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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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130話 波乱必死

 驚愕。


 俺に対しての異世界人という発言。

 何故コイツがそのことを知っているのかは分からないが、俺が警戒を最大にする理由には十分すぎた。




「異世界人…? え? 先生…?」

「っ…!」


 アンリさんが、俺と奴を交互に見ては事態を掴めていないような反応を見せる。

 だが、今この瞬間、俺が異世界人であるということはバレてしまったのは確かだ。


 余計なことを口走った目の前の男を、俺は睨みつける。


「おっと、口が滑ったか? だったら悪かったな。あと警戒しているようだが、流石にここでドンパチやろうとは思ってないぜ?」

「何騒いでるんだ?」

「来るなっ!!!」

「っ!?」


 騒ぎを聞きつけた他の冒険者が近寄ってくるが、それを大声で制止する。

 奴はああ言っているが、連中の言うことなんて信用は出来ない。


 近くにいたアンリさんは、俺の声にビクリと肩を震わせていた。


 俺の大声に、ギルドにいた人たちがざわつき始める。


 迂闊だった…。

 まさかこんなに人目のあるような場所で、真っ向から仕掛けてくるなんて…。

 それに東の時からまだ2週間くらいだ。早すぎる…。

 いや…もう2週間って考えたほうが良かったか。


「いやだから…ここじゃやらねぇって言ってるじゃん。ここじゃお前だって存分に戦えないだろ? 俺は本気のお前と戦りあいてぇんだ」


 俺が臨戦態勢に入っているのを見て、奴はやれやれとため息を吐きながら言ってくる。


「……用があるのは、俺だけか?」

「ああ。…さっさと場所を移そうぜ? それとも見せしめに誰か殺ッた方が……本気になるか?」

「「「「!?」」」」


 奴から放たれた威圧が、ギルド内に蔓延した。

 その威圧は凄まじく、一瞬で他の人らは動けなくなるほどだった。…が、奴はまだ序の口なのか…余力を見せているように見えた。


「っ!? オイッ!!」

「フッ…冗談だよ。その様子なら平気そうだな。ホラ…移動しようぜ~」


 それを見て黙っていられず、すぐさま奴にやめさせようとするが、すぐに威圧を抑えたようだ。そして奴は冗談だと言って歩き出していく。

 親指で入り口を指して俺を誘う奴だったが、その前に確認しておくことがあったので呼び止める。


「オイ」

「あん?」

「戦うのは構わない。ただ、その前に約束しろ。絶対に俺以外には手を出すな。もし手を出してみろ……死ぬまで動けない体にしてやる」


 俺もお返しで威圧の代わりに魔力を奴に向かってぶつけるが…


「…へぇ? 言うじゃんか…。これは期待以上だな」


 萎縮するでもなく、ニヤリとした顔で満足していた。

 決して手加減したわけではないが、それでも依然変わらない態度を取る奴を見て、更に警戒心が強まった。


 …相当な手練れなのは間違いない…か。チッ! 厄介な。


「アンリさん。シュトルム達にこのことを伝えて。そして絶対に来ないように言っt…!?」


 ここで戦うのはマズイ。それに関しては奴の言う通りなので、俺も奴の後に取りあえずついていくことには賛成だった。

 このことを皆に伝えるようアンリさんにお願いしようとしたが…


「…あ…うぁ…」


 アンリさんは、震えて動けずにいた。


 威圧に当てられたか…無理もない。

 気づけば、周りも似たような人ばかりだ。


 辺りを見れば、奴の威圧はもう既にないとはいえ、まともに浴びた冒険者と職員の人らがその場で微かに震えながら立ち尽くしていた。


「大丈夫…安心して。深呼吸しようか…」

「ハッ…ハッ…っ…!」


 アンリさんが苦しそうに過呼吸を繰り返す。

 威圧が原因であることは…明白だった。


「俺がいるから大丈夫。怖くないから…」

「ハッ…ハッ……は…い…!」


 震えるアンリさんを抱きしめ、頭を優しく撫でる。アンリさんもまた、か弱い手で俺をギュっと掴んでくる。


 不安と恐怖を…取り除いてあげなければいけない。慎重に…丁寧に。

 そう考え、俺は自然とその行動に移った。


 その時…


「カミシロッ!」

「っ! ギルマス!」


 俺を呼ぶ声と、その声の人物を呼ぶナナの声。

 騒ぎと…そして恐らく異変を感じたギルドマスターが、奥の部屋から飛び出してきた。


「何事だ!」

「…アンタがここのマスターか。なるほどな…そこらの奴よりもできそうだ」


 ギルドマスターを見て力量を見抜いたのか、奴がそう言った。

 少なくとも…コイツの力量はギルドマスター以上なのは確実だろう。


「何だお主は…?」

「悪ぃな騒ぎ起こしてよ…。すぐ出てくから安心しな」

「事態が掴めん。カミシロ…何がどうなっている?」


 ギルドマスターが俺を見て事態の説明を求めてくる。


 でも、ギルドマスターには悪いが、今ここで説明している暇はない。


「後で話します。…それよりも、この子をお願いできますか? …?」


 当然だがアンリさんを一緒に連れていくわけにはいかない。ギルドマスターに任せようとしがみついているアンリさんをから離れようとしたが…


「せ…ん…せぇ…!」


 ギュっと…俺を掴む手を緩めてはくれなかった。


 心配してくれてるのか…ありがとう。


「…すぐ戻るから」

「ぁ…!」


 それだけ告げて、少々強引にだが俺から引き離した。

 そしてそのままギルドマスターへと流れるようにアンリさんを任せる。


「ギルドマスター、この子をお願いします」

「…!? オイカミシロ!?」


 これでいい…と思ったところで…


「ツカサ? それに皆も…何してるの?」


 入り口の方から、ほのぼのとした声が聞こえてくる。

 今度は誰だと思ってそちらを見ると、それはセシルさんで、状況を掴めていない顔をしていた。

 でもまぁ…丁度いいとも言えなくもない。


「…セシルさん! ギルドマスターと一緒にアンリさんを頼む!」

「へ?」

「頼む」

「あ…う、うん! 取りあえず分かったけど…」


 セシルは取りあえず俺の言うことを理解したようだ。

 しかし、納得は完全にしてはいないようでもあったが。


「…ん? ……へぇ、まさかこんなところに生き残りがいるとはな…」

「あ?」


 そのやり取りが終わった所で、奴がセシルさんを見ては…そう呟く。

 俺は、早くこの場から離れなければという思いもあって焦っていたため、何を言っているか深く考える余裕はなかった。


「変わった奴が2人もか…。まぁ今は別にいいか。…で、話は済んだか? 済んだら早く行くぞ」

「…ああ」


 痺れを切らし始めた奴に催促され、返事を返す。

 歩き出した奴の後を、俺も遅れて一緒に歩き出した。


 そのまま入り口に立っていたセシルさんとすれ違って外に出ようとしたところで、セシルさんが俺を呼び止めた。


「ツカサ。何がどうしたっていうの?」


 セシルさんの言うことはごもっとも。だが今はそれどころじゃない。

 だから俺は一言だけ…


「コイツは連中の1人らしい」

「…!?」

「俺を殺しにきたんだと…」


 俺がそう短く伝えると、それだけでセシルさんも察したようだ。驚きに顔を染めた。


「え…でもそんな…。うそ…」


 が、そのこととは別のことにも驚いているように見える。

 そして、俺達にしか聞こえないくらいの声で…


「その人、悪意がほとんど感じられないんだけど…本当に敵なの!?」

「は?」

「「?」」


 そう言った。

 セシルさんの言ったことが、俺の考えとは違うことに驚く。それは2匹も同様だったようで、俺と一緒に首を傾げている。


 コイツはさっきハッキリと連中の仲間だと言い切った。そんな奴…連中のやっていることが悪意のないものだとでもいうのか?

 人の命を…魂を狙っているような奴らだぞ…。


「…やっぱそうか。アイツらの情報もまだ穴があるじゃねぇかよ。…あんだけ会議しといて笑えるな」


 セシルさんの言ったことを理解できずにいた俺を他所に、奴がまたよく分からないことを口走る。


 さっきからコイツは何を言っているんだ? 身内のこと…か?


「……ついてこい。場所はもう決めてあんだ」


 一度問いただしておこうかという考えもあったが、それよりも前にギルドのドアを開けた奴は、出てすぐに向かいの武器屋の屋根へと飛び上がって行ってしまった。

 それを見た俺も、ポポとナナと共に急いで後を追う。


「2人にも伝えといて! すぐ戻るから!」

「あっ!? ツカサ!?」


 セシルさんの声が後ろで聞こえたが、俺は自分の言いたいことだけを伝え、それは無視した。




 その時の俺は、セシルさんの言った言葉を必死に考察していたのだった。

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