128話 思い入れのあるレイピア
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「いらっs…ってなんだ、ツカサか…」
「ちょっとちょっと…お客に対してその反応は問題じゃないですか?」
「お前だし仕方ないだろう。お前は確かに常連だが…超が付くほどの厄介な常連でもあるからな」
「相変わらず手厳しいですね。まぁ気をつけますって…」
せっかくお客が来たというのに、入ってすぐにおかしな対応をされて苦笑する。
「…それで、こっちの嬢ちゃんは誰だ?」
「あー…最近冒険者になった…アンリさんです」
隣にいるアンリさんとは初対面だったようだ。ベルクさんが俺に対して尋ねてきたので、俺は簡単に紹介する。
「こんにちは」
「ほぅ? だがよぉツカサ。お前こんな雰囲気もない所をデートに選ぶとかセンスねぇな…」
「は?」
「で、デート!?」
ベルクさんの言ったことに面食らう俺とアンリさん。
いや、確かにこの状態だとそう言えなくもないけどさぁ。
「あん? 違うのか?」
「えっと…そのぅ…」
ベルクさんが聞いてくるが、アンリさんは恥ずかしいのかチラチラとこちらを見てはを繰り返している。
それを見て俺も恥ずかしくなってくるが、黙っている訳にもいかないので助け舟を出すことにした。
…あい。分かりました。
「今日はこの娘の武器を見に来たんですよ。選ぶのにアドバイスが欲しいって…」
「そうだったのか。…それで、デートじゃないのか?」
ちっ、空気読めよアンタ。せっかく俺が当たり障りのない渾身の一撃を口走ってやったというのに…。
常連の考えを理解できないようじゃまだまだですな。
内心で悪態をつく。
「…ま、まぁ、そうとも言いますかね、アハハハ…」
「!」
「…いや、もう完全にそれしかないだろ。嬢ちゃん分かりやすいな」
だが、俺がベルクさんの言葉を一応肯定したことにアンリさんは一瞬嬉しそうな顔をした。
それをベルクさんも分かったみたいだが…あまりにも分かりやすい。
感情表現豊富な娘だと、改めて思った。
…それが良い所でもあるが。
「まぁいいか。で、どうする? 使いたい武器とか要望はあるのか?」
ここで、ベルクさんが堪忍してくれたのか、やっと話を進めてくれた。
ほらほら、ちゃんと仕事してくんさい。
「えっと…魔法主体でいこうと思うので、軽い武器がいいんですが…」
「今もみたいだけど…学院の時はレイピア使ってたよね?」
「はい。軽くて扱いやすかったので」
どうやらアンリさんは学院の時と同様に軽い武器がいいようだ。
まぁ女の子だし、重たい武器を持つ人は限られてるから不思議でもない気がする。…とは言ってもそれは地球での考えか。こっちの方じゃあんまり関係ないな。
攻撃力が高ければ高いほど、発揮する力は強くなる。そのため、華奢な人間やヒョロヒョロの人間でもアホみたいな力を持った人間がいたりする。
しかし、同じ攻撃力を持った人が2人いて、一方はムキムキの体格、一方はヒョロヒョロの体格をしているような場合は、力は同等ではなくムキムキの方に軍配が上がる。…まぁ当然っちゃ当然なわけなんだが。
学院で聞いた話によると、攻撃力の数値は大体であり、それを余すことなく発揮するためには肉体の強化が必要になるとのことらしい。
スキルの習得状況や体質も関係してきたりと、力に影響のありそうなことを挙げたらキリがないが、そういうことらしい。
俺は…どっちかっていうと筋肉質だし、こっちの世界に来てから食生活が変わったこともあってだらしない体にはなっていないのは確かだ…と思う。
まぁなんにせよ、アンリさんの攻撃力がどれくらいのものかは知らないが、魔法主体でいくなら武器はあまり使うことはないだろうし、極力負担を減らすことを考えたらむしろ良い考えと言っていい。
「まぁ軽いが、その分耐久性は落ちるし、雑に扱えばすぐに駄目になっちまうけどな。…おっと、どこかの誰かさんはそんもん関係なしに壊したっけな」
「?」
…誰でしょうかねー(棒)
もしそんなことをする奴がいたら、なんてふてぇ野郎なんだー。物の扱いがなっちゃいねぇなーまったくよぅー(棒)
信じらんねーよそいつー(棒)
…ま、俺のことですよね。
この店の武器を壊した回数ナンバーワンの破壊王ですから。ちゃんと自覚してますよ?
「ま、余計話はどうでもいいとして………これがここで普段扱ってる比較的軽い武器になるな。これ以外だとオーダーメイド製になっちまう」
ベルクさんが店に展示してあった武器を手に取り、カウンターへと置く。
テーブルには、レイピアと短剣が置かれた。
レイピアはアンリさんの持っているものと形状は特に変わらない。装飾がされているかされていないかの違いだろうか。
短剣もまた巷でよくみるようなシンプルなものだ。無駄なものがない。
「う~ん。ならやっぱりレイピアの方がいいかなぁ。あんまり短剣は使ったことないし…」
それを見たアンリさんが少し悩んでいたが、やはり馴染みのあるレイピアに決めようとしている横で、俺はというと…
オーダーメイド製…。なんか言葉の響きが中々いいですね。
製を性に変えたらアウトですね。私はメイドをオーダーしたいです。はい。
と、変な事を考えていたりする。
「あの…先生」
「うん? どうかした?」
あ、もしやアンリさんメイドやってくれるんですかい?
まさかテレパシーが使えるとは…
「先生はどっちの方がいいと思いますか?」
ですよねー。そりゃ違いますよね…。
「んー、レイピアの方が使い慣れてるんでしょ? だったらそっちの方がいいんじゃないかな。下手に武器を変えても違和感あるだろうし、自分の身を第一に考えるなら使い慣れた方を選ぶべきだと思う」
「…そうですよね。分かりました!」
へ? 決断早くね?
もうちっと考えてからの方がいいのでは…。
「ん、随分と早いな…もう決めたのか? 別に急がなくてもいいぞ?」
「いえ、こちらのでお願いします。先生もそう言ってますし…」
「随分と信用されてんだな」
う~ん。信用されるのは嬉しいんだけど、そこまで俺の意見を鵜呑みにしてもらってもなぁ…。
俺は専門家とかではないし…正しいことが言えてると言う確証はない。全て俺の経験則に基づくものでものを言ってるだけだし…。
「もちろんです!」
だが、アンリさんの意思は見る限りだと揺るがなさそうだ。
真っすぐな目をしてベルクさんに返答している。
「…まぁ分かったよ。だがよ、嬢ちゃん。その古い方のレイピア、3日ほど預けてくんねぇか?」
ベルクさんはアンリさんに観念したようだが、何故かアンリさんの今持っているレイピアに興味を示したようで、預けるようにお願いしている。
「はい? 下取りとかやってるんですか?」
「違う違う、まぁやってはいるんだが…。嬢ちゃんのそのレイピア…随分と年期の入ったもんだ。普通そこまで損傷してたらとっくに買い替えてもおかしいはずなのにそれをしていないからよ、思い入れ…あるんじゃないか?」
どうやらベルクさんはアンリさんのレイピアに何かを感じ取ったようだ。
「あ、そういうの分かるんですね」
「当たりか?」
「はい。これは父から15歳の時に貰ったもので…ずっと大事にしてきたんですよ。私にとっては…お守り、みたいな感じでもあるんです」
「…そうか。やっぱなぁ…。見りゃ分かるさ、すげぇ大事にされてるのが一目瞭然だからな…」
しみじみと、アンリさんのレイピアをベルクさんは感慨深そうな目で見ていた。
そして…
「ホンットにどっかの誰かとは大違いだな」
「…」
その一言いらんわ。
あの…もうやめてくんないかな。俺が悪かったんで…。
屍になった武器たちは遅いですけどちゃんと供養しておくんで、もう堪忍してくんさい。
「…だからよ、俺がコイツをできる限り元の状態に戻してやるよ。だから3日位時間くれねぇか?」
「いいんですか!? あ、でも私そんなにお金持って…」
「金はいらねぇよ。久々にこんなにいいもん見せて貰ったんだ。…タダでいい」
ベルクさん相変わらず気前よすぎんよー。
「ですけど…」
「アンリさん。これはアンリさんの行いの結果だから、有り難く受け取っておけば? この町の武器屋はここしかないし、また何度も利用することになるんだから丁度いいじゃん」
「…分かりました。それじゃあ…お願いしてもいいですか?」
「おう。任せな!」
ベルクさんが、力強い返事と共にアンリさんのレイピアを受け取る。
「んじゃ、こっちのレイピアでいいんだよな? 流石にこっちはタダとはいかないが…」
「それは当然払いますよ!? そこまでしてもらったら申し訳ないですもん」
「…銀貨5枚になるんだが平気か?」
「…大丈夫…です」
…ちょっとキツイか? まだ一応駆け出しだもんな…。
ベルクさんから告げられた金額に対し、アンリさんの眉を潜めて難しい顔をしていた。
…よし!
「いいよ。それ、俺払うよ」
「え?」
「思ったらアンリさんが冒険者になったお祝いしてなかったし、これはそういう意味ってことでさ」
…俺ん時はお祝いしてくれるような人はいなかったな~。まぁあの時は知り合いがいる訳でもなかったから当然な訳なんだが…。
でも、出来る範囲でお祝いとかはしてあげたいとは思う。
「で、ですけど…」
「はいはい、ベルクさん」
半ば強引に、『アイテムボックス』から取り出した銀貨5枚をベルクさんに渡す。
「…あいよ。確かに受け取った。嬢ちゃん…良かったな」
「あ、ありがとうございます…!」
俺が支払ったのを見て、アンリさんはもう手遅れだと感じたらしい。そして、申し訳なさと嬉しさの混じり合った表情でお礼を言ってきた。
こういう顔をみると、こちらも嬉しい気持ちになれるからいいよなぁ。
取りあえず、喜んでくれてよかった…かな?
「ほらよ」
「…大事にしますね」
「おう! そうしてやってくれや」
ベルクさんが、アンリさんに購入したレイピアを手渡し、それをアンリさんは優しい手つきで受け取った。
「ごめんね。女の子だからもっと別の物の方がよかったかもしれないけど…」
ただ、やはり武器はどうかなぁとか思ったりしてしまい、今更になってアクセサリーの類の方がよかったのではないかと考えてしまう。
「いえ! 嬉しいですから!」
「そう? なら良かったかな」
アンリさんの表情を見る限り…本当に嬉しそうな顔をしていた。
だが…う~む。こんなんでいいのはなぁ…。
もうちょっと考えとこうかな。
アクセサリー類も何か考えておこうと思っていた俺だが…
「あの…先生。このレイピアの具合を少し確かめてみたいので、依頼に付き合ってもらえませんか?」
アンリさんから、お誘いがかかる。
今後使うことになるんだし、そりゃそうか。
1人よか2人の方が色々と分かることもあるし…。
「いいよー。気になるもんね」
「すみません」
「謝る必要ないって。だって…」
そこで、俺の言葉は詰まった。
先生だから…と続けようとしたが、アンリさんの気持ちを知っている以上、それは失礼なのではと思う。
でもここで、仮にだが恋人、もしくはそれに近い類のものを言おうもんなら、今後の別れが非常に残酷になるだけだ。
何と続けていいか…分からなかった。
「…先生?」
「あ、いや…なんでもない。ギルド行こうか」
「…はい」
なんとも気まずい雰囲気のなか、俺達は並んでギルドに向かったのだった。
次回更新は日曜です。




