鼻毛
『進、今日は鼻の孔に入るぞ!』
「鼻かあ・・」
『ボクはもう準備万端さ』
「どんなこと?」
『これだよ、命綱』
「命綱?」
『ああ、また吹き飛ばされたらたまんないからね』
「僕は何を持っていこうかなあ・・」
「買い物かごを持ってるから、これからママは買い物だね」
『よし、チャンスを見つけて行くぞ』
「うん」
ママはテレビを見ながら、お茶を飲んでいる。チャンスだな!そーと近づいて僕たちは鼻の孔に飛びうつることにした。
テーブルから気づかれないように・・。
『進、これを体に巻き付けて!』
「わかった!」
僕は命綱を腰にしっかりと結んだ。
『先端にフックが付いてるから、孔に入ったらこれを鼻の壁に突き刺すんだ』
「えっ!痛そうだね!」
『仕方ないさ。ボクたちの命を守るためだ!一応突き刺す前に、ごめんなさいって謝った方がいいかもな?!』
「うん、そうするよ」
『右の鼻の孔から潜り込むぞ』
「よし!」
『せーの・・』
僕たちは同時にジャンプした。見事鼻の孔には入ったが、ヌルヌルした液体に足をとられ、滑り落ちそうだ。
咄嗟に僕は、黒い太い綱にぎゅっとしがみついた。
「ふうー」
『進、大丈夫か?』
「なんとかね」
『よし、ここの壁にフックを突き刺そう』
「うん」
『急がないともうすぐハリケーンが来るぞ!』
「ママ、ごめんなさい」
進とルイは、容赦なくフックを鼻に突き刺した!
「痛っ!なんだ?今のピリッとした痛みは・・。鼻の中に蚊でもいるのかしら」
夏子はティッシュを取り、鼻を力一杯かんだ。
『進、ハリケーンが来るぞ!気を付けろ』
「うん、わかった」
ゴー!ビュー!・・ハクシュン!!
大型ハリケーン連続攻撃を、僕たちは・・堪えた!
「ルイ、今のはいったい何なの?」
『ママが鼻をかんだんだよ。おまけにくしゃみも』
「ひえー、あのまま風に飛ばされてたら、ティッシュに丸められちゃうところだった!」
『よく頑張った!進・・』
「しかし、何でこんなにヌルヌルしてるんだ?」
『鼻水だよ。進のママはアレルギーがあるんじゃないか!?』
「ああ、そう言えばよく薬を鼻の中にシュシュってやってるな」
『やっぱりね』
「ルイ、今つかまってるこの黒い綱は何?」
『鼻毛』
「鼻毛!」
『早いところ奥まで行こう。薬をシュシュされたらえらいことだからな!』
「そうだね」
「鼻毛もまたまたジャングルだったねルイ」
『意外と多かったろう!』
ママは時々鼻毛をハサミで切っている。何のためだかわからないけど、鏡を見ながら格闘してるんだよなあ・・。
「うわ!・・ルイ、僕の体移動してないか?」
『喉の方に向かって動いてるよ』
「なんか面白いね!」
『そうか?ママの体が進をゴミだと思ってるんだな!』
「えっ・・」
『あっそうそう、さっきの鼻毛も大事な役割があるんだぞ』
「どんな?」
『鼻から入ってくる空気って、キレイなようだけど意外とゴミをいっぱい含んでるんだ。それをひっかけて体に入るのを防いでいるんだからさ!』
「そっか!じゃああまり切らない方がいいよね?!」
『そうだな。でも鼻毛が鼻の孔から見えちゃってるのもなあ・・。まあ、ほどほどに手入れは必要かもね』
「わかった、今度ママに言っとく!ほどほどにって」
『頼むよ』