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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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139話 懐かしき感覚

 アンリさんと恋人同士となった翌日。


 本来なら幸せな気持ちに浸り、今までにない充足感に包まれていたいところではある。

 だが…それはまだ出来そうもない。


 昨日ギルドマスターから言われていた通り、町の牢屋にて俺を待っているらしい、例の奴に会いに行くため、牢屋へと現在向かっている最中。

 行く者は、俺、ポポ、ナナ、ギルドマスターの四名。他の人には、待機しててもらうように言ってある。

 全員ついて行くと言ってはくれたが、危険度が今までの比ではないので少しの言い合いの結果、なんとかそういう方向へ収まった。

 ギルドマスターは案内役という意味と、事の重大さから見届ける責務があるとのことなので、今一緒にいる。


「してお主…体調はもう平気か?」

「ええ、おかげさまで。もう全快してますから、問題ありません」


 ギルドマスターから体調の回復具合を聞かれるが、もういつも通りと変わらない。

 違うのは…俺の恰好くらいか。今は普段着のような恰好で、今までよりも更に冒険者には見えない格好だ。


 だが、英気は十分、装備もジャンパーがないことを除けば万全、そして…心構えももう隙は無い。

 奴がその気になったら…もう何をさせることもなく、確実に一瞬で終わらせる。ジャンパー分のステータスの低下なんて大したこともない。

 ポポとナナとも話して、『同調暴走(シンクロバースト)』の発動許可も得ている今、奴に後れを取ることの方が難しいと思っても過言じゃない。それに、超級魔法の使用も視野に入れている。

 出来れば超級魔法だけは使いたくないが…それは奴次第といったところか。


 あれには……絶対に抗えない。

 俺も奴も…強大な力を持っていようが関係ない。この世界に存在するもの全てを否定する絶対的な力。

 全ての頂点であり原点とも言える、神に等しい効力を持った魔法。それが…超級魔法だ。


「ご主人。遠慮せず使ってくださって構いませんからね。私たちのことはお気になさらず」

「…あぁ、分かってるよ。ナナも…悪いな」

「ううん。別にいいの…。それよりもご主人があんな風にやられることの方が辛いから…」


同調暴走(シンクロバースト)』の発動についてを改めて2匹に問うが、構わないとのことだった。

 俺は別に代償などなくプラスな結果にしかならないが、コイツらにとっては死活問題に発展するもののため、本当に俺の力不足を痛感せざるを得ない。

 2匹が今どんな気持ちで了承しているのかは…俺には分からない。

 ただ、立場が逆だったら…まだ救いがあったなとは思う。

同調暴走(シンクロバースト)』はその凶悪性から、まだ過去に1度しか使ったことがないスキル技でもあるほどだ。




 そして、町の端に位置する場所にそびえたつ不気味な建物へと、俺達は足を踏み入れる。

 基本的には人で溢れかえり、にぎやかな印象を受けるグランドルの町。その印象とは程遠いと言っても過言ではない場所に、その建物は存在していた。

 目に見える訳ではないが、何やら負のオーラを放っているような…所謂心霊スポットで寒気がするといったように、何やら嫌な気配がプンプンと体を刺激するような所、そんな場所である。

 周りには草木のみで、他に建物は見当たらないこともそれに拍車を掛けているのは容易に見てとれたが。


 どうやらここに奴がいるようで、入り口で見張りをしている者に対してギルドマスターが軽く手を上げて挨拶を交わし合う。

 まぁ相手はギルドマスターの身分が高いと分かっていたのか終始敬礼していたりするが、それはどうでもいいだろう。


 中へと入ると、外の空気とは違う、重い空気が漂っていた。

 それもそのはずだ。ここにいるのは…ほぼ全員が犯罪者か、危険人物に該当する者だ。

 良い雰囲気を放っているはずもない。


「奴は地下にいる。ついてまいれ」

「…はい!」


 ギルドマスターの言葉に、警戒心を最大に引き上げる。

 恐らく奴は…俺達が近づいていることを感じているに違いない。それほどにとんでもなく恐ろしい存在だ。

 ゆっくりと、だが確実に、俺達は一歩一歩建物の奥へと足を進める。


 ギルドマスターは…今どんな気持ちで俺を案内しているのだろうか。

 ただ言えることは…アンタは相当肝っ玉の据わった人であるということだけだとは思うが。俺が逆の立場だったら責務を放棄して縮こまりたいです。


 お外…危険いっぱい。

 お家…安全。

 ニート…最強。


 だと思うんですよねー。

 まぁ、それでもニートは嫌ですが。でもお家でねんねんころりしたい。




 他に収監されている連中に無駄話を掛けられるが、それはひたすら無視する。いちいち相手にしていられないし、今はそれどころではない。

 そしてそのままただひたすらに奥へと進むと、突き当りに強固そうな扉をした牢屋に直面した。

 先程まで見ていた檻タイプとは違うようだ。


 足を止めて、ギルドマスターが振り返り、話してくる。


「…ここだ。…準備はいいか?」


 その言葉に、俺は了承した。


「はい。問題ありません」

「同じく」

「………」


 ナナだけは喋らなかったが、その目は俺達と同じ目をしており、了承なのはすぐに分かった。


 恐らく…誰よりも奴を警戒しているのだろう。…俺も負けていられない。

 誰よりも皆を守れるのは…俺なのだから。


「しかし…カイルがおらんな。一体どこに……」


 ギルドマスターが監視につけていたというカイルさんが、何処にも見当たらない。

 通路のため隠れる場所なんてないし、何かあったのだろうか?




 ただ…


『そんでよぉー、何か変な結界に閉じ込められて気づいたら動けなくなってたんだよな~』

『結界? あー…あの白く光ったやつか?』

『それそれ。あの感覚は初めての経験だったな。死ぬかと思ったわ』

『まぁ、今じゃ随分と元気そうだけどな…』

『まぁな。俺は論外だからよ』

『そりゃ今のお前見りゃ分かるっての…』


 なんか…中から会話が聞こえるんですけど…。

 うそん…。カイルさん中にいんの?


「…中に…いるみたいだな…」

「…みたいですね」

「仲良く会話してるようにしか聞こえないんですけど…」


 俺とギルドマスターが、カイルさんが中で会話をしているのを確認しあっていると、ポポが皆思っていたことを口にした。


 扉の前で俺達が何とも言えない気持ちになっていると…


『オイ。何そこに突っ立ってんだ? 別に何もする気はねぇから早く入ってこいよ』

「「「「!?」」」」


 そんな時、扉の中から軽い口調で言葉が飛んできた。

 どうやら俺達がいることに気づいていたらしい。


 目でギルドマスターに合図をし、俺は…その中へと足を踏み入れた。


 すると…


「よっ! 待ってましたぁ~! 昨日ぶりだな。傷はもう平気か?」


 入ってすぐに俺を見るや否や、やけにハイテンションな声で歓迎してくる奴だったが、そんなものは気にせず警戒する。


 奴を見れば、片手でこちらにひらひらと手を振りながら寝そべってぐうたらとしており、本当に自由に寛いでいたようだ。…そしてそれは中で一緒に会話をしていたであろうカイルさんも同様で、まるで自室のように寛いでいる。


 …アンタ何してんねん。


 怪我も治療されたとは考えにくいが…既に見受けられないほどに回復している。

 確かに、壁には備え付けられた拘束具、床には足を固定するような鉄の器具がチラホラと見受けられるが、どれも原型を留めてはいない。バラバラになって床に飛散している。

 魔力は使えないはずだったらしいが、恐らくそれも自力で壊したのだろう。だから…恐らく手で引きちぎる…もしくは粉砕したと思われる。…カイルさんが壊すとかは考えられないし。

 なんて奴だ。


 念のため奴の状態を把握しつつ、言葉を返す。


「おかげさまでな…どっかの誰かさんのせいで死にかけたが」

「…ハッハッハ! 悪いな…俺も結構のめり込みすぎちまってよ、まぁ許してくれよ」

「このっ…!」

「ナナ、押さえろ」

「っ! ………うん」


 俺は皮肉をふんだんに込めて返すが、ナナが今にも食ってかかりそうになったので、低めの声でナナを威圧するように抑えた。

 それで頭が少し冷えたのかは分からないが、若干の落ち着きを取り戻してくれたようだった。


「さて…俺は一旦お暇した方がいいな。外…ギルマスいるよな?」

「あ、ハイ。いますよ?」

「ん~、じゃあ後は任せたぜ~」


 この場にいるのは邪魔だと思ったのか、カイルさんが外へと出ていく。

 話し方からして、奴に対して特に警戒心を抱いている節は見られないが…。俺はどうすべきだろうか…?


 …てか、今更だけど扉の鍵も掛かってないとかどんだけ無防備なんだオイ。

 それほどに安全は確立されてるということか? 


 ………。


 まぁいい。考えたところで分からんし。

 さて…話を進めようか。


 この場は、俺達と奴のみとなった。




 ◆◆◆




 さてさて、待ちに待った奴とのご対面。色々と…聞きたいことがある。


「初めに聞きたい、何で…逃げなかったんだ? 逃げること…できただろ? それにお前も見た所それなりに傷は治ってるみたいだが…治療してもらったのか?」


 先程感じた疑問を俺はまず口にした。


「いんや、俺は治癒力が高めでな。寝りゃ大体の傷は治る」


 は!? 高すぎるだろ!? 体の構造どうなってんだお前!

 この前見た紫のデカブツにも驚いたけど、あれはモンスターだったしなぁ…。すぐさま回復はしないとはいえ、人でありながらそんな回復力を持ってるとか…どんだけだよ。


「…本当にとんでもないなお前」

「ヘッ! そのとんでもない奴に勝ったお前がそれを言うか。俺からしたらお前の方がとんでもねーよ」


 自信もって勝ったって言えねーしあれじゃ…。こっちだってズタボロにされてんだぞ。


「…まぁいい。で、逃げなかった理由だが、昨日言ったろ? お前とつるんだ方が楽しそうだからだ」

「…そういえばそんなこと言ってたな」


 奴にそう言われ、昨日のことが少しずつ思い返される。

 モヤモヤしてて鮮明に思い出すことが出来ないので、当時の俺はそんな状態でよく話してたなぁと思ったりする。


「忘れてたのか? まぁお前眠そうだったしな。…で、どうよ?」


 俺につるんでもいいかと確認してくるが…


「断る。お前みたいな危険そうな奴を近くにおく理由がない」

「…ま、お前がどう言おうがそうさせてもらうけどな」

「そういうことだ、分かったらとっとと……って、話聞けよ!」


 断ったのだが、俺の返答は特に意味がないらしい。

 何が何でもついてくる気だ…コイツ。


 ストーカー、駄目絶対。

 お家(豚箱)へお帰り。てかハウス。 

 …あ、既にその状態か。


「やっとだ…やっと見つけたんだ。俺と対等…それ以上の奴を…。こんな馬鹿みてぇに人は繁栄したってのに、俺を満足させる奴は誰もいねぇ…。だがそこに、もう諦めかけてたところに、お前っていう規格外の存在が現れたんだ、…これを逃したら次はねぇだろう」


 急に真面目な顔つきで、そして切望していたかのような声で…奴は呟いた。

 その声がどうしようもなく直に伝わってきて、俺は何故奴がそこまで戦いを求めるのかが気になった。


「…なんで、そんなに戦いを求めるんだ? 何がお前を突き動かす?」

「戦闘欲、それに限る。人が誰しも持つ大きな欲が…俺はそれだっただけだ。……てか、ずっと突っ立ってねーで座れよ。何も出ねーけどさ」

「あ、おう。よっこらせっと…」

「ちょっ、ご主人!?」


 ナナの驚きの声を振り切り、奴に言われた通り素直に床に座り込む。


 …あ~、床がひんやりしてて気持ちえぇ…。


「……!?」


 そしてすぐさま今の自分の状態を理解して、ハッとなった。


 …何で俺は普通に一緒に寛いでんだ!? あんだけ警戒してたはずなのに…馬鹿か。




 でも…なんか酷く懐かしい気がする……。


 自分の中にポッと湧き出た何か。それの正体が俺にはよく分からなかったが、抗ってはいけないような気もして、そのままの状態を続けることにした。

 そのまま…奴も話の続きを喋り始める。


「で、俺は戦闘欲なわけだが、お前は…何を求める? 知識か? 勇気か? 仲間か? …それとも性欲か?」


 何故最後にそれを持ってきた…。まぁ代表とも言える欲かもしれんが…。


「…知るかそんなもん。…だが、求めることと言ったら…俺は元の世界に帰りたいってことくらいだな」


 性欲は…ないな。いや、てか全部無いとは言い切れるわけじゃないんだが…。


「………は?」

「…ん?」

「お前…何言ってんだ? 冗談で言ってんのかよ…」

「…どういう意味だ?」


 何故か目をパチクリとさせる奴を見て、何か変な事を言ったか考えるが…分からない。

 その様子を見ていた奴はというと…


「っ…ククク…! お前、何も知らねぇのか。そいつぁ哀れだな」


 奴は笑っていた。

 ただ、その笑いは決して面白みを感じたから湧き出た感情ではないように俺には見えたが。

 ポポとナナも奴の言うことの意味を必死に考えているようで、黙っている。

 そして…


「帰れるわけねーだろ。お前たち異世界人は魂を取引してこっちの世界に来てんだぞ? どうやって元の世界に帰る?」




 奴の言うことに、俺は思考が停止した。

次回更新は火曜です。

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