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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
150/531

148話 それぞれの問題

 ◆◆◆




 魔力循環伝授から次の日…。


 ベルクさんの所に行って、アンリさんのレイピアを貰いに行った帰り道。

 俺は…アンリさんと並んで『安心の園』へと歩いていた。




 初っ端から突然ですけど連絡です。

 今の私、非常にドキドキしておりまふ。いや…ときめきか? まぁどっちもだな多分。

 こんな状態は滅多にないから…頭がおかしくなりそうです。普段はあれで正常なので、あしからず。


 ただでさえ不良品の私が、アンリさんと2人きりという状況になったことで、オーバーヒートでさらに不具合を起こして、不良品にすらなれないポンコツに昇格しそうになっています。




 …え? 不良品とポンコツは同じようなものだろうって? 

 アハハ…面白いこと言いますね。


 ポンコツは…まだ可愛気があるんです。言うなれば…まだ愛着の持てるダメな子。それ以外だと…やればできる子っていう感じがするじゃないですか。

 でも、不良品というのは購入したお客様に不快感を与えるだけでなく、購入したお店の評価も駄々下がりという、win-winの正反対という結果しか残せない、正真正銘のマイナスイメージの権化です。

 その点、ポンコツって言うと、言葉のニュアンス的にも内容的にも、不良品と言われるよりかは遥かに良くないですか? 私はそう思います。

 それに…腐女子ご用達の腐良品と勘違いさせられるのは嫌ですからね。むしろポンコツになってしまいたい。


 つまり、私は可愛気があるということです。以上。そしてその考えが異常。




 あ、言いたいことはそれだけですから。

 オチが回収できた所で、本編(現実)行ってみよか。




 ◆◆◆




「良かったですね。ジャンパーの代わりを貰えて」

「うん。流石にあのジャンパーの性能には劣るけど…十分これもいいかな?」


 アンリさんが、今俺の着ている服を見て話しかけてくる。

 というのも、アンリさんのレイピアを受け取りに行ったついでに、ベルクさんからある服…防具をもらったからである。


 それがこちら…




【アンチブラックコート】

【効力】

 攻撃力上昇(小)

 防御力上昇(小)


【付与スキル】

 火耐性(中)

 水耐性(中)

 風耐性(中)

 土耐性(中)

 ドラゴンソウル




『☆説明』がないのは…恐らく神様がとってつけただけだったんだろう。これが普通に違いない。


 それにしても…。

 いやぁ…随分と凄いものをベルクさんは作ってくれたもんだ。

 ドラゴンの素材の性能をふんだんに引き出しつつ、こうして目立たない見た目にできるんだから、頭が上がらないよホント。

 性能面では【異世界のジャンパー】が破格過ぎたから、比較するのはおかしいってもんだけど、これも十分に良い性能をしているに違いない。

 ただ…このドラゴンソウルってのはなんだろう? 魂みたいに称号的なものに近いのか?

 特に何か変わった気もしないし…よく分からない。


 でもまぁ…もし【異世界のジャンパー】が直るようであったら、流石にそっちに戻しますがね。愛着あるし…。

 さっきベルクさんに言われたんだが、もしかしたら師匠なら直せるかもしれないとのことで紹介状も貰ったから、もしボルカヌ大陸に行く用事ができたら…その時に尋ねてみようかな。




 ただ、紹介状を貰う時にベルクさんが俺を見て言った一言は…結構頭に残っているよ。


「ジャンパーじゃないお前はお前じゃない」…だってさ。


 は? 何が言いたいんですかベルクさん。

 俺は俺だぞ? この前職人はその人の内面をしっかり見てるとか言ってませんでしたっけ? 

 もしかしてあれは嘘で…ジャンパーが本体だとでも思ってたんですかねぇ。

 人とジャンパーの区別もつかないなんて…なんて嘆かわしい。それじゃスライムとドラゴンの区別がつかないのと一緒ですよ?


 …まぁ、冗談で言ったんでしょうけども。

 煽るのは人間性を疑いかねないのでNG。でも人間卒業した私ならその考えがNGだよね? …ゲフンゲフンッ!


 第一、付与されてたスキルが魅力的すぎるんだよな。

【衝撃耐性(特大)】、【HP自動回復(特大)】、【忍耐力 レベルMAX】。

 コイツらは神スキルだ。


 聞いた所、スキルなんていうものは本来は固有スキルを除き、数年という月日を努力して会得できるかどうかというものらしいからだ。

 しかもスキルの最上位となると、熟練度が上がるのにそれから更に時間が必要となることから、この3つが付与されていた【異世界のジャンパー】がどれだけ破格の性能をしていたのかが今更になって良く分かる。


 特に…【HP自動回復(特大)】がないのは辛い。

 俺達のパーティ面子、回復役が俺しかいないから…。でも自分自身には回復魔法は使えないし、俺が怪我したら誰が回復してくれんの? って話になる。

 ヒナギさんは苦手で使えないけど、魔力循環を覚えたからもしかしたら使えるようになるかもしれない。そしたら助かりますね。


 ま、嘆いた所で問題は解決しないか。


 ぶっちゃけローブにしか見えないが、表記は何故か黒コートらしい。

 これはよく分からないが、特に気にするようなことでもないので放置でいいと思う。




「………」

「………」


 お互いに沈黙して道を歩く。

 それがどうしても耐えられなくなった俺は、アンリさんへ話題を振ろうとするが…


「「あのっ! …っ!?」」


 それは向こうも同じだったのか、声が被ってしまった。


「あ…先生からどうぞ?」

「いや、アンリさんからでいいよ?」

「あ…アタシは大したことではないので…」

「そ、そうなんだ…俺も大したことじゃないから…」

「「………」」




 き、気まずいっ! 




 ◆◆◆




「…昨日アンリさんのレイピア取りに行く時にさ、こんなことがあったんだよ」


『安心の園』のテーブルで、ついさっきの出来事を、暇を持て余したシュトルムに相談する俺。


「…冒頭がいらねぇよ冒頭が。お前の脳内妄想なんていらねぇから要点だけ話してくれよ。……そんで?」

「いやさ、無駄に長く生きてるお前に…お願いがある! こういう時どうすればいいか教えて!」


 パンッ…と、乾いた音を立てて両手を合わせ、シュトルムにお願いをする。


「無駄にって何だよ!? 人にものを頼むにしちゃ随分な言い方だなオイ…。けどよ、別にどうすればいいかとか考える必要ねぇだろ? お前はアンリ嬢ちゃんが好きで…アンリ嬢ちゃんもお前が好き。だったらイチャイチャしてればいいだろうが?」

「馬っ鹿お前…ホント馬鹿…。だって恥ずかしいんだもん」

「だもん…じゃねぇよ気持ち悪ぃ! てか、お前この前肩くっつけて座ってただろうが、あん時はなんで平気だったんだよ」


 えっと…この前皆で昼飯食べた時か…。あの時も確かにアンリさんとくっついてたっけ?


「それは…ジークのこととかに意識が向いてたから平気だったんだよ。でも今思い返してみるとさ…すげぇ大胆なことしてたんだなって……キャッ」


 と、恥ずかしさで顔を両手で覆っていると…


「きめぇからやめろ。…はぁ。後になって気づくタイプか」


 思ったよりもツッコミがなかったが、色々と俺を分析している様子を見せるシュトルム。


 でも、最近の俺…ヴァルダみたいになってきてる気がする…。流石にそれはマズイので自重と自嘲の両方をせねば…。

 私は普通でありたい。


「どうしよ…それで昨日1人で悶々としちゃってあんまり寝れなかったんだよな」

「乙女かお前は! ピュアすぎるわ!」

「だってこういうの初めてだし…。仕方ないじゃん」

「アンリ嬢ちゃんも可哀想に…。こんな奴が恋人とはな…」


 シュトルムの言った恋人というワード。

 これが俺の中になんともむず痒く反応してくる。


「恋人かぁ…うわぁ~恋人なんだよなぁ」

「こりゃ重症だな…」


 呆れられているっぽいけど…しょうがないじゃん。

 非リア充だった俺にはこれが限界なんだよ。


 ただ…


「距離感がよく分かんないんだよ。恋人って今までいたことないからそういうのよく分かんなくてさ…。しかもいずれ別れるしどうしたらいいのか…」


 俺の正直な気持ちをシュトルムへ打ち明けるが…


「俺が知るかよ。別れるのが前提の恋って何だよ。んな経験は俺だってねーよ」

「むぅ…普通そうだよなぁ。でも、他のことは分かるのか? てかシュトルムってそういう経験あんの?」


 コイツ…見た目は普通にイケメンに近いからな。長く生きてるしそんな経験があってもおかしくないだろう。


「あるも何も…俺嫁さんいるし」

「へぇ…そうなんだ~………はぁっ!?」


 アンビリーバボーッ!?


 予想の斜め上過ぎる返答に、驚きを隠せなかった。


「故郷で今は待ってくれてる。俺が各地を巡り終わったら…一緒になる予定なんだよ」


 と、至って素面で話してくるシュトルム。

 その落ち着いた姿に、大人だなぁと思ってしまう俺がいた。


「え…あの、こんなとこで油売ってていいのか? 早く戻ってやった方が…」

「いいさ。エルフは長寿だからな。例えお前たちが寿命で先に死んでも、俺はまだまだ先は長い。そこらへんは嫁さんも理解して旅に出てるぜ」

「ほえー…」


 それは確かな愛ゆえに…ですか。




 ◇◇◇




 一方その頃…


「どうしようポポ、ナナ。先生にどうやって接すればいいか分かんないんだけど…」


 司と別れたアンリは、自室にてポポとナナに先ほどの武器屋での帰りの出来事を話している。

 その顔は酷く慌てた様子で、いつもの眩しい笑顔はどこへやらといった具合だ。

 ポポとナナも、そんな顔で相談されたことでアンリを心配し、何事かと聞いてみたわけである。


「いつもみたいにしてればいいんじゃないの?」


 ナナが自分の感じていることをアンリに話すが…


「え…無理無理無理! 顔もまともに見れないよ…」

「この前くっついてましたよね!? 何で今更!?」


 つい昨日まで至って普通に司と会話をしていたはずなのだが、ここにきて突然の恥ずかしがる態度。

 どう見ても不自然である。


「あれは先生が無事で安堵して…少しでも近くにいたかったらからで…。でも昨日の夜に状況を事細かく思い返してたら1人で悶々としちゃって…」

「「………」」


 両手を頬に当てて顔を真っ赤にするアンリだったが、その事実に…2匹は絶句した。


 というのも、2匹はその姿に心当たりがつい昨日の夜あったりするからである。

 …勿論、司のことである。

 司も今のアンリと同様に、昨日ベッドの上で悶々としているのを、この2匹は見ていたのだ。ベッドの上でモゾモゾと動き、なにやら声にならない叫びを小さくあげているのを…しっかり見られていた。

 傍目から見れば卑猥な処理をしていると勘違いされそうにも見えるが、まさか自分たちの一緒にいる部屋で司がそんなことをするわけもないし、第一そんな勇気のある肝っ玉の据わった主人ではないことは当に知っている。


 なら何だったのか? 

 それは…司から微かに聞こえた「アンリさん」という声で、全てを2匹は悟ったらしい。

 今頃になって恥ずかしさが遅れて来たか…と。


 だが、まさかその主人と似た行動を同じ時間にしていたのが、その主人の恋人と知ってしまっては、口が開かなくても仕方ないのかもしれない。


「…取りあえず、いつも通りにしてればいいじゃん。…でも、恋人なんだからいつも通りってのもいかがなものかと思うけど…」

「ですよね。お二人は少々奥手過ぎます。しかも相談するにしても…ご主人を見るのが恥ずかしいという内容では…どうしようもないですしね。個人的な問題…ですか」


 2匹が思い思いのことを口にする。


「アンリは…どうしたいの?」

「え?」

「いやさ、恥ずかしいとは言っても…それでも今の状態を続けたいってわけではないでしょ?」

「それは……うん」

「もっとイチャイチャしたいんでしょ?」

「ちょっ!? ナナっ!」


 真面目な話をしたかと思えば、すぐに茶化しを入れるナナ。それを見たアンリが、薄れ始めた顔の赤みを一気に戻してしまった。


「ナナ…もう少し言葉を選んでくださいよ、間違ってるとは言えないですけど」

「アハハ、ゴメンゴメン。アンリのかわうぃー反応頂きました~。ごちそうさまです、ペロリ」

「もうっ! やめてよね!」


 飼い犬は主人に似るという言葉があるが、それは鳥にも当てはまるのかもしれない。

 司はよくナナを親父くさいだの口が悪いなどと言っているが、それは司もであり、ナナはそれをしっかり反映したように見えなくもない。

 それは偶然なのか必然なのか…誰にも分からないが。


「ふむ…どうしたもんですかね…。ご主人の方にも問題があると言えばありますが…」

「問題?」

「いや…いくらご主人が奥手とはいえ、デートに誘うとか手を繋ぐとか、それくらいの気兼ねは見せてほしいものだなと思うんですよね」

「あ~確かに。でもご主人ヘタレだからなぁ…」


 2匹が司の今までの行動、発言を思い出し、そう評した。

 だが…


「ヘタレじゃないよ! 先生すごく男らしいし!」


 アンリはそれを聞いて、即座に否定した。

 アンリは…司と会ってからの時間はそれなりにあったが、共に過ごした時間が多いかと言われればそうではない。

 司の知らない一面がまだ多くあることを、知らないのだ。


「「…え?」」

「へ? なんでそんな反応なの!?」


 だから、2匹が真面目な顔で疑問に思ってしまうのも無理はない。


「いや…だってねぇ」

「お世辞にも言えないですし…」

「でもでも!? 先生は危険に飛び込めるような勇敢な人だよ? 学院でも、この前のジークさんの時も!?」


 アンリが自分の経験を元に伝えるが…


「それは…確かにそうだよ? ご主人は誰かのために動けて、自分の犠牲を特に厭わない行動が目立つのは事実。そこだけ見たらヘタレじゃないかもしれない。でも…なんていうかすっごく不思議な人でさ、信じてほしいんだけど…私たちがヘタレって言ってるのはそこじゃないんだよ」

「え?」

「えっとですね…。ご主人は自分のこととなると…途端にヘタレ、ヘッピリ腰になる傾向が強いです。例えば、今こうしてアンリさんに何もアプローチしてこないのもそうですし、いつもギルドでヘコヘコしているでしょう?」

「…確かに言われてみれば、そうかも…?」


 ポポに言われ、司の日頃の行動を改めて思い返すアンリ。

 どうやら、あながち間違ってないような…むしろ当てはまっているんじゃないかという考えが芽生えたらしい。


「それは…自分に自信がないから。…我が弱いとでも言えばいいんですかね? ヘコヘコするのは…他人に横暴な奴と思われたくなくて、嫌われたくないから。アプローチしてこないのは…アンリさんがそれで嫌がるんじゃないかと思ってるから」

「そ、そんなことn「分かってるから、落ち着いてアンリ」…うん」


 そんなことないと言おうとするのを止められ、落ち着くように促されるアンリ。


「…で、多分…ご主人はアンリさんに少しでもマイナスに思われるようなことをしたくないとか思ってるんでしょう。…何を馬鹿なとは思うんですが」

「ねー。恋人ってそういうのも含めてだと思うのにさぁー。…ま、すごくアンリを大事にしているというのは間違いないんだけど…それも度が過ぎるって感じかな。まだ恋人になってから短いけど…私はそう思ってる」

「あ、そうなんだ…。でも…」


 何か…言いたそうにするアンリだったが…


「…アンリさんの場合、この一点は強く今後を左右するでしょうね。もしかしたら…このまま何もしないまま関係が終わってしまうかもしれません」

「そんな…!」


 ここで、ポポが不穏な発言をし始めた。

 それを聞いて、あまり浮かばれない顔をしていたアンリの顔はさらに陰りを増し、声もどことなく悲しみを感じさせるものとなっていた。


 せっかく恋人同士となったにも関わらず、何もしないまま関係が終わるというのは…最悪の展開だろう。ましてやアンリは年頃の女性。加えてまだ大人にもなり切れていない…未成熟と成熟の中間に位置する時期だ。こういった色恋事情に関心を強く持つのは当然なのだ。


「だから…アンリ、本当はご主人がしっかりすべきところだし、あんまりお願いしたくないことではあるんだけど……アンリからご主人にアプローチしまくって。それで解決」

「えええええええっ!? 私が!?」

「それしか道はないです。私達も協力しますので…。それに難しいこと考えなくていいんですよ。この前みたく体くっつけてればいいんですから。そうすればご主人も色々考えるでしょう」

「無理無理無理! 恥ずかしいんだもん!」

「それと…アタック掛ける時は縛ってる髪の毛を解くといいかも。ご主人…後ろ髪をたなびかせてる女性が結構好きらしいから」

「あ、そうなんだ…じゃないよっ!? それよりも今は…」

「頑張るしか…ないんだよ…」


 と、ナナが哀愁に満ちた顔で、何かを悟ったように言った。


「なんでそんなに悲し気に言うの!? やめてよ!?」

「「………」」

「無言も駄目!」


 ポポとナナは、それ以降沈黙した。

 その態度は、それしか道はないということの真筆な表れなのだろう。




 相談してみたが、状況は改善どころか悪化した。

 アンリの苦難は続く。




 ◇◇◇




「お二人とも、何を話しているんですか?」

「あ、ヒナギさん…」


 シュトルムと相談を続けていると、ヒナギさんが俺達に気づいたのか近づいてきた。

 日銭を稼ぐために良さげな依頼がないかギルドまで見に行っていたらしいが、どうやら帰ってきたようだ。


 相変わらずお美しい身なりでございます。その和服…お高いんでしょう?

 どこぞの名家の方ですか? あ、それとも姫君ですか? どっちでもいけそうですね。


 ヒナギさんのいつもの和服を見て、しみじみとそんな感想を抱いた。


「よう、実はさぁ…コイツがアンリ嬢ちゃんとの接し方が分かんないとか言い出してさぁ…」

「接し方…ですか? 今まで通りで良いのでは?」


 シュトルムが今話していたことを簡単に説明すると、ヒナギさんはそう答えた。


「それだと…今一歩足りないんじゃないかと思いまして…。アンリさんに対しても失礼でしょうし…」

「えっと…つまりアンリ様ともっと親しくなりたいということでいいのでしょうか?」


 理解が早くて助かります~。どこぞの馬鹿とは大間違いですね。


 …あ、勿論それ私自身を指してますから。

 私は馬鹿、でも目の前にいる奴は大馬鹿野郎。以上。


「そういうことですー。女性の観点から何かアドバイスくれません? ヒナギさんの言うことなら間違いないでしょうし…」

「そんな過信されても…」


 俺の言い分に、何やら顔をしかめるヒナギさん。


 謙遜しなくていいんですよ?


「いやー、だってヒナギさんですから…。ヒナギさんの言うことは絶対っていうくらいの領域だと思ってます」

「あ、ありがとうございます…?」


 だってヒナギさんだよ? この人…完璧超人の最強美人だし、メンバーじゃ一番まともな思考してるもん。


 ポポとナナは…今いないけど鳥でしょ?

 シュトルムは…最近だと馬鹿さが抜けて来たけど、変な奴じゃん?

 セシルさんは…いつも眠そうで何考えてるか分からない娘でしょ?


 うん、ヒナギさんしかいない。


 ヒナギさんの言うことなら間違いはないだろう。嘘をつくような人でもないし。

 ちなみにだがアンリさんは神です。全てを超越してるんです。


「…ヒナギちゃん、何かいい案ある?」

「私もこういった経験をしたことは……ありませんので、あくまで予想ですが…。アンリ様と出掛けてみてはいかがですか? それが恋人らしいことの第一歩ではないでしょうか?」

「あー…やっぱそうなりますよねぇ…」

「………」


 やっぱそれが手っ取り早いというか、らしいことだよなぁ…。


 ヒナギさんの意見は、一応俺でも考えていたことではあった。


 でもなぁ…


「第一、俺は女性との接し方がそもそもよく分からん。今思えば世の中のカップルって凄いよなぁ。人目もはばからずに手ぇ繋いで歩いてー、終いにゃ腕組んでキャピキャピしちゃってさぁ…。そんで淀みない眼差しで見つめ合って会話するとか正気の沙汰じゃないよまったく…」


 羞恥心とかないんでしょうかね? 

 それとも…そんなの気にならないくらいに自分達の世界に入れるすんばらすぃー特性をお持ちなのか? なら俺もほすぃーです。


「お前のそのヘタレ具合の方が十分凄いわっ! どこのどいつがそんな心配すんだよ!?」


 シュトルムが俺が言ったことに対して喚いているが…


 私ですが何か? 

 それに…ドイツのどいつかがするんじゃないんですかぁ? プププッ。


「カミシロ様は…随分と奥手なんですね…」

「恥ずかしい限りですよまったく…」


 ヒナギさんにまで言われるんだから相当なんだろうな。

 でも慎重にとも言えるんですけどね、超大目に見たら…。


 まぁこれは負け犬の遠吠えですな。クルって回ってワンってします、ハイ。


「でも女性との接し方がよく分からないって言う割には、ヒナギちゃんには全然平気そうだな?」


 と、不思議そうな顔でシュトルムが言うが…


「だってヒナギさんは頼れる年上の人じゃん」

「ぁ…」

「…」


 これに限る。

 ヒナギさんはなんというか…すごく頼りになるような人だ。落ち着きのあることもそれは影響してるんだろうけど、雰囲気とか物腰とかも相まってそう思わざるを得ない。

 たかが1個歳が離れてるだけでこうも変わるとは…不思議だ。


「…お前の基準が意味分からんな。まぁ…年上は平気で頼れるってことか?」

「んー…そんな感じかなぁ」

「難しい奴だな…ホントに」


 難しい奴。…その言葉は痛いほどに理解できた。

 自分でも面倒くさい性格をしているのは当に分かっているからだ。




 で・す・が…


「あ、分かってると思うけど…例え年上でもお前は頼ってるわけじゃないから。あんまり期待してなかったりするから」


 同性だからシュトルムに対して恋愛感情など抱かないし、特に緊張したりすることもないが、シュトルムが年上という点に関しては別にどうでもいい。


 シュトルムに対してそう確認の念を押すと…


「オイ!? なんでだよっ!? ヒナギちゃんの何倍も年上の頼れる知的なお兄さんだぞ俺は?」

「…ハッ、何か言ってるよこの人…」

「てめぇっ!」


 心外だと言わんばかりに反論してきやがったので、まるで相手をしていないように振る舞ってみました。


「本人を前にしてそんな寂しいことサラッと言わないでくれよ!? つーか目を逸らすな!」

「アハハ…」


 ヒナギさんが笑っているのを尻目に、俺はそんなやり取りをしていたのだった。







「…まぁいいや。必死こいて頑張ってみようかねぇ」


 特に革新的な案が出る訳でもなく、ただ時間が過ぎた。

 こうなってしまっては仕方ないし、自力でできることを精一杯やってみるしかないと俺は判断した。


 部屋へと戻るべく、俺は席を立った。


「…おう、頑張ってみろや。何かあったら力にはなるからよ…」

「ファイトですよ! カミシロ様!」

「はーい」


 力強い言葉を掛けてくれる2人に返事をし、俺は策を練るべく部屋へと向かった。




 ◇◇◇




 司がどこかへ行った後、シュトルムとヒナギは司を見送ったままの姿勢で無言でいる。

 何やら張り詰めた空気が2人を覆っているが、それはシュトルムの言葉で打ち破られた。


「…なぁヒナギちゃん。いいのかよ?」


 ヒナギに確認するかのように、シュトルムはそう言った。

 ただ、視線はヒナギを見てはおらず、明後日の方を向いてではあったが…。


「…えぇ。やはりシュトルム様はお気づきでしたか…」


 それを聞いたヒナギも、シュトルムの言葉に全てを悟ったかのように返答する。

 その表情は、苦笑いであった。


「結構隠してるつもりなんだろうけど…バレバレだぜ? 多分セシル嬢ちゃんも気づいてるはずだ。…それと、アンリ嬢ちゃんも…」

「ふふ…お恥ずかしい限りです」

「…それで後悔しないってんなら俺は何も言わねぇ。だが、アイツは多分このままだと気づかないと思うぜ? ヒナギちゃんのことなんつーか、姉みたいに思ってる節があるからな…」


 いつになく、シュトルムがヒナギに向かって真剣な顔でそう話す。


「…以前カミシロ様に言った、弟みたいというのは…良くなかったのかもしれませんね…」

「…そんなこと言ったのか。はぁ…もどかしいもんだな」


 いつか、司に対して言った…弟が出来たみたいという発言を、今ここで悔やむヒナギ。

 その事実を知ったシュトルムが、はぁ、とため息をついては難しい顔でテーブルに顔を突っ伏した。







 そして…


「ヒナギ…。はぁ…仕方ないかな」


 それを物陰からセシルが見ていたことには…誰も気づいていない。




 メンバー全員は、それぞれで何か問題を抱えるのであった。







 その日の夕方、司はギルドマスターに急遽呼ばれる。

 王都にいるマリファから連絡がきたらしく、王都まで来てほしいとの記述がなされていたようだ。

 伝えられた会合の日は…4日後。マリファの方も立て込んだ予定が詰まっているらしく、それが限界とのことだった。

 夜に極秘である部分は伏せてそのことを説明し、4日後…司達一行は王都に行くことに決まったのだった。

次回は少し短いので水曜です。

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