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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
137/531

135話 激闘の末に…

 ◇◇◇




 一方その頃…


「あそこで何が起こってるんだ…!?」


 グランドル西門の見張り台。そこで警備に当たっていた2人と、普段は聞きなれない音を聞きつけた多数の兵士が、目の前に見える景色を見ては呆然としている。


 門から随分と離れた場所。そこで常に巻き起こる砂塵の嵐と、天を貫く爆炎。次いで巨大な氷山の出現と、大地を揺らす地震。更には空から飛来した強烈な光等々。

 天変地異と錯覚するほどの光景を目の当たりにし、兵士たちは皆呆然としていた。


「うおっ!?」

「くっ!?」


 その者達の体に、小さな衝撃が入る。

 見張り台に立っていた2人は突然のことにバランスを崩すが、なんとか落ちずに踏みとどまる。

 ただ、怪我などはないようだ。軽くどつかれる程度のものであったためであろう。


「何だ…? 今衝撃が…」

「…大丈夫か?」


 見張り台の下に立っていた他の兵士も同様なのか、今の出来事に驚き、首を傾げている。

 司が放った『アトモスブラスト』の余波が、非常に弱まっているがここまで届いたようだった。が、当然そんなことは彼らは知る由もない。目には見えないのだから。


「まさか…あそこの余波がここまで届いてるのか…?」

「なんて戦闘だ…! オイ! ギルドに報告しろ! 西の草原遠方にて大規模な戦闘あり、情報求む! 人員の派遣を要請すると!」

「りょ、了解ですっ!」


 以前この町を襲った災厄と同じくらい不安な気持ちで、この場では一番の上司らしき兵士が、末端の者へと命令した。

 それを聞いた末端の兵士は、急いで駆け出し、梯子を下りて下へと降りていった。


「まさか…!? でも、それ以外考えられない…!」


 皆がその光景を見守っている中、見張りの2人は、目の前の光景に心当たりがあり、先ほど見た人物を思い浮かべる。

 それは、先ほど門を飛び越えていった2人の男である。この者らを、兵士たちの多くが目撃していた。

 そして2人の男は、今まさに目の前で見ている光景の方向へと駆けていくのを見ていたため、この場の全員が彼らが原因ではと密かに考えていた。

 しかもその内の1人が、この町にいる者ならば必ずと言っていい程に知っている、この町で英雄と呼ばれている司だったことも分かっていた。


 飛び越えてきた時に声を掛けようとしたが、あまりの移動速度に間に合わず、見送ることしかできなかったのだ。




 司の強さは先の災厄で十分に知っている。

 だが、その司と渡り合っているであろうもう1人の若者は何者なのか? それを知る者は…この場には誰もいなかった。




 ◇◇◇




 もう一方、ギルドでは…


「も、もう大丈夫、です」

「そうか。無理はするなよ?」

「はい…」


 アンリはアルガントとセシルに支えられていたが、ようやく体の自由が利き始めたようで、一人で立った。


 司達がギルドを出てから20分程。

 ギルドにいた者達がアンリ同様に正常に戻り、先ほどのことについて遅れてざわつき始める。


「まだ震えが止まらねぇよ…何だアイツ…」


 この場にいた者全員が感じたあの若者に対しての恐怖。その感想を代表するかのように、一人の冒険者が呟いた。

 そしてそれを切っ掛けに、次々と各々が言葉を漏らしては、事態の把握を始めるのだった。


「アイツ何者なんだ? 冒険者じゃねぇみたいだったけど…」

「俺は知らねぇな」

「私も」


 先程の若者が誰なのかを探るも、それを知る者はいない。


「てかさぁ、アイツ…異世界人とか言ってなかったか?」

「それは俺も聞いた。何かツカサに向かって言ってた気がする」

「…っ!」


 あの場にいた者は、司達のやり取りを全て聞いていた。

 それもそのはず、司はこの町では有名人みたいなものである。その司にズカズカと横暴に近づき、用件を直接ぶちまけるような者が気にならないわけがなかったためだ。

 加えて異世界人という、通常であれば聞くことはないであろう言葉。印象深いその言葉が頭に刻み込まれるのは不思議ではない。


 セシルは、司が異世界人だということを周りに秘密にしているのを知っていたため、今後のことについて不安な気持ちを覚えた。

 その心境は、司は大丈夫だろうか? 変わってしまわないか? 等々。その類の気持ちだろう。




 そこに、バタンッ! と、乱暴にギルドのドアが開かれた。

 その音にギルド内にいた者全てが注目すると、ドアを開けた兵士らしき人物が肩を上下させて膝に手をついていた。

 息も絶え絶えな兵士だが、酷く焦った顔で…あることを告げた。


「で、伝令です! 西の草原にて…大規模な戦闘が行われている模様です!」

「何だと!? 詳細は!?」


 その必死の形相にアルガントがいち早く反応し、事の詳細を求めるが…


「ふ、不明です! 確認しようにも、戦闘が余りにも凄まじく、門にすら余波が届くほどのため、近づくに近づけません!」


 兵士は、状況をなるべく詳しく説明しようと言葉を続ける。


「ただ、戦闘の前に外壁を飛び越えて行った若者が2人いました。一人は見慣れぬ顔と風貌でしたが、もう一人は…『神鳥使い』でした!」

「あ奴が!?」

「先生…!」

「去っていった方角にて戦闘が起こったことから、彼らが戦闘を始めたものだと推測できますが…まだ確証はありません。よって、現地に人員の派遣を要請します!」


 兵士は、上司に命令された内容と、状況の前後で察することのできる全てを伝えた。


「そうか…。ならばわた「オイ! 西の空が赤く…って、何してんだお前ら…?」


 パタンと自然に閉まったドアが、再度勢いよく開けられた。


「シュトルム!? 丁度いいところに…!」


 アルガントの声を遮って現れたのは、慌てた顔をしたシュトルムだった。

 その様子から、シュトルムもまた異変を感じたであろうことはすぐに分かった。

 セシルはそれを見て、司が連絡するように言っていたことを思い出し、丁度良いと思ったのだろう。


「それ多分、ツカサが戦ってるからだよ。さっきギルドで………」


 セシルは、簡単に分かることをまとめてシュトルムに伝えたのだった。




「マジかよ…! セシル嬢ちゃん! なら早く行くぞ!」

「う、うん!」


 一通り話を聞いたシュトルムは目つきを変え、すぐさま行動に出る。

 セシルと共にギルドを飛び出そうとするが…


「ぬっ、待てっ!? 何処に行く!?」


 アルガントに呼び止められるも、その声を聞かずに2人は出ていってしまう。


「ちぃっ! マッチよ! この場は任せた!」

「えっ、ちょっと!?」


 マッチの声も聞かず、アルガントはこの場の取りまとめをマッチに任せ、自らも後を追いかけて出ていった。

 マッチはというと急な頼みに驚いているようであった。  


「先生………っ!!」


 アンリもまた、司の身を案じてギルドを飛び出して行った。

 以前、学院で司が災厄の収束に向かった時、その時の心境が思い返され、心は不安な気持ちで一杯なのだろう。きっとまたこの前みたく無事でいてくれるという気持ちは確かに強いが、それと同じくらい、不安もあるに違いない。




 だが、ギルドを出たアンリはすぐに掛けていた足を止めることとなる。


「何…あれ…?」


 西の草原の方の空を見て、アンリは呟いた。

 辺りを見回せば、アンリと同じように異変に気付いた者らも、アンリと同じように西の空を見上げる。




 その視線の先には、白く輝く光が、青いはずの空を埋め尽くしていたのだった。




 ◇◇◇




 白の世界から、元の世界へと景色が変わっていく。


 辺り一帯を覆いつくした白い輝きだが、俺が込める魔力を弱めると、次第にその輝きを失っていった。

 それに呼応するかのように、同時に奴を閉じ込めていた結界も消失し、そこには結界を発動させる前の光景と…倒れた奴の姿があった。


「ハァッ…! ハァッ……っ! ゲホッゲホッ! …ぐふ…!」


『ラストディザスター』を奴に確実に当てることができたことを確認した俺は安堵し、止まっていた呼吸を再開させるが、それと同時に血反吐が口から止めどなく溢れだして呼吸をするのが困難になったことで、膝をついて地面に倒れる。


 苦しい…! もう…これ以上は何も…!


 体中に走る激痛は許容限界を超えているのか、痛みの大小など分からない。

 ただ苦しい。それだけだ。


「ご主人!!! しっかりしてくださいっ!!!」

「うわあああああんっ!!!」


 そんな俺を見たであろう2匹が、近づいてくる気配がした。


 ハハ…お前らのそんな慌てた声…初めて聞いたな。


 ポポに抱きかかえられ、俺も心配だったことを2匹に聞いた。


「…お、おまえ…ら。へい…き、か…?」


 あれだけの戦闘だったんだ…。お前らがいるのは分かってたけど、遠慮せずに色々やっちまった…。


「私たちの心配より自分の心配してよぉっ!! 早く手当てしないと死んじゃう!!」

「ナナ! 取りあえず腹を止血して!!! ご主人…回復薬出せますか!?」


 ナナの悲鳴と泣きじゃくりが混じった声を聞きながら、ポポの言う無茶をしようと…『アイテムボックス』を発動させる。

 震える手で該当するものを探り当てるが…上手く掴むことができず、亀裂からボトリと回復薬が地面に落ちた。


「! ナナ、準備を…! 飲めますか!?」

「うっ!? ガハッ!? ハァッ…ハァッ…!」


 ポポが言ったところで、再度血がこみ上げてきて血を吐いた。


 とても飲めそうにない…。


「ど、どうしよう!?」

「ナナ! 取りあえずナイフの所と肩の所にかけて! 少しでも傷を塞ぐんです!」

「う、うん!!」


 ポポの言う通りに、ナナが傷に回復薬をかける。

 すると、完治には程遠いが、若干傷が塞がったのか流れる血の量が減った感じがする。体もほんの僅かにだが楽になった気がしないでもない。


「怪我がひどすぎる…! 手持ちの回復薬じゃこれ以上は無理です! すぐにグランドルで手当てします!」


 だが、ポポはそれを見てこれ以上の回復は見込めないと判断したのだろう。早急にグランドルに戻り、治療を施すべきと考えて移動を始めようとするが…


「待て待て! それじゃあ手遅れになるぞ! コイツを使え!」

「「っ!? 誰だ!?」」


 聞きなれない声と共に、こちらに青い液体の入った瓶を投げてくる人物がいた。

 ナナがその瓶を受け取りながら、すぐさまその人物に対して迎撃態勢をとるが…


「早くしろ! そいつは最上級薬だ! 早く無理矢理でもいいから飲ませてやれ!」

「っ!? 本当!?」

「信じてくれ! 俺はカイル。…Aランクの冒険者だ! いきなりここらで戦闘が始まったから、気になって見に来たんだよ!」

「カイル…? あっ!?」


 カイルと言う名前に聞き覚えのあった俺だが、それはポポも同じだったらしい。

 そして、少し逡巡した後に、ハッと…何かを思い出した様子だった。


 以前聞いたことのあったグランドルのAランク冒険者。遠方の地に出払っていて、まだ一度も見たことのなかった人物。

 俺はギルドマスターから、その人の名前を聞いたことがあった。

 その人の名は…カイル。そう言っていたと思う。


 戻って来たのか…? 


 それがどうなのかは分からないが、もしそうならば、その人の言っていることは信用してもいいのかもしれない。


 ここで彼が真実を言っているかは分からないが、逆もまた然り。瀕死の状態の俺を見て毒物で追い打ちを掛けるとも考えにくい。


 打つ手のない状況でポポは…


「っ~~! その言葉信じます! ナナ! 無理矢理飲ませてください!」

「…分かった!」

「んぐっ!? っ~~~!!!」


 俺が思ったように、ポポも彼を信じることにしたようだ。

 呼吸をするのも困難な俺に、ナナが瓶を俺の口に押し付けてくる。

 息が出来ないことに更に苦しさを感じるが、俺の口に流れてくる薬は止めどなく口内を通り、食堂を流れて体の中へと入っていくのを感じた。


 最初は息苦しさで死ぬと思ったが…


「~~…っ!? つつ…っ! …随分、楽になった…?」


 肩の傷は塞がり、全身に走っていた痛みはナイフが刺さっている部分を除いて楽になった。


「ご主人!?」

「もう平気!? 平気なの!?」

「あ、ああ…さっきよりも随分とな…」

「よがっだあああああっ!! ごしゅじぃんんんっ!!」

「ぐっ!? あだだだだっ!? ナナ、ちょっと離れて! まだナイフが…!」


 そんな状態の俺に、ナナが号泣しながら抱き着いて…いや、抱きしめてくる。

 全身を締め付けられ、腹に刺さったままのナイフがぐりぐりと当たる。


 痛い痛い! まだナイフ刺さったまんまなんだぞ俺は…! 離れてくれ!


「ナナ! ちょっと離れてください!」

「あ…ゴベンごしゅじん…」


 鼻水を垂らしながら抱き着いていたナナだが、俺とポポの言葉を聞いて俺から離れてくれた。


 …助かった。まだ重症だが…さっきと比べたら雲泥の差だ。

 動こうと思えばなんとか動けるし。


「…心配掛けたな。助かったよ…ありがとな」

「いえ、ご主人が無事ならそれで…!」

「しんばいしだんだがらね!!」

「スマン…」


 ポポとナナを見て、申し訳なさがこみ上げて来た。

 これじゃあ主人失格だな…。情けない。


「…あの、助けていただいてありがとうございました。何てお礼を言ったらいいか…」


 まだポポに抱き起こされたままだが、そのままの姿勢で恩人にお礼を言った。


「おう! 無事で何よりだ」


 俺を助けてくれた人…恐らくカイルさん。

 見た所年若い男性のその人は、二カッと明るい笑みを見せたのだった。

次回更新は月曜です。

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