132話 VS『闘神』①
緑が生い茂っていた草原は、たった1回の剣のぶつかり合いで生じた衝撃で、跡形もなく荒地へと変わってしまった。
俺達を中心に衝撃は広がり、ある一定のラインまでが土の色へと変化した。
そんなことを悲観することも忘れ、俺は今奴と鍔迫り合いを続ける。
「…いいな。俺の初撃を耐えられるたぁ大した奴だ」
「そりゃどうも…フッ!」
「おおっ? …押し負けたか」
鍔迫り合いの状態をずっと維持する理由もなく、俺は奴をそのまま押し切って吹き飛ばす。
しかし、空中で体勢を整えた奴は綺麗に着地し、特に体に怪我もなくそのまま距離を取った。
そしてニヤリと笑みを浮かべては、信じられない速度で突っ込んでくる。
「オラオラァッ!」
「………」
奴の繰り出す左右からの連撃を、目でしっかりと見極めて剣で受けるか躱すかを判断。力任せに振られているであろうその剣筋は、速度ではヒナギさんに遥かに勝ってはいても、技術では劣っていると感じる余裕が、俺にはあった。
そのため、決して油断は出来ないはずだったが、当たる気など全くしなかった。
…ココ!
「ぬっ!?」
奴の両方の剣が俺を挟むように迫って来たのを見逃さず、その剣筋の先に小型の『障壁』を2つ発動する。
そして無防備となった奴の体に、一閃を放った。
「…?」
が、どうもおかしな違和感が手に伝わってくる。
一閃は綺麗に決まったような軌道で、確かな手ごたえを感じはした。だが、何かに防がれたような感触だったのだ。
「あっぶね~。そういやお前無詠唱ができるんだったな…」
奴が、今まで忘れていたことのように呟く。
おかしな違和感を説明するものが…奴の体の前にあった。
それは…盾だった。盾が奴の目の前に現れ、俺の攻撃を防いだようだ。その証拠に、盾には一筋の剣の跡が確認できた。
一体どこから出したんだ? 両手にはまだあの変な剣を持っているし、仮に無詠唱で『アイテムボックス』が使えたとしても…出現させる余裕なんてなかったはず…。
てか、ドラゴンの素材で作った剣で斬りつけて壊れないのも驚きなんだが…。
奴の目の前にある盾がどのようにして突然現れたのか。そのメカニズムが分からなかった。
すると…
「…なんだ? 攻撃が防がれたのがそんなに不思議か? だったら悪いな、俺ぁ腐るほど武器を持ってんだよ」
「なに?」
「…初撃を耐えてくれたから少し舞い上がっちまってたみてぇだ」
そう言いながら、攻撃を再度仕掛けてくる。
ずっと奴に先制を取られてばかりではいられないので、俺も『ランス』系統の魔法を数発発動。奴の真正面から串刺しにしようとしてみるが…
「『守れ』」
奴がそう呟くと、元々出現していた盾に加え、新たに3つの盾が出現し、『ランス』をそれぞれが防いだ。
防がれた『ランス』の隙間を掻い潜り、奴が斬り込んでくるのかと思ったところで、奴が持っていた剣を繋ぎ合わせて結合。剣ではなく槍へと変化させて突きを放ってきた。
「くっ!?」
上体を横に捻じることでそれをギリギリ回避し、反撃しようと試みるも、奴の攻撃は更に苛烈さを増した。
突いた槍をまた剣へと変形させ、躱した姿勢の俺の脇腹を抉る様に剣を振るってきたので、俺はそれを不安定ながら持っていた剣で受け止める。
そこに、奴のもう一方の手に持っていた剣が、がら空きとなった俺の反対側から迫ってきていたが、これは即座に大きめの『障壁』で防いだ。
だが、これでも奴の攻撃は終わらない。
自由の利かなくなった剣を、奴は一旦剣を消し、再度自分の手に出現させることで振り出しに強制的に戻した。
そのまま、至近距離からサマーソルトのように回転しながら、俺を攻撃しつつ宙へと跳ね上がり…
「ほらよっ!」
「このっ!」
持っていた武器をこちらに投合してくる。
それを、俺は力任せに剣で吹き飛ばすように弾くが…
「甘ぇな! 貫け!」
弾いた直後、既に地面に着地していた奴は両手を眼前でクロスさせる。すると、弾いた奴の武器が空中から消えてなくなったかと思えば、突如として俺のすぐ目の前から幾重にも枝分かれさせた青白いレーザーが出現。俺を襲った。
「ヤッベ!?」
急すぎたため横に転がりこむことでそれを躱すと、俺を貫けなかったレーザーはドスドスっと音を立てて地面に突き刺さった。
「ヒュウ♪ 本気で狙っても躱されんのか…やっぱお前すげぇわ」
奴が、俺が攻撃を全て回避したことに称賛を送ってくるが、俺はそれどころではなかった。
横を向いて、先ほどのレーザーが残っていたので見てみる。
レーザーはよく見ればレーザーではなく、極細の槍だったようだ。
色は青白いことから…さっきの槍を分割したものと推測できるな…。
クソッ! 変幻自在すぎる! このステータスがなかったら反応できなかった!
奴のあの武器は何なんだ? 今のところ剣と槍の形態を確認したが、まだ他にもあるのか?
俺の予想ではあの青白い武器は全て同一のものだと見ている。なぜなら、武器の色が全て一緒だからだ。
ただ、それだとあの盾の正体がよく分からない…。あれは青白くなくて頑丈なただの盾にしか見えないし…ああもう! 分っかんねぇなぁったく!
しかもあの武器、手元になかろうがどこからでも出すことができるみたいだ。さっきも飛ばした奴の武器が消えて瞬時に俺の眼前から出てきたし、間違いないだろうな…。
常に狙われていると考えた方がいい。
コイツ…凄まじいな…。
とにかく! 厄介な相手だ。手数が非常に多いし、威力もまともに食らったらただじゃ済まなさそうだ。早さもアホみてぇに早い。防御は…まだ分からん。
これが現時点で判断できる奴のステータスだ。
戦闘スタイルは我流っぽいため何をしてくるかが予測できない。魔法はまだ使えるか不明…っと。
マジもんの化物だ…。ポポとナナだったら既に死んでる。絶対に勝てないな…これは。
戦わせなくて正解だったみたいだ。
「…お前、まだまだこんなもんじゃねぇんだろ? さっさと本気で来いよ。…俺も本気で行かせてもらうからよぉっ!!!」
俺に満足できていないのか、奴が大声で叫んでくる。
そしていつの間にか両方の手に持っていた武器を何処かへと消すと、次の瞬間…
「なっ!?」
奴を覆い尽くすように、おびただしい数の武器が突然出現した。
剣、槍、斧、盾、槌、鎖、鞭、鎌、ナイフ等々。
それぞれが誰の手を借りるでもなく宙に浮かび、統率の取れたような並びをしている。
「【刃器一体】! 武器と俺は一心同体だ! あらゆる武器を俺ぁ操れる!」
「なんだその反則なスキルは…」
奴の持つスキルに対し、自分も人のことを言えないがそう吐露した。
「『闘神』の力…とことん味わえや! 『神鳥使い』!」
「………!」
戦いは、ここからさらに苛烈さを増していった。
本日あと1話投稿します。




