144話 今後のこと
昨日、俺とアンリさんが恋人同士になったことを皆に報告すると、やはりというか…皆一様に驚いていた。
俺の今後を皆知っているから、伝えた最初は訝し気な顔をしていたが、お互いに望んでそうなったことを伝えると、皆一応納得してくれたのか難しい顔で祝福してくれた。
正直、軽蔑や非難をされるのは覚悟していたのだが、それでもなお俺を尊重してくれる皆を見て、改めて皆と出会えて良かったと心から思った。
俺は…この人らを守りたい。何があっても絶対に…。
………。
ハイ、アンリさんと恋人になった後のことはこんな感じ。
なんかいいこと言ったところで話を進めよう。
「というよりさ、何で皆ココにいんの? ギルドにいたはずじゃ…」
全員着席したのを確認し、食事を取りながら話を開始する。
まぁ皆がココに集まってくれたのは結果的には良かったのかもしれない。2度手間になるのを省けるし。
「それはな、何か会った時のために腹ごしらえをしようってことになったからだ。腹はどうしても減っちまうからな…」
ギルドに残っていた4人の内、シュトルムが代表して答えてくれる。
「…ふ~ん、そっかぁ。それよりもさぁシュトルム…」
「…何だ?」
「…なんで座ってんの?」
「え!? 駄目なのか!? 流れ的に俺も座んなきゃいけないような雰囲気だったじゃねぇかよ!?」
気づけば…あんなに意地を張って座るのを拒んでいたシュトルムが、いつの間にか俺の隣に座っている。
俺の言葉に驚いたような反応をしているが…
「エ~、ソンナコトナイッテー」
「ソウダヨナー」
「……帰る」
俺とジークの棒読み攻撃を食らい、シュトルムが席を立ち上がってしまった。
それを見てすかさず…
「ああっ! 悪かった悪かった! 流石におちょくりすぎたって!」
「てめっ…! おちょくってたのかよ!?」
「いや…最近お前真面目ちゃんな感じだったじゃん? 初めて会った時の馬鹿なシュトルムさんがいなくなって寂しいなぁと思いまして…つい」
「別に好きで馬鹿やってるわけじゃねーよ俺は!」
「「え?」」
シュトルムが俺の発言を否定したかと思えば、セシルさんとナナが真顔で反応する。
「なんでそこで反応すんだよ!? 俺ってそんな風に見られてんのか!?」
「だって…素でやってるのかと…」
「んなわけねーだろ!」
「ふざけるな。お前はギャグ要員だろ?」
「お馬鹿要員ですね」
「ギャップ要員じゃな~い?」
「オイっ! 俺にそんなレッテルを張るんじゃねぇ!」
俺とポポとナナの三連打が綺麗に決まる。
最早、この場は皆でシュトルムをおちょくる時間と化していた。
「無理無理りーむー」
シュトルムが俺の胸倉を掴んで揺さぶってくるが、そんなことはお構いなしに答える。
無理なもんは無理。一度決まったことを覆すのは難しいのだから…。
男が一度決めたことに対して文句を言うんじゃない。
シュトルムよ…耐えねばならんのだよ。というか…耐えろ☆
それがお前に与えられた使命、星の定めなり。
「ハッハッハ! お前ら面白れぇな! なるほどなるほど…いい奴らじゃねぇか」
それを見ていたジークが笑っているが、まぁ俺達の雰囲気というものが伝わって何よりだ。
今後はジークもこの中に加わる予定だし、慣れて貰わなくてはいけない。
まぁコイツならどんな環境でもどうせすぐに慣れるんだろうけど。
そして…シュトルムをこれ以上怒らせるような真似はよしておこう。
俺に非があるのは確かだしな。流石に遊びすぎた。
「それにしても…お前は俺を見てもビビらないんだな?」
「え?」
俺がシュトルムにグワングワンされていると、ジークはセシルさんに向かって話しかける。
「お前だけだったぜ? 俺見て表情一つ変えなかったのは」
どうやらジークは、セシルさんが自分を見て特に怖がる素振りを見せないことに興味を示しているようだった。
「あ~……うん。害はなさそうなのは見れば分かるし、第一ツカサがもう普通に接してるからね」
「へぇ?」
「ツカサを見れば、大体のことは分かる。そして私自身でも大体は分かるから…」
…そう言えば、ギルドでセシルさんはコイツに悪意がないことに驚いているような反応してたしなぁ。
セシルさんのその力って…どれくらいの性能をしているんだろう?
「…やっぱお前……イヤ、言うのは野暮ってもんか?」
「ん。だと助かるかな。貴方がなんで分かったのかについては聞かない。だからそっちもそれで妥協してくれると嬉しい」
「おう。別にいいんじゃねそれで」
2人で何の話をしてるんだ?
シュトルムから解放され、2人の会話が気になり尋ねてみるが…
「…何の話だ?」
「いや、大したことじゃねぇさ…気にすんな」
「うん。ちょっとしたことだから…」
「…そう」
教えてはくれなかった。
2人は会ったばっかりだし、共通するような話題なんてあったか?
それとも俺が知らない何かについてなんだろうか…。もしそうだとしたら…
めっちゃ気になる。ちょー気になる。気になるあの子にドッキドキ! ってくらいに気になりんこ。
でもセシルさんもそう言ってるんなら仕方ない。気にしないように心掛けましょうかね。ぐぬぬ…!
「…で、アンタ…『鉄壁』だよな?」
「! …私を知っているのですか?」
セシルさんから興味の対象を移し、今度はヒナギさんへと話しかけるジーク。
対するヒナギさんは、ジークが自分を知っていたことに驚いているようだった。
「あぁ…だってアンタ確か回収リストに入ってたからな…」
「!?」
「回収…?」
…やっぱりそうだったか。
「オイジーク、それマジか?」
「確かそうだったと思うぜ? …てか、Sランクの奴はほぼ全員がリスト入りしてたはずだ」
「そうか…」
考えてみればそうだ。Sランクの人なら恐らく皆強い魂を持っているのは容易に想像がつく。ヒナギさんも該当していてもおかしくない。
薄々そうなのではと感じていたことではあるが、こうして事実を聞かされたのは大きい。
そこに…
「あの…何の話をしてるんですか?」
「あ、すいません。勝手に話進めちゃって…」
話についていけなかったヒナギさんが、内容について求めて来たので…
「…これは全員に話しておきたい話だから…(パチンッ)」
俺はそう言って、周りに声が漏れてしまわないように防音効果のある空気の壁を張る。
「? 今何したんですか?」
「『ジャミングノイズ』を使ったんだ。周りには聞かれたくないこと今から話すからさ…」
アンリさんにそう伝え、皆の顔をそれぞれ見る。
「皆、今から俺が話すことを、しっかり聞いて欲しいんだ。…特にヒナギさんは」
「私ですか?」
「はい。命に関わるかもしれませんので」
「! …分かりました」
俺の言葉に、ヒナギさんは目つきを変えた。
まぁ自分の命に関わるって言ってんだから当然かもしれんが。
「…ツカサ。アンリ嬢ちゃんもか?」
「あぁ。アンリさんには…包み隠さず話しておきたいんだ。…もうこれ以上嘘はつきたくないから…」
シュトルムの忠告に、俺はそう答える。
今まで嘘と隠し事をしていたんだ。だから…それはもうやめたい。
「先生…。ハイ! アタシ…全部聞く覚悟はありますから」
「ありがとう…」
アンリさんを巻き込む形になってしまうが…それはもう昨日散々話し合ったしなぁ。
でも、この娘は必ず守り通してみせる。皆も…!
決意を胸に、俺は話を切り出した。
「それじゃあ話すよ。…ただその前に、まだだったな…ジーク」
「あいよ」
ジークに、皆の視線が集中する。
「自己紹介しとこうか。俺は…ジークってんだ。よろしくな」
ジークの自己紹介から始まり、俺は…皆にジークから聞いたことを伝えるのだった。
◆◆◆
一通り俺が話を言い終えると、皆情報量の多さに沈黙してしまった。無理もないが…。
シュトルムとセシルさんは難しい顔で、アンリさんは俺が未来の自分に会っているということに驚いていた。
ただ、ヒナギさんはやはり困ったような様子を見せていたけど…。
まぁ困ったで済んでるあたり結構この人も肝が据わっているというものだが、そこは大切な仲間であるからちゃんと守り通す気持ちでいる。自分の仲間は何が何でも守りたい。
それをヒナギさんに伝えて安心させようと思ったが、何やらヒナギさんはそれに対抗するために修業をしなければとか言い出してしまったので、あぁ…やっぱりヒナギさんだなと思ったり…。
ジークのことについては、セシルさんを除いて皆まだ警戒はしているものの、一応ジークが俺達の仲間となったことには理解を示してくれた。
ヒナギさんも修業をするように、俺も修業しないといけないだろう…。こうしてジークが仲間になったのは、俺がジークにとって対等以上の存在でいるおかげだからな…。
最近は特に気にしてなかったが、俺も更に強くならないとまだ駄目そうだ。アイツとガチで戦ったらこっちの身が保たない。
…どうせだし、皆で修業でもするか?
相手…『原点回帰』は強大な相手だ。力が及ぶかは分からないが、出来る範囲で自衛する手段の強化に努めた方がいいかもしれない。というか、しないとヤバいな。
今まで黙ってたけど、魔力循環を教えてもいいんじゃないだろうか。魔法だけなら飛躍的に成長が見込めるはずだ。
その後は、ギルドでジークと『血の誓約』を交わし、昨日から続いたジーク問題は少しの問題を残して収束したのだった。
ジークの恐怖感が拭えるのは長くなりそうだが…これは時間を掛けて少しずつ緩和できればいいかな…。
それでその日は終わった。
次回更新は…土曜です。
見直し作業もあるので…すんません。




