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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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147話 魔力循環伝授②

魔力循環伝授、後編です。

「まぁごちゃごちゃ話してんのもアレだし、早速実践してみよっか。………じゃあナナ、よろしく」

「はいは~い」

「お前が教えるんじゃねぇのかよ!?」

「だってナナの方が俺よりも詳しいんだもん。魔法のエキスパートであるナナ先生にお任せした方が皆にとっていいと思うよ? 説明も意外に上手いし…」


 俺が教えるとなると…自分で体感したことを伝えることになって、理論に基づいてない意味不明なことしか言えない。

 その点、ナナならこの前みたく魔力波云々の説明と同様に説明ができるに違いないだろうし、適任だろう。


「へぇ、そうなのか」

「そゆことー。じゃあやろっか。…取りあえず皆座って~。ポポは手伝って~」

「はいはい」


 そう言って、ナナが土の椅子を4つ、それから大きな壁のように固めた土を作り上げる。

 …どれも無駄にリアリティの高いものである。表面には凹凸がほとんどないのか、ツルツルしているように見える。


「…はい、じゃあこれから授業始めま~す。皆さんこちらの黒板もとい、土版をご覧くださいまし~」


 そうして、アンリさん、シュトルム、セシルさん、ヒナギさんの4名は、椅子に座ってナナの言葉に耳を傾け始める。

 ポポはどうやら実践係という感じか…? 何に使うかは知らんが。


 鳥が人間にものを教えるという構図は…なんというかシュールだ。

 どこから取り出したのか不明だが、眼鏡まで掛けて指示棒を使う様は教師のそれと変わらない。違うのは見た目だけだ。




 それを確認した俺は皆から離れ、邪魔にならないように視界の外へと移動する。


 俺が聞いてももう意味はないし。


 俺がそれを眺めていると…


「あのさぁ、俺ってその間どうしてりゃいいんだ? 魔法使えねー俺は意味ないしよー」


 ジークが俺に対してそう聞いてくる。

 だが、ジークはどうするのかはもう考えてある。


「ジークは…ベルクさんとこ行ってきなよ。お前のあの盾…壊しちゃったからさ、何か相談してみ? いいの作ってもらえると思うぞ?」


 ジークの使っていたあの盾を…俺はあの戦いで壊してしまった。だから、その代わりとなるものを用意できないか一応考えていた。


「あ? あの盾か? あれ…結構特別な素材で作られた奴だぞ? んな簡単に作れるようなもんでもねぇよ」


 へぇ…やっぱそうなんだ。

 本気の『スターダスト』ぶっぱしても粉々にしか出来なかったから、どんだけ性能良いんだよとは思ってたけど…。


「…何の素材だ?」

「地中深くに眠っているっていう…アルテマイトって鉱石だ。それの性質が抗魔に飛び抜けて優れてんだよ…。まぁ物理も大したもんだが……希少性が高いんだよ」


 アルテマイトっていうのがあんのか…。

 俺は生き物の素材を使うことはあったけど、鉱石とかは使ったことってほとんどないなぁ。


「そうか…。でもそんなのを作る方もすごいな。何処で作ったんだ?」

「あれは俺が連中に加担する前だったな…。ボルカヌで、どっかの職人の爺さんに貰ったんだよな…。名前はなんつったっけな…ジル…? 悪ぃ…思い出せねぇや」


 どうやら、ジルなんちゃらという人がジークの盾を作ったようだ。そしてその人がいるのはボルカヌと…。


「ふ~ん。そうだったのか…。でもそんな高性能のものを買うでもなく貰ったのか…不思議な人だな」


 希少なものを誰かに無償であげるなんて、簡単にできることではない。

 その人は…どうしてそんなことをしようと思ったのか気になる。


「あぁ。何かお前なら渡してもいいとか言われてさ。俺は武器ならいくらでも溜め込めるから、どうせだったらっていうことで貰っといたんだ」


 あー…【刃器一体(ソウルアーム)】だっけか? あれってまるで『アイテムボックス』のそれと変わらんよな。武器だけっていう特徴はあるけど…。


「お前運良いなぁ…。俺も欲しいわ」

「でも盾は別になくてもいいと思ってんだよな。防御するよりも攻撃した方が防御に繋がるしよぉ」


 攻撃は最大の防御ってやつか? 確かにお前、最後は防御を捨てて捨て身で向かってきたな。

 超怖かった。


「…そういやさ、お前が異世界人ってこと…広まり始めたな?」


 当時のことを思い出し、軽く身震いをしていると、ここで、突然話を変えてくる。


「…そうだな。最近視線が増えた気がするよ」


 日に日に強くなっていく俺に向けられた視線。親しい人やギルドマスターからは直接聞かれたが、それ以外の人は聞いてくるようなことはしてきていない。

 それはもう…見過ごせないくらいに大きくなりつつあった。


「その……悪かったな。まさかお前とこうして一緒にいるとは思わなくてだな…」


 いつもの横暴な態度とは違い、若干言いづらそうにしているジーク。

 どうやら申し訳なさを感じているのか、そんな風に見て取れた。


「何だ? んなこと気にしてんのかよ…。別にいいさ」


 バレるのは時間の問題だってトウカさんも言ってたしな。覚悟はしてたさ。

 それに、俺にはもう一緒にいてくれる人がいるから…1人じゃない。


 ぶっちゃけ、内心不安はそれほど感じていなかったりする。


「つーか意外だな? お前がそんなことを言うなんて。もっと戦いのことしか考えてないかと思ったんだけど…」

「そりゃな」


 せめて否定しないんかい。まぁ分かってたけど。


「…だが俺が原因なのは事実だ。自分のしたことを認めないのは省に合わねぇだけだ」


 男らしいなぁオイ。それができなくて苦悩する人間がどれだけいると思ってんだ。


「…そんならルール決めの時に自然が弱いのがいけねぇとか言い訳すんなよ。言ってること変だぞ」

「それは…いいんだよ! 自然が弱いのがいけねぇんだから。これは譲れねぇ!」

「何だよそのこだわり…分かんない奴だな」

「お前もな。俺なんかとツルむとか言い出した時は流石に頭が追い付かなかったぜ」

「ハハ…確かにそうだ。…ま、バレたことは気にせんでいいぞー。どうせ時間の問題だったんだから」

「…あいよ」


 …まぁ、気にしてるような問題が払拭されて良かった限りだな。


「んでさー、今お前コイツらに色々と教えてるみたいだけどよぉ、これからどうするつもりだ? …ジッとしてるってわけにもいかねぇだろ、お前からしたら…」


 ジークが現在授業を受けている風景を指さして聞いてくる。


 動きたいのは山々なんだけどさぁ…


「あぁ。だけど動くにしたって連中の所在が分かんないんじゃ仕方ないしなぁ…。もうボルカヌ大陸にはいねぇんだろ?」


 昨日昼食を食べた後も色々とジークから話を聞いて、そうせざるを得なかった。

 連中はどうやらボルカヌ大陸にアジトを持っていたらしいが、今回ジークがこうして俺の仲間になったことで、もう既に退去しているとのことだった。


 正直こちらから出向いてやるという考えはあったのだが、それは出来そうもなかった。


「そりゃそうだろうな。1000年以上も長きに渡って活動を続けてるような奴らだ。こんなとこでヘマをやらかすとは思えねぇな。…『ゲート』があるから、もうもぬけの空がオチだな」


 昨日、これには驚いた。

 連中が1000年以上もの間静かに活動していたということにである。

 これを聞いて俺が真っ先に思ったことは…1000年以上という点。

 もしかしたら1200年以上前に起こったと言われている『断罪』、連中はその時点で既に動いていて、これにも関与していたのではないかということである。

 多くの人が死に、強大な力を持つ天使が滅んだ。天使が強大な力を持っていたのであれば、それ相応の強い魂を持っていた可能性は高いのではないか?

 これは、今は考えても正確なことは分からないが、頭にはこの可能性を入れておきたいと思う。




 そ・れ・で…。俺にとってもう1つ気になるのが…この『ゲート』とかいうやつだ。

 どうやら俺達の推測通り、連中は長距離の移動方法として、『ゲート』と呼ばれる魔法を使えるようである。

 ジーク曰く、ラグナの災厄のモンスターもこれで移動してきたとのことで、一度行ったことのある場所なら自由に行き来ができる涎物のものらしい。

 ただ…これは無属性の魔法らしいが、どうやらスキルレベルを上げるだけでは会得できるようなものではないそうで、特別な何かが必要とのことだった。


 その特別な何かって何よ? と、ジークに聞いてみた所、案の定知るかって言われてしまい結局分からず終いだ。ジークの馬鹿。


 …とまぁ、連中がその技術を持っているということが明らかになって何よりである。

 これで…奴らがどこに現れてもおかしくないという現状が分かっただけでも収穫だ。ギルドマスターにも伝えておこうと思う。




「…ま、それについては神様と相談してみるさ。それに…ヴァルダにも依頼はしてるからそれもアテにさせてもらうしかないな」

「…そうか。ま、これはお前に全て任せるわ。俺は別にどうだっていいし」

「おう、任せといてくれや」


 今後の方針…どうなっかねぇ? 早いとこ問題を解決して…悩みの種は解消したところだ。

 あと…神様にはジークの言ってたことを確認しておきたい。あれは…本当なのかを。




 ◆◆◆




 しばらく皆の授業風景を眺める。


 皆既に実践の段階に入っており、あと少しで魔力循環の重要性が分かりそうだといったところか…。




「ただ、これだと詠唱を考えてたのが無駄だった気がしますね…」

「そうでもないよ? 無詠唱って言えるかは分かんないんだけど…、口に出さなくても脳内で詠唱を唱えれば威力はもっと上がったりするしね~。だから無駄じゃないよ」

「…え!?」


 待てっ!? 今、ちょっと聞き捨てならんことを聞いたぞ!?


「って…なんでお前が驚いてんだよ!」

「いや…初耳だなと」


 俺が驚きの声を上げるのを聞いたシュトルムがツッコミを入れる。


 詠唱は口に出さなくてもいいと知ってから…俺はそんなこと考えたりしたことなかったぞ!?

 え…マジで?


「ご主人知らなかったの!?」

「私は知ってましたけど…?」

「うそん…」


 ポポとナナが驚愕した顔で俺を見る。

 そして…


「お前も一緒にやれ」

「…あい」


 俺も授業に参加することになりました。


「その状態であの威力か…。次お前の魔法食らったら…俺死ぬんじゃねぇか? マジかよ…」


 ジークが面白そうな表情を浮かべて俺を見る。

 察するに、俺の魔法を食らった時のことを思い返しているのではと思う。


 コイツ…本当に生粋のドMだな。死んでも構わないドMって何だよとは思うが…。

 異常者、質の悪い性癖みたいなものとして割り切るしかないかもしれない。というより、死なないと治りそうもないんだろうきっと…。


 まぁ…俺もまだ覚えることがありそうである。素直にシュトルムの言うことに従った。


 俺が皆に近づくと…


「んじゃ、俺行ってくるわ。ギルドの向かい側だったよな?」


 俺が離れると、先程話した盾の代わりとなるものを相談しに、ジークはベルクさんのところへ行くようだ。


「そうそう。…あ、ポポ。お前もジークについてってくれ。お前がいるんなら安心だろうから…」

「あ、ハイ」


 俺がポポにそう言うと、ポポは巨大化をやめてジークに向かって飛んでいき…肩へととまった。


 ジークはグランドルの町にとっては恐怖の対象だ。

 それを、我が愛しのエンジェルバード…ポポちゃんで中和しよう。

 一緒にいれば多少マシだろうし。


「じゃあ後でな」


 そして…ジークはポポと共にグランドルへと歩いていった。




 …さて、こっちは授業の方やりましょか。




 ◆◆◆




 それからあれこれ言われたことを軽く実践すること数分。


 ナナちゃんの確認テストのお時間がやってきたようです。


「じゃあ…これが破壊できたら取りあえず合格ね~。誰から行く? カモンカモン♪」


 俺達の目の前には、ナナの用意した『アイスシールド』が張ってある。これを破壊することが魔力循環の伝授達成らしい。


 中級の『アイスシールド』の防御能力なんてものは本来たかが知れてるが、ナナが使う魔法というのは…それには当てはまらない。

 初級が上級に、上級がある理由で初級になるなんてことは、ナナにとってはザラである。それを嫌がったことで自分の魔法を使いこなしているほどだ。


 魔法…元を辿れば魔力を完全に理解しているからこそ、ナナに魔法で敵う人はほぼいない。


「じゃあ…アタシからやってもいいですか?」


 誰が先にテストを受けるかというところで、アンリさんが声を挙げた。

 前へと踏み出し、魔法を使うべく準備をしている。


「あ、一番強いのでいいからね~。多分それで丁度いいくらいに設定しておくから~。バッチコ~イ!」


 と、ナナが確認するかのようにこちらに伝えてくる。


 大した自信である。でもそれが否定できないのがコイツの凄いところだが。


「うん! じゃあ本気で行くよ! ……えいっ!!」


 アンリさんが大きく手を振りかざす。

 すると、火炎…火の海が解き放たれ、『アイスシールド』だけでなく周囲の草原をも飲み込み、焼き尽くした。


『アイスシールド』は…なくなっていた。


「……え?」

「嘘ぉ…」

「ん…やばいね」

「まるで上級魔法みたいですね…」


 アンリさんが…今のは自分がやったのかと言わんばかりの表情で、ポカンとしている。

 それを見ていた他のメンバーも、信じられないといった顔で驚きの声を挙げるしかできなかったようだ。


 アンリさんが使ったのは…恐らく火属性の『プロミネンスノヴァ』だろう。…多分。


 名前が強そうな割に中級魔法の最上くらいの威力を誇るものだが、もはや名実ともに…上級に匹敵するほどの威力があるのではと思い知らされる結果を出している。

 俺が学院で見た時のアンリさんの魔法はこんなに威力も強くはなく、加えて使用後は疲労で動きが鈍くなったりしていたのだが…そんな様子は見られない。


 アンリさんを見れば、平然としている。まるで疲れを感じさせないようだった。




 ちなみに…アンリさんは火属性に適性があり、セシルさんは光と闇に適性がある。

 火属性にしか適性が無い人が多いことを考えると、俺達のメンバーは結構珍しい適性を持った人が多いのかもしれない。


 それでシュトルムは…ちょっと特殊だが火・水・風・土属性の4つを扱える。

 特殊なのは…精霊の力を借りられるから。本人の適性は水だけらしいのだが、使えない属性を扱えてしまうというのは驚きだった。しかも、上級の『エクスプロ―ジョン』を使ってこの町に来たことから、シュトルムの持つその精霊の力を借りるスキルは、相当レアなものだというのがよく分かる。

 ただ…光と闇の精霊は言うことを聞かないらしく、その属性に限っては使うことができないらしい。




「アンリ合格~」

「あ…うん。でも…ホントにアタシの魔法?」

「そうだよ? もし驚いてるなら…ちゃんと魔力循環を覚えたってこと。まだ覚えたてでこれだから、まだまだ上を狙えるよ?」

「…すごい」


 自分の手を見つめては、そう溢すアンリさん。

 まだ現実を完全に受け入れることができていないのだろう。


 …まぁ、覚えることができて良かった。


「これは…凄いですね。…ナナ様、次は私でもよろしいでしょうか?」

「どぞー。じゃんじゃん行こうか」


 それを見て、他の人もテストに乗り出していく。


「じゃあヒナギの次は私が…」

「その次は俺だな」

「じゃあその次は「ご主人は論外。分かり切ったこと言わないで」

「…あい」


 ちっ! 流れに乗ったつもりなのに。俺だけ除け者にするとか酷い! 

【隠密】があるから無駄な被害はないのよ? だからこの前の草原の被害は全部ジークが原因なのに…。くそぅ。


 まぁ俺がテストの必要性がないのは分かり切ったことなので半分冗談なわけだが…。こういうのはノリが大事だと思ったから言ってみただけだ。




 ◆◆◆




「はい全員オッケー。…今度は無意識にできるように各自で練習してね~。それこそ息をするようにできればベストだね~」

「分かりました」


 全員テストを乗り越え、ナナから指示を受けている。

 皆…文句なしにアホみたいに質が上がっていて、分かり切っていたのにビックリしました。


 もう絶対にこれは公にはできないな…。皆さん、墓場までもって逝きましょう。


「…でもこれを無意識には…ちょっと時間が必要そうかな。ナナ達はできるんだよね?」

「当ったり前じゃん。戦闘中にこれに意識取られて遅れを取ってたら意味ないからね~」


 …まぁ日頃から常に意識してましたからねぇ。今じゃもう楽勝ですよ。

 魔力循環は友達さ。


「要練習か…。まぁ強くなれんならどうってことないけどな」

「ですね。これで少しはお役に立てます」

「ヒナギさんでそれなら…アタシなんて全然ですよ」

「ん、アンリに追いつかれないようにしなきゃ」


 皆、思い思いのことを口走る。




 皆無事に、魔力循環を覚えることができたようだ。

次回更新は月曜です。

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