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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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126話 司観察記録③

 ◇◇◇




「どーお?」

「僕はこれー」

「じゃじゃーん、力作~」


 町の空き地にて、子供達が各々作った力作を見せ合っている。


 町に戻るといつもよく遊んでいる3人に声を掛けられ、少し構ってやることにしたのだが、急遽その内の1人が生き物の造形を一番上手く作れた奴が勝ち…とか言い出したので、さっきまで黙々と作品を皆で作っていた。


 3人の作った造形は…1人がスライムの溶けた姿という、無駄にリアルな設定のものが1つ。2人目はただの野良犬をイメージしたものを作っており、この2つの作品は持っている属性が土だったらしく、土でできている。

 3人目だけは土属性に適性がなく水属性しか使えるものがなかったので、ナナが水を凍らせることで遊びに参加できるようにした。

 こちらは…ナナの造形を作ったようだ。…似ててとってもぷりちー。


 それぞれの作品を見てみると実に中々よくできており、俺がこの子達の年齢位である7,8歳の頃は…こんなセンスなかったなぁとか思ったりした。


 だが! それはあくまで過去の話よ! 今の俺は、もう昔とは違うのだ。

 創造性に溢れ、繊細な技術を持った俺に、死角はない。

 これが今の俺の実力だ!


 俺が何を作ったかと言うと…


「ふっふっふ…これを見よ!」

「「「わー! すっげー!!!」」」


 子供達には見えないよう、大きめの布を被せて隠していた俺の作品を…今露わにする。


 俺が作ったのは、約3m位にスケールを抑えた、巨大なドラゴンの土の塊である。

 多少荒々しい部分は目立つものの、ドラゴンの持つ圧倒的な存在感をふんだんに出すことは出来ているはずだ。


 …本気出しました。

 今の私は職人……。職人は、作る作品が例え遊びであろうと手を抜かないからこそ価値があるのです。子供相手でも容赦は致しませぬぞ。

 それにしても…くぅ~っ! 我ながらいい出来だ、うむ!

 今にも動き出しそうなこの感じ…すんばらすぃ~。


 まー、大人の本気を見せてやっただけです(大人げないとも言う)。

 以前作ってやると約束してしまったので丁度良かった。


 満足な声も聞けて充足感を味わっていた俺だが…


「甘いねご主人。リアリティーを出すためにはもっとここを…」


 大雑把に作った鱗の部分に、自らの土魔法で手直しを加えていくナナ。

 すると、荒の目立った鱗部分は丁寧に研磨されたように仕上がり、また土の水分をある程度抜くことでより強度を上げ、それにより変質した色合いがさらに見映えをよくした。


 お、おう…。か、カッコイイじゃん…。


「…それにこれを加えましょう」


 ナナが手直しを加えているのを見て、自らも手直しを加えようと思ったのか、翼と眼に切り傷のような切れ込みを入れるポポ。

 ビシッ、ビシッと刻まれていく傷は、ドラゴンに古傷のような表現を感じさせ、まるで数多の戦いを乗り越えてきた、百戦錬磨のドラゴンの姿のようであった。


 へ、へぇ…? せ、センス良いじゃん…。

 や、やるじゃん…お前ら…。


 完成した土のドラゴンを見て…


「「「カッケえええぇぇぇっ!!!」」」


 子供達が先ほどよりも大きな声で興奮し、ペタペタと触り始めた。

 そして…


「「「流石ポポちゃんとナナちゃん!!!」」」


 なんでじゃあああああっ!? 作ったの俺よ!? 俺なのよ!?

 8割俺…2割がコイツらですよ? 分かってるチミ達? 


 納得のいかない反応を俺はするが、2匹はそんな俺のことを気にもしないで3人と戯れている。




 こ、コイツらに…良いところ全部持っていかれた。グスン…。




 ◇◇◇




 先生が…子供達と一緒に楽しそうにしている。


 一見すると遊んでいるようにしか見えないけど…


「…あれは、何してるんですか?」

「…見たまんまだが。子供と遊んでるだけだよ。よくやってるぞ?」


 何か遊ぶのに別の理由があるのかと思ったんだけど、どうやら違うらしい。


 もう夕方になるけど…今日はまだ1回も先生が働くところを見ていない気がする。


「…依頼はしないんですか?」


 それが気になってシュトルムさんに聞いてみたけど…


「何言ってんだ? あれが依頼だぞ」

「依頼なんですか!?」


 これが依頼だと言うので驚きだった。


「うん。住人の要望を聞くやつ。…まぁ他のもちゃんとやってるらしいが」

「あ、そういえば…そういうのがあるって聞いた気がします…」


 登録初日に、チラッとだけど聞いたような気がする。

 でもあんまり重要ではなさそうに言っていたから、特に気にするわけでもなく頭からすっぽり抜けちゃってたなぁ。


「今日はあれだけど、お使いからゴミ掃除、話し相手とか勉強会とかやってたっけ…」

「…」

「アイツは基本ああいう仕事しかやってないんだ。討伐依頼とか危険地帯での素材収集は頼まれたら以外じゃ行かないらしいし…」


 へぇ~、そうなんだ…。


「でも…先生はどうやって収入を得てるんですか? それだけで生活してるようには見えないんですけど…」

「さぁ? 災厄の時の報奨金とか貰ってんだろうから…多分それじゃね?」

「あ…そういえばそうですね」


 あれだけの災厄だ。先生はそれがあるから特に気にする必要はないのかもしれない。

 あぁ、アタシも早くお金を稼げるようにならないとなぁ。学費も返したいし…。


「ま、ここじゃあれは普通の光景だ。…にしても、本気出しすぎだろアイツら。本物そっくりじゃねぇか」

「えっと…シュトルムさんは本物を見たことあるんですか?」


 シュトルムさんは先生達の作ったものを見てやや呆れた顔でそう言う。

 アタシはドラゴンなんて恐ろしい生物を実際に見たこがないから、似ているかは分からない。

 だから、聞いてみた。


「あるぞ? この前の災厄でな。…あんときゃ死ぬかと思ったね。俺も防衛に参加したけど、勝ち目なんてほぼない状態だったから…むしろだから戦う気になったんだろうなぁ」


 どうやらシュトルムさんは先の災厄に出ていたようで、ドラゴンをその時に見たようだ。そしてその時の心境を語ってくれた。


「ま、アイツがいなかったら…戦った俺らは全滅してて、この町は地図上から消えてたのは間違いないな」


 シュトルムさんは当時のことを思い出しているのか、微かに笑いながら話している。


 それだけの規模の出来事を先生がなんとかしたんだ……すごいなぁ。


 もう少し聞いてみたくなったアタシは…


「あの、先生が強いのは知ってるんですけど…、その時の様子ってどんな感じだったんですか?」


 ヴィンセントの時と、学院での模擬訓練の先生しか、アタシは知らない。

 死ぬことのない授業と違って、戦場での先生は…どんな風に映ってるんだろう?


「え? そうだなぁ…。…俺は目視で確認できなかったんだが、ドラゴンはその時5体いてさ、駆け付けたアイツが確か1体目のドラゴンの頭を蹴りで吹き飛ばしたって言ってたな。んで残りの4体を魔法で瞬殺してた。辺り一面に重力魔法を発動させて地面に叩き落した後…地面にトゲを生やしまくってたな…。これは俺以外の奴も確認してるし間違いない。まぁ他のモンスターもうじゃうじゃいたんだが…それはオマケみたいに扱ってたな。とにかく凄かった」


 ……えっと…?

 頭の中で想像してみるが…意味不明な世界しか展開されない。


「…あんまり想像できないんですけど」

「できなくていいと思うぞ。それが普通。あれは…次元が違うしな」


 シュトルムさんは頭を悩ませているアタシを見て、ハハッと笑う。


 …笑うところなんだろうか? 


「おっと! 動き出すみたいだぞアイツら…」


 ちょっと気になることが増えたと思ったところで、シュトルムさんの声を聞いて先生の方を見る。




「さてさて、そろそろ両親が心配するぞ」

「うん! 兄ちゃんあんがとー」

「バイバーイ」

「おう。気を付けて帰れよ~」


 さっきまで隅っこの方でションボリしていた先生は、いつの間にか皆の輪に入っており、子供達に向かってそろそろ帰る様に促している。

 子供たちは遊んでくれたことに対してなのか…口々にお礼を言って、手を振りながら各々の家がある方向へと走っていく。


 しかし…


「はーい…わわっ!?」


 その中の1人が…後ろを向きながら返事をしていたため、前方の障害物に気づかないでぶつかりそうになる。

 私が危ないと声を出しそうになったところで…


「…オイオイ、気をつけろって言っただろ? ちゃんと前見ながら歩きなさい」

「あれ? …あ、ごめんなさい…」


 先生が瞬時に子供の前に移動し、子供を受け止める形で衝突を防ぐ。

 その姿が、少し違うが自分を守ってくれた時と重なり、ハッと…あることに気づいた。


 先生の柔らかな表情。普段の少しボーっとした時とは違うもの。


 ああ…アタシはこの時の先生の姿に惹かれたのだと…。


「…ホラ、行きな。待ってるぞ?」

「うん! ありがとー」


 無事なことを確認した先生は、先に走っていた子供達の方を見て、受け止めた子供に早く行くように促している。


 そしてそれを手を振って見送り、子供達が見えなくなったところで、大きな背伸びをしていた。


「…帰るかぁ」


 ついでに欠伸もしながら、先生は『安心の園』の方へと歩き出したのだった。


 あの人が災厄を…。

 子供を受け止めた時の優しい表情を見ると、先生が災厄を鎮めた張本人とは…とても見えなかった。




 ◆◆◆




 気づけば既に日も暮れた。

 今日1日先生を観察していたアタシとシュトルムさんは、『安心の園』のテーブルで今日の結果をまとめていた。


「さて…これがアイツの生活なわけだが…どうだった?」

「不思議な人でした」


 今日の先生の感想は…これに尽きるんじゃないかな。

 というか、これ以外の言葉なんて出てこないんだけど…


「…可愛い感想だな。ありゃ変人の領域だと思うが」

「………」


 う~ん…酷く言えばそうなる…かも。

 シュトルムさんの言いたいことは痛いほど分かるので…もうノーコメントで。


「まぁSランクの連中は基本そんなんばっかりらしいけどな。ヒナギちゃんはまともだけど…」

「そうですね、模範的な気がします」


 確かにヒナギさんは…すごく常識的だよね。先生を常識外れに扱ってるとかじゃないけど…。


 でも、それだけじゃない。

 ヒナギさんは…まさに絵に書いたような嗜みと美貌を持った人だと思う。

 東特有の黒髪もすごく綺麗だし、なによりあんなに強くて礼節を弁えた人が本当にいること自体が奇跡なんじゃないかとさえ思うもん。

 …ヒナギさんみたいな女性になりたいけど、無理だろうなぁアタシなんかじゃ。


 はぁ…なんか自信失くしちゃうなぁ…。


「礼儀正しくて優しいしなぁ…ヒナギちゃんは。それがアイツをねぇ……」


 シュトルムさんが、明後日の方を見ては何やらため息を吐いている。


「? アイツ…?」


 ちょっと落ち込んでいたアタシだけど、シュトルムさんの言葉が少し引っかかった。


「あぁいや、別になんでもないから気にしないでくれ」

「…」


 ? 何だったんだろう?

 まぁ…気にしなくていいのかな。


「…でも、安心しました。先生がSランクになったって聞いて…もう話しかけるのもできないくらい遠くに行っちゃったかと思ったりしてましたから。そうじゃなさそうで良かったです」


 そう、アタシはこれが不安だった。


 環境が変われば…その影響下にある人もまた色々と変わってしまう。

 だから、Sランクなんていう影響力の強い環境に晒されて…先生も例外なく変わってしまったのではと思っていたが、今日の先生を見る限りそんなことはなさそうで安心したのだ。


「そりゃないない。アイツはそういうの嫌って言ってたからな。ランクとか特に気にしてないぞ。じゃなきゃ俺みたいな奴パーティに入れたりしないだろ」


 シュトルムさんを貶すわけではないが、確かにそうだ。

 アタシなんてまだFランクだから論外だけど、SランクがCランクの人とパーティを組むのは考えにくい。

 だって力量の差が歴然としているから…。


「ま、なんにせよアイツが良心的な奴ってことは分かっただろ? 結構自由に過ごしちゃいるが…この町の面倒な依頼を進んでやる。とんでもない力を持ってるけど、この町の奴らはそれを知ってるから…アイツを怖がったりなんてしない。善意の塊だって分かってんだよ。俺達もな」

「…はい!」


 先生がこの町で努力して認められているのが分かって…なぜか無性に嬉しい気になる。


「…なんでアンリ嬢ちゃんが嬉しそうになるんだよ」

「エヘヘ…なんででしょう? アタシも分からないですが…」

「そ、そうか…(うわー。ツカサお前どうすんのコレ…。マジじゃねぇかよこりゃ)」


 シュトルムさんが何か考えてるような顔をしてるけど、だって嬉しいものは嬉しいんだから仕方がない。




 今日のことをまとめると…


 アタシが感じたのは、先生は通常の冒険者らしくないということだ。

 やっていることは…どちらかというと何でも屋。いや…というかまさしくそれだ。

 でも、とてもこの町の人に愛され、貢献しているのが今日だけでも分かった。


 …普通歩いてるだけでいろんな人から差し入れ貰ったりしないだろうし、それは十分すぎるほど伝わってきた。


 不思議すぎる人。


 でも…あの子供と無邪気に遊んでる時の先生の顔…可愛かったなぁ。

 見れて良かった♪




 シュトルムさんについてきて本当に良かった。




 その日の夜、作られたまま放置されたあのリアルなドラゴンの造形を見た一般人の人が、余りの恐怖に失神したという。

 翌日、先生はそのことでギルドにお叱りを受けたとか受けなかったとか…。

アンリside終了。

次回更新は土曜です。

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