103話 落ちて来た異物
休暇が終わりを迎えました。
今後は少し投稿ペースが下がります。
◆◆◆
「…し…さ……みしろ…ま!」
「うぅん…」
肩を揺さぶられ、意識が眠りから覚め始める。
俺が目を開けると、そこには神が作りし最高傑作。綺麗な女性…いや、女神様がいた。
艶々した黒髪を垂らして、こちらの顔を伺っているようだ。
…ありがとうございます。
………。
なんでお礼を言ったんだろう? 自分でもよく分からん。
「カミシロ様。大丈夫ですか?」
「…あれ……ヒナギさん…? なんで部屋に…」
「覚えていないのですか? 昨夜お父様とご一緒にお酒を飲まれていたかと思うのですが…」
「…あ。そういえば、そうでした」
まだ起きたばかりなのと、昨日酒を飲んでいたこともあって頭がボンヤリとしているが、昨日自分は自室に戻らなかったのだと思い出す。
部屋を見渡せば、昨日トウカさんと話をしていた部屋であった。
…あのまま寝ちゃったのか。結構酔ってたし、酒は久しぶりだったからなぁ。
ちょっと体が怠い。
「お父様にお付き合いしていただいてすみません」
「ハハ…結構俺も楽しんでたんで、気にしないでください」
「そうですか? ならいいんですけど…」
キョトンとした顔で首を傾げるヒナギさんは、それだけの動作でも映える何かを放っている。
俺には…ヒナギさんからキラキラした何かが見える。
これが、美人に許された絶対的オーラというやつか…恐れ入ったぜ。
対する俺は凡人丸出しのへなちょこオーラだ。
どうだ? 負ける気がしないだろ? …ガクッ。
「…ちょっと、顔洗ってきます」
「はい」
寝起きでテンションがややおかしい。
だけどそれが俺クオリティだ。ブランドだ。存在意義だ。
………。
本気でヤベェな。早く、顔洗ってくるか。
自覚があってなおやめられないのは病気かもしれんな。
俺は怠い体を持ち上げて立ち上がり、部屋を出る。
すると…
「お父様も! しっかりしてください!」
「むぅ…ヒナギか?」
「お酒はほどほどにお願いします!」
そんなやり取りが後ろでされているのを聞きながら、俺は顔を洗いに外へと出るのだった。
朝日が眩しい。今までと変わらない景色、匂い、視界に見える美少女。
俺が外へと出て顔を洗おうとしていると、先客がいたようだ。
「セシルさんおっはー」
「…ん、おはよ。……随分と飲んでたみたいだね」
セシルさんが井戸のすぐそばで顔を洗っていたらしく、濡れた顔を拭きながらこちらを見る。
足元の草木や地面は水に濡れていた。
「うん。トウカさんのすすめる酒がすっごくおいしくてさー。久しぶりに結構飲んじゃった」
「二日酔いは?」
「う~ん、そこまでないかな…。酒にはそこそこ強いから」
「そう…。ま、お酒はほどほどにね。…ちょっとテンションおかしいよ」
セシルさんがため息交じりに、俺のおかしな調子を指摘する。
やはり俺のテンションは他の人から見てもおかしいようだ。
「あ、やっぱり? 以後気をつけるよ」
「ん」
セシルさんが顔を洗い終わったのを確認し、俺は顔を洗うために井戸の水を汲み上げる。
ロープで繋がれた桶を穴に落とし、水が跳ねる音を聞いて、桶が底に落ち切ったことを確認。ロープを引き上げた。
まぁわざわざこんなことをしなくても魔法があるんだが、地球でも最近は廃れた文化だし、せっかくなので使っている。
今日の場合とかは目を覚ますのにも丁度いいし…。
「……今日帰るから、準備とかしておいてねー。……セシルさーん?」
俺が顔を洗いながらセシルさんに言うと…
「………」
セシルさんは無言だった。
俺が振り向いて見てみると、セシルさんは後ろを向いており、何かを見ていた。
「どうしたの?」
顔を拭きながら聞いてみる。
「ん。いや、あの白髪の人……ここらでは初めて見たと思って…」
セシルさんは誰かを見ていたらしい。
セシルさんの言う人物を俺も見てみると、何やら白い髪が目立つ、若い男性がスタスタと歩いているのが見えた。
青年と言ったところか…。顔はほんの少し横顔が見えただけなのでよく分からなかった。
家の周りには塀があるわけではないので、外の状況は良く分かる。こちら特有の和服を着ている訳でもなく、グランドルに住む住民らのように、一般的な服を着ていた。
それだけで、ここに在住している者ではないことは分かった。
「…ホントだ。…あの人も、旅行か何かかな?」
ここにわざわざ来る理由は、それくらいしか思い当たらない。異世界人を研究する学者は時折訪れたりするようだが、基本的には交流が少なめの地域である。
まぁ、俺は旅行ではないんだが…。セシルさんはともかく。
「…かな。……………」
セシルさんは、その人が見えなくなるまで、ジッと見ていた。
まるで…何かを探るように…。
ふむ…。
恋でもしちゃったのかねぇ…。いやぁ若い若い。
恋はいつでも突然に、ですか。そうですか。
勝手にそう結論づけた俺だった。
◆◆◆
朝の時間帯は終わり、午前の終盤に差し掛かった頃。皆でお茶を飲んでまったりとしている最中のこと。
各々が自然な形でくつろぎ、特にやることがない状態。
セシルさんはポポとナナを撫でてトリップしており、シュトルムは何やらメモ書きをしている。残った俺とヒナギさんとトウカさんは、はふぅ…とした顔で茶をすする。
誰も喋らない空間で気まずいかと思うかもしれない状況だがそんなことはなく、非常に居心地の良い空間である。
そんな空間だったが、俺は話すことがあったため口を開いた。
「トウカさん。俺達…今日の昼には出ようかと思います」
「うむ。昨日言っていたしな。あい分かった。ロクなもてなしもできずに済まない」
トウカさんはというと、俺同様に二日酔いはなかったようで、もうピンピンしている。
朝見たときは、俺と一緒でだらしない恰好だったからなぁ。ヒナギさんには悪いことをしたよ…。
俺も朝の時のテンションはもう既にない。いつもの綺麗な司君に元通りですよ。ハイ。
まぁなんにせよ、泊めてもらってる身分でそれまでされたら頭が上がんないよ。いや、泊めてもらってるだけでも頭なんて上がらんけど…。
俺とトウカさんが起点となったのか、静かだった各々がそれぞれ喋り始めた。
「いや~有意義だったな~。ここに来て良かったぜ」
「毎日楽しそうだったもんね…シュトルム」
シュトルムはメモ書きをやめて、そう感想を漏らした。
それをずっと見て来たセシルさんが、うんうんと頷く。
「ではご主人。今日はどの辺りまで行きます? 砂漠は越えたいところですが…」
と、ポポ。
「まーその時の進捗具合でいいんじゃね? なるべくどこかの村とかで寝床は確保したいけど。行きは寄り道とかしたから…3日くらいで戻れればいいだろ」
「結構距離あるんだよね~。…ご主人、なんかボーナス頂戴ね」
「はいはい。何か考えておくよ」
王都よりも遥かに長い移動距離。
そのことでナナがボーナスを要求してくるが、実際コイツらの働きがめちゃめちゃ大きいので何か労いは考えておきたいと俺も思っている。
それに俺だけじゃなく他にも乗る人がいるから、疲れるだろうことは想像に難くない。
「仲、良いですよね。まるで兄弟みたいです」
そんな俺たちのやり取りを見たヒナギさんが、羨ましそうな顔で話す。
「まぁ、コイツらが生まれてからすぐに育ててましたからね」
「ご主人は私達にとって親みたいなものですから…。なので従魔であり家族です」
「一心同体~」
「ふふふ…ちょっと羨ましいです。私はお父様だけですから…」
ヒナギさんは柔和な笑みを浮かべて笑うが、どこか寂しげだった。
その時俺は、ヒナギさんの言葉を聞いて昨日のことを思い出した。
そこに、トウカさんが会話に混じって来たのだが…
「ヒナギ、昨日ツカサ殿とは話したのだが……」
トウカさんが本題を喋ろうとした瞬間、外で…何かが落ちてきたような轟音が、響いたのだった。
次回投稿は近日中。
出来上がり次第投稿します。




