115話 喧嘩と教育
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「さて、こんな感じでいいか…」
部屋に戻り、一通り招く準備を済ませる。
…とは言っても、足りない椅子を準備しただけなんだけどね。
「ご主人や、私たちの席はないんですかい?」
もうこれでいいやと俺が思っていた横で、ナナが何か言ってくる。
「お前らは…そこで良くね?」
と、元々備え付けてある机の上を指さすが…
「サービス悪いなぁ…もう」
俺がナナの分を用意していないことに悪態をつかれた。
なぜお前にまでサービスしなければならないんだ…。第一必要ねぇだろ。
わざわざ鳥サイズの椅子を作れってか? 確かに魔法ならそれも可能だろう。だが悪いな…俺は不器用なんだ。他を当たってくれ。
「ナナ。私たちのサイズじゃ特に必要ないんだからいいじゃないですか…」
そうだそうだ! ポポ、もっと言ってやれ。
最近ナナの態度がふてぶてしいから、お前がストッパーとなってくれると助かる。
マジで焼き鳥にして食ってやろうか思いそうになることもしばしばである。いや…冗談だが。
「…ま、いいや。…ここをこうして……足はスラリと……私の形にフィットするこの形にして……」
ナナは氷の魔法を応用して椅子を成形していき…
「じゃーん! どう? この作り…結構良くない?」
「「おおー!(パチパチ)」」
キラキラと輝く小さな氷の椅子が、そこにはあった。
その造形がなんともまぁ見事であり、足はしなやかに細く綺麗に曲線を描き、腰掛ける部分はナナがフィットするような大きさに調整されている。不純物の混じっていない氷は透き通り、光の反射がなければ宙に浮いているのではないかと思う程に透明度が高かった。
それを見た俺とポポがナナのセンスに拍手を送ると、ナナがふんぞり返ってその椅子に座り込む。
「ん~。我ながらとんでもないものを造ってしまったね~」
そして足を交差させて腕(翼)を組み、威圧感丸出しの体制になった。
「…どっかの社長みたいだな」
「偉っそうですねぇ…」
それを見た感想としては、そんな感じだ。
これで色付きのサングラスでもしようもんなら、間違いなくかなりのやり手な社長らしくなる。
「ホラ、秘書さん! 今日のスケジュールは?」
ナナも俺と同じ考えだったのか、調子に乗って役を演じ始める。
せっかくなので俺もそれに付き合うことにした。
「えー、本日のスケジュールは、この後皆様との懇親会が入っている予定でございます」
「…それ、私必要なの?」
「勿論でございます社長。社長がいてこその懇親会ゆえ…」
「ふ~ん? 中々楽しめそうじゃないの。内容はどんなものなのかn「調子に乗るんじゃありません!」あいたっ!?」
ベシッ…と、ポポのツッコミがナナに入る。
どうやらポポの癪に障ったようである。
「痛いよポポ~、冗談だって~」
「流石に度が過ぎますよ」
う~ん。こういう馬鹿なノリは俺好きだし別にいいんだが…。それにお前もたまにこんな風な感じの時があるような…。
言わんけど。
「ご主人も何でノリで付き合ってるんですか…」
「え? あ、いや…その…スンマセン。なんとなくだったんですが…」
「もう少し主人としての威厳というものを身に着けて欲しいのですが…」
「えっと…スンマセンした」
何故か怒られた。
あと言った傍から上下関係が逆になってるのは気のせいでしょうかね?
まぁ別にいいんだけど。
「はぁ…まぁいいです。…で、今日話すことって、ご主人のことですよね?」
あ、分かってた? 流石ポポだな。
「…やっぱ分かってたか」
「この前言ってましたからね。…いつも通り気楽に話せばいいかと…。あの人たちは信用できます。私とナナもそう思ってますから…」
「ねー」
「…ああ。だよな」
ポポとナナも皆のことは信用しているみたいだ。
どこからどこまで話すのかの相談も少ししたかったが、その前に…
「ところでナナ。お前…冷たくないのか?」
ナナの状態を見てポツリ…。
ナナは現在氷の椅子に座っている状態だ。直に座っているため、例え羽で幾分か地肌に触れていないとはいえ、冷たいことには変わりないはず。
だが、それでも平然と座っているのがどうにも不思議でしょうがない。
すると…
「…アハハ、何言ってんのご主人~、氷を自在に操れる私がそんなわけ………あるわ」
「「あるんかい!」」
オイッ!
ポポと同じタイミングでナナにツッコミが入る。
「さむ…このままじゃ霜焼けになるぅ~…」
ナナが今更自らを襲い始めた寒さに震え始める。
アホらしくて何も言えない。
…いっそのことなったらどうだ? 発熱して温まるかもしれんぞ。
「でも、座り心地は良いんだよねぇ~……」
寒さに震えつつも、それでも椅子からは離れない。
ドMかよ…。Sっ気もあってMもあるとか…手がつけられんわ。
「はいはい退いた退いた。これから真面目な話するんですから、こんなのは…」
俺がそう思い始めた所でポポがナナを椅子からひっぺがえす。
そして、がら空きの椅子に向かって翼を振り上げて…
「フンッ」
バキンッ…と、ポポが氷の椅子を叩き壊した。
細かい造形だったためか、強度はそれほどなかったようである。
「あああぁぁぁっ!!? 私のクリスティーナがああぁぁぁっ!!?」
ナナが、どうやら椅子の名前らしき名称と共に悲痛な叫びの混じった声で叫ぶ。いつものおっとり声はどこにもなく、バラバラになった椅子の残骸を見て打ちひしがれている。
「何名前つけてんですか! んなもんまた作ればいいでしょうが! てか、ご主人の準備の邪魔するんじゃありません!」
「よくもクリスティーナをっ! …やんのかコラアァァッ!」
一方ポポはというと呆れて少々激が入りすぎているようだ。
力作だったのか、椅子を壊されたことに対してナナが怒り、ファイティングポーズをとってポポに向かい合う。
「ふぅ…器が小さすぎるんですよナナは」
それを見たポポはナナの器を小さいと吐き捨て、やれやれと両翼を振る。
それはまるで子供を相手にしているかのような言い方で、正論とはいえ火に油を注いでるだけなのではと思ってしまった。
そこにナナの反撃が始まる。
「うるさい貧弱! いっつも中途半端のくせに! この雑魚!」
「(カチン)…ほぅ、私が中途半端で雑魚とはどういうことですかね?」
あ。ポポがちと気に障ってる気が…
「言ったとおりの意味だよ! 脳みそまで中途半端になったの?」
オイオイ…そりゃ言い過ぎだろ。
「……(ヒュッ)」
一拍置いた後にポポが無言で『羽針』をナナに向かって打ち込むが…
「効かないもんね、ポポのバーカ」
女の子とは思えない汚い言葉でポポを罵るナナ。
ナナは目の前に氷の壁を作り出し、ポポの『羽針』を軽々と防ぐ。
結果、カキンと弾かれた羽は、パサッ…と机の上に落ちた。
それを見たポポは…怒りがついに爆発してしまい…
「口の聞き方に気をつけなさいっ! この単細胞!」
「なんだとぉっ!!」
2匹の喧嘩が始まった。
今まで一緒にいたがコイツらが喧嘩するのは初めて見たし、まさかこんなしょーもないことで喧嘩になるとは思いもしていなかったため、度肝を抜かれる。
「オイ!? お前らやめろ! 部屋が荒れる!」
この狭い空間を縦横無人に飛び回り、ガチのバトルが展開される。
せっかく用意した椅子等が乱れ、魔法と物理…冷気の嵐と風の嵐が衝突しあい、部屋を暴れ始める。
静止を呼びかけるも俺の声は届かず、コイツらのバトルは続く。
「チッ! 言うこと聞けやこんのアホ鳥共がっ!!」
「「黙れミジンコ!! 口挟むな!」」
ピキッ
綺麗にハモった2匹の言葉が、俺の癇に障った。
「………あ゛?」
「「ヤバ!? つい本音が!?」」
2匹は動きを止めてすぐさま自分たちの言った言葉がどんなものだったかを理解し慌てるが、もう遅い。
な~にが本音だぁ? 捻りつぶしてやろうか?
「あ゛ん? ………(バッ)」
「「!? む~っ!!?」」
問答無用の『バインド』を部屋の四方から出現させ、逃げるコイツらの体に引っ付かせる。
そして『バインド』が着弾したのを確認してから、体を次々とグルグル巻きにしていく。
1つじゃ生ぬるいから…3つ…いや、5つだな。おっと暴れても無駄だ。お前らじゃこれは解けねぇよ。
俺が『バインド』で拘束したことで、飛び回っていたコイツらはボトリと床に勢いよく落ちる。
抵抗できず、声もロクに出せないそれを俺は拾い上げ、『バインド』を追加で天井から出現させ、コイツらをミノムシのようにぶら下げるが…まるで干物を干しているかのようにも見えた。
同時発動の無駄遣いだが、結構結構。
親として教育のためには如何なる手段をも辞さぬ精神を持ってるだけですから。
「さて…焼く? 毟る?」
無抵抗となったコイツらに尋ねるが…
「むむぅーっ!? むむむむむぅー!(イヤアアアッ!? ゴメンなさいぃぃぃ!)」
「ふむぅぅぅぅぅっ!? むうむむむむぅぅぅっ!!(うわああぁぁぁっ!? 悪気はないんですよおぉぉぉっ!!)」
「あ、そう? ご主人はミジンコ以下ですね。むしろそれにすらなれないカスですね、とな…。ほうほうそうかそうか…言い分は分かりました」
「「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!??(そこまで言ってねえええぇぇぇっ!!??)」」
…活きのいいミノムシだな…まったく…。
◆◆◆
そして……
「お前ら、皆揃うまでその状態な」
「「むむぅ…(はいぃ…)」」
2匹が力なく呻く。
取りあえず反省させるために、先ほどの状態をキープさせることに決めた。
ミノムシみたいにプラプラしてて恥ずかしいが、皆に見られることによる羞恥心も与えようと思っている。
逆さづりの刑…頭に血が上って苦しめ。そして反省しろ。
サンドバッグみたいにしないだけありがたく思え。
散らかった部屋を直して…後は皆を待つだけだ。




