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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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142話 安心と不安

 バタン!


「むっ!? どうしたカミシロ!」

「何かあったのか?」


 俺が牢の中から勢いよく扉を開けると、外で待っていた2人が驚いた様子を見せる。


 一旦話は終わりだ。飯食いに行くんで俺達…。


「いや、別に何かあったってわけではないんですが…。ギルドマスター。ギルドマスターは…コイツをどう思いますか?」

「何だ急に…。むぅ、見過ごすことのできぬ存在。それに限るが…」


 俺の急な問いに戸惑いつつも、思っていることを伝えてくれるギルドマスター。


 ですよねー。

 じゃあ次。


「カイルさんは?」

「ん? 話したところ、気さくな奴って感じだな」


 隣にいたカイルさんにも同様に尋ねてみる。

 この人は先ほどまで話をしていたはずだけど…


 ブラボー、よくお分かりで。

 流石ベテラン冒険者。人を見る目あるね。


「ふむ。まぁそうですよね。了解です」

「いやいや!? 何一人で自己完結しちゃってんですかご主人!? ちゃんと説明してくださいよ!?」


 俺がどんどん勝手に話を進めてついていけなくなったポポが、俺に制止を呼びかける。


「…ご主人、いい加減説明して。何で急に狂ってんの? アイツに何かされたの?」


 ナナもまた呼びかけてくるが…


「いんや、狂ってないぞ? 至って普通、いつもと変わらぬ平常運転まっしぐらだ俺は」

「…そうかぁ? お前さっきまでと全然テンション違くね?」


 後ろからついてきた『闘神』が、困惑した顔で今の俺の状態を口にする。


 …テンション上がっても仕方ないからいいんだよ。


「まぁほっとけ。……ところでギルドマスター。あの…非常に頼み辛いんですがちょっとお願いが…」

「何だ?」


 俺は…ギルドマスターにあるお願いをした。


「コイツ…俺に任せてもらえませんか? てか釈放させてください」

「なっ!?」


 と、『闘神』を指さしながら俺は言った。


「俺の仲間にします…というかもう仲間です」

「「「はぁ!?」」」


 これはもう決定…いや確定事項だ。

 どっちみち何が何でもついてくるとか言ってたから、問題ないだろう。


「何言ってんのご主人!? 何するか分かんないよ?」

「その通りだカミシロ! 私は長としてそれは了承しかねる!」


 だが当然、反論が飛び交う。


「う~ん。俺が言うのも変かもしれねぇんだけどさ、話が急すぎやしねぇか?」


『闘神』もどうやら困惑しているようで、自分で俺についていくと言ってはいたが、話がうまい具合に進んでいることに疑問を隠せない様子だった。


「当の本人がこう言ってるのも変な話だな」

「ですよねー」

「ですよねーじゃないよ! ホラ! 早く目ぇ覚ませ馬鹿!」

「ぶへっ!?」


 カイルさんの言葉に俺が軽く返す。すると、俺が無意識に頭がおかしくなっていると判断したナナが、巨大化して俺の胸倉を掴み、翼でビンタをかましてくる。


 いひゃい。


「いきなり何すんだよナナ!」

「目ぇ覚めた?」

「いやだから元々覚めt「まだ足りないか!」


 一発で終わりと思ったのだが、そんなことはなかった。

 次はナナの往復ビンタが俺を襲う。

 顔を左右に振られ、視界が次々と切り替わる。


 …何で俺はこんなことになってんだ?

 まぁ痛くないから別にいいけど…理不尽な気がしてきた。


「!?」

「いい加減にしろや」


 ナナの翼を手で受け止めて、無理矢理ビンタをやめさせる。


「ナナ、俺は本当に素面だから安心しろよ。心配してくれてんのは分かるが…」

「で、でも!」


 ナナは納得がいかない様子なようだ。

 それに同調するかのように、他の人たちも口々に言葉を掛けてくる。


「いやしかし…言うことにも一理あると私も思うぞ? あれだけ警戒していたというのにこの態度の急変は、おかしく感じても無理はない」

「ですよね…。いつものご主人でも、流石にここまで急変することはないと思います」

「…俺はまぁ、お前さんを詳しく知ってるわけじゃないからなんとも言えないけど」


 …でもさぁ。


「まぁまぁ。皆のその反応もごもっともです。そりゃ当然でしょう…。超危険、正体不明、理解不能な奴を俺に任せろって言ってんですから…。反論されるのも分かります」


 俺は、極めて落ち着いて、皆に話す。


「なら何故そんなことを言いだすのだ?」

「俺は…コイツのことをよく知ってたからです。コイツは本当に、もう危険はないでしょう。断言してもいい」

「その自信はどこからくるというのだ?」


 それは…


「俺の心…そして魂がそう言ってるんです」


 としか言いようがない。


 それを聞いた皆は、口をポカンと開けて、意味が分からないといった顔をしていたが…。

 まぁぶっちゃけ、頭おかしい奴の台詞にしか聞こえないと俺も思う。


 少し硬直したのち、ギルドマスターが口を開く。


「…冗談で言ってはいないだろうな?」

「こんなとこで冗談なんて言ったりしませんよ」


 周りからしたらそう思われても仕方がないだろう。

 だが、それが俺の答えであるのは変わらない。…というより、これ以外に答えは存在しないと思う。


 それでも、素直に「はいそうですか」と話が進むわけもない。

 皆が返答に困っている様子を見せていたので、俺からある提案をすることにする。


「だから…そこである提案が…」

「む?」

「提案?」

「はい。皆には既にコイツの恐怖感が植え付けられてるでしょうから、それを少しでも払拭できるように…『血の誓約』をさせます」

「ほぅ?」

「誓約を…だと?」

「はい。コイツには俺が許可を与えない限り誰かに危害を加えないという誓約をさせます。それなら…安心じゃないですか?」


『血の誓約』の効力は極めて強い。交わした内容を無視すれば、最悪死に至るほどであるからだ。

 それは…ステータスの高いコイツと俺も同様に効力を発揮するはずだ。


 誓約を行うための紙を俺は持っていないけど、それはギルドマスター頼みだ。きっと持ってるだろうし。


 ギルドもこんな奴のためだったら、出し惜しみはしないと思っている。


「オイ、ちょっと待てや。確かに俺は周りの連中から危険視されてるだろうし、『血の誓約』をさせられるのはまだ納得できる。…でもよ、お前…一生許可を与えないとかじゃねぇだろうな? もしそうだったら誓うとか無理だぞ。確かにお前と戦えんなら願ってもねぇが、俺にメリットがねぇならやる意味ねぇからな」


 コイツの言うことは確かに正論だ。

 一応お互いに納得しあわなければ成立しないし…。


「分かってるよ。俺の一方的な要求じゃそれは成り立たないからな。もちろんそれはしないさ。だから俺も誓ってやる。定期的にお前の相手をしてやる…と」

「え…マジ?」

「あぁ、マジだ」


 俺の言ったことに目を丸くする奴。


「何でそこまでするんですか?」


『血の誓約』を持ち出すのは、通常であればあり得ない。

 元々『血の誓約』を行うための紙が希少であるということも理由としてはあるが、それ以前に、自分にはそれほどメリットがないにも関わらずこうして話を持ち掛けていることがまずおかしいからだ。

 内容は、俺が奴の相手を定期的に務めるということ、それだけ…。

 俺にはメリットは確かに無いように見える。…でも、…これはきっと間違っていないと俺は思っている。


「コイツの強さは…俺とほぼ同等だ。そんな奴を味方につけるのは…おかしいことか?」


 ポポの問いに、俺は考えていることと感じていることをありのまま話す。


「いやいや! この人ですよ!?」

「そりゃ分かってるよ。でも…俺は皆に迷惑掛けたくないしさ。連中だって皆に手を出さないとも言えないだろ? この前みたいに俺だけどこかに閉じ込められてしまった時みたいな時のためでもある」


 感じていたことではあるが、俺だけでは皆を守るのは…恐らく無理だ。

 昨日奴と戦っていた時だって、その間皆は無防備も同然。狙われてもおかしくなかった。

 連中は未知の力を持っていて何をしてくるか分からないし、対策が取れるならまだしも、それができないのであれば俺の考えは間違ってないと思う。


 俺に近い強さを持ち、連中に対抗できる存在を仲間にすることは…正しいはず。

 それが例え…昨日死ぬ気で争った相手だとしてもだ。


「いや、だから! この人が何もしない保証はないと言ってるんですよ!」

「そのために誓約をするんだよ。それなら安全は保障されたも同然だ、誰も傷つかないさ」

「ご主人が傷ついては駄目でしょう!?」


 あぁもう! …ありがとう! でもちょっとくどいわ。


「ポポ。黙って言うこと聞け」

「っ!?」

「あとナナ、お前もな?」

「っ…!?」


 初めて、コイツらに絶対の命令を言ったかもしれない。

 でも、こうでもしなきゃコイツらは俺の身を案じて引き下がらないだろうし、仕方ない。


「ぁ……分かり…ました…」


 ポポが、酷く落ち込んだ様子で項垂れる。


 ……ヤベ。思ったよりもショック受けてるっぽい。

 後でちゃんとフォローしとかないとマズいかもしれん。




 取りあえずポポのことは一旦頭から離し、俺は奴へと向く。

 そして…


「なぁ、お前の望みは何だ?」

「あ? お前と…それか他の強ぇ奴と戦いたい。それだけだ」


 うん…お前ならそう言うと思ってたよ。


「だよなぁ。なら…時々戦わせてやるよ。俺がお前の相手になってやる。だから俺の…また俺達(・・・・)の仲間になってくれ」

「「?」」

「またって何だ? 随分と前から知ってるみたいな言い方だな…。ヘッ! まぁいいや。決まりだ! やっぱお前サイコーだわ」


 俺が差し出した手を、奴が握ってくる。


 お互いの望みは成立した。


「今度は俺を頼むよ……ジーク」

「…あ?」

「「……え?」」

「…俺…お前に名前教えたっけ?」

「いいや、教えてもらってないさ。…でも知ってる」


 俺は手を離し、自分でも分かるくらいの笑みでジークに向かってそう言った。




 さーて、じゃ…行きますか。




 ◇◇◇




 一方、待機を命じられたメンバーはというと…


「………(ソワソワ)」

「「「………」」」


 ギルドのテーブルに座り、アンリが右往左往する様子を、シュトルム、セシル、ヒナギの3人は見ていた。

 ギルドに現在来ているのは、何かあった際にすぐに察知するためであり、いつでも動けるようにという意味でここにいるらしい。


「…アンリ嬢ちゃん、落ち着けって」

「あ、ハイ…」

「アイツなら大丈夫だって……多分」

「…ですよね」


 昨日恋人同士となった相手が、また危ない目にあうかもしれないと考えると、アンリのこの行動はむしろ普通と言えるかもしれない。

 むしろ駄々を捏ねずに、司を信じて待つと決めたアンリは、随分と我慢強いと言っていい。これくらいは仕方ないだろう。


「…そろそろ昼頃ですね」

「ん。ちょっとお腹空いたな…。ツカサには悪いけど…」


 ヒナギがそう呟くと、それを聞いたセシルが、この場の雰囲気に合わない発言をするが、その言葉はごもっともである。

 セシルも十分に司を心配はしている。ただ、人間…ただジッとしてるだけでも腹は減るものである。

 体が正常に機能しているのであれば、仕方のないことだ。


 その言葉を聞いていたシュトルムは、腕を組んで軽く唸った後、席を立って口を開いた。


「…腹が減っては戦はできぬ。まぁ戦がねぇ方がいいんだが…腹は満たして損はねぇだろ?」


 そして、仲間である3人に向かってそう言った。


「皆。…外に飯でも食いに行かねぇか? 何かあったときにすぐに動けるようにしとくのも必要だろ?」


 この場の雰囲気を少しでも緩和したいという、シュトルムなりの気遣いのようだ。それに加えて、ちゃっかり今後のためという意味も含めていたりするわけだが。


 …まぁ、アンリに少しでも落ち着かせるためなのは明白だった。


「私は…良いと思います。お腹が減っていると気が散ってしまったりしますからね…」

「だね」


 シュトルムが目配せを送った2人は、シュトルムに同調するかのように、肯定の言葉を口にする。

 2人もまた、アンリの今の状態を見ていられなかったのだろう。

 若干引きつった顔だった。


「………分かりました」


 アンリは、3人の言うことに従うことにしたようだ。

 内心、言われてみれば自分も腹が少し空いていると感じ始めた様である。


「じゃ、行くか」




 シュトルムの声で、全員ギルドの外へと足を向けるのだった。


次回更新は月曜です。

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