?』


 こんな具合に…。


 まぁ…鉄の門がそんなこと言ってたらシュールすぎて笑うけどな。




 ただ、ジークを見れば疲れてる様子はなかった。それは俺もだが…。

 やはり王都まで走る程度では特に疲れを感じることはないようだ。今までこんな長距離を走るような機会はなかったため、正直確認が出来て良かったのかもしれない。


「えと…」


 と、ここでアンリさんがポポの背中から降りようとしているようだったが、どうやら少し降りるのに手間取っている様子だったので、俺は手を差し伸べるべく近づいた。

 しかし…


「あ…」


 俺が近づいて手を伸ばすと、アンリさんは…動きをピタリと止めた。

 アンリさんは随分と不安定な体勢だが、それを維持できるだけの体があるなら降りるのにそんな苦労しないのではと思ってしまう。そんな状態を器用に保っていた。


 ええいっ! このままでは埒が開かん! 


 俺はそう思い、アンリさんの手を取って軽く手を引く。


「きゃっ!?」

「ほぅ?」


 アンリさんは不安定な体勢で手を引かれたことにより驚きの声をあげた。そしてポポの背から落ちるが…それを俺は抱きとめる形で受け止めた。


 よっしゃ! イメージトレーニング通りだ。

 男カミシロ…俺は今ヘタレから一歩前進した。


 アンリさんと接することに関しては様々な事態を想定して対策済みだ。

 挨拶、日常、食事、緊急時、デート時等々…。実に嘆かわしいが、俺は不安要素はこうやってイメトレしないとダメな性分だ。


 俺の努力を舐めるなよ! これは『アンリさんとの接し方…第6ページ』に書いてあるのだよ。俺の脳内でな!

 全100ページを優に超える俺のイメトレの力を見せつけてやる!


「あ…っ~~~!」

 

 アンリさんが超至近距離で顔を赤くして恥ずかしがる。…可愛い。


「あのご主人が…」

「ちょっとびっくり…」


 ナナとセシルさんが何か言ってるけど無視だ無視。


 俺も尋常じゃないくらい恥ずかしくはあるが、ここで攻めの姿勢を緩めるのはヘタレの証だ。俺は攻めの姿勢を緩めない。


「それよりどうだった? アンリさんポポ達に乗るのって初めてだったと思うんだけど…怖くなかった?」

「あ、そ、それは全然…。むしろ楽しかった…です。…ただ」

「ただ?」

「……っ!」


 その次の言葉を待ってみたものの、アンリさんは俯いてしまって一向に顔を上げてこない。

 だが、耳を見てみると少々赤みを帯びており、恥ずかしがっているのだけは分かるのだが。


 ふむ。

 こうして大胆になってみれば状況が好転するかと思ってたんだが…その線は薄そうだな。

 取りあえず離れようか。も少しこのままでいてもいいけど、皆もいるしな…。


 そして俺はアンリさんから離れる。

 すると…


「ツカサ…お前にしてはえらいやるな?」

「それほどでも…」


 シュトルムが驚いたような顔で俺に言うが、もうこの前までの俺とは違うのだ。

 だから…今回はやることが済んだ後のこともあれこれ考えていたりする。


「あう………」

「アンリ様…大丈夫ですか?」


 何やらアンリさんがヒナギさんに受け止められているが…やりすぎてしまったかもしれない。


 ヒナギさん…すいませんね…。ケア頼んます。


「さて…じゃあ学院まで直行しますか」




 気持ちを切り替える意味も含めて、俺達は行動を開始したのだった。

次回更新は土曜日です。

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