第一話 通報屋
えー。何年ぶりでしょうか?軽く4、5年ぶりに書きました。やはり、ブランクあると調子が出ませんね。時間が出来たのでボチボチやっていきたいです。
「まだヵ?まだ開かないのヵ?」
「やかましいンダ!今やってる最中ンダ!黙ってろンダ!!」
時刻は既に深夜もまわり、けれども眠る事のない大都市・東京。
夜でも人波が途切れる事のないその街の一角、もっというと、とあるビルの最上階の部屋の入り口である扉の前に、揉める男たちがいた。
「いいからはやくするンダ!そろそろ警備が来るンダ!さっさとしないヵ!!」
発音から外国人らしき三人は、頭の先からつま先まで黒一色で統一された服装に、目出し帽、更にはピッキング用の道具に大きなバッグと…どう見ても泥棒です。本当にありがとうございました。
「せかすナ!いまやってるンダ!!Fuck!!さっさと開かないヵ!!」
が、どうにもかなりの素人らしい。ピッキングが上手くいかないとみると、今度は大きなハンマーをバックから取り出し、ガンガンたたき出した。全然、忍ぶ気がない。ってか煩すぎる。警備員、仕事しろ。ってか、そんなので鍵あかないだろ。普通。
と、思っていたその時。
「!よっしゃ!開いたンダ!!」
鈍い音をたて、なんと、本当に開いてしまった。
いや、どちらかと言うと、扉を叩き破ったの方が正しい気がするが…まあいいか。
「さっさと行くンダ!金庫!金庫を見つけるンダ!!」
で、開いたは良いが、どうやら金庫のありかも把握していなかったらしい。三人とも懸命に探している。無駄。圧倒的時間の無駄!計画性の無さ、ここに極まれり!!
「あ、あったンダ!これ「見つけたンダ!!これはォレのモノンダ!!」止めるンダ!!俺が先に見つけたンダ!!中身はォレのモノンダ!!」
「Fuck!!やかましィ!!喧嘩するなンダ!!捕まるゾ!!」
前言撤回、まだ明けてもいない金庫の前で大声出して揉めるとか。しかも、分ける気ないとか。なんかもう…ないわ。ないわぁ…。
と、最後の怒っていた男が他の二人をよそへ押しやり、金庫破りに挑みだした。さて、扉のピッキングもできなくて結局破壊した腕前は頑丈な金庫に通じるのだろうか?
「Fuuuuuuuuuuuuuck!!!開かないンダァァァァァァ!!!!」
知ってた。
ってか、当たり前だ。
「ど、どうするンダ!?これを開けないと、豪遊できないンダ!!」
「きれいなチャンネー相手に、金に物言わして『自主規制』もできないンダ!!どうしてくれるンダ!!」
「煩いンダ!!ォレではなくて、この金庫が悪いンダ!!つまりは日本が悪いンダ!!ォレのせいではないンダ!!」
そして、揉める。色々と突っ込みたい事があるが、多すぎて言えない。本当に困った。
結局、なぜか「日本のせい」という結果に落ち着いた三人組は、とりあえず落ち着き次の方法を考える事にしたらしい。もう帰れよお前ら。いや、自首しろ。不法侵入と器物破損、窃盗未遂で。
「開けられないならどうするンダ?」
「開けられる奴に任せるンヵ?」
「いや、それだと分け前が減るンダ。それは嫌ンダ」
ダラダラ話し合いが続くが、解決策が見えてこない。金庫を開けたい。でも、人数増やして分け前要求されるのは嫌だ。その繰り返しである。
このまま、ずっと朝まで繰り返すかとわりと本気で思った…その時!
「!閃いたンダ!!金庫を屋上に持って行って、そこから落としてぶっ壊すンダ!!」
なんか、明後日の方向に不時着した。(成功とは言ってない)
いやいや、さすがにないだろ。最近の金庫はかなりの衝撃や圧力に耐えられるほどものすごい頑丈だぞ?ってか、どうやって持っていく気だ?金庫の大きさからして、どう見ても数百キロ、いや、確実にもっとあるぞ?三人がかりでも難しいだろ。
「おお!その手があったヵ!」
「お、ォレは気づいていたンダ!お前を試していただけンダ!!」
…ああ、うん。もういいや。さっさとやれよ。そして失敗してまた揉めろ。
「じゃあお前はそっちを持テ。お前はあっちンダ」
「「ンダー」」
三人が配置につき、それぞれがしゃがみこんで金庫の下に手を入れる。そして。
「いいヵ?一、二、三!!」
同時に、思いっきり立ち上がった。いや、違うな。
正確には、立ち上がろうと『した』、だな。
つまり、無理だったわけだ。
いや、それだけならまだよかっただろうが…。
「「「ハゥ!!??」」」
鈍い。それはそれは鈍く低い音がした。
誰がどう聞いても、「あ、やっちまったな」的な音だった。
もっというと、腰の骨が逝っちまった音だった。
いわゆる、『ぎっくり腰』である。割と、深刻な。
「「「」」」
思わず、声を失うほどの痛みだったらしい。全員が腰を抑え、文章にしづらい顔でのたうちまわろうとしているが、腰が逝っているので動けないというちょっとした地獄の惨状だ。
端から見ると、爆笑必須だが。
が、彼らの問題も直ぐに解決するであろう。なぜなら。
『ジリリリリーーーーン!!』
今更ながら、けたたましいベルの音が響き渡り、
『ドカドカドカ』
重装備でキッチリ身を固めているのが想像できる重厚な足音を響かせる集団が、統率のとれた動きで近づいてくるのだから。
「貴様らァーーー!!窃盗他諸々の現行犯で逮捕だー!!」
警官隊の集団を率いていた、鬼警部・長谷川平治がそう叫んだ。
* * *
「バックしょい!!あーさみ」
でかでかと盛大にくしゃみしちまったわ。全く寒すぎんよー。
もうあれだ。地球がんばれ、もっと熱くなれよ。熱くなれ、熱くなれよー!!そして、俺をあったくしろ!いや、してくれ!!割とマジで!!
…あれ?でも、たしか地球温暖化すれば冬の気温って逆にもっと下がるって言ってなかったっけか?
…。
あれ?ヤバくね?ひょっとして盛大に自分の首絞めてね?自分で自分を追い込んでねーか?大丈夫か?オイ。
…ま、まあうんあれだ。温暖化については、偉い学者さんたちに任せよう。うん。そうしよう。賢くない俺が考えても意味ねーしな。うん。違う事について考えよう。例えば、あそこにいる婦警さんを視か…ゲフンゲフン!!観察、そう観察しよう。大丈夫。頭ん中だけでならセーフだ。現実に行動しなけりゃでーじょぶだ。
ってなわけでさっそくシンキング!
・美しい太ももとボディーのバランス。
うーん、いいね。実にいい。俺はどちらかと言えば、太ももを気にする派なんだよな。そう『気にする』派なんだ。決してフェチじゃない。なんでかっていうと、〇ロ画像とかでもさ、太ももの大きさと体とのバランスって滅茶苦茶大事だと思うんだよね?あれで、バランスが取れてないとせっかくのエ〇スが台無しになっちゃうんだよ。こう、しょっぱなからから揚げにレモン掛けちゃうみたいな感じでさ。そうじゃないだろって。初めはから揚げそのものの美味さを堪能するように、初めはやっぱり全体のバランスが大事なのよ。全体からくる〇ロスを感じたいのよ。だからさ、全体じゃなくて一点を愛するフェチな方々とは似て非なるもんなんよ。やっぱバランスって大事だわー。
・スカートに包まれたヒップ。
安産型っすね。
・みんな大好き、癒しと母性とエ〇スと栄養と夢が詰まった二つの膨らみ。
やはりおっぱいと言うものは<<前略>>、であり、男にとっては<<中略>>なのだ。この事からして、私は<<後略>>という事を提唱したい!さァ!!皆!!無限のおっぱいに飛び込もう!!もちろん脳内で!!
せーの!!
( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!
( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!
( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!
( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!
うおぉぉぉぉぉぉぉん!!来た来た来た来たァァァァーー!!盛り上がってきたぞー!!!
この熱気!!この熱いパトス!!この鼓動の高鳴りィィィィィィ!!!
そう!俺はまるでぇ!!
人力自家発電所だァァァァァ!!!
「おーい!飛籠、またせたな!ん?なんで汗かいてんだ?お前?」
ふぅ…って?お?おお!とっつあんか!何?捕り物もう終わったん?はえーな、おい。
…ん?飛籠?ああ、飛籠 新人ってのが俺の名前だが何か?ひきこもりニートって呼んだ奴は屋上。慈悲はない。
「ん。ああ。ちょっとな。で、もう終わったん?早くね?調書とかいろいろあんじゃねーの?詳しくは知らんけど、とっつあん一応現場の指揮官っしょ?」
「ん?ああ。良いんだよ。お前の事の方を早く片付けようと思ってな。どうせ奴らうちだけじゃ解決しないから。不法入国と滞在、就労の関係で入国管理局と協力必須だからな。ややこしい事の前に済ませに来たんだよ。全く、20XX年になるというのに、一向にこの手の手続きはめんどくさいままだ。新しいゲーム作ったり、綺麗なねーちゃんみてーなロボット作るよりも、そっちを何とかしてもらいたいね」
ああ。なるほど。やっぱあいつらそうだったか。そんな感じはしてたんだよな。だから通報したんだし。ん?ああ、アイツラの事を通報したのは俺ですよ。一市民として、治安を守り、犯罪を防ぐのは大人の義務だからな。そりゃあするに決まってますよ。
後、すんません。俺は手続きよりVRMMOの開発や、美人アンドロイドの開発の方が100倍嬉しいっす。ホント、すんません。
いやー20XX年になると色々便利で楽しくていいね!犯罪は相変わらずだけどな。うん。
「ほら、報酬だ。しかし、毎回よく見つけて通報してくれるよな。大したもんだぜ実際…うちの若い奴らにも少しは見習わせてぇよ…本当に…」
へへぇ!!アリやとございまーす!!おお!5万!5万円っすか!!いやーいいっスねえ!!良いことしてお金がもらえる!!まさに一石二鳥!あ、言っとくけど、不法滞在や不法就労してる外国人を通報したら謝礼もらえるってのはマジだぞ?5万円以下の金額でくれるからな。小遣い稼ぎにはもってこいだ。上手くなってくれば、これだけで生きていけるぜ?ちなみに俺は今日だけで32万稼いだ。日本にゃ、約10万人前後の不法滞在・就労者がいるらしいからな。バンバン通報して金稼ごうぜ!治安を守る事にも一役買えるぞ!!
家事の合間に!ちょっとした息抜きに!小遣い稼ぎでレッツ通報!!君の一報で、無くそう犯罪!増やそう小遣い!!
「…なあ、警察官になる気ないか?お前には天職だと思うぞ?うん?」
「あ、別にないです。それに俺、どちらかと言えば通報するのが好きな所あるんで」
「そうか…残念だ…」
なんかめっちゃ残念がられているがこっちとしてはその気はないんすよ。すんませんね。
「じゃ、いただきましたんで、お疲れ様っした!」
「おう。気い付けて帰れよ。じゃあな」
現場指揮に戻っていくとっつあんの背中は、どこか寂しげで色あせているように見えた。
うん。やっぱなる気ないわ。深夜まで働くってのはニートな俺には無理です。はい。
…あ?通報は良いのかって?いいんだよ。通報は国民の義務。金は報酬だから。仕事ではない。イイネ。
さて。時間も時間だし、さっさと帰るか。寒いし、なんかあったかいもんでも食おう…か?
その時。
俺の、眼に、『奴』が飛び込んできたのは。
それは、ドデカイ黄金だった。
それは、カリッカリの衣だった。
それは、衣から解き放たれた純白の乙女の様な肉だった。
それは、今(深夜)眼にするには、あまりにも残酷(美味そう)だった。
『出来立て、ビッグチキン発売中 By露〇孫』
『ピロリロン!いらっしゃいませー』
「はっ!?」
な、なんということだ!?お、俺は、知らないうちに、本当に無意識の内に、〇雨孫の自動ドアをくぐっていたんだ!!
何をスピークってるか分からないと思うが、マジだ!コイツは危険すぎる!!
アメリカンドッグとか、ポテチとか、とんかつとかじゃねぇ!!
『深夜にコンビニのフライドチキン』!奴に勝てる奴なんかだれもいやしねぇんだ!!そう魂で理解しちまったのさ!!
お好み焼きやカレーなんかじゃねぇ!!もっと美味い、本能が欲する何かがあるぜ!!
「ビッグチキン一つ下さい」
「あ、すみません。ビッグチキン、さっきで売り切れてしまいまして。今、揚げているので5分ほどお時間かかりますがよろしいですか?」
ガーンだな。家を出ようとして靴のヒモが切れるくらいガーンだな。
ま、しょうがないか。みんなチキンには勝てなかったのさ。うん。
「あ、じゃあそれでいいです」
「わかりました。すみません、お待ち下さい」
そうやって店員さんを見送ったわけだが…さて。
困ったな。時間が余ってしまった…。
ま、そんな時の時間つぶしは大抵決まってんですけどね。
「さーて、新刊もう出ってかな?『歌舞伎忍者』は終わっちまったし、『漂白侍』はいい加減おわれよって感じだし…そう考えると『女の子のお洋服』ってスゲーよな、最後まで面白いもん。ん?『数年単位更新犬』?『下町警官』と『世界のバードマウンテン』の次に伝説ですが何か?そして既に20XX年なわけだが、再開はいつですか?VRMMOの方が完結するより先に開発されたぞ?遊んでねーだろうな?犬」
うーん。どうも面白そうなのがないなー。こう、コレはッ!って感じのがないんだよなー。やっぱもう黄金期は終わっちまったのかね。良いルーキーも出てこねーし。深夜のテンションならけっこう行けるものはあるはずなんだが…やっぱ既読ってのがいけねーのかな?何度も繰り返すと感動薄くなるしね、ほとんどの事において。(例外はある)
じゃあ、『大きいマンガ』とかおっさん…いや、ダンディ向け漫画にいくかな?なんか、アラサーが近くなるとおっさんって言葉に拒否反応が出てきたりするんだよな。まだ、5年猶予があるんだが…やっぱ深層心理じゃ抵抗感あるんかね?とりあえず、体臭を消すサプリメントは飲みだしたな。エチケット的にも、通報の為にも。臭いで存在がバレルって割とリアルにあるんだぜ?気を付けなはれや!ってお?
おお!不安とミスに定評のありすぎる〇ミつ〇じゃねーか!今週は見てなかったからな。どれどれ『特集・最新新鋭VRMMO』、『美しすぎるor可愛すぎる!人を超えた美しきアンドロイド達』、『懐かしのゲーム・君はMMOを知っているか?』、うーんこれくらいかな?俺の趣味に合いそうなのは。
VRMMOねー。もう既に開発されてんだよねー。たしか俺が大学卒業したころだったか。爆発的に広まったよな。もう異次元のリアルさだしな。リアルでリアルを超えた体感が出来るゲームってそうそうないし。もちろん、デスゲームはないぞ。アダルトゲームができた時には何人か興奮しすぎて倒れたらしいけど。後、今のゲームはほとんどVRMMOの原理を使った完全意識ダイブ系のゲームが主流だったりする。やっぱ全然違うもんね。そりゃあしゃあないわ。でも、P〇系とか、X箱シリーズをゲーム屋で見なくなるとなんか寂しいと思う今日この頃である。
アンドロイドか。うん綺麗だよな。そして嫁である。二次嫁?もう死語ですよ。んなもん。アニメやゲームのキャラがそのまま画面から出てきたような美しさと可愛さを兼ね揃えたまさに最強の存在だな。詳しく言うとページが無くなるし、グダルから一言で。
俺のアンドロイド(かみさん)は世界で一番かわいい!!
懐かしのゲームか。インターネットゲームがもはや過去の遺物だもんな。すっかりVRMMOに食われた感があり過ぎる。まあ、それも仕方なしか…なんか寂しい気もするけど。時代は日々移り変わっていくんだな。そして俺もおっさんへ…次いこう。
って…ん?何だ?
今、なーんか変な文字を見た様な…。
えっと、確か、この辺の週刊誌のあたりだったか?
…あ。
『都市伝説!?貴方に忍び寄る殺し屋の魔の手!!現代に蘇った執行人達!!』
…。
…。
…えーと。
うん。
何だろうね、この、いかにも怪しいモン程、見たいってやつは?一種の怖いもの見たさかね?
…まあ、暇つぶしにはいいか?
…どれどれ?
『半年ほど前から都内ではある噂が流れている。その噂と言うのが、暗殺集団・執行衆が現代によみがえったというものだ。執行衆とは、江戸時代において暗躍した暗殺集団の事である。彼らに関する資料はかなり少ないが、その少ない資料からでも日本において最強の暗殺集団と評価されている。
具体的に関わっている事件は、不明なものが多く、事実と判明しているものでも商人や町人、侍の暗殺等、小さな事件が多い。しかし、時には大名暗殺や、武装した他の暗殺集団数百人との死闘に勝利し、果ては南蛮(当時の関係からしておそらくオランダかポルトガルと考えられる)の将軍とその配下の暗殺等、にわかには信じられない大事件も少なからず存在しているという(小さい文字で、学会では検証中と書いてある。つまりは信憑性はあるが非公式という事)。
単純計算では、執行衆に所属する暗殺者は、一人当たり最低でも300人を殺害、最も多い人数では700人を超えており、組織全体では江戸の人口の3~5パーセントに当たる人数を暗殺しているのではないかと言われている。これは、他の現在確認できる日本の暗殺集団と比較してもトップの数字であり、日本最強と言われる所以である』
…『ペラッ』。
『さて、この最強の暗殺集団であるが、その圧倒的強さから当初は忍や修験者といった特別な訓練を受けた人物たちの集団と思われていたが、昨今の研究では別の見方が出てきたというのだ。なんとそれは…』
『最強の暗殺者たち、その殆どが“町人”であったという可能性である!!』
…ふーん。
『研究によると、遺体の死因や傷の有無、傷の大きさや殺害時の現状から考えて、凶器は刀、糸、手槍、簪等が殺害可能な条件に最も近いと考えられている。中には、怪力での心臓潰しや、催眠術、自作の短筒(拳銃)といったものも凶器としてあったと唱える学者もいるが、現時点では信憑性は低いという。
しかし、逆に言えば、そう言った身近なものを有効活用して暗殺していた可能性が高く、その道に通じていた職人である町人たちが暗殺者だった事は十分に考えられることではないだろうか?』
…せやろか?いや、ってかこれだけじゃちょっと厳しくねーか?後、江戸時代における糸での殺害は無理だって前にテレビの実験かなんかであったような…。
『さて、長くなったがここまでは実はまだ前座である。本当の話はこの後。最強と謳われた執行衆、町人であった彼らが、今、現代に蘇っているのではないか?そう噂されているのだ。火のない所に煙は立たない。その、噂には原因があった。』
…『ペラッ』。
『半年前、都内で起きた連続殺人事件がそうである。
第一の事件、連続殺人事件の最初の事件と思われる、売買デパートの社長が殺害された事件では、社長の瓜買 嶋瀬氏が、社長室で眉間に銃弾を受けて無くなっているのを従業員が発見。そればかりか、瓜買氏の子飼いの部下であった2名の幹部が、それぞれ首への鋭利な刃物のようなもので刺されての刺殺、ひも状の細い物体での絞殺等で、殺害されているのが発見された。
続く第二の事件としては、武器の密輸で近々逮捕される予定であった犬喰組の組長、晩 下鳥と、それに関わっていた某国のテロリスト数名が何者かに襲われ死亡。死因としては、首に丸い穴が開いており、そこからの失血死によるものや、心臓を強く打ったと思われる心臓破裂により死亡しているのが発見された。警察も全力で捜査しているが、今なお進展は見られていない。
そして、連続殺人事件で最も有名な第三の事件、黒い噂の絶えない死神クリニックの院長・安 落枝氏をはじめ、病院の医師や看護師など、多くの人間が八つ裂きにされる事件が発生。現場も刀傷が至る所についており、多くの器物が破損または切り刻まれていた為、猟奇的大量殺人事件としても報道された事から、知らない人は少ないだろう有名な事件だ。こちらも、捜査が続いているが、犯人どころか凶器すら分かっておらず、関係者の中には、『凄まじい剣の使い手』や『新しく開発された兵器の実験』ではないかとも言われるほどの凄惨さであり、迷宮入りが色濃くなっている。
そして、そこから現在に至るまで、これらと同じ様な犯行の手口による殺人事件が続いているのだ。警察の公式発表では複数犯による集団連続殺人とされており、手口の高度さから訓練を受けた人間の犯行、テロリズムすら考慮して慎重に捜査に当たっているという。これは…』
『執行人の仕業に他ならないと!わが社は確信している!!彼らは蘇ったのだ!!』
いや、何でだよ。
ないだろ。それは。警察の発表の方がまだ信用性高いだろ。
冷静に考えて、ないわ。蘇るって…ないわー。今時、蘇がえっての暗殺稼業とか…ないわー。ドラマでも見ない感じだわー。あっても、地雷臭プンプンするわー。大物俳優使えば良いってもんじゃないわー。アイドルに時代劇の殺陣とか、無いわー。そこはやっぱり、顔じゃなくて演技力で選ぶべきだわー。後、CG使ってんじゃねーよ。ないわー。
本当にないわー。何がとは言わんけど、ないわー。
『現在、わが社は総力を挙げて執行人達の情報を集めている!この調査には多くの妨害や危険が付きまとうだろう。だが、我々は決してあきらめる事はない!!真実を暴き出すその日まで、我々は退かぬ、媚びぬ、顧みぬ事をここに誓おう!!』
退けよ!ってか、何と戦ってるんだお前らは。
…やべぇ、ちょっと頭痛くなってきた。まだ続きそうだけどもういいわ。時間もいい頃だし、そろそろ…お?
「お待たせしました!ビッグチキンが揚がりましたのでどうぞ!」
丁度良かったらしい。店員のお兄さんが、アッツアツのカリッカリに揚がったチキンを運んでくるのが見えた。
んー。いい感じっすわ。腹もぺ〇ちゃんだし、買っちゃおう。ん?…パンズ…?揚げたてのチキンに余分なものは必要ないだろ。揚げたてを、食う。それだけでいいのさ。それ以外は、もはや蛇足。何でもかんでもあればいいってもんじゃないんだよ。うん。あ、でもコーラは許す。熱々の油を押し流す、冷たいキレッキレのコーラは、さっぱりした口で何度もチキンを味わえる俺らの味方だ。異論は認める。
さ、金を払って待ちに待ったチキンをガッツリいただきますかね。あ~この匂い、たまらんのじゃ~~~!!
「はい、ビッグチキンとコーラ、2点で480円です。袋はお分けしますか?」
うん。ちょっと高めなんだよね。コンビニって。でもまあ、しゃあないわな。これが欲しいんだからって、あ、小銭ねーや。具体的に言うと70円までしか10円玉がない。しょうがないな。500円玉使うか。
「あ、大丈夫です。はい、500円でお願いします」
「はい!どうも!…では、20円のおつりとレシート、それと商品です。チキンはお熱いのでお気を付け下さい」
よし。んじゃあフードコート行きますかね。歩きながら食うのは…ないな。公園とかも寒いし。家までだと冷めるし。あったかいチキンはやっぱ即座に食いたいよね。『わざわざコンビニで食うとかWWW』って奴は、温め直して油が微妙になっちまった肉の塊でも食ってろ。
さて、空いてるところは…。
そう、フードコートの方を向いた時だった。
『ピロリン。いらっしゃいませー』
新たに客の来店を知らせる、電子音が鳴ったのは。
人間ってのは不思議なもんで、何も考えて無くてもなんか動いたりすると自然にそっちを見ちまうんだよな。俺も例外なくそうでした。そして、自動ドアの方を向いたそこには…。
まず、目につくのは黒のヘルメット。バイク用のフルヘルメットってやつですね。被りながらの来店はマナー違反ですぞ。
次。上に黒のジャケットに、下は黒のジャージズボン。あ、パンツの方が良いんだっけ?いまだになれねーわ。下着のとは発音違うとかしらねーよ。でも、服屋の女の店員さんにはもっと言ってほしいと思う。パンTじゃないから恥ずかしくないんでしょ?ん?
そして最後に目が行くのは両腕ですねぇ。十本の指を全て保護する厚手の黒いグローブ。やっぱバイク用なんだろうか?あんまり詳しくはないんだよな、俺。でも、その手に持ってる物には詳しいぞ。
一つは左手に持った大きなバッグ。大きさ的にスポーツバッグだな。容量もでかそうだ。一体コンビニでどれだけ買い物する気なんでしょうね。
そしてもう一つは右手に持ったものだ。それは、約30センチくらいの長さ。コンビニの照明をよく反射する大きく、分厚い物体。触れるものすべて傷つけちまう様な、危険なギラツキを感じさせる刃と、それに対する凸凹の鋸刃。軍隊やアクション映画ではよく登場し、ナイフと言えばコレというイメージが強いが、実は、現実では武器には適さないとよく言われていて、実際、軍隊では中型ナイフとかの方が実用性が高いから使う機会も装備する人も減ってるという残念武器。
そんな一本のサバイバルナイフだった。
「動くなァ!!か、金を出せ!!」
どう見ても強盗です。本当にありがとうございました。