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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第四章 セルベルティア再び
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146話 魔力循環伝授①

 さてさて…


「よくお集まり下さいました皆さん! 各自お忙しい中時間を割いていただき大変嬉しく思っている次第です」

「朝とは随分とテンション違うなオイ…。御託はいいから早く本題に入ってくれよ。どうしたんだ? 一体…」


 と、自分たちの今の状況がよく分からないことを代表して、シュトルムが声を掛けてくる。


 時刻は回って昼過ぎ。

 ジークとのルールを決め、昼食を食べ終えた後、皆に西の草原に集合との旨を伝え…現在はそこに全員集合している。


 最近は感じる余裕も無かった緑の香りが…なんとも安らぎを与えてくれそうな気がする。


「今日は皆にある特訓をしてもらいまっす!」

「特訓…ですか?」


 アンリさんが、不思議そうに呟く。


「いやぁ、コイツのおかげで分かった『原点回帰(ノヴァ)』って奴らがとんでもない奴らだからさ、少しでも皆に強くなってもらって、自衛手段の強化をしようと思った次第です…ハイ」


 と、眠そうな顔をしたジークを指さしながら、事に至った説明をする。

 昨日考えていた魔力循環の伝授。今日はそれをやるためにこうして集まってもらったわけである。


「ですがどうやってやるのですか? やっぱり戦闘訓練やモンスターを狩ってのレベル上げですか?」

「あー…それもいずれやろうと思ってるんですけど、今回やるのは別のです」


 ヒナギさんに特訓の内容を聞かれるが、今回はそれは違う。


 というか…ここら辺りは弱いモンスターしかいないし、そんなモンスターを相手にしたところで大した成果は得られない。

 恐らくこの中で一番まだ力が未熟だと思われるアンリさんでさえ、それは同じだろう。ヒナギさんなんてほぼ無意味に近いに違いない。

 …ジークは論外。


「ズバリ! 皆には、魔力循環を覚えて貰います!」


 本題に入るのを先延ばしにするのも面倒なので、一気に今からやることを俺は伝える。


「…確かにそれの方がいいかもしれませんね」

「賛成~」


 俺の言うことにポポとナナが賛同する。


「…魔力循環? なんだそりゃ?」


 だが、シュトルムが俺の言ったことに対し首を傾げている。

 見れば他の人の様子も…皆シュトルムと同様だった。


「皆不思議じゃなかった? なんで俺達が無詠唱で魔法を使えるのか」

「…あんまり気にしたことなかったかな。そういうものだと思ってた」

「…カミシロ様達の才能ではないでしょうか?」

「いやいや、俺達は所詮ズルして強くなった程度の奴ですよ? ナナはともかく、んなわけないですって」


 甘い、甘すぎるぜヒナギさん。ナナは確かに相当なセンスと才能を持っているけど、俺とポポはちゃいますって。

 凡人…もしくはそれ以下だ。才能なんて皆無。


「そんな俺達でも無詠唱を可能とさせたのが…魔力循環です。偶々俺達が借りたギルドの教本に書いてあったんですよね…」

「ギルドの教本に? …俺、結構色んなこと知ってるつもりなんだが…聞いたことねぇな。気とかチャクラの類なのか?」


 …なんだそれは。俺はそっちの方が知りたいぞ。

 超戦士と忍者がこの世界にはいんのか? もしそうならカオスだな。今までに何回人類滅亡の危機に瀕してるんだ?


「…そんなのあんの?」

「その様子だと違いそうだな…」


 俺が知らない様子を見せると、シュトルムはどうやら気とかの類とは違うと判断したようだ。


 …俺もそっちの言うことが気にはなるが、今は置いておこう。


「まぁ…色々言いたいことはあると思うんだけど…これだけは確かだ。魔力循環を覚えてた場合、魔法だけの単純な強さは……今の5倍くらいになると考えて貰っていい」

「「「5倍!?」」」

「へー」


 皆が5倍という数字に驚愕する。まぁ無理もない。

 ただジークに至っては、どうでもよさそうにしているが…コイツは仕方ないだろう。

 どうやら魔法に適性がないらしいし。


「更に魔力の消費量も今までの比ではないくらいに減る。多分習熟度合いによるけど…5分の1から10分の1くらいかな」

「そんなに!?」

「嘘じゃ…ないんだよね?」


 またも驚きの表情を浮かべる皆さん。


「うん。俺達がこの世界に来てから初日に色々確認したから…間違ってないと思う」

「あったね~そう言えば…。夜中熱中しすぎて倒れたっけ?」

「いつの間にか倒れて寝てましたね」

「そんなことやってたのかお前ら…」


 懐かしいなぁ。あの時は必死に魔法の練習してたもんなぁ。

 野宿が嫌でせっかく宿に泊まったのに…床でおねんねしたんだよな。意味ねぇ…。


 つまり…




 ベッド『キィーッ! 私というものがありながらそっちを選ぶなんて…!』

 床 『残念でしたわね。この子は私を選んだのですわ!』

 俺 『違うんですベッドさん!? 俺は別にそんなつもりじゃ…』




 こういう、なし崩し的にそうなってしまったみたいな、昼ドラ的な感じだったんだよな…。

 実に思い出しやすい。三角関係って怖いですね。


 ………。


 今日の俺の頭は、どうやら随分とアヘっているらしい。変な思考が次々と出てくる。


 …まぁいつも通りと言えばそうなんですけどね。俺は普段からこんな感じだ。

 でも朝からあんなことがあったら…脳がアヘっても仕方ないよね? そうだよね?




 名無しさん@1『そうだな』

 名無しさん@2『マジワロスw』

 名無しさん@3『もちろんさぁっ!(゜∀゜∩』

 名無しさん@4『流石だぜ兄弟 Σd(゜д゜d*)』




 ハイ! 私と私の私と私から賛同を頂けたところで…話を戻しましょー。


「「「………」」」

「どう? 超魅力的じゃない? …やる?」


 皆が口をパクパクしているのを見ながら、再度やるかどうか尋ねるが…


「やるに決まってるだろ! というか…何でもっと早く教えねーんだよ!」


 とのことだった。


「いやだってさぁ…本に書かれてることをそのまんま覚えてみたら誰もそのこと知らないんだもん。テリスちゃんに聞いたら学校でも教えてもらってないって言うし…もう衰退したものなのかなぁと…」

「は? じゃあテリス嬢ちゃんってもしかして…」

「あの子も魔力循環使えるよ? 無詠唱ができるかは知らないけど…」

「マジか…」

「…テリスちゃんって…誰です?」


 ここにいるメンバーでテリスちゃんのことを知っていないのは、アンリさんとジークだけだ。

 ジークは全然興味がない様子だが……アンリさんはその…違った。


 あの…目がちょっといつもと違うんですが…。


「あ、アンリさん? 誤解しないでもらいたいんだけど…別にそういうのじゃないからね!? 魔法を教えることになって知り合った小さい子なだけだから!? 9歳だよ!? というより依頼ね!?」

「あ、そうなんですか…(ホッ)」


 俺がアンリさんが変化した理由を察して必死に弁明すると、次第にいつもと変わらないアンリさんへと戻っていく。

 この偽りのない切実な気持ちを伝えるために、ひしひしと必死にヒシッ! と抱きしめてもいいくらいだ。


 …つまんない洒落ですね。一生お蔵入りだこのネタは。いやん。


「…焼きもち?」

「ちちちっ! 違いますよ!? そういうわけじゃなくて…(ゴニョゴニョ)」

「アンリ様、反応がそう仰ってますよ?」

「っ~~~!」


 セシルさんの言葉に顔を赤くしたアンリさんを、軽く笑いながら指摘するヒナギさん。

 普段はあまり見ない光景だが、なんとも微笑ましい限りだ。

 少しずつヒナギさんも変わりつつあるようで、前であればもっと真面目な言葉で対応していたところを、こうしてお茶目さを出せるようになってきている。


 …にしてもアンリさんや、その様子じゃあ丸わかりですな。俺まで恥ずかしいんですが…。


 でもでも……か、勘違いしないでよねっ! アンリさんのこと嫌いになったわけじゃないんだからねっ! 大好きなんだからねっ!


 ………。


 この思考の方が恥ずかしいですな…ハイ。

 でも自重できないんですよこれが…。困りましたねー。うふん。


「見せつけてくれるねー全く…」


 そんなやりとりを、やれやれとため息を吐いて呆れるシュトルム。


 うるせぃやい。


「…ゴホンッ! たださ、テリスちゃんって元々魔法があまり得意じゃなかったんだけどさ、この魔力循環を教えたらたちまち上達しちゃってさぁ…。どうなったと思う?」


 取りあえず、アンリさんに助け舟を出すついでに話を元の路線へと戻す。


「どうなったって言われてもな…。魔法の扱いが上手くなったんじゃねぇの?」

「それだけなら良かったかな。俺がテリスちゃんにそれ教えたのってこの世界に来てから3日目くらい。そんでシュトルムと初めて会ったのがそれから2週間後くらい。この間にどれくらい成長したかって言うとさ……上級魔法が使える一歩手前まで来てた。それまでは初級ですら使うのが困難だった子がだ。最近は見てないけど、多分…今はもう普通に使えるんじゃないかな…」


 ハイ、そうなんです。

 俺達が思っている以上に、魔力循環っていうものはとんでもない技能だったようで、テリスちゃん…本当に今では魔法の天才として騒がれちゃったりしてます。

 ダグさんがめっちゃ嬉しそうにして報告してくる反面、俺は冷や汗ダラッダラで大変だったけども…。

 だって、普通は12歳くらいでやっと中級の魔法を習い始めるところを、あの子はそんなものをすっ飛ばして上級に手ぇ出そうってんだから…仕方ないっしょ。

 ちなみにテリスちゃんの年齢…まだ9歳です。私のお気持ちをお察し下さいまし。


 そのため、テリスちゃんは…それで有名人だったりする。

 ただ、幸か不幸か…注目を集めることになった影響で人と多く接する機会が増えたようで、人見知りな性格が少しずつ半強制的に改善されてきているとかなんとか…。

 それは矯正とも言うんでしょうねー。


「は? 嘘…だろ?」

「ダグさんの娘さんをダシに嘘なんてつけるかよ」


 俺の言ったことに信じられない様子をシュトルムが見せるが…


 そんなことしてみろ……殺されるぞ。

 あの人には不思議な力が働いてる。…まぁ娘ラブパワーだな。

 これはステータスというものを度外視し、テリスちゃんを愛している度合いの強さが関係しているものだ。当然…親であるあの人に勝てるわけもない。その時は彼こそが絶対の王者にすり替わる。

 俺のステータスを持ってしてなお、その時のダグさんに勝てる術はない。

 理不尽極まりないが、子を愛する親の力…それは生きとし生けるものの神秘、最強の力なのではと思ったり…。


「だから…迂闊に広める訳にもいかなかった。テリスちゃんでアレなんだ。他の平均的な人達に教えたら…魔法が使える人が頂点を担うことになりかねないと思ったんだよ。つーか、争いが起きそうで怖いのが本音だ」

「5倍も上がるんなら…そうかもね」

「でもでも!? そんなこと聞いたことありませんよ!? アタシの学院でも聞いたことありませんでしたし…」

「多分だけど、俺達が見たその教本ってすごくボロボロでさ、文字が辛うじて読めるような古いものだったんだよ。だから今教えてるような内容のものと昔とでは、大分記述内容も変わってて、それで魔力循環っていうのが失われていったんじゃないかって思うんだよね」

「そうですか……」


 そうだと思うんだよなぁ。あの本…相当古い感じだったし。


「でもよ、その本がなんでギルドなんかにあるんだ? もっと価値あるものとして扱うべきものだろうに…」

「さぁ? 俺も古書を扱うようなところで保管しとくのが妥当とは思ったけど…失われた技術で認知されてすらいないのかもしれないなら仕方なくね? シュトルムが知らないんならその線は濃厚だろ。それならギルドにあっても不思議じゃないし。…というより、ギルドに来る奴が1から魔法のことで勉強するって考えが無いのが普通だろうし、長い間人目につかなくてもおかしくない」

「…まぁそりゃそうか。お前がそれに巡り会えたのは偶然か…」


 だと思うぞ。

 なんならまた借りに行ってもいいんだぞ?


「…ですけど、それをアタシたちに教えていいんですか?」

「他の人に教える気は無いよ。でも皆は特別。仲間だし…出来る限りのことを教えたいんだよ。大事な人達だからさ…」


 皆のためなら…俺はできることをなんだってするぞ。


「そうか…分かったよ」

「…それに、あり得ないけど…俺だったら皆が暴走しても止められるだろうしな」


 本当にそんなことはないと思うが、冗談を言って茶化す。

 すると…


「んなことしねーよ」

「そうですよ!」

「ちょっと心外…」

「…冗談だよ。本気にしないでって」


 口ではなんとでも言える。でも、これが皆の本心であることは…もう分かっている。

 俺には嘘を見抜くような力なんてものはないが、それを裏付けるだけの皆をこれまで見てきているからな。




 信じてますとも。

次回更新は金曜です。

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