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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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136話 信じる気持ち

 佳境は乗り越えた。

 この場に現れた救世主によって、俺はなんとか命を繋ぎ止めることができた。


「つっても…腹は全快じゃねぇか…。最上級薬でも完治しないなんて、どれだけ瀕死だったんだよ」

「ハハハ…」

「まぁ…それはグランドルに戻ってからだな。もう俺回復薬持ってないから…」

「ここまで回復できたから、もう平気ですよ…ててっ!?」

「オイオイ、無理はすんなよ?」

「ご主人!? まだ動いては…!」

「傷が広がっちゃうよ!」


 はぁ…さっきまでに比べたらマシとはいえ、やっぱり痛いものは痛い。回復魔法が自分に使えたらとっくに回復してるっていうのに。

 なんで本人では回復魔法が使えないとか意味不明な理由があるんだよ…。


 回復魔法の欠点ともいえる部分を愚痴る。

 カイルさんとポポらに心配されてはいたが、今はそれよりも気になることがある。

 俺は、その気になることを確認すべく、痛む腹を抑えて倒れている奴の元へと近づいた。


 アイツの安否を気にしている余裕なんてなかったが、奴はどうなった?

 死んで…しまったのか?


「ハッ……ハッ……っ!」

「っ!? 生きてたか…!」

「…ぐふっ……。あぁ、俺は…負けたのか」


 奴は、体の傷は先ほどまでと同じだが…目が半開きになりつつも辛うじて生きていた。


 正直な所、『ラストディザスター』の直撃を食らって息があることには驚いた。恐るべき生命力と言ってもいい。

 というのも、『ラストディザスター』は7つの属性には分類しない、極めて異質な性質を持った別の属性なのだ。

 7つの力が合わさって生み出されるこの別の属性だが、7つの属性が肉体にダメージを与えるとするなら、こちらは精神に直接ダメージを叩きこむような感じだ。

 上級魔法でも直撃させなければまともにダメージを与えられず、接近戦に持ち込もうにも数多の武器が無限に邪魔をしてくるような奴には、そんなものを度外視できるこれしかなかった。

 まさか運よく奴を捕まえることができて、成功させることができたのには驚いたが…。

 しかし、廃人になっていてもおかしくない出力を食らってなお、辛うじて体の機能が生きていることには驚愕する他ない。


 …。


 なんにせよ良かった。…死んでないみたいだな。意識もまともそうに見える。

 先ほどまでは殺してやると思っていたのに…今じゃ生きてて良かったと思っている自分がいる。

 なんか…複雑だ。そんな自分が嫌になる。


 感情に身を任せて暴走してしまっては駄目だ。それじゃ俺は本当に化物と同じ。

 感情をもう二度と爆発させてはいけないのに…。


「まだ生きてっ…!」

「よせナナ。…もう何もできゃしねぇよ」


 奴が生きていることが分かると、ナナが止めを刺そうとするが、それを手で制した。


「はぁ…はぁ…はぁ……ふっ…ハハハッ!!! 最高だ、お前! すげぇ楽しかったぜ!」

「この…バトルジャンキーが…!」


 今にも死にそうなのに、奴は豪快に笑ってそう言った。


「どんだけ強ぇんだよ…ったくよぉ。しかもハンデありでそれとか…ふざけんなよ…」

「ハンデなんて…してねぇよ…っつ…!」


 奴の物言いに反論して体に鈍く痛みが走る。それでグラついた俺の体を、ナナが支えてくれる。


 あぁ…ちと流石に疲れすぎたな。眠くなってきた。


 ナナに支えられたことで体に掛かる負荷が減り、疲労から睡魔が襲ってくるが、なんとか堪えて話を続ける。


「いや…お前は…その従魔共に、魔力を随分と使ってた…だろ?」

「…それがどうした?」

「お前は…もっと魔法を連発できたはずだし、スキルだって…使えたはずだ…ゲホッ! ……その状態であり…ながら、俺を倒した。…完敗だ」


 奴が大きく息を吐き、この戦いの勝敗を結論付けた。

 言っていることは確かにそうなのかもしれないが…


 そんなのはハンデでも何でもない。アイツらの命を守ることは…俺の役目だからな…。

 第一家族の身を案じないでいてたまるかっての。あれも含めて俺の一部であり実力みたいなもんだ。ハンデじゃない。


「…超級魔法も、使えたはずなんだろ? それと…『同調暴走(シンクロバースト)』も」

「………知ってたのか?」


 気づいてたのか…。

 だったら、ちっとは遠慮して欲しかったんだがな…。今の状態でそれ使ったら…間違いなく俺は敵なしに決まってるし。


「やっぱりか。…見て見たかったんだけどな。残念…だ。……お前の勝ちだ。さっさと殺れよ」


 諦めたように、納得したかのように、奴は目を閉じてそう催促してくる。

 …が、今はもう殺す気はない。


「…お前には聞きたいことがあるからんなことしねぇよ。…それに、俺は人を殺したくない」


 奴が連中の仲間なら、なるべく情報を色々と聞きだしたいところだしな…。


「…分かってるのか? 止めを刺さなきゃ…そこに、付け込まれるぞ?」


 俺の言葉に、まるで忠告のように言い返してくる。


「俺達を襲ってきておいて変な事を聞くんだな。…十分分かってるさ。でも…それでも俺は…できるならしたくない。さっきは殺そうと本気で思ったけど…」


 奴の言うことはごもっともだ。俺も頭で十分理解している。

 だが、奴のことで俺には少し気になることが戦闘前と戦闘中に見つかったため、そんな心配はないのではと考えている。


 殺す意思を示さない俺を不思議に思ったのか、奴が嘲笑する。


「…変わった奴だな。自分を殺しに来た奴なのに殺さないとか…バカじゃねぇのか? …もしかしたら俺も更に力をつけて、お前に…復讐しにいくかも…しれねぇぞ?」

「そうさせないように、拘束する。仮に逃げられたとしても、その時はまた俺がお前の相手をするだけだ」

「それだけじゃない。お前の周囲にいる人間に…手を出すかもしれねぇぞ?」


 やっぱり…コイツは俺に忠告しているかのように話してくる。


 でもお前は…そんなことはしないんじゃないか?

 だから俺は…


「それも全力で止めてみせる。…でも、セシルさんがお前には悪意がないって言ってたんだ。それに、直に戦ってやっと分かったよ。お前…本当に純粋に戦いたいだけだったんだろ?」


 戦闘中のコイツの顔を思い出す。


 最初から最後まで、心底楽しそうに笑ってやがった。そして今も。

 悪意は二の次にしても、戦いたかったということは確かだろう。


「…セシル…? …あぁ、アイツか。やっぱそうかよ…」


 奴はセシルさんのことを思い出しているのか、考え事をしながらそう呟く。


「だから、俺は…お前を信じたくはないが…信じるよ」

「え…ちょっとご主人!?」


 ナナが驚き声を上げているが、俺の意思はそうなんだ。

 奴に悪意はない。ただの…戦いが狂ったように好きな奴、それだけだ。


「…プッ! クハハハハハッ! …信じたくはないのに信じる? 何を言ってんだお前は!」


 奴が大声で笑っているが、俺の意思は変わらない。

 俺の言っていることは確かに変だ。でも…


「変な事を言ってるのは分かってるよ。ただ、俺は自分を信じてくれた仲間の言葉を…信じる。そっちを考慮しただけだ」


 あの時のセシルさんの顔は、嘘をついていたようにはとても見えない。今思えば俺に確認するかのように伝えてくれていたとさえ感じる。

 それ以前に、あの場でわざわざ嘘をつく理由も考えられないしな。


「クククッ! 仲間を信じるのか? 裏切られるかもしれねぇぞ?」


 俺の言ったことが馬鹿馬鹿しいとでも思ったのか、奴が不吉なことを口走る。


 だが、それが何だっていうんだ。


「仲間だから、信じられる。そんなことはないって…。こんなどうしようもない俺を信じてくれているんだから、当然だ」

「………」


 俺よりも先に、皆は俺を信じて秘密を明かしてくれた。

 内容の差で言えば俺の方が秘匿の重要性は高かったとは思うが、問題はそこではなく秘密を明かしたかどうかだ。


 自分から他人に秘密を打ち明ける。俺だったら出来ないことを…皆はしてくれたんだ。なら、俺が皆を信じるのには十分すぎる。


 俺がまっすぐに奴の目を見て、感じていることをそのまま伝えると…


「…んだよ。ブレッブレの芯でもしてんのかと思ったら、中々いいもん…持ってんのかよ。いや、だからこそお前に、ついてきてんのか…」


 奴は…そう評した。

 そして…


「…器も申し分ねぇ、強さもパネェ、加えて変な奴。しかも俺と一緒で…人殺しをしない精神の持ち主と来たかよ…」

「…は?」


 今、コイツは何て言った?

 人殺しをしない…だと? あんだけやっといて…。


「何様だよっ!? そっちから仕掛けてきておいて! ふざけたこと言わないで!」


 ナナは今の奴の発言を聞いて激怒している。

 奴の言ったことが信じられないのだろう。…まぁ当然っちゃ当然だが。


 そんなナナのことは意に介さず、奴は俺に向かって話を続けた。


「………なぁ…お前さ、今から俺の言うこと…聞いてくれねぇか?」

「…なん…だ…?」


 ヤベ…もう限界だわ。眠すぎる。


 俺は奴の声をうつらうつらになりながら聞く。


「俺……お前側に付いてもいいか? そっちの方が、面白そうだ」




 そこで…俺の意識は闇に落ちた。

 次目覚めるその時までの間、ここからの記憶は俺にはなかった。

次回更新は水曜です。

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