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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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141話 『闘神』との対談②

「…じゃあ次。組織の規模はどんなもんなんだ?」

「幹部を合わせて…30人くらいの組織だな、大きくはねぇ。幹部以外はほぼ全員が各地の監視についてる」

「…まさか、この町にもいたりしないよな?」

「それはいないと断言してもいい。お前らみたいな奴を監視したらバレるに決まってるとか言ってたしな。『白面』が慎重に情報収集してたくらいだと思うぜ」

「そうか…なら良かった」


 引き続き奴から情報を引き出し続ける。


 どうやら俺達に監視はついていないらしい。それに、組織の規模もそこまで大きくなさそうで良かった。


 ここで奴の言っていることが嘘だった場合は、俺はもう救いようのないほどに人生が詰んでいると言われても仕方がないだろう。

 だが、コイツは嘘はついていない。

 俺の心がそう言っている…気がする。


「ご主人。聞くのはいいんですけど…それを全部鵜呑みにしないでくださいね? ちゃんと精査して裏付けもしていかないと…」

「そうだよ! あれだけのことされたのに無防備すぎ!」


 そんな風に思っている俺を見て、ポポとナナが警告と忠告、そして俺の警戒心の無さを指摘してくる。

 だが…


「心配してくれてありがとな。でも平気だから落ち着け。俺は十分警戒してるし、コイツの言うことをちゃんと聞いて判断してるから問題ないぞ」

「「………」」


 2匹は無言だったが、俺の言いたいことはそれだけだ。

 まぁ任せといてくれ。


「…そんじゃ次な。お前さっき8人目として特別扱いとか言ってたよな? あれはどういうことなんだ?」

「そのまんまの意味だ。…俺って超強いじゃん? まぁ用心棒みたいな役割だったのさ」


 お前ほど自分を強いと言っても文句なしな人は、他にほとんどいないだろうな…。

 実際超強いし…。


「アイツらは強い奴の魂が欲しい。俺は強い奴と戦いたい。…用は利害が一致してたんだよ。アイツらじゃ手が付けられないような奴と戦って魂を回収するのが俺の役目だったわけだ。計画や企画、それと話し合いには関わるようなことはしなくても良い立ち位置だったわけだ」


 確かに用心棒みたいなもんか…。それにすげぇ適任だし。


「なるほどな…」

「ま、魂の回収率は俺0だったんだけどな。実際戦ったのはお前とネズミの2人だけだったし…」


 …ネズミって何ぞ? 人なのかそれは…。

 でも、お前は仕事してないってことですね…。まぁそれはそれで安心したけど。


「そういえば、お前は人殺しをしないとか抜かしてたな?」

「ああそれか。そうだぜ? 俺は人殺しを直接することはねぇよ。だから抜かしてとか言うんじゃねぇ」


 若干目をジロリとさせて、俺を奴は見てくる。

 どうやらその点に関しては少なからず思うところがあるようだ。


 でも俺の時はそんな風には見えなかったんだが…。

 本気で殺されるかと思ったぞ。


「…スマン。でも、意味ありげだな?」

「あぁ。俺がボロボロになるまで相手を追いやって…他の奴が殺すっていう場合はあったかもしれねぇから、間接的には俺が殺しちまう可能性もあった。…まぁ、そんな中途半端な相手と戦うのはつまらねぇから無かったわけだがよ」

「つまり…お前は人を殺したことがないってことだな?」

「おうよ」


 俺の問いに、即答してきた。


 人を殺してはいけないということに理由はいらないとは思うが、奴が何故そうしないのかが気になって、俺はそれを聞いてみることにした。


「何で…殺さないんだ?」

「多分お前は単純に殺したくないだけだろうが…俺はそれとは違う。…殺したら…そいつはもう終わりだ。まだ伸びしろのある奴だったら…それは勿体ないだろう?」

「は?」

「俺を恨んで…強くなって復讐にでも来てくれた方がいいじゃねぇか。怒り、憎しみってのは人をある意味強くさせる要因になるからな」


 始めはよく分かんなかったけど、あぁ…つまりそういうことね。

 もっと強くなって仕返しに来いってことを言いたいのねお前は。ふざけてんなぁ。


「よく分からんなお前は…」

「別に分かってもらおうなんざ思っちゃいないさ。ただ…強い奴と出会うためには、俺からも色々と策を練る必要があると思っただけだからよ」


 その思考がデンジャラスすぎるわお前…。

 怒りを買おうが、憎まれようが、恨まれようが…。お前はそれで相手が強くなってくれるならそれでいいってことか。


 正気の沙汰じゃねぇよ…。


「…まぁいいや。それで、そのネズミってのは誰なんだ? 話の流れからして相当強い人なのか?」


 俺の他にもう1人戦ったという、そのネズミと言う人物を聞いてみる。


「ああ、アイツも化物だな。俺よりも弱いのは確かなんだが…、なんて言えばいいか。セコイんだよなぁ」


 へぇ…セコイんだ…。

 でもお前相手だったらどんなセコイ手段でも良いと思いますがね。反則級の奴に正攻法で挑むとかアホらしいし…。


「…でも強いんだろう? その割にはお粗末な呼び名だな?」

「それはネズミの野郎がアイツらのやることをコソコソ邪魔しようとしてるからなんだとさ。俺がつけた名前じゃない。いつもターゲットを狙った先に現れては…邪魔してるらしい」


 ターゲットってのは…強い魂を持った人のことだろうな。

 ならこりゃいいこと聞いたな。


「…そんな人がいるのか」

「『原点回帰(ノヴァ)』の計画を知ってて、阻止しようとしている人なのかもしれませんね。もしそうなら…協力関係になれるかもしれないですよ? 加えてご主人らのような強さを持ってるなら…心強いことこの上ないでしょうし」


 ポポの言うことに、俺もそう感じていた。

 どんな人物なのかは分からないが、同じ目標をもし持っていて連中と対立しているなら、協力しない手はない。

 ただ、それなら魂のことについて知っているということになるから、慎重に接触はしなければいけないだろうが。

 俺から見ても何を考えているか分からない相手。向こうから見ても…それは同じことだろう。魂と言うものについてを本当に知っているなら当然だ。


「…だな。なぁ、その人の特徴は?」


 そのネズミと呼ばれる人の特徴を聞いてみるが…


「龍人で…片目を眼帯で隠してる」


 とのことだった。


 なにそれ…厨二病か。

 てか龍人っておま…。ネズミって表現酷すぎないか? 

 もっと壮大で厳格な名称つけてやればいいだろうに…。


「ちなみに女だ」

「マジか…」


 しかも女性かよ!? ツッコミどころありすぎるわっ!?

 なら女性に対して野郎とか言うなよ! 失礼だぞ。


「…ま、まぁ、その人と接触して話がしてみたいな。どう思う? お前らは」


 俺の考えをポポとナナに聞いてみるが…


「良いと思います。同じ志を持つ者同士で固まるのは悪いことではないと思いますし。……まぁこれが本当の話ならですけど」

「ご主人についてく。でもこの話が真実と証明されない限りは嫌」


 やはりというか…どちらも話の信憑性が肝心のようだ。

 俺は奴の言っていることを信じてもいいと思っているが、コイツらは違うらしい。


 …まぁ無理もないか。

 むしろ俺がおかしいんだろうな。周りからしたら…。


「う~ん。ちと考える必要があるか…。その人が今どこにいるかってのは分かるのか?」

「分かるわけないだろ。各地を転々としてるような奴なんだ…決まった拠点を持っているわけでもない」

「そうなのか…」

「…でもまぁ、アイツらがターゲットを本格的に狙い始めたら多分動くだろ。そしたら見つけられるかもしれねぇな。…ま、なんにせよ動くんなら早くした方がいいぜ? 俺がお前側についたってのはもう分かっちまってるかもしれねぇしな」

「…やっぱりそうだよなぁ」


 連中があの戦いを見ていなかったとは考えにくい。

 ラグナの時もあの『白面』はどっかから見てたようだし、今回もそれで見られていたという可能性が否定できない。


「もっと言えば、お前は昨日弱ったところを狙われてお陀仏だった可能性もあったと思うぜ? あんな絶好の機会を逃す連中じゃねぇだろうし…」

「でも…来なかったよな?」


 俺と奴が瀕死になるまで戦ったというのに、その連中は一度も姿を見せなかったわけだが…


「多分だが…そりゃコイツらがいたからだろうな…」


 そう言って、ポポとナナを指さす。


「私達…ですか?」

「…?」

「ああ。お前らのあの時の状態……キラキラしてるやつな。あれは俺とコイツにとっては問題ない脅威度ではあるが、でもアイツらには半端なく脅威なんだよ。…結果的に『才能暴走(アビリティバースト)』は使ってて正解だったのかもな」

「そういうことか…」


 俺があの時『才能暴走』を使っておいたことで、連中の行動の抑制につながったとのこと。


 それなら…使っておいて良かった…かな? 


「ということは…他の人達は貴方よりも弱いということですか?」

「あぁ弱いな。…まぁ全員厄介なモンは持ってるが。でも正直一斉に掛かってこられようが俺は特に問題ないくらいだ。多分お前らでも十分に相対できるとは思うぜ」


 どうやら連中の実力は覚醒したポポとナナよりも弱いくらいらしい。

 …それでも相当恐ろしく強いのは確かなんだが…。

 こっちの世界の人じゃ…まともに戦える人ほとんどいないんじゃね?




 いやぁそれにしても…、色々と新鮮な情報が聞けて本当に助かる。

 今まで判断に困るようなことばっかりだったし、これでようやっと目途が立ってくるというものだ。


 そこに…




 グゥ~~…。




 誰かの腹のなる音が、聞こえた。

 その音を鳴らしたであろう人物を…俺達は一斉に見つめる。

 すると…


「…なぁ、説明は何でもしてやるけどさ。俺、昨日から何も食ってないんだよ。流石に腹減った」

「…うん。今聞いたから分かってる」


 素直に、自分の腹をさすりながら、奴は言ってきた。

 それに素早く反応したのは、ナナだった。


「自分の立場分かってる? んなもん我慢しなよ」

「そうは言ってもさー、回復に体力削られちゃってよぉ…。結構ヘロヘロなんだぜ俺?」

「知らないよそんなの」


 終始機嫌の悪い…というか警戒心の強いナナ。

 まぁ俺も最初は警戒心むき出しだったから人のこと言えんけど、いい加減少しは抑えてもいいんじゃないか? 


 ナナに対してそう思っている所に…




 この後、俺にある変化が訪れた。




「なぁ。…えっと…カミシロだっけ?」


 奴が…俺の名前を呼んだ時だった。






 ドクン






「!?」

「食うもん持ってねーか? 何でもいいからよ」


 あれ…? 何だ今の…。


 以前感じたあの気持ちの悪い感覚と似たようなものが、俺の体に走った。

 だが、苦しくはないし息苦しくもない。むしろ…暖かい。


 俺の体が、心が、…そして何より魂が、喜んでいる…?


「ん? どうしたんだお前?」

「あ、いや…」


 奴が俺の今の状態を見て、聞いてくる。


 今の俺の顔は…きっとビックリしてるような顔をしているんだろうな。でも、急にそんな感覚が襲ってきたら仕方ないだろ。


「何だ? 変な奴だな……あ、苗字の方は嫌いだったりしたか? なら…」






「ツカサでいいのか?」






 それが…決め手となった。

 以前見たあの記憶。俺から俺へと入って来たもの。

 それが少しだけ…鮮明になった。




 ◇◇◇




『えっ…ちょっ…マジで…?』

『マジだマジ。ここでやんなきゃ男が廃るぜ? 早くしろや。…クククッ、やっぱ面白ぇわお前』


『お前らっ! 俺に続けぇえええっ!』

『よっしゃあっ! 待ってましたぁ~っ! 飯のためなら雑魚でも容赦しねえっ!』


『クソッ! 胸糞悪ぃ』

『それはお前が正常である証だ。…もしもの時は汚れ役は俺が引き受けるから、お前はそのままでいろ。それがお前の強さでもあるからな』


『ああ、これが幸せってやつなのかね』

『さぁな。でも、お前がそう思うんならそうなんじゃねぇか? だったら良かったな』




 ◇◇◇




「……ぁ……」

「? どうした?」




 あぁ…そうか…。


 お前は…。




「……ぷっ…アハハハハハッ!」

「ご主人!? えっ…どうしちゃったの!?」

「正気に戻ってください!」

「アハハハハハハッ!」


 無性に笑いがこみ上げて来た俺は、ただひたすらに笑った。ポポとナナが心配しているが、それは今はどうでもいい。


 スマンなお前ら。

 でも、今は笑えずにはいられないんだよ。

 コイツは俺にやっと会えたとか言ってたけど、俺もまたコイツに、ある意味やっと会えたと言えるかもしれない。


 なるほど…そういうことか。

 懐かしい気持ちも…コイツが嘘を言っていないと感じていた理由も、今…やっと分かったよ。

 俺がコイツと話しててアホなことばっか考えることが出来た理由も、コイツの言うことに素直に従った理由も全て!


 なんだよなんだよ、まったくアイツは…こんなとこでまた出て来やがんのか。

 だったらもっと早く出てきやがれ。


 ったく、…そういうことなら話は早い。

 俺はそれを信じよう。自分と自分の魂を…信じてやろう。

 というか…これ以上に信じられることなんてないんだけどな。




 だよな………ジーク。




「よしお前ら、飯行くか!」

「「「……は?」」」




 俺の急な対応についてこれなかった3人は、呆気に取られて間抜けな返事をしたのだった。

次回更新は土曜日です。

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