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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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121話 天使と女神のハイブリッド

 ◆◆◆




 ギルドマスターとの対談を終えた俺達は、その後待ってくれていた皆と合流した。

 俺は依頼を片付ける予定があったが、皆の方は特にやりたい仕事もなく、急な依頼も出ていないということで、一旦そこで別行動となった。

 予想するに昨日の疲れがあったのだろう。何だかんだでそこまで休息が取れているわけではないし、加えて寒い中寝ていたのだ。疲れなんてとれるはずもない。

 …それを言うなら俺もだが。


 一応ヒナギさんは俺を手伝うと申し出てくれたが、セシルさんは「ツカサにしか出来ない仕事だから、依頼人もそれを望んでる」…と、目をキラリとさせて華麗に逃げ、シュトルムに至っては俺が聞く前に即座に断ってきて逃げられてしまった。

 その反応の速さに、この依頼がどれだけ嫌いなのだと疑う程で、仲間って何だろうか? 分かんねぇなぁと歯噛みしていたりする。

 最後に残った俺の相棒達は流石に一緒かと思ったが、ナナがヒナギさんの作る菓子を食いたいと言い出したことで、ヒナギさんを拉致。セシルさんはどちらか一方を愛でたいと言い出し、残ったポポを拉致。完全に俺一人が取り残されてしまった。


 昨日感じたパーティ結束によるチーム感を早くも懐かしむ俺は、孤独に黙々と依頼を進めていき、最終的には全体の5割ほどを終わらせることに成功した。

 急ぎの依頼を重点的に処理したから、明日からは仕事の片手間でやるだけで問題ない。


 仕事に生きるって素晴らしい。この充足感。脱ニート感。労働の汗を流す喜び。

 そして俺の労働で喜んでくれる人の笑顔が…俺の毎日を生きる糧となる。

 これだけで俺は…生きていける。そうさ、俺は…真人間だから。







 …とか考える暇もないくらいに忙しかったんだ。

 ホントはごろ寝してウヘヘ~な妄想してぐうたらしたい。てか所望する。




 そうしてその日は終わったのだった。




 ◆◆◆




 翌日…。


『安心の園』にて眠りから覚めた俺は、ベッドからむくりと起き上がる。

 窓から太陽を見てみると既に日は昇っており、10時くらいだと推測。随分と寝過ごしてしまったようだ。

 辺りを見回すも…ポポとナナは見当たらない。きっと先に起きてどこかにいるんだろうと考えを巡らせるも、思えば昨日はヒナギさんやセシルさんの部屋で寝ると言っていたことを思い出し、すぐにいないという状況を理解する。


 それから部屋を出て洗面所で顔を洗って、今日やることを頭で考えながら歯を磨く。

 一応磨き残しがないように鏡で歯を確認しながら行い、終わった後に自分の顔を見つめる。


 なんともふてぶてしい顔だ。…まぁ俺だが。


 寝起きも相まってふてぶてしさに磨きが掛かっている。

 ふてぶてしさなら…今の俺はレジェンド級だ。


 ふてぶてしさに自信のある奴掛かって来いよ!

 ふってぶてにしてやんよ! 


 ……。


 取りあえず、いつもと変わらないのは確かだ。体も疲れは取れてるし、もう万全といっていいだろう。二日酔いがないのも非常に大きい。


 …さっきのことは忘れよう。黒歴史になりそうだし。




 そこで、何やら階越しにではあるが、下から声が聞こえてきているのが分かり、意識をそれに集中させる。


 ………。


 どうやら複数人の人が会話をしているのか色々な声が聞こえてきている。

 流石に話している内容までは聞き取れないが、朝っぱらから随分と騒いでいる人がいるようだ。

 盗み聞きみたいなので、それが確認できたら意識はもうそれから外し、部屋へと戻る。この後下に行くわけだし、声の人物は後で確認できるから別に気にならない。


 朝食は何かなぁと思いながら部屋に戻ってベッドに座り、ポケポケとした思考にしばし耽る。


 …が、その時間は薄々感じていた空腹感が許さなかった。


 一日の始めに必要なエネルギーを…体が欲している。

 今は朝と昼の中間の時間帯だから、それは当然だろう。そうと分かれば俺のやることはただ一つ。


 飯を食おう、である。


 数秒前に部屋に入ったばかりだが、すぐにまた移動を始める。

 部屋を出て、一階に降りるための階段を目指し、廊下をゆっくりと歩く。




「ん?」


 角を曲がり、俺が階段を下りようとしたその時、階段を静かに上がってきた赤い髪をした女の子が、俺の目に入った。


 うわ…めっさ可愛い。

 アンリさんにちょー似てる。


 その子はアンリさんに非常に酷使しており…いや、とんでもなく似てはいたが、アンリさんではないと俺はすぐに分かった。

 なぜなら、アンリさんの顔は、既に神代基準で数値化して脳内に永久保存済みであるからである。


 自分を好きになってくれた女の子の顔を忘れるとか、あり得ないっしょ。コピー作れるくらいに鮮明に思い出せる自信ある。

 だから、この人はアンリさんじゃありまへん。

 だが可愛い! それは認めざるを得ない。


 ふむふむ。


 髪は長めで背中くらいまでありそうで、それを1本に束ねて胸の方へと持ってきている。


 …アンリさんと同じくらいの長さだな。


 それがなんとも大人びた印象を与え、確かに顔は若いが、母性もふんだんに備えているのではないかと感じさせてくる。


 …アンリさんも料理上手だったし、良いお母さんになれるだろうな。


 見た感じだと冒険者の服装だが、服や装備品が比較的新しいのを見るに恐らくは新米の冒険者なのだろうとすぐに分かる。


 …そういやアンリさんももうすぐかな?




 セシルさんが天使で、ヒナギさんが女神だとするなら…この子はその両方を備えた存在だろうか。

 …それはもはや神ですね。ハイブリッドって恐ろしい。

 混ぜるな危険とはよく言ったものだ。洗剤じゃないけど…。これじゃあ男連中から狙われて本当に危険そうだもん。


 女の子に対してそう評価をし、この女の子に少し見覚えを感じはしたが、俺が知っている一番似ている女の子によく似ていると思うに留まった。

 そして俺ら以外にも宿泊している人がいたんだなぁぐらいにしか、この時の俺は思っていなかったのだが…


「あ……」


 女の子の方も俺に気づき…まぁ当然だが、俺と同じようにこちらを確認している。

 そしてピタリと動きを止めると、その場に立ち尽くしてしまった。


 あれ? どうしたんだろう? それに何故かめっちゃ凝視されてるんだが、なぜに?

 さっき顔は確認したから変なものが付いてたりとかはしていないはず…。


「? おはようございま~す」

「へ?」


 そう思いながら遅めの挨拶をしてその女の子とすれ違うが、俺が挨拶をすると、女の子は鳩が豆鉄砲を食らったかのような反応をした。

 それを気にしながらも、そのまま通り過ぎて階段の下に下りようと足を踏み出すが、何やら下を見るとシュトルムとセシルさんとヒナギさんの3人が、こちらを興味深そうに見ている。


 …何してんの?


「……?」

「え…あっ、あの!?」

「はい?」


 3人のことに対して不思議に思っていると、何やら女の子から声を掛けられ、下りかけていた階段の途中で足を止める。

 そして俺は階段を背にして女の子の方を向いた。


 だけどあれ? この声…聞き覚えが…。

 え…まさかそうなん? うっそだろオイ…!

 …ハッ!? そういや通り過ぎた時一瞬嗅いだ香りは…アンリさんのそれと似ていた…! てか同じだった。

 これが意味していることはつまり…。


 ホ・ン・モ・ノ? 


「先生…?」

「もしかして…ア、アンリさん!?」

「! はい!」


 嬉しそうな顔をしながら、元気よく返事をする。


 これは…間違いない。俺を先生なんて言う子は限られてる…。




 俺が神と称した女の子は…、俺の知るアンリさん本人だった。

次回更新は土曜です。

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