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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
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108話 VSブラッドウルフ④(別視点)

「羽兵を展開……我に従え! 『六の型・皇帝』!」


 ポポが叫ぶと、ポポの周囲に舞っている羽が全て鋭利な刃と化し、一斉にブラッドウルフへと切っ先を向ける。

 1つ1つは小さいが100に近いほどの刃は圧巻で、大きなものと錯覚してしまいそうなほどの威圧感を持っている。

 とても…これが羽だったとは思えない。


【鳥拳】は、もはや武術といっていいかは分からない領域まできつつあった。


「左翼…初撃!」

「…グッ!?」


 ポポが羽を振るうと、ポポの左側に構えていた刃たちがブラッドウルフへと飛んでいき、皮膚に突き刺さる。

 胸を中心に注ぎ込まれる刃の群れに、乱れは一切ない。爪でいくつかは弾かれてはいるものの、数が多いので全ては防ぎきれないようだ。


「右翼…追撃!」

「グルゥ…!」


 ポポの追撃は続く。

 怯んだところに、今度は右側の刃を放つ。


 そして…


「本隊! 構え、『従』! 『四の型・鳥剣(ウィングブレード)』!」


 今度はポポ自身がブラッドウルフに肉薄。自らの羽に刃を延長させるように重ね、通常よりも倍近い長さを持った『鳥剣(ウィングブレード)』が、ブラッドウルフの足を斬り落とす。

 刃達はポポの望むがままに動き、従っているようだ。


「ッ!?」


 ポポは前足二つを斬り落とすつもりだったようだが、怯んでも立ち直りが早かったようで、右足一本を斬りおとすに留まったようだ。

 だが、バランスを崩すことには成功し、そのまま畳みかける。


「くらえ!」


 ポポが急旋回し再度肉薄。回転しながらブラッドウルフに向かって突っ込む。

 それに合わせるかのように刃達も一緒に回転し、大きな円を形成。まさに一心同体の動きをしている。

 以前司に食らわせた回転速度とは段違いで、触れたら消し飛ばされてしまいそうなほどだ。


「『ボルテックス』!!!」


 相手がいくら素早いとはいっても、今は脚が一本欠けた状態。当然反応は遅れる。

 加えて、ポポは速度だけならこの中で最速を誇るため、見事に直撃した。


 若干下から押し上げるように胴体に叩き込むことに成功。

 ポポはそれを確認して一度後退するが、ポポを取り囲んでいた鋭い刃達はそのまま回転を継続しブラッドウルフの体をガリガリと削る。まるでドリルのようである。

 胴体を抉り、次第に頭や脚の…全身が少しずつ巻き込まれていく。

 次々と血肉が辺りに飛び散り、血の匂いがこの場に充満していく。


「……!!!?」


 回転の中心部である胴体は切削が進み、頭部はまだ脳までは達しておらず健在なようだが、口は既に原型を留めていないため、声を発することもできないようだ。

 生きてはいても、思うように声も発せずただ自らの体が削られていくのを見ることしかできない。なんともおぞましい状態である。


「消し飛べ!!!」


 ポポが叫ぶと回転は速度を増し、遂にブラッドウルフの体を貫いた。

 回転していた刃は動きを止め、また再びポポの周りへと展開する。


 辺りは一瞬静寂へと変わり…



 ボトッ



 …その静寂の中、鈍い音が弾けた。


 静寂を止めたのは、胴体を貫かれ、その時に体から分離した…ブラッドウルフの頭部であった。

 ボトッ、ボトッと、ボールのように何度か跳ね、そして動きを止めたそれは、目は完全に抉られ、頭骨が見え隠れしていた。


「ポポ様!」


 それを皮切りに、ヒナギが肩を抑えつつポポに駆け寄る。

 …が、ポポはヒナギに見向きもしない。じっと前を見つめているだけだ。


「ポポ様? …ま、まさか…!?」

「まだ…これでもまだ…死なないのか…!!」


 ヒナギが違和感を感じ、その視線の先を辿っては驚愕。


 普段であれば絶対に聞くことはないであろうポポの苦渋の声。ヒナギは…一瞬だけその声に驚いた。

 ポポの今の心境は絶望に染まっているであろうことは、想像に難くなかった。


 ポポとヒナギの目に映っていたもの…それは、ブラッドウルフの頭が穴の塞がった胴体と繋がり、元の状態に戻っていく光景であった。

 グチッ…ズチュッ…と、気持ちの悪い音と共に体は生え、吹き飛んだ体が接着していく様は、ポポとヒナギの中の心を揺さぶる。

 ポポとヒナギは、ここでそのまま傍観せず、攻撃を加えるべきだったであろう。

 だが、あまりに理不尽で理解のできない光景を前に、その考えは既になくなっていた。

 確かに空けたであろう穴はもうほぼ元通りとなっており、気づけば脚も4つで元通りとなっていた。


 気づけば目の前には、先ほどまでの健全なブラッドウルフが立っており、こちらをみつめていた。


「グルルゥ?」

「…っ!」


 もう終わりか? と言うかのような声。

 戦う前もこのようなやり取りがあったが、その時とは状況が違う。ポポはその声に恐怖を感じ、冷や汗を全身が駆けていた。


「(予想外だった…! まさかこんなに手強い相手だったとは…!)」


 当初の相手の評価を内心後悔するポポ。

 まぁそれも無理もない。このようなふざけた回復力を持ったモンスターなど、今までに見たこともなかったのだ。司たちよりも遥かに多くの戦闘を重ねて来たヒナギですら驚いていたのだから、予想できるはずもない。


「ポポ様、お下がりになって下さい」


 そんな状態のポポの前に、ヒナギがスタスタと歩き、立ち塞がった。


「ヒ、ヒナギさん?」

「ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」


 その声は日常で見せる声そのものであり、まるで戦闘中とは思えない声だった。


「大丈夫です。先ほどは不測の事態で乱れましたが、私が盾となりますから」

「で、ですが怪我が!?」


 ポポの目に見えるのは、凍り付いたヒナギの肩の傷だ。

 今は塞がっているが、動けば傷は広がってしまうだろう。そしてその痛みも尋常ではないはずだ。

 しかし…


「…このくらいは平気です。死にかけの体で戦った時と比べれば、大したことはありませんよ」


 さらっととんでもないことを言っているが、ヒナギは見た目とは裏腹にSランクの冒険者。相当な修羅場も経験していると、ポポは思った。

 自身も先の災厄で重症を負ったまま戦闘を継続したことはあったが、今のヒナギのように落ち着いてはいなかったことを思い返す。


「まさかこのような回復力を持ったモンスターを見るのは初めてですが、結局私のやることは変わりません。ただひたすらに守り、守りに徹する。隙があれば容赦なく屠る。それだけです」

「ヒナギさん…」


 ポポの方が、今はヒナギよりも大きい。

 だが、ポポにはヒナギの背中が非常に頼もしく、大きく映った。


 貫禄…というべきか。ヒナギにあって、ポポにないもの。

 ポポは…ヒナギにそれを垣間見ていた。


「命ある限り、盾となり壁となる…それが『鉄壁』の由来です。ご安心を…ポポ様は私が守ります。そしてこの地も…」

「…いえ、私も出来る限りご助力します! これでもあのご主人の従魔です。この程度のことで挫けていては…ついていけないでしょうから」


 ヒナギの意思に力を貰ったのか、ポポが残った勇気を奮い立たせる。


「ふふふ…ありがとうございます。頑張りましょう、ポポ様」

「はい!」

「…グオゥッ!!!」


 ヒナギとポポのやり取りをこれまで黙っていたブラッドウルフが、いい加減にしろと言わんばかりに吠える。

 なぜこれまで律儀に待っていたのかは分からないが、意外と辛抱強いのかもしれない。

 それとも、純粋に万全の状態で戦いたいと願っているからだろうか? それは誰にも分からないが…。


「…さて、お待たせしました。勝ち誇ってるみたいですが…ここからが本番と思ってくださいね?」

「グル?」


 待ってくれていたブラッドウルフに感謝の言葉を述べると、ヒナギの周囲がヒュンヒュンと音を奏で始める。


 ヒナギの構えは色々と種類があるが、基本的には両手で自信の頭くらいの位置まで刀を上げ、相手に切っ先を向けるような形だ。

 だが、今回は今までヒナギが見せたものとは違う構えであり、居合いの構えであった。


「何ですか…この音は…?」

「…条件が整っただけです。大丈夫ですよ、私の力ですから」


 ヒナギはそう言うだけだが、ポポにはさっぱりだった。

 音は聞こえど何も見えないし、風が吹いているわけでもないのだ。不思議に思うのも無理はない。


「…?」


 どうやらその状況にブラッドウルフも不思議に思っているのか、中々手を出してこない。

 様子を見ているようだった。


「もう…少しでも傷つけることは叶いませんよ? 私が生きている限りは…」


 ヒナギの奥の手が出されようかという時、その言葉を最後に…この戦いは中断を余儀なくされた。


「「「!?」」」


 突如、遠くで何かが壊れる音が…鈍く響いてきたのだ。

 全員そちらに意識が向き、何事かと考える中、ポポだけはすぐさま理解した。


「これは…!」




 この音が聞こえた瞬間から感じたいつもの感覚。

 ポポはそれを実感しつつ歓喜し、勝利を確信するのであった。

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