112話 帰還
グランドルの東の草原上空。
アネモネを発ってから既に2日が経過している。
今回は寄り道をしなかったことと、ポポとナナが『覚醒』していたこともあって、二度ほど宿屋に立ち寄るだけで済んだ。
…まぁ、あの地に思うことが無いわけがなく、アネモネを発つときは幾分かマシだったものの、後からジワジワと状況がどうなっているのかが気になり始めていたりする。
だが、これについてはトウカさんを信じるしかない。
「…行きよりも早く帰ってこれたな」
「そりゃまぁ…今回寄り道してませんし」
「んじゃ、降りよっか? 落っこちないようにね~」
二匹が降下を始める。
降り立つ地点はもちろん草原だ。
町の中でやろうもんなら、問答無用で罰則が科せられる。
グランドルでなら俺達のことを知っている人は多いし平気そうではあるが、だからといって規則を守らないのはどうかと思うしな。
以前王都をナナと一緒に出たときは、移動が早すぎて認識されなかったのか特にお咎めなかったけどね…てへ。
「…お疲れさん。疲れたろ? ほれ、フードで休んでてもいいぞ」
全員が地面に下りたのを確認し、ポポとナナに俺はそう告げる。
肉体的な疲れはそうではないだろうが、ずっと人を背に乗せて飛び、落ちないようにバランスを取りながら飛び続けるのはストレスが溜まるだろう。
少しゆっくりしなさいな…。
「そうさせてもらいます…ちょっと流石にゆっくりしたいです」
「遠慮なく~」
二匹は巨大化を解除し元の大きさへと戻ると、足早に俺のフードへと潜り込む。
重くはないが、フードが下に引っ張られるような感じになり、首元が少し絞められるが…特に気にするほどでもない。
偶にやってるし、慣れたものである。
「…可愛い」
俺のフードを見てセシルさんが呟く。
「ええ…本当に…」
そこにヒナギさんも加わり、女性陣がほっこりした表情でそれを見つめる。
「…まぁ、取りあえず戻りますか。皆も中々疲れただろうし、今日はもう休もう」
時刻はまだ昼過ぎといったところか…。
しかし、ポポとナナが疲れたように、俺たちもまた暫くの間動いていないので、体が硬かったりしているため少しほぐしたりしたいところ。
「おう。行くとするか」
シュトルムの声で、各々グランドルに向かって歩き始める。
…女性陣は俺の後ろにピタリとくっついては、2匹を見てはいたが。
若干気まずさを感じながら俺は歩いた。
「ん? やあ! 久しぶりだね」
門へと着くと、俺たちに軽快な声で話しかけてくるお方がいる。
「旅は楽しめたのかな?」
うっひょおおぉぉぉっ!!
あれは俺の心のオアシス! イケメンプリンスのラルフさんじゃないッスかぁっ!
会いたかったです~!
皆お待ちかねのラルフさんである。
俺は心の声は出さずに、平静を装って返事をする。
「はい。色々ありましたが…楽しかったですよ?」
「そうか。…お疲れさま。疲れてるだろうからゆっくり休むんだよ? …あ、一応証明を見せてくれ」
や・は・り。この人はプリンスやで~。
こちらの状態を先読みしての気遣いが、もう手の届かない位置にまで到達しているぜ…!
さらに自分の職務を忠実に行うこの精神。いかなる時もこの人は仕事人の模範として輝くことでしょう。…尊敬いたします。人として…一人の男として…。
…最後のは流石に冗談ですがね。
「皆さんもおかえりなさい」
「ん、ただいま」
「おう」
「ご丁寧にどうも…」
こうして俺たちは、グランドルの町に帰って来た。
◆◆◆
「あ~! 兄ちゃんだー!」
「ホントだー!」
町に入ってすぐ、子供達の姿が目に入る。
それは俺が暇を見つけては遊びに付き合っていた子供達で、小学生の低学年くらいだろうか? こちらを見るや否や一目散に駆け寄ってくる。
「おー久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」
「うん! 兄ちゃんは?」
「ああ、元気だぞ」
暫く見ていなかったのでここ最近のことを聞いてみるが、変わりないようだ。
子供は風の子元気の子。…うむ! 実に素晴らしい。
息災で何よりである!
「そっかー! 兄ちゃんあそぼー。それかなんかお話聞かせて~」
「聞きたい~」
いつも軽くだが…依頼での出来事や経験を話してたりしてたからか、毎度このように注文されるようになってしまった。
いやぁ…お兄さんって人気者ってことですかねー? 照れちゃいます。
まぁリクエストにはお答えるできるくらい色々あったんですがねぇ…お兄さん、やることあるんスよ。
「ゴメンな。俺ちょっと寄るところがあってさ…また今度な」
「え~!」
「なんでよー!」
やはりというべきか、子供らしく駄々を捏ね始めてしまう。
「今度…土でドラゴンの造形を作ってやるから、許してくれよ」
「え? ホント!? じゃあその時まで待つー」
「じゃあ行こうぜ!」
俺がそう伝えると目をキラキラさせ、納得したのか嵐のように去っていく。
元気だねぇ…そして現金だねぇ…。
洒落とかではなく純粋にですが。
これで無理だったら俺が駄々捏ねてやろうかと思ったんですけどねー。
地べたを転がって、「嫌だ嫌だ~!!!」…ってね。
大人の駄々捏ねなんてそうそう見れるもんじゃないぞ?
…まぁ、やったら俺は社会的に死ぬだろうけど。
「相変わらず人気だな」
そこに、シュトルムがやれやれと言った感じに話しかけてくる。
「子供は純粋だからな。…何も考えなくていいし、結構安らぐもんだよ」
「そういうもんかねぇ…。元気過ぎて安らぐどころじゃない気がするんだが…」
「それでツカサ。寄るところって?」
「…ギルドマスターのところかな。ちょっと学院の方から頼んでた連絡が届いてるかもしれないから、確認しておきたいんだ」
「あ、そうなんだ」
一応極秘ということになっているので、特に皆には伝えていない。
「ギルドマスターに軽々会えるとかお前くらいだな…」
「そうかぁ? 結構あの人、色んな人招いてそうだけど…」
「…違ぇよ。お前くらいだそんなん」
ふむ。いまいち実感が湧かないな…。
何かと頻繁に呼ばれるから、職員室みたいな感じに思ったりしてるんだが…。
あ、いや…私はそんな問題児じゃなかったですよ? 勉強のできない優等生ではありましたけども。
と、とにかく…
「だから、取りあえず『安心の園』に戻ってて。シュトルムは…」
「俺もそこにするわ。部屋が開いてなかったら…また別んとこ行きゃいいし」
シュトルムは『安心の園』には基本泊まっておらず、安い宿屋を転々と回っているため、固定の宿屋を持っていない。
戻ってくる時に、今日の夜皆に話したいことがあると俺が言ったので、そう判断したようだ。
「では、カミシロ様。また後で…」
「はい」
やがて分かれ道に差し掛かり、ここで一旦皆と別れ、別行動をとる。
「…さてと、情報は届いてるかねぇ」
俺はギルドに向かい始めた。




