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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
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106話 VSブラッドウルフ②(別視点)

「ハッ! …やあぁぁっ!」

「グッ!? ガアアァァッ!」


 ヒナギとブラッドウルフの一進一退の攻防。

 それは…一般人から見れば何が起こっているかは分からない程の速さで展開されている。

 見る者によっては、音だけが響いているように感じられるかもしれない。それほどの速さだ。


 ブラッドウルフは変化した後、最初に見た速度よりもさらに速くなった。

 しかし、ヒナギはその速度にしっかりとついていく。むしろ、まだ少しの余裕さえあるのか、顔に焦りは全く見られない。

 極めて落ち着いた状態で相対しており、無心で相手の攻撃を弾く、いなすを繰り返す。当然怪我などなく、それは状況判断が適格な証拠だった。


 そんな攻防を見てポポも隙を伺うが、絶え間なく変わる状況に無理に横やりを入れることができず、攻めるか見守るかの瀬戸際を彷徨っているようだった。

 下手に動いても邪魔にしかならないと感じたのか、旋回してブラッドウルフの注意を逸らすだけに留めていた。


 ナナも水と土属性の魔法での援護射撃を行っているが、決定打は中々与えられない。

 ヒナギが壁役としているため、大規模な魔法は行使することができないためだ。

 そのため、規模は控えめかつなるべく高威力の魔法をちまちまと使うことにしたようだが、それだと相手はすぐさま反応し、躱されてしまう。

 単発での攻撃は当てられないと判断したナナは手数で惑わすことに決め、最終的には威力は弱めのフェイクも含めて魔法による攻撃を乱発することに決めた。

 だが、ナナの考えを無下にするように、生半可な攻撃では躱すことすらなく自ら当たり、自身が脅威と判断したもののみ躱すブラッドウルフ。


「フェイクも意味ないとかやめて欲しいんだけど。てか、吸収されてる?」


 状況判断が適格すぎるこの狼にナナは驚きを抱え、どうやって攻略していこうかと再度思考を走らせた。


 見た所、ブラッドウルフは辺りの魔力を吸収しているようである。

 魔力を吸収しているということは、魔力で形成されている魔法も例外ではないということだ。

 完全に全てを吸収しきれるわけではないが、それでも威力は落ちてしまうのだろう…。それが有効打を与えられない結果となり、ブラッドウルフが攻撃を避けないことだとナナは推測する。

 しかも、吸収されてしまった場合は奴の回復の手助けをしてしまうことにも繋がるため、魔法での攻撃をすること自体にも疑問を抱え始めていた。


 だが、思考にほんの少し注意を取られ、攻撃の手が少し緩まったのをブラッドウルフは見逃さなかった。

 ヒナギから少し距離を取った後、今までの単調な動きをやめ、トリッキーな攻撃を仕掛けてきた。

 突然3体に分身し、3方向からヒナギへと攻撃を仕掛けたのだ。


「やばっ!?」

「(分身した!? でも…)映るは幻影…」


 一瞬だけできた隙。それを見逃さなかったブラッドウルフだったが…


「無駄です」

「(ガチッ)!?」


 ブラッドウルフ3体が、確かにヒナギの体を噛み砕いた。

 …だがそれは幻影であり、虚しくガチッ…と、3つの牙は空を砕いただけだった。その瞳に確かに捉えたであろうヒナギは、そこにはいなかったのだ。

 ヒナギはフッと姿を消し、そこからほんの少しズレた場所…ブラッドウルフの足元にゆらりと現れる。

 どうやらスレスレのところで躱していたようだ。


 相手は今無防備で、加えて刀の射程圏内。攻撃手段の乏しいヒナギが…そこで攻撃を仕掛けない訳がない。


「『螺旋』!!!」


 ヒナギが回転切りを放ち、3体を同時に斬る。その斬られた衝撃でブラッドウルフ達は3方向へと吹き飛ばされていき、一度だけ地面でバウンドした後、地面を削って次第に動きを止めた。

 …ブラッドウルフも大概だが、その巨体を斬り飛ばすことのできるヒナギの膂力も十分大概である。


 すると、3匹の内2体は偽物だったのか、姿がなくなり透けるように消滅し、本体である1匹だけが確かに傷を負い、取り残された。




 今ヒナギが使用した魔法は、光属性の上級魔法…『イリュージョン』である。

『インビジブル』と似ており光の屈折を利用するが、こちらは相手の見ている自身の姿を残しつつ移動することができる。

 発動時間は極端に短いが、上手く使えば無防備となった相手にヒナギのようにタイミングを見計らってカウンターを決めることが出来る。

 ただし消費魔力は大きいので、ハイリスクハイリターンな魔法ではあるが、ヒナギにはそんな心配はいらない。使いどころの見極めはいらぬお節介というものである。




 完璧なタイミングでカウンターを決めたヒナギ。

 まるで手のひらで遊ばれているかのように、この場の主導権はヒナギが握っていた。


「いつの間に…」

「気づきませんでしたね」

「…ちょっと掠りましたか。まともに浴びたら無事じゃ済まなさそうですね…」


 ポポとナナの驚きの声を聞きながら、ヒナギは自身の状態を確認する。

 ヒナギの着ている和服の裾を見てみると若干穴が開いており、どうやら唾液が少し振りかかったようだ。

 だが怪我はないようで、警戒心を強めるきっかけとなった。


 ヒナギの着ている服は和服で、司同様に冒険者が着るような服ではない。

 しかし、作られている素材が非常に防御性能に優れているものであるため、戦闘では何ら問題なく、むしろまともな防具よりも性能が高い。

 それに穴を開けることのできたこの唾液は、相当な酸性を持っていると考えていいだろう。


 …ちなみに和服なのは、この地で育ったことによる影響が出ているだけである。


 閑話休題。

 ヒナギが無事なことに安堵していたポポも、ナナが先ほどまでしていたようになんとか遠距離から攻撃を試みる。


 ブラッドウルフは倒れた状態からすぐに回復し、臨戦態勢へと戻っている。

 傷は…やはり既に回復を始めており、致命傷を与えない限りは意味のないことのようである。体力もどうやら回復しているような振る舞いを、ブラッドウルフは見せていた。


 持久戦を決め込んだものの、恐らく無限であろう体力を持つ相手では分が非常に悪い。しかし、それでも決め手が無いこの状況ではその作戦をする以外に選択肢は無い。

 逃げることなど許されないのだ。ならば、持ちこたえるしかない。


「『一の型・羽針』! 『二の型・翼一閃(ウィングスラッシュ)』!」


 ポポから解き放たれる、鋭利な羽と翼による一閃。それらは『ブラッドウルフ』へと向かっていくが、『羽針』には意を介さずに無視して受け止め、『翼一閃(ウィングスラッシュ)』のみを避ける。


「無駄のない動きを…! 敵ながら見事ですね」


 やはり随分と頭の回る狼のようで、一筋縄ではいかないことをポポは理解する。




 予想以上の強敵に、額に汗を滲ませたのだった。




 ◇◇◇




 一方、その頃の司はというと…


「何もないな…」


 移動できているのかも分からないが、突き当りが存在しないかを確かめるためにひたすら走る。

 本気で走っているので数十㎞は移動しているはずだが、それでも景色は変わらず、その兆候も全くない。現状は変わらなかった。


「………」


 俺は一旦立ち止まって脳内に図形を描き、今考えられる自分の現在の状況に仮説を立て、考察していく。


 そして…


「…『ライトボール』。これでよし」


 ある可能性に掛け、『ライトボール』をその場で展開する。

 そしてそれをそのまま維持し、再度移動を開始する。


 数分ほど移動して、やっぱり駄目かと思ったその矢先、俺の進む方向から淡い光が見えだした。


「っ!?」


 そのまま近寄ってみると、それは…俺が先ほど設置した『ライトボール』であった。

 それを確認して、俺の推測は間違っていなかったのだと半ば確信する。


「……チッ、そういうことかよ」


 俺はその場で『ファイアボール』を前方に勢いよく発射し、暫し待ってみる。

 すると、発射した前方から勢いよく『ファイアボール』が帰って来た。


「やっぱそうか…」


 再度の確認でそれは明確なものとなった。

 向かってくる『ファイアボール』を手でかき消し、跡形もなくす。


 ここは、ループしてるんだ。

 どこに行こうが結局はいつの間にか元の場所へと戻らされ、同じことをただひたすらに繰り返す。…やられたな。

 ということは…、この空間は箱の中のようなものということになるのか? 


 だったら…


「ふざけやがって。だったらこんな空間ぶっ壊してやる! …『アトモスブラスト』!!」


 衝撃波を全方位に放出し、この空間の破壊を試みる。

 俺のイメージでは、箱の中を膨張させる感じだ。

 神様ではなく、恐らく人間が作っているであろうこの空間。ならば必ず許容できる限界はあるだろうと思い、行動に出た。


 グラ…


「! 少し動いたか? …でも、随分と硬いな。それとも魔法はあんまり効かないのか?」


『アトモスブラスト』を放出してすぐ、一瞬だが空間がグラついたような気がした。

 どうやら効いているっぽいが、効果は微妙といったところか…。

 本気で放出してこれなので、結構驚いてはいるんだが…。


 でも無理矢理破壊は出来そうだな…。だったら!




 俺は、次の手段へと移る準備を始めた。

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