13話 セシルとの対談
「状態良好…良好…良好…。これは少し痛んでる(ブツブツ)」
「はい、これは全部確認済み! あっちに移動させて!」
ギルドの職員が大勢で忙しそうに作業をしている。そしてそれを珍しそうに見るギャラリーたち。
俺が換金をお願いした薬草と魔核が原因だ。
次からは気をつけますんで…。
少々申し訳なく思う。
それで俺たちはというとギルドの隅のテーブルでくつろいでおり、その作業を横目で見ていた。
「ひと悶着あったけど、目的は達成できたな」
「そうだね~」
「…ご主人、お手を煩わせて申し訳ありませんでした」
ポポが沈んだ声で俺に言う。
どうやらさっきの騒ぎを、最終的に俺に押し付けてしまったことを悔やんでいるようだった。
気にしなくていいのに…。反省はするべきだろうけど。
「ポポ、さっきのことは気にすんな。お前が言わなくても俺はオッサンに言うつもりだったし…。それに俺の変わりに答えてくれてうれしかったぞ?」
一応フォローしておく。
「ポポ~、気にしなくていいよー。ご主人がそう言ってるんだし~」
「でも…そう簡単に納得はできないんですが…」
「はいはい、この話は終わり! ポポは納得しろ、いいな?」
「…はい」
「良い子良い子~」
そう宣言し話を終わらせる。
子供みたいにナナに撫でられているポポは納得いかないようだったが、このままじゃずっと無限ループしそうだ。
ポポよ、大人になるのだ。
「そういえばオッサンと取り巻きの連中がいなくなってるな。何処行ったんだ?」
「さっき取り巻きの人が担いで出て行ったよ~?」
「そうか…。それにしても、ちょっと周りの視線が…」
目だけキョロキョロと動かすと、大半の人がこっちを見ている。
しょうがないことだったとはいえ、目立ちすぎてしまったか…。
耳を澄ますとヒソヒソと「あの鳥が~」や「アイツは一体…」と言った会話が聞こえてくる。
間違いなく俺たちのことだ。
「見られてますね」
「まぁ、無理もないだろうな…」
「誰も声を掛けてきませんね。ご主人を恐れて…しまったん、でしょうか」
ポポの声がどんどん小さくなっていく。
さっきのことを思い出したのだろう、…もうほっとこう。
でもポポの言うことは間違っていないと思う。
きっと皆恐れているのだろう、俺が異常なことに…。
例えば、人間の腕が剣と直接ぶつかりあった場合、どちらが勝つだろうか?
答えは簡単だ。剣が勝つに決まっている。
それは子供でも分かる常識。
だが今回の場合はその例が当てはまらなかった。
人は常に、人が定めた常識を元に行動し生きていると俺は思っている。
もしその常識が覆されたら? 間違っていたとしたら?
人はきっと、困惑してしまうだろう。
今回はそれが恐怖という形で出てしまってはいるが…。
つまりはそういうことだ。
この人たちの反応は至極当然と言っていい。
結構辛いものがあるけどね。化け物認定されてる気がしてさ…。いや、実際そうなんだが…。
まぁしょうがない。今回は運が悪かっただけだ。
「だろうなぁ。まぁ多少は予想してたけど」
なるべく心配を掛けないように、普段通りの口調・トーンで返す。
「私たちは平気だからね~」
ナナのそんな言葉に救われる。
ナナのやつ、たまに毒舌だけどやっぱり優しいんだな。
良い仲間(家族)を持ったぜ、うう(泣)
「化け物以上だって思ってるから~」
「なっ!? お前なぁー」
前言撤回、こいつは毒舌だ。異論は認めん!
俺の感動も束の間、それは一瞬で崩壊する。
ナナのばかっ! 俺の感動を返せやコンチクショー!
なんてやりとりをしていると…
「…ねぇ」
可愛らしい声が聞こえた。
いつの間にか近づいていたのか、頭から足までを黒いローブで包んだ少女が俺に声をかけてきた。
声を掛けられたことに驚きながら、少女を見る。
顔はなんとか確認できるが、恐らく端正な顔立ちをしていると思われる。
髪は金髪。水色の瞳はとても澄んでおり、少し垂れ目の眠たそうな顔をしている。アニメのキャラクターみたいだ。
背はミーシャさんと同じくらいかな? 他はローブでよくわからないが。
「えっと、何か用ですか?」
「さっきのやり取りをずっと見てた。随分と強いね」
「はぁ、それはどうも。えっと貴方は?」
「…セシル。あと敬語はいらない」
「…分かったよセシルさん。これでいい?」
「ん」
「じゃあ次は俺だね。俺はツカサ・カミシロって言うんだ。よろしく」
「よろしく。…じゃあツカサって呼ぶね。鳥さんたちもよろしく」
「ポポです」
「ナナだよ~」
「…かわいいね」
セシルさんが呟き、ポポとナナを見る目が変わった。
あ、ミーシャさんの時と同様に落としたか…。
怖いねぇお前ら。
「それでセシルさんは一体どうして俺たちの所に?」
「さっきも言ったけど、私あれの一部始終を見てたの。それでツカサの強さにびっくりしたから…」
話しかけてきたのはどうやら興味本位だったみたいだ。
それでもこうやって普通に話しかけてくれるのは素直に嬉しい。だが…。
「それを知りながら俺に声を掛けたのか…。えっと、セシルさんは、怖くないの? 俺のこと」
「それは分からない。でも、大丈夫そうな感じがしたから…。第一、怖い? なんて自分から聞いてくる人が怖い人だとは私はあんまり思わないけどね」
「そっか…ありがとね」
「それに、ツカサはあの時最初は守りに徹してたよね。最後はしょうがないだろうけど…。だから攻撃的な人じゃないっていうことは分かるかな」
「ええ、ご主人は争い事が嫌いですから」
「チキンなんだよね~」
セシルさんよく見てるなぁ。
それよりもナナ、チキンって言うな。否定できないのはくやしいけどさ。
それでもお前をチキンにしてしまいそうになるぞ。
「…チキンなんだ?」
ぐはっ!! セシルさん言わないでくれ、頼む!
否定は確かにできないが、ここは男として反対せねばならない。
地球のチキン達よっ、俺に力を!!
お前らは一生チキンでいいから俺にチキンを卒業させてくれ!
そんなアホなことをしていた。
こうして俺はセシルという少女と出会ったのだった。




