133話 VS『闘神』②
「『散れ』!」
奴の出現させた武器は、奴の声を合図に一斉に周囲に散らばっていく。
そして今度は奴を取り囲むのではなく、奴と俺を取り囲むようにそれは展開した。まるでとぐろを巻くように…。
言うなれば多対一の状況に、俺は陥っていた。
「さて…こっからが本当の戦いの始まりだぜ?」
「ああ…そうみたいだな」
お互いに沈黙し、少しの間膠着状態が続く。
それを破ったのは…俺だった。
「『千薙』!!」
今まで抑えていた時とは違う、全力の『千薙』を、早撃ちの如く放った。
『千薙』の斬撃は、元の速度と比例した速度で飛んでいく。
音速を越えた斬撃の嵐が、奴に迫っていくが…
「『守れ』!」
奴の一言で、10を超える盾達が奴の前に集まり、壁の役割を果たして防がれる。
いくら『千薙』だからとはいえ、それを難なく防ぎきるあの盾は…やはり最高クラスの素材でできているようだ。
なるべく早めに破壊したいとこだな…。
「ちっ、やっぱ駄目か」
「『千薙』でこの威力…流石だな。だけどよ…こんなちゃっちいので俺を倒せるとでも思ってんのかぁ? てめぇえよぉっ!」
奴が俺に向かって手を振るうと、今度は先ほどの極細の青白い槍が俺の前に出現したので、それを高速で移動することで回避する。
しかし、今度は追尾性能が加わっているようで、逃げても逃げても後を追ってついてくる。
「俺も忘れてんじゃねぇぞ?」
追われて逃げる俺だったが、手には青白い剣を持って奴もまた俺に近づいてくる。
面倒な…! まとめて吹き飛べ!
「『アトモスブラスト』!」
「ちっ!? 詠唱無しでこの威力か…! ウゼェな!」
全身を揺さぶり、体の隅々に強烈な殴打を加えるような衝撃波を、俺を中心に展開させる。
極細の槍はそれを受けて吹き飛ばされ、奴にも至近距離で衝撃波を食らわせたことで、多少のダメージを与えることに成功したようだが、あまり期待は出来ない程度のようだった。
奴を見ればピンピンしている。
だが、アイツの防御力は相当なものだということだけは分かったから良しとしよう。
さっきまで随分とやってくれたからな。今度は俺のターンだ!
「『インフェルノ』!」
「!?」
俺が発動した魔法に奴が引っかかる。
よし、食らったな! このまま…
「『バリアドーム』」
奴の足元から灼熱の火炎を天に向かって発生させ、奴を中に閉じ込めた後、地面を盛り上がらせてその炎を包囲、そのまま重ねるように炎を包んで二重に閉じ込めて蒸し焼きにする。
チャンスだ。
「消し飛べっ!『龍の脚撃!!!」
この前空間に閉じ込められた時と違って、今回は真正面にある土のドームを消し飛ばすイメージで放つ。
山のようにそびえ立っているが、『龍の脚撃』はそんなものはお構いなしというかのように、容易く消し飛ばした。
そしてそのまま前方遥か彼方に突き進んでいくかと思ったのだが…
「…マジかよ」
渾身の『龍の脚撃は、奴に当たる寸でのところで、青白いオーラに遮られて受け止められていた。
今度は武器でも何でもなく、体から滲みでるようなオーラを手に集めては、それを圧縮してぶつけるようにして堪えている。
空気が振動する音が、まるで龍の怒りのように聞こえ、それを生身一つで受け止める奴もまた、龍の怒りに近い何かを持った存在なのだと知らしめさせているかのようだった。
「ぐっ…! うおおぉぉぉっ!!」
奴が地面にしっかりと踏み込んだ足が大地を割り始め、ゴゴゴと音を上げてめくれ上がり始める。
これでも駄目なのか…。
あのオーラは何なんだよ。ったく…!
だが、今の奴は防ぐことに手いっぱいで無防備だ。
だったら踏み込んでいる足元を崩せばいい。
「『マッド』」
「嘘だろ!?」
嘘じゃねぇやい!
奴の足元を泥に変え、踏み込みをできなくする。
まともに食らえや!
しかし、俺がやった! と歓喜しようとしたが、奴はそれすら上回る機転を見せた。
「ふぬっ!」
足場を咄嗟に青白いオーラにすることで、再び踏みとどまったのだ。
…。
それを見た俺は、奴の背後に『転移』で移動。いい加減にしろと言った具合に、奴を後ろから挟み撃ちにすることにした。
…のだが。
「! お前が食らえや!」
「うぇっ!?」
俺が剣を振りかざそうとした瞬間に、『龍の脚撃』を受け止めるのをやめたのだ。
この行動は予想外だったため、俺はすぐにまた『転移』で自ら放った『龍の脚撃』を避ける。
遠くへと飛んでいく『龍の脚撃』を見て、奴がどうなったかを確認しようとするが…奴がどこにも見当たらない。
消し飛んだのかと思っていると…
「ふぅー! 死ぬかと思ったぜ。今のが『虚』の『虚構迷宮』を破壊した技か?」
奴は…健在だった。何食わぬ顔で、俺の後方に立っていた。
振り向いて確認するが、体中のあちこちに傷は出来ているも、有効打は一向に与えられない様子だった。
しつこい奴だなと思っていると…
「っ!? なっ!? ~っ!?」
突然、周囲に散らばっていた奴の武器達が一斉に俺を襲ってきて、余りの数に俺の頬を一つのナイフが掠めた。
何でだ!? アイツは青白いの以外は言葉で操ると思っていたのに…!
一連の行動パターンを確認していて特徴を把握していたつもりだったため、予想をはずれた事態に戸惑う。
「驚いてんな。俺がこの武器を命令でしか動かせないと思ってたんだろ?」
俺の考えを読んだように話してくる奴。
だが、その通りだった。
なぜなら、こんなあり得ない数の武器達を、全て自由自在に操れるわけがない。ポポでさえ、『皇帝』の羽兵を完全には操れなくて、命令を下すことでようやく動かすことができているというのに。
だがコイツのやっていることは、完全に違う。今は全く命令をしていない。
にも関わらず、今もなお続く武器達の多彩な連携攻撃…まるで明確な命令を忠実に遂行しているかのようだ。
「分かるぜ? 今のお前の気持ちは。こんな大量の武器を完全に何故操れる…とか思ってんだろ?」
その通りだよ…!
逃げまどいながら、奴に対して愚痴る。
「その考えは正しい。それは間違いねぇさ。…だが、俺はそれを可能にできるからな」
ニヤリと、不敵に笑う。
「…まさか…別のスキルか…!」
「ああ、その通りだ。【自動強襲】。今お前に見えてる全ての武器は…俺の意思とは別にお前を勝手に襲い、俺を守る。【刃器一体】と相性抜群なんだよ」
最悪の組み合わせだ…! 本当に多対一になってやがる!
なら動かれる前に…動きを止める!
「ちっ! 『ミストガーデン』、『ブリザードストーム』!」
「っ! なんだ?」
俺は周囲一帯に霧を発生させて、この辺りの湿度を急上昇させる。さらに、湿度の高まったこの一帯の気温を吹雪でさらに下げ…
「『アスタリスク』!!!」
高さ30mは越えるであろう氷の結晶。巨大なアスタリスクの形をした氷の結晶を一瞬で作り出し、奴と一部の武器を巻き込むことに成功する。
しかし、一瞬、氷像にすることができたと思ったのも束の間…
バキンッ!
…目の前の氷から、そんな音が響いた。
「……駄目か」
音はそこからさらにバキバキと音を変え、氷像に次々亀裂が入っていく。氷が割れて地面に落下し、大きな砂塵を巻き起こす。
その砂塵と冷気の入り交じる中でこちらを見る奴は…
「……ふぅ、涼しいなァ?」
軽い口調でそう言った。
…魔法への耐性も相当なもんだなお前…。ふざけんな。
想像以上にヤバいんだが…どうしよ?
「こっからは第二ステージ。まだまだ満足させてくれよ? なぁ?」
次回更新は木曜です。




