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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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137話 伝える決意

 ◇◇◇




「う~ん…どうしよう…」

「先生…眠れないんですか?」

「…うん。ちょっと気持ちが落ち着かなくてさ…」


『安心の園』のある部屋。

 夜も耽り、もうそろそろ就寝しなければ明日に支障が出てしまうかと感じ始める時間帯。

 俺は、ベッドに潜り込んで目を瞑るが…寝れずにいた。

 ポポとナナもいない、アンリさんと2人きりという状況。それが俺の気持ちを高ぶらせ、眠りを妨げている原因なのは分かってはいるのだが…。


「でしたら…一緒に寝ませんか? 私もその…寝れなくって…」

「えっ!? でも…」

「先生だったら…私平気ですから…!」


 顔を真っ赤にしながら一生懸命にそう言ってくるアンリさんは、とても恥ずかしそうだ。それが非常に可愛らしく、俺は心を奪われてしまった。


「…そ、そう…! なら…入る?」


 おずおずとだが、自分が被っている毛布を持ち上げては、一緒に入りませんかというアピールを冗談でやってみたのだが…


「……はい!」


 …うそん。

 これはリアルでlearyですか? まさか冗談が通じてしまうとは…。


 俺が勇気を振り絞った結果…それはなんということか、実った。

 それに呼応するかのように、この後のいらぬ妄想を先走った俺の下半身も、実った。


 おぉ…今私はこの世に生を受けたことを誠に感謝いたします。

 お父様お母様、それから私と同じ血を受け継ぎしお姉様と弟よ。私は今宵、生の感謝を性へと変え、性心性意しっぽり励むことに致します! 


 グッバイ青春、ウェルカム性春!

 散らせて見せよう精の華。今宵は花火が打ちあがる。


「っ! ~~~~っ!」」


 アンリさんがおずおずとベッドに潜り込んできて、俺と向き合う形で密着する。

 密着したことによってアンリさんの心臓の音が俺に伝わってくるが、俺も似たようなものなので、恐らく向こうにもそう感じ取られているとは思うが。


 アンリさんが……! アンリさんがこんな近くに…っ! 俺はもうっ…!


 俺は…アンリさんを抱きしめた…




 ◇◇◇




 …はずだった。


「…ん…っ…」

「…お目覚めか?」


 あれ…? アンリさんってこんなに硬かったっけ? 

 胸…全然柔らかくない…てかカチカチだな。筋肉に変わっちまったんですか? それよりそんなイケボでしたっけ? 


 目を開けて確認すると…


「思ったよりも元気そうで何よりだ」

「……え? ………アンリさんじゃ…ない?」


 俺が抱きしめたはずのアンリさんは、何故かヴァルダだった。

 俺はベッドから少し身を乗り出して、ベッドの横の椅子に座っていたヴァルダの腹に抱き着いている形を何故か取っていた。


「うむ。彼女から、先ほど少し席を外すからその間見ててくれと頼まれてな…。しかし、まさかこんな風に求愛されては俺も高揚してしまうなぁ。オラ…ムラムラすっぞ!」

「えっ、あっ、なん…で…!」


 え? お楽しみタイムは? さっきの胸の高鳴りは? 

 まさか幻…だったのか…? てか…なぜお前がそのネタを知ってるんだ!?


 それにここ何処だ…?


 どうやら見慣れない部屋に俺はいるようだ。

 部屋は白色が目立つ作りをしていて、何やら薬品臭いような気がした。


「お前が望むなら…お前が手負いだろうと俺も手加減しないぞ?」

「っ!? どわああああああああああああっ!!!」


 状況の把握に努めようとした俺だが、目線の先で手をワキワキさせているヴァルダを見て、咄嗟に今はコイツから離れなければいけないと体は判断したようだ。

 俺の思考が追い付くよりも早く無意識に体が動き、口からは叫びが漏れた。




 ◆◆◆




「………というわけだ。別に異常が起こったわけではないぞ?」

「…さっきのアレは、その悲鳴だと?」

「ああ。そういうことになるな」

「…はぁ~っ! ビックリしましたよ…」


 どうやら俺は、奴との戦いのあとに気を失っていたらしい。

 窓から見える外はもう真っ暗闇で、相当な時間眠りこけていたようだ。


 現在、俺の悲鳴を聞きつけたであろう人たちが俺のいる部屋へと入ってきて、先ほどの俺の悲鳴の詳細をヴァルダに聞いている最中。

 いち早く部屋へと戻って来たアンリさんを始め、シュトルム、セシルさん、ヒナギさん、ポポにナナ、ギルドマスター、その他医者らしき人等々。色んな人が押しかけて来たのには驚いたが。


 特にアンリさんとナナは泣き出してしまって、それを収めるのが大変だった。

 …まぁ俺が心配掛けたのが原因だし、純粋に安堵しての泣きだから俺はそれが嬉しくもあったけど。


 皆ヴァルダの説明した内容に呆れており、アンリさんを除いて医者ですらため息を吐いているのを見て、申し訳ない気持ちになる。


「はぁ…ご主人ってば」

「やっぱりご主人だよね~」

「…ごめんなさい」


 だから、ポポとナナの言葉に、俺はただ謝るしかできなかった。

 そんな気落ちした状態の俺に対し…


「もうっ、何てことするのよっ…! 私お嫁にいけない…うぅっ…!」


 突然、ヴァルダが意味不明なことを言いだした。


 てめぇ! 今状況説明した口で何言ってやがる! 流石に違和感ありすぎだろうが!


「お前は婿に…だろ。それか嫁さん貰う側だろうが」


 そこに、シュトルムの冷静なツッコミが入る。

 正直なところ、ヴァルダの言ったことに反論するのは疲れるため、このシュトルムの発言は助かった。


 確かに…確かに俺が無意識にではあるが、ヴァルダに抱き着いてしまったことが原因なのは間違いない。そこについては認めよう。

 だが! 俺にそんな不埒というか…気持ちの悪い感情は存在していないのは断固として主張させていただこう!

 なぜなら俺は男ではなく女が好きなんや! 証拠にほら! 俺はお前にときめいて心臓が高鳴ったりしてないし、息子だってションボリしたまんまですよ! 

 どうだ! 文句あっかコラ! 


「おっとそうでした…失敬失敬」


 俺の思いが通じたのかシュトルムのツッコミを奇跡的にストレートに聞き入れたのかは分からないが、ヴァルダが素直に引いてくれた。

 素直に引くコイツを今まで見たことなんてほとんどなかったので驚いたが。




 でも…思えばそうだよな。そもそもなんでアンリさんが俺の部屋にいるんだよ。そこからまずあり得ないわ。

 それに何が性春だ。んなもん来るわけねーじゃん。俺に今来なきゃいけないのは清純だ。真逆すぎる…。

 夢とはいえ、さっきまでの自分を殴りたい。


 内心で先ほどの夢の内容に対して反省する。

 しかし内容が内容なだけに…続き見たかったなぁ、ウヘヘ~とか思ったり…。

 ここら辺のことは難しいところだと思う。男なら…。


「まぁ、冗談はもっと言いたい所ではあるが、本当の嫁さんが見るに耐えないので冗談はここまでにしておこう」


 素直に引いたヴァルダだが、アンリさんをチラリと見て、最後に爆弾発言をしていった。


「へ? っ~~~!」

「………」


 それを聞いて意味を理解したアンリさんが、驚きの声も一瞬にすぐ顔を赤くし、俺はというと何も言えず、ただひたすら沈黙した。


 恥ずかしい。


「あーはいはい。それは後でやっとけ。…で、体調はどうだ? ツカサ」


 その状態を見るに耐えないと思ったのか、シュトルムが話題を変えることで助け舟を出してくれた。後でって何だよとは思うけど。

 ただ…


 どうしたんだ、お前…。今日のお前の対応がまるで神みたいなんだけど。

 覚醒したのか? だったらいつもそうであってくれ。


 シュトルムの気の利いたフォローに半ば尊敬の念を抱いてしまった。


 まぁそれは一旦置いておいて、自分の体を確認する。

 まだ傷の残っていたであろう腹部を見てみるが…特に何もない。俺が見た最後の光景だと…ナイフが刺さったままだったと思うんだが…。

 どうやら寝ている間に摘出され、傷も治療されたようだ。

 痛みも特にない。


「…うん。もう傷はないし…大丈夫そう…かな? だけど…体が怠いな」


 自分が見て感じたことをそのまま伝える。

 すると…


「それは極度の疲労によるものだそうだ」

「…私共から言わせてもらえば、こうして起き上がるまで回復していることに驚きを隠せないのですが…」


 ギルドマスターの説明に加え、俺を担当して治療してくれたであろう医者の人が、心底驚いた顔でこちらを見るが…


 それはあれだ。最上級薬とカミシロさんだから成せる技なんですよ。

 ですよね皆さん!


「「まぁツカサだし?」」

「「ご主人だし」」

「カミシロ様ですから」

「こ奴だしな」

「俺の愛人だからな」


 アンリさんを除いて皆それぞれ、俺の思っていることを肯定するような発言を同時にしてくれた。


 ただ…一人だけ変な奴混じってますね。後で粛清しときます。


「理解の範疇を越えてますね…」


 それを聞いた医者は、信じられないといった表情をしていた。


「すいませんね。そっかぁ…まだ全快じゃないか。…それで、アイツは…どうなりましたか?」


 先程から気になっていたことを、俺は誰に言うでもなく尋ねた。

 あの戦いが終わってそれ以降の記憶がないため、奴がどうなったのか俺は知らないからだ。


「お主と戦った相手のことか? 奴なら、魔力を使えなくした状態で拘束中……だったのだが…」


 俺の問いかけに答えるギルドマスターだったが、なにやら困ったような顔つきをしながら頭をかいている。


 …え、マジ? ポポとナナいたのに…。


「逃げられたんですか…!?」

「いや、逃げてはいない。ただ、拘束をしてもそれを自力で破壊してきてな。今は自由に牢屋で寛いでいる。まぁ大した拘束力もないのだが…。幸いなことに暴れる意思はなく、お主と話がしたいの一点張りなのだ」


 なんだ逃げたわけじゃないのか…驚かさないでくれよ。


 どうやら逃げられたということではないらしく、ひとまず安堵していいのかは分からないが安堵する。

 あんな危険な奴、取り逃がしたら怖すぎて仕方がない。


 ただまぁ、そうだよなぁ。アイツじゃ拘束具なんてないようなもんだ。俺とガチ殴りみたいなことができるような奴だし。

 てか、何故俺と話したがってるんだ?


「…奴が話したがってるんですか?」

「うむ。本当にそれの一点張りだ。お主と話をするまでの間、ここから俺は出ないとまで言っておるのだ」

「はぁ? 何…考えてるんだ? アイツ…」


 よく…分からない。俺と話したがる理由が、見つからない。


 いや、でも最後に俺アイツと何か色々話してたような…。あの時は意識が朦朧としてて記憶半分みたいな感じだったけど…それと関係してるのかな…?


 奴の言い分に対して考えを巡らせていると…


「まぁ刺激しなければ大人しいから問題ないとは思うが…一応見張りでカイルを急遽つけておる」

「え…あの人が?」

「うむ。腕は十分にたつが…お主らから見たらお粗末に見えるかもしれんから、意味があるかは分からんがな。…ただ、牢番の兵の心の支えになればという意味で配置しているのが正しいと言える」

「なるほど…。そうでしたか」


 確かに、あんな奴を収監している牢屋の番なんて、死んでも嫌だな。

 それなら納得。


「だから…今日は休め。明日動けるようであれば、奴と話をしてもらいたい。…穏便にな」


 ギルドマスターは今すぐにでも奴をどうにかしたいのだろう。

 …しかし、相手が相手だ。迂闊に手は出せないし、出すことのできる人もほとんどいない状態である。

 この町に仇成す可能性の高い存在の排除。それはこの町のギルドの長として当然のことだから、ギルドマスターの考えは俺にも分かる。

 その証拠に、複雑そうな顔をして俺に頼み込んでいるのだから。


「…はい」

「正直お主以外に奴とまともに接することのできる奴はいないからな…。お主だけが頼りなのだ」

「…分かってますよ。だから、奴に伝えといてくれますか? 明日お前に会いに行く。それまで大人しくしていろ…と」

「っ!」

「カミシロ様…」


 俺がギルドマスターに伝言を頼む…てか俺すげぇ偉そうなこと言ってるな。ゴメン許して?

 …で、俺が伝えると心配してくれているのか、アンリさんとヒナギさんが反応していた。


「さて、体が芳しくないところを済まなかったな。そろそろ私たちは出るとしよう」

「あ、なんかわざわざすみませんでした…」

「何を謝る必要がある? お主はこの町のために戦ってくれた功労者だ。労うのは当然だろう?」

「それは…」


 違う。と言おうとしたところで…


「はいはい。さっさと出てくぞー皆。まだ色々と慌ただしいからな、各自できることをしよう、そうしよう」


 俺の続きの言葉は、シュトルムの言葉が先に出て遮られてしまう。

 シュトルムは早く出ようと言わんばかりに部屋にいた人を外へと追いやるが…


「あー…アンリ嬢ちゃんはまだ用事あったな? 俺達は気にしなくていいから、残っていきな」


 突然、アンリさんにこの部屋に残る様に伝えてきた。


「え? ですが…」

「ツカサも話したいことあるだろうし……な?」

「…シュトルム」


 アンリさんはシュトルムに何か言おうとしたようだが、それは聞き届けられなかったようだ。シュトルムは俺に対して、あることを言葉と目で俺に伝えてきた。


「ちゃんと話せよ? 全部…さ」

「っ! …あぁ」

「………」


 シュトルムが何を俺に望んでいるかを感じ取った俺は、素直に了承した。




 もう逃げられない…か。

次回更新は金曜です。

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