114話 感情の表れ
「ふぅ~、東独自の料理も美味かったが、やっぱりこっちの方が俺には合うな」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「…どっちもおいしい」
「私はどちらも好きですね」
あの後『安心の園』へと戻り、皆が部屋を取っておいてくれた自室で一休みしたのち、こうして夕食を現在食べている。
もうそれぞれの皿は綺麗になりつつあり、食事はもうすぐ終わるといったところだ。
俺たち以外の宿泊者は珍しくいないため、ミーシャさんも加わって今は談話中である。
…が、俺はその内容まではそこまで把握していない。
「…カミシロ様?」
「………」
「ご主人、呼ばれてますよ」
「へ? …ああ、えっと…何です?」
少し考え事をしていたから、ヒナギさんの言葉に気づくことができなかった。
ポポの声でようやく気付けた。
「いえ…いつもよりも少し顔色がよろしくないように見えたものですから…」
考え事をしていただけだったんだが、どうやら周りからは違って見えていたらしい。
…俺は何かものを考えている時は体調が悪いように見えているということか。
う~む。試験やテストの時…そして悩みごとをしている時もこうだったんだろうか? 一度たりとも心配されたことないんだけど…。これが本当なら皆さん薄情じゃないですかねぇ。
自分の今までの経験を思い出す。
そして特にそんな心配をされた記憶がないことに、変な推測を始める。
あ、そうか。なるほどなるほど。
ズバリ! 見て見ぬフリがお好きだったんですね皆さん。
気になる…チラッ。気になる…チラッ。あともう少しだけ…チラッって感じに…。
ハハハ…きっとムッツリなんですね、私分かります。何を隠そう私もムッツリですから。
皆さんのお気持ち、ちゃんと私の胸に遅くではありますが届きましたよ。
…何を意味不明なこと言ってるんでしょうか私は。
色々と捻じ曲げすぎてこれじゃ妄想の領域になってしまっているよ。ふぅーやれやれ。
…まぁ取りあえず、今言ったことを当てはめたとして何が言いたいかと言うと、ヒナギさんはムッツリではないということだ。
根拠はないですけどねー。
おっといかんいかん! こんなこと考えていたわけじゃないんですよ私は。
ヒナギさんスマソ。
「さっきから黙ってるけど…どうかしたか?」
「…ちょっと…な」
本当はちょっとどころではないが。
「あの…もしかして私お邪魔でしたか?」
「いや、そうじゃないから大丈夫。ミーシャさんが気にすることじゃないから」
「そうですか…ならいいんですが…」
耳を少しへたらせながら、ミーシャさんが困惑した顔で言ってくる。
どうやら勘違いをさせてしまったようだ。
実際ミーシャさんは関係ないので、悪いことをしてしまったと思いつつ、考えていたことを実行すべく俺は口を開いた。
「…シュトルム」
「ん?」
「セシルさん、ヒナギさん」
「ん」
「はい?」
ミーシャさんを除いた3人へ向けて話しかける。
決してミーシャさんをハブにしてるわけではない。…いや、ハブにしてるわけじゃないんだけど、ハブにしないといけないというか…むにょむにょ。
取りあえず、ミーシャさんには聞かせられないことがあるだけだ。
「この後…少し話したいことがある。一休みしたら…俺の部屋に来てくれないか?」
「ご主人…」
「なるほどね~。ま、私も賛成かな」
ポポとナナは俺の言いたいことをどうやら察したようだ。
「……はいよ。分かったぜ」
「ん、了解」
「分かりました」
3人もどうやら察してくれたのか、始めはキョトンとしていたが悟ったように頷いてくれた。
「何か会議でもするんですか? もしそうなら飲み物でも持っていきますけど…」
それを見たミーシャさんが俺たちを気遣ってくれるが…
「気遣いありがとうミーシャさん。でも、今回はちょっと遠慮するよ」
「…そうですか」
内容的にミーシャさんに聞かせる訳にはいかない。
シュンとしてしまったので、席を立ってミーシャさんの頭をポンポンと軽く撫でる。
「あ…」
「ゴメンね。ちょっと話しにくいことだからさ…。気を悪くしないで」
「…はい」
俺がミーシャさんの頭に手を乗せると、ミーシャさんの耳がピコピコと動き、尻尾がパタパタと横に揺れる。
手に伝わるミーシャさんの髪がとても柔らかく、ずっと触っていたいほどだ。
「おーおー、よく揺れる」
「…嬉しいみたいだね」
「カミシロ様がお兄さんみたいになってます」
それを見た3人が感想を述べているが…。
う~ん、確かに妹がいるならこんな感じがベストでしょうよ。
これがリアルなのが信じられないくらいだ。異世界補正パネェッス。
地球だったら袋叩きにされるだろうな…あんまり聞かないし…。
『ウザい! 触んな!』
『え、キモイんですけど…』
『死ね!』
…今までこんな感じのことしか聞いたことないぞ。
もしミーシャさんがそんなことを口走るかと思うと……ああっ! ダメダメそんなの許しません!
………ふぅ、想像したくねぇ。
ちなみに、獣人の人は訓練? をしないと感情が耳や尻尾に表れてしまうようで、大抵の人はこうして今のミーシャさんのようになってしまうらしい。
…まぁ、ミーシャさんに手を乗せるのは今までに何度かやった試しがあるんだが、最初の時もこんな感じだったし、やはり嬉しいっぽい。
始めは特に意識したわけでもなくただ興味本位でやってみたんだが…それが今は普通にこうして自然にできるほどになっていた。
所謂偶然の産物ってやつですな。
正直な所、妹が俺にもしいたらこんな感じがいいなぁと思ってます。
「あ…」
名残惜しすぎるがミーシャさんの頭から手を放し、2階へと向かう。
「じゃあ、俺先に戻ってるわ。皆が集まったら話すよ」
そうして自室へと俺は一足先に戻ったのだった。




