131話 絶対強者
グランドルの町中を、民家や建物の屋根を足場にして移動する。
まだ誰の目から見ても視認できるくらいの速度のため、俺達の姿は多くの人に見られてしまっているようだ。下を見れば、町を出歩く人が何人もこちらを見ては指を指している。
だが、今はそんなことはどうでもいい。目の前の奴についていくことだけを考えなくては…。
もちろん、向かった先に罠や伏兵が準備されているかもしれないという可能性はある。
それでも、どのみちそうだったとしても、俺は行かなくてはいけない。この町の人には迷惑は掛けられないし、俺だって連中のことを知るためには行動を起こさなくてはいけないから。
コイツは…俺以外には本当に興味がないようだ。
他の人なんて眼中にない。俺と戦うためにきたというのは本当と見ていいかもしれない。
移動しながら現時点での奴に対しての考察をしていくと、いつの間にか門のすぐそばまでやってきていた。
今まで単調に屋根を飛んでいくということしかしていなかったが、そこで奴が非常に大きく跳躍し、門を越えて草原の方へと出て行ってしまった。
それを見た俺も、奴についていくために大きく跳躍して、門の外へと飛び出した。
「こっちだこっち」
飛び出して着地すると、すぐに奴が草原に向かって勢いよく走り出しては、後ろを振り向いて俺に声を掛ける。
俺達も黙って、その後を追っていった。
それから…10分ほどしたころだろうか?
十分にグランドルの町から離れ、周りには民家も人の気もないようなところまで来たところで、奴が足を止めた。
「さて、ここらへんだったら問題ないだろ? 昨日下見しておいたんだよ。周りにゃなんもねぇし存分にやれるぜ」
「…みたいだな」
辺りを見回してみれば、確かに何もない。奴の言う通りだった。
しかも、ここらへんは…俺にとっては印象強い場所の近くでもある。
未来の俺と会った場所も…この辺りだった。
少しそんなことを思いながら、何か罠や他に気配がないかを探ってみる。…が、特にそんな様子は見られなかった。
「何もないね」
「…みたいだな」
ナナも確認していたようだが、異変は感じられなかったようだ。
警戒心を少し下げ、目の前の奴にその分意識を割いた。
「オイオイ、だから別に何もないって言ってんだろうが。俺は正々堂々と強敵と戦いてぇんだぞ? そんな下らない真似はしねぇよ」
「その言葉を鵜呑みにしろってか? そりゃ難しいな」
言葉ならなんとでも言える。初対面の人間なら尚更だ。
「…ちっ、まぁしゃーねぇか。…で、準備はいいか? さっさと戦りてぇんだが」
俺の態度は仕方ないことと割り切ったのか、奴が戦闘開始を催促してくる。
「…ポポ、ナナ、巨大化しろ」
「合点」
「了解です」
それを聞いた俺はポポとナナに巨大化するように伝える。
どちらもすぐに反応し、俺の肩から離れて最大サイズへと変化した。
「…『才能暴走』」
俺が発動すると、何度となく見た神々しい姿へと早変わりし、先ほどまで纏っていた雰囲気…オーラが変わった。
「ほぉ…それが報告にあったやつか。お前らと戦るのも面白そうだなぁ。…ま、それよりも面白そうな奴が目の前にいるわけだが…少し残念だな」
2匹を見て一瞬視線が2匹に移った気がするが…それもすぐに終わり、俺の方へと視線を戻してくる。
やっぱり、相当強ぇなコイツ…。
コイツらのこの姿を見て眼中にない反応するとか…。コイツらは戦わせらんないな。
「…眼中にないって意味? それ…」
「そう言ってんだが?」
「…それは大した自信ですね」
ナナ達はそれをまるで相手にされてないように感じたらしい。そして奴もまた、それを肯定と挑発の両方とも言える言葉で返す。
それを聞いたポポが、奴に対して強がるように抗うが…俺は奴の言うことが正しいと感じていた。
だから…
「オイ。さっきの俺以外には手を出すなってのにはコイツらも入ってるぞ。手ぇ出すんじゃねぇよ」
「え?」
「ご主人!?」
「お前らは万が一に備えてろ」
そのため、戦闘には参加しないよう忠告した。
「コイツはヤバい。それはお前らにも分かってるんだろう? 下手に無理する必要なんてない…俺に任せとけって」
「で、でも!?」
「でもじゃない。これは命令だ…絶対に一緒に戦おうとか思うな。ここから離れて警戒してろ。お前らがいたんじゃ俺が全力を出せないだろうが」
「っ…!」
「……分かりました」
キツめの言葉にポポは納得したようだが、ナナは納得はできたというよりかはショックだったような反応を見せた。
なので、すかさずフォローを入れる。
「そう悲観すんなよ。別にお前らが弱いって言ってるんじゃない。…俺とコイツがおかしいだけだ。だから自分の身を守ることに集中しててくれ。んで一応周りも警戒しといてくれよ」
コイツに仮に悪意がなかったとしても、それ以外の奴らはそうとは限らない。
少なくとも、この前の2人に関しては確実に悪意があったことは明白だからな。
そっちをポポとナナには任せたい。
「…はい。了解しました。そちらはお任せください」
「…頼んだぞ」
ナナの返事がまだないので、その返事を求める。
「ナナ…そんな顔すんなって。俺はお前らの主人だぞ? 負けるわきゃねぇだろ」
「…うん、それは分かってる。分かってるけど…」
分かってるけど心配…だろ? その気持ちは俺もよく分かるから…。
でもだからこそ、信じて待っててくれよ。
「…なら、信じて待ってろ。あと多分終わったらヘトヘトだから、お前に世話になる予定だからな?」
「はぁ…ご主人らしいね。分かったよ。気を付けてね」
「あいよ。行ってくる」
茶化しを交えてみたが、ようやく納得してくれたようだ。
ナナの沈んだ表情が和らいだのを確認した俺は、奴に意識を戻し、奴に向かって歩みを進める。
「そういうわけだ、分かったか?」
「…はいよ、分かったっての。そんな怖い顔すんじゃねぇよ」
「お前には言われたくないな」
そんな不良みたいな恰好した奴に言われる筋合いはない。
俺の顔が例え怖い顔をしてたとしても、お前ほど怖かねぇよ。
「…さて、じゃあやろうぜ? 神鳥使いぃぃぃっ!!!」
「「「!?」」」
遂に戦闘が始まる。
奴が虚空から、2本の青白い剣? を出現させ、両手にそれぞれ逆手で持つ。
そして恐らく奴の全力である威圧が…俺達を襲った。
なんて威圧だ。さっきのが可愛く感じる…! 大抵の人ならこれだけで死にそうだぞ!?
コイツは…やはり格が違う! 今まで会ってきたモンスターや人、その中の誰よりも確実にヤバい!
「離れてろっ!」
ポポとナナに離れるように言い放ち、俺も負けじと全力でその威圧に魔力で対抗。『アイテムボックス』から、俺の持つ最高の武器の1つである剣を取り出し、構える。
「ハアッ!!」
「っ…!」
刹那…
俺と奴の剣が、ぶつかり合った。
次回更新は火曜です。




