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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第三章 狂いし戦の虜、闘神の流儀
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120話 『空間転移』

『空間転移』…。


 確かにそれなら納得がいく。むしろ『転移』があるのだから、その系統の魔法が別にあってもおかしくなんてない。

 …いや、この世界でおかしくないことがある方がおかしいのだ。

 大抵のことはできるとはよく言うが、本当にそれが現実となっているのがこの世界。ナナが自分でオリジナル魔法を作り出せることがその証拠だ。


 本当に出来ないことは…理を越えるくらいのものだと考えた方がいい。


「やっぱりあるのか……?」


 確かに、皆のその時の状況を聞くと、上から落ちて来たような跡があったって言ってた…。

 俺が見たのは破壊された家が残骸としてあるのを確認したくらいだから、そこまでは気づかなかったが…。


「まぁここまでの話は、私なりの推測に推測を重ねたばかりのものだから、信憑性なんてものはないが…私はそうではないかと考えている。あまり本気にはしないでくれ」


 ギルドマスターは控えめにそう言うが…。


 いやいや。それ…あながち間違ってもないかもしれないぞ?

 むしろそれが答えだろ多分。


「…ナナ、お前の感覚と予想の範疇でいいから教えて欲しいんだが…仮にお前が無属性魔法を扱えた場合、それは可能か?」


 魔法に精通し、自ら魔法を作り出すことのできるナナに、俺は聞いてみる。

 すると…


「んー…できるね。多分だけど…」


 おお!? ナナ先生、それはホンマですかいな。

 その根拠はなにゆえ…。


「!? それは本当か?」

「うん。『転移』ってさ、自分の魔力の届く範囲の魔力と自分の魔力を入れ替えることで、移動を可能にしてるんだよね?」

「え……そう…だな…?」


 ナナの説明が始まるが、初っ端の質問から躓く俺。

 ちょっと俺の思っていた内容とは違い、確信も得ないまま適当な返事をしてしまう。


「あれ? …違うの? 見た感じだとそう見えたんだけど…」


 ナナは『魔力の理解』があるからか、魔力の流れといったものも見ることができるらしい。

 そのため、人の持つ魔力波が鮮明に見えるおかげもあって『大地の鼓動(ガイアビート)』の応用を可能にしているそうだ。ブラボー。


「いや、…俺はてっきり、広げた魔力を伝って移動しているものかと思ってたんだが…」

「…知らなかったの?」

「初めて聞いたし知ったぞ…」

「はぁ…。まぁあんまり気にしなくてもいいだろうから別にいいか。それでまぁ、そんな感じなんだけど…。その空間ごと転移させるなら、移動させるのを個人からその周囲一帯にすればいいだけだから、無理なことはないだろうね。『転移』と似た要領でやればいいだけだし」


 ナナが、ふぅやれやれとため息を吐きながら説明する。


 簡単に言うね…お前。

 それができないのが普通だぞ? 周りと自分の違いをハッキリ理解しなさいっての…。

 できるのはお前くらいだ。


「ただ、『転移』が自分しか移動できないのは、自分の魔力波を利用しているからだと思うんだよねー。だから、空間ごと移動する場合は周囲の魔力を自分のものと同調させる必要があるんじゃないかな。…例えば、ここにいる皆を移動させる場合だと、仮に私がその魔法を使えたとして、皆私の魔力波と一緒にする必要があるみたいに…ね」


 ……出来んの?

 ちょっとナナちゃんや。流石にそれは難しすぎるんでねぇの?


 俺はナナの言うことに対し、半ば実行不可能ではと思い始めてしまった。


 しかし…


「同一な魔力なら…同様の効果を得られるというわけか」


 ギルドマスターが感心したように頷き、ナナの発言に同意している。

 2人はよく分かっているっぽいが、俺と、魔法は専門外に等しいポポは理解できずに取り残される。


 2人して話を進めないでくんさい。


「そゆこと。それを裏付けることとして…ご主人。『アクアボール』出してくれる?」


 と、そこにナナからの要求が入る。


「ん? ……ほい。これで何をするんだ?」


 どうやら実際にやってみるらしく、言われた通り『アクアボール』を出して、ナナにどうするのかを尋ねる。


 でも、正直な所助かった。やっぱりこういうのは実際に見てみるに限る。


「まー見ててよ。……こっちがご主人の『アクアボール』で、こっちが私の『アクアボール』ね。当然、ご主人の方は私が操ることはできないよね」

「そりゃな。俺もお前のは操れんし」


 俺から見て右側のが俺の出したやつ。そして左側のがナナの出したやつである。

 どちらもフヨフヨと浮いている。


 その浮いていた『アクアボール』を、ナナは自分の方を動かすことでぶつかり合わせる。

 そのため、『アクアボール』は合体して先ほどよりも大きな塊へと変わる。


「この通りぶつけ合うと…こうして混じって大きくなるよね。…でも」

「……消えましたね」


 一度は合体して大きくなった『アクアボール』だが、次第にブルブルと不安定な状態になり、最終的には消えてしまった。


「同属性だから一度は相入れても…すぐに消滅しちゃう。それは違う魔力波同士で反発しあうから。この状態で操れないのも、私とご主人のとで違う魔力が混じって形成されてるからなわけ」

「ほぅ」

「ふむふむ」


 流石にこれくらいは、言っていることの意味は分かる。

 硬水と軟水みたく、水に変わりはないが質が違うみたいな感じだろう。


「…ご主人、じゃあ今度はこの状態で『アクアボール』を出してもらえる?」


 ナナが、俺の肩から腕の部分までヨジヨジと移動を始める。そして手の部分までくると、俺の手に翼を添えるように重ねた。

 すると…何やらいつもとは違う感覚が俺の中に混じってきた。


「…なんか変な感じがするんだが、これはなんだ?」

「今私の魔力をご主人に流してるからねー」

「そうなのか? …まぁいいや。はい」


 ナナが優秀なのを改めて実感しつつ、指示に従う。

 発動の際に普段とは若干違う感じがしたが、問題なく発動させることができたのか先ほどと変わらない『アクアボール』が宙に浮いていた。


「…ありがと。これは私が発動したものじゃなくて、ちゃんとご主人が発動した『アクアボール』ね。それで…こっちが私の魔力で作ったやつ。今度はこれを合わせてみよう。………」


 また先ほどと一緒の要領で『アクアボール』をぶつかり合わせるが…


「…消えませんね」


 今度は消えなかった。

 大きくなった後、そのままその状態を維持している。


「うん、消えないの。さらに……こうやって私の意思で動かすこともできる」

「おおー。マジだ」

「なるほど。そういうことか」

「…つまり、ご主人の魔力波をナナのものに変化させたんですね?」


 三者三様の反応を示していると、目の前の『アクアボール』があちこちへと動きをみせる。


「うん、そのとおり。今回は私が直接ご主人に干渉して、魔力を一時的に私のものと同質なものに変化させたけど、この要領で魔力を自分のものへと変えさせることで、自分以外の人にも『転移』は使えるんじゃない? 反発も起こらないし。今こうして私がこれを操れているように…ね。空間ごと転移させるのもこれができれば問題ないと私は思うんだけど」


 さ、流石ナナちゃんだぜ……。ご主人はびっくらこきましたよ。屁はこきませんが。

 ここまでのことをやってのけることができるとはねぇ…。


 ただ…


「ナナ、自分の魔力波を相手に与えるのって…ムズくね?」

「…そうだね。簡単にはいかないかも」

「だよなぁ…」


 ですよねー。

 そんな簡単にできる芸当じゃないよな流石に…。魔力波は静脈みたいに人によって違うとか以前言ってたような気がする。それに影響を与えずに変えるんだから…適当にやってできるもんでもないし、最悪悪影響が出る可能性だってある。


 そう考えると、さっきナナが失敗していたらと思うとゾッとする。


「…でも、もしそれが出来た場合は、そいつらの魔力範囲がとんでもなく広くならないか? 相当な移動距離をしてると思うんだが…。それに魔力だってどこから調達して…」

「確かにな」


 安堵を抱えつつ、話を進める。


 1人で移動する『転移』でさえ、それなりに魔力を消費するのだ。今回の1000体近い規模のモンスターを移動させるとなったら…それはとんでもない魔力が必要となるのは必至なはず。

 その辺りがどうも謎だ。


「その辺りはちょっと分からないかな~。もしかしたらそれを可能にした手段でもあるのかもしれないし…。魔法じゃなくてスキルによるものだったら尚更じゃない?」

「…こればっかりは分からんな。ただ…あの集団が『転移』されてきたというのは濃厚かもしれぬな」

「そうですね、流石ギルドマスターッスね」


 ふむ…。

 まさか……連中全員がこの力を持ってるとかじゃないよな…?

 もしそうだとしたら…手が付けられなくなる。


 姿も分からぬ連中というだけでも不安なのに、ここにきてまたとんでもない力を保有している可能性が出てきたことに対し、胸を不安が締め付ける。


 あぁ…今思えば俺、命…狙われてるんだよなー…。

 全然そんな気してなかったけど……そろっと本気でヤバそうだなー。アハハ…ハ……はぁ。


 何故ここで怯えるとかではなく、面倒くさいという考えが浮かんでしまったのかは分からない。ただ、もうこの世界に適応してしまっているし、それにこのステータスをしているから、危機感を持てと言われる方がおかしいのかもしれない。


 だんだん人ではなくなっている気がしてしょうがないねぇまったく。…ま、今に始まったことではないが。


「…それが事実なら、大量のモンスターが連中に飼いならされてるってことになりませんかね?」


 つまり、『空間転移』が出来て、生まれた頃から大量のモンスターを一緒に飼い、そして育てることのできるスペースがあるということだ。

 どうにも信じがたいが…


「…事実、そうなるだろうな」


 ギルドマスターの返答は俺の予想していたものと一緒だった。


 マズくねそれ? だが…こんなことをどこでどうやってやってるって言うんだ?

 こんなに大規模な事…バレない方が難しい。というより、それを維持、管理するのも洒落にならないコストが掛かるに決まってるというのに。


 本当に信じがたい事実だ。


「…カミシロ。そういうわけでな、このことは私が報告書としてまとめ、本部に出そうと考えている。勿論お主の名前も添えてな」


 今話した内容と考察を、どうやらギルドマスターは本部に出す旨を俺に伝える。

 別に伝えられて困る内容でもなく、むしろ伝えるべき内容なのは間違いないので反対の意思はない。


 まぁ別に俺の名前はいらんとは思うが…当然了承である。


「お願いします」

「うむ、任せておけ。…しかし、これが通れば…間違いなく招集が掛かるだろうな」

「ですよね…」


 例の招集か…。

 まさかこんな早く来るかもしれないとはねぇ。

 面倒だから無い方がいいけど、むしろあった方がいいだろうしなんとも言えない…。


 招集に嫌だなぁと感じながら、さらに伝えておくべき…正確には以前も伝えていたことをギルドマスターに再度話す。


「あとギルドマスター。奴らは強い人を狙っているのは事実です。それだけはせめて通達して通して欲しいんです。警戒するようにと…。冒険者以外の人にもできれば拡散するべきでしょう」


 冒険者だけにしか強い人がいないわけではない。

 国を守護する屈強な騎士や兵士。中には一般人でありながら破格のステータスを誇っているにも関わらず、別の生業で生計を立てている人だっているのだ。

 狙われているのは冒険者には留まらないだろう。


「…分かった。それも伝えておこう」

「すみませんね、お願いばかりで…」

「…またラグナのようなことを起こされては笑い事では済まないのでな。お主が常にいるとも限らないし、本気にもなる」


 まぁそりゃそうだ。

 出来る限り防げるように努めるのは当然だ。それがギルドの役目とあらば、蔑ろにしてはいけない。


 すると…


「…お主はしばらくはこの町にいるのか?」


 ギルドマスターが話題を変えてくる。


「その予定です。動こうにも情報がないので…」


 言った通り動く気はない。


 だって、どないせーっちゅうねん。

 適当にその辺探して来いってか? 宝探しじゃあるまいし…。

 もっと有力な情報が入ってからじゃないと動くに動けませんよ。


「それもそうか」

「ですから、ヴァルダにも当たってみるつもりではあります」

「…あの者か」


 俺がヴァルダを頼るつもりだと話すと、急にゲンナリした顔にギルドマスターはなってしまった。

 思い出してはいけない何かを思い出してしまったような感じに…。


「なんですか…その顔」


 俺が理由を聞くと、ギルドマスターは言いづらそうにして理由を話す。


「う、うむ。私は…あの者が少々苦手でな。会うと毎回おかしなことを言われるのでどうもな…。対応に困る」


 アンタもかーいっ…! 

 なに…なんなのアイツ…。ギルドマスターにも俺と同様の口の聞き方してんの? 馬鹿なんじゃないの? 頭殴ったらその頭直んないかなぁ? あ…死んじゃうか。でもそれでもいいか、アイツだし。

 死んだって死ぬようなタマじゃないんだ。タマを潰しても人間が(一応)死なないように、頭を潰したところでアイツが死ぬわけない。うんそうだ、そうに決まってる。


 適当なことを言って、適当な考えでそう決めつける。

 それくらいでいいのだ、ヴァルダに対しては。


 だが、そんな奴ではあるが…腕は確かだ。

 シュトルムが知識欲の塊なら、アイツは情報欲の塊といえる。情報屋は奴の収入源だから当然金は払わされたが、以前俺が興味本位で聞きたい情報を適当に聞いてみたら、それは全て正しい情報であったし、仕事はしっかりやるタイプなのは既に分かっている。

 変態もしっかりやるタイプなことは間違いないが…。


 しっかり変態をやるって…なんだ? 自分で言っといてあれだが。

 …奴が変態なことに違いはないから…いいか。


「ギルドマスターもなんだ?」

「ということは、お主もか?」

「ええ、まぁ…」


 俺が答えると、ギルドマスターがパァ、と…僅かだが表情に明るさが戻る。


 いやいや、何を嬉しがってるんですか…。違うでしょその反応は…。

 何も解決しちゃいないですよ? ヴァルダをなんとかしないと。


「そうか。私にも言えることだが……気をしっかりな?」

「…お互い頑張りましょう」


 それ以外の言葉が見つからないため、似たような言葉を俺も返す。




 なんにせよ、変な共通点のある俺らだった。

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