124話 司観察記録①(別視点)
アンリside。3話続きます。
グランドルに来てから今日でかれこれ10日目…。
冒険者業もまだまだ基礎の範疇だけど、少しずつできることとできないことの区別もできてきて、慣れ始めて来た。
始めは知識と現実とのギャップに苦労したけど、今はそれが楽しい。自分で道を開拓していくようで、毎日新鮮な気分を味わっている。
以前の災厄で王都を守護していた『鉄壁』のヒナギさん。経験と知識の豊富なシュトルムさん。歳も近いからかすぐに仲良くなれたセシルさんらがいるという、まさに恵まれた環境で冒険者を始めることのできたアタシは、幸運と言っていいと思う。
先輩方のアドバイスは貴重だし。
正直な所、他の4人には悪い気がしてならないけど、自分のためにもこの環境は無駄にしたくない。
今の環境に文句はない、むしろこれ以上を望むのはおこがましいにも程がある。
……あるんだけど…―――。
今、アタシには非常に気になっていることがある。
それは勿論、先生のことだ。
多分シュトルムさんやセシルさん、そしてヒナギさんの次くらいには、先生を比較的近くで見ているとは思う。
でも…
先生のやっていることが、イマイチよく分からない。
やっぱり先生はあの災厄を鎮めた程の実力を持っているから、危険な仕事をよくやっているのではと思っていたけど、どうやらそんなことはないらしく、いつもグランドルの町中で先生の姿をよく見る。
一緒に仕事をしている訳ではないけど、『安心の園』以外でも一日に1回は最低でも見るくらいだ。…でも先生を見れるのは嬉しいかな。
町の人やミーシャさんらに聞いてみても、先生の話がよく出てくることから、先生は基本グランドルの町中で仕事をやってるみたい。
それが…気になって仕方がない。
だからアタシは、ある人に相談することに決めた。
◆◆◆
「え? ツカサの普段の仕事がみたい?」
「はい」
アタシが今回頼ったのは、シュトルムさんだ。
朝起きてアタシが『安心の園』の1階に行くと、シュトルムさんが既に起きていたので丁度良かった。
セシルさんとヒナギさんでもいいとは思うけど、普段から軽口を叩き合う2人だから、きっと詳しいことが聞けるに違いないと思った。
「ん~…見たまんまだと思うんだが…」
「はい?」
どうやらシュトルムさんも詳しいことは分からないらしい。
パーティを組んでいるはずなのに分からないのは予想外だったため、アタシはどうしようかと思案する。
直接先生に聞いてもいいけど、なるべく先生の邪魔はしたくはないし、ちょっと失礼な気がするからあまりしたくない。
アタシが悩んでいると…
「アンリ嬢ちゃん。今日暇か?」
「えっと…はい」
シュトルムさんが、私を見てそう聞いてきた。
そして…
「んじゃ、今日はアイツの観察でもしてみっか。付き合うぜ?」
「え? 観察…ですか?」
急な提案に驚きはしたけど、…いいかもしれない。
先生はなんというか…聞いたところで的を得ないような人だから、実際に見た方が早いのかも。
それに自然な形でありのままの先生を見た方が、先生がどんな人なのか分かるだろうし。
…うん、そうしよう。
「えっと…お願いします」
「うし! そーと決まれば行動開始だ。2階に行くぞ、そろそろアイツ起きるはずだ」
シュトルムさんが席を立ち、行動を即開始する。
その早すぎる対応と柔軟さに、アタシは面食らってしまった。
「ええっ!? 今からやるんですか!?」
「当たり前だろ?」
シュトルムさんが真顔で言ってくる。
えっと…何が当たり前なんだろう?
もう少し計画とか練った方がいいんじゃ…。
「だ~いじょうぶだって。なんとかなるなる」
「…だといいんですけど」
ということらしい。
思い立ったらすぐに動く人…なのかな?
「確かになぁ…アイツってよく分かんねぇとこあるんだよな~。アイツの仕事してる姿は確かに気になるし、それ以上にアイツって普段から結構抜けてたり馬鹿なとこあったりするからな。私生活も観察したら面白そうだ」
シュトルムさんは何やら私よりもノリノリなようで、早く行きたいのが分かる挙動をしている。
ただ…失礼かもしれないけど、シュトルムさんも人のこと言えないと思う。
シュトルムさんもその…変な行動は見られる。上級魔法でこの町に降ってきたって言うのもそうだけど、この前セシルさんと二人でスライム駆除に出かけた時も、装備である剣を忘れてスライムにまとわりつかれて悲鳴上げてたらしいし…。
十分抜けた一面を持っているんじゃないかな。
でも取りあえず…シュトルムさんについていこう。
「…と、その前に……これつけときな」
シュトルムさんが、アタシにあるものを渡してくる。
「これは…帽子とサングラス…ですか?」
「アンリ嬢ちゃんは目立つからな。騒がれんのも面倒だし。初日、大変だったんだって?」
言っていることの意味は多分分かる。
アタシは…自慢じゃないが顔は同性の間ではそれなりに良い方だと思っている。
でも、これはお父さんとお母さんにもらったもので、アタシが個人的に努力したものではないから…胸を張ったりなんてできないけど。でも…お父さんとお母さんには感謝してる。
悪いよりかは良い方がいいだろうし…。
…でも、どこから出したんだろう? というか、何で持ってるの?
サングラスと帽子を持っていたことに疑問を感じたが、シュトルムさんの問いに答える。
「えっと…ハイ。男の人にちょっと…」
冒険者ギルドに登録に行った際に、ちょっと怖い男の人たちに話しかけられた。
その時は丁度ヴァルダさんって人が間を取り持ってくれて事なきを得たけど…いなかったら大変だったかもしれない。
今ココには…エリックやメイスン、クレアとアレクもいないし…。自分の身は自分で守らないといけないよね。うん。
「気をつけろよ? アンリ嬢ちゃん可愛いんだからさ」
「あ、その…ありがとう…ございます」
シュトルムさんの発言が少々照れくさかったが、ふとあることを思い出す。
先生は…今はどう思っているんだろう?
あの時思い切って…こ、ここ、告白…しちゃったんだけど…。
学院での別れの出来事が脳裏に蘇る。
あの時の自分が今でも信じられない。まさか皆がいる前であんな恥ずかしいことを言えたなんて。
でも…こうやって先生のいる町にまで来ているくらいだから、私は結構恋に対して積極的だったのかもしれない。先生に久しぶりに会ってから…その想いはさらに大きくなったから…。
初恋…だからかな。
「うしっ! 観察開始だ!」
「あっ、ハイ!」
想いに耽っていたところで、シュトルムさんの言葉で意識を目の前に戻す。
いつの間にかシュトルムさんもアタシに手渡した一式を装着しており、準備は万端? の状態になっていた。
な、なんか始まっちゃった。
アタシも渡された一式を装着して、シュトルムさんと一緒に先生の観察を開始した。
「ご主人、起きてください」
「お? ちょうど起きたみたいだぜ? 隠れろ!」
2階へと上がると先生の部屋からポポの声が聞こえてきて、シュトルムさんが物影へと隠れるように促してくる。
寝起きの先生…どんな感じだろ?
ちょっとワクワクしてきちゃった。
本日中に残り2話を投稿予定です。




