平じいは生き字引
「あの島だ!おりるぞ・・」とシンジ。
「うわっ!まるでジャングルだね」
「ここは日本からどのくらい離れてるんじゃ?」と平吉。
「日本から約5000キロってとこだ。オーストラリアは意外と近いんだ。かつてはここにも人々の暮らしがあったが、数十年前からここには誰も住んでいない」
「何かあったのか?」
「なんでも幽霊が出るらしい!」
「なんだと」平吉の顔が一瞬ひきつった。
「平じい、幽霊は苦手かい?」
「そんなことあるものか!今でもばあさんの幽霊が、枕元に度々現れるんだからな・・」
「ほおー・・」
「ジャン、進、ちょっと探検してみようよ!」とロック。
「うん」
「なら私もお供するかな!」
「平じい、幽霊なんていないよね」とジャン。
「ジャンは幽霊が怖いのか?」
「あんまり好きじゃない!」
『平じいは相当苦手らしいな!』
「私を誰だと思ってる。101年も生きてきてる大の大人だ!幽霊など怖くはない」
『そうか?・・さっき幽霊って聞いただけで、顔がひきつってたぞ』
「あっ!あそこに何かいる」とジャン。
「えっ!」びびる平吉。
「なんだろう・・あっ!ウサギだよ」と進。
『平じい、ウサギにびびっててどうするんだ』
「うるさい虫!」
「野生のウサギがな・・」
『ウサギが食べる草や木の実はいっぱいあるからな!ウサギには天国さ』
「ん?どうやらそうでもなさそうじゃぞ。上を見てみな・・」
「うわ!デカい鳥だ」と進。
「ウサギを狙って旋回してるんだ!ウサギたちも気が抜けないよ」
『なるほどね』
「あれ?家があるよ」
「なんか気味悪いね」
「進とジャンでちょっと見てきてくれ!」
「はあっ?!平じいは・・」
「私はここを見張ってる!」
『つべこべ言わず一緒に行くよ平じい!』
「はい」
「誰か住んでるのかな?」とロック。
『そんなはずはないよ。ここは無人島なんだから」
「そうだよね」
「じゃあなんで家があるの?」と進。
「シンジが言ってただろう。昔は人が住んでたって!その時の家がそのまま残ってるんだな・・」
『今にも崩れてきそうだ!』
さすが男の子!進とジャンは先頭にたちその古ぼけた家に向かい、ドアノブに手をかけた。ロックもそれに続いた。
「△△△、△△△・・・」
「うっ!話し声が聞こえる・・」
「どうする進・・」
「きっと鬼か天狗だ!」
『平じい・・正気か?』
「ジャン、僕たちには魔法があるんだ!いざというときは・・」
「うん、わかった!」
「いくよ・・1、2、3・・誰だ!?」
「幽霊なのか!?」
・・「ん?私たちだよ、勇敢な戦士さん」
「えっ、なんだパパたちかあ・・」
「脅かさないでよね」
「ごめんごめん」
「私たちもこの島を探索してたところだ!」とラルフ。
「この家はもうすぐ崩れそうだ。退散しよう」とシンジ。
『平じい、鬼か天狗だって・・』
「・・・」何も言い返せない平吉。
「この先に洞窟がある!そこに行ってみよう」
「うん!」
「今度は人骨かなにかが転がってるんじゃないか?」と平吉。
「平じい、変なこと言わないでよ」
ラルフとシンジは迷わず洞窟の中に入っていった。
「天井に数千はいるぞ!気を付けろ」
「ん?ラルフ、何がいるんじゃ・・」
『幽霊!』
「ひえ~」
「平じい、そんなに怖がらなくてもいいよ。ただのコウモリだ」とシンジ。
「こら!虫、嘘つきめ」
「あそこを見ろ!」ラルフが突然言った。
「なんだ?」
「パパ、何かいるの?」
ラルフはライトをあてた。
「あれは・・」平吉は言葉が続かない。
「何かの骨だな」
『人の骨?』
「いや、形が違う。なにかの動物だろう」
「・・やれやれ、動物の骨か」
「この先はかなり狭くなってるな!岩肌が崩れ落ちたんだ。この姿だともう進めない」とラルフ。
『僕の出番だな!』
一行は小人になり、さらに奥へと進んで行った。
「こんなところに入ると、防空壕を思い出すな」
「平じい、防空壕って何?」と進。
「戦争の時に、敵の攻撃から身を守るために掘った穴のことだ」
「戦争かあ・・」
「進、ジャンそれにロック、戦争ほど悲しい出来事はない!今度のカエリコのことも、言ってみれば戦争だ。あれが欲しいこれが欲しいと言っては殺し合う。人には言葉というものがある。話し合い、確かめ合い、わかり合う!それができるのが人間なんだ」
「うん」
「そうだね」
『平じいは生き字引だな!』
「ああ、そあさ・・」
「ボス、そっちはどうだった?なんとか住めそうか」とラルフ。
「いけそうだ!潮の流れのせいか、魚もたくさんいる」
「とりあえずの場所としては上出来だな!」とシンジ。
「どうだろう、カエリコのゴリラたちも連れてきては?」
「うん、ここなら安心して暮らせるな」
「ゴリラたちもきっと喜ぶね」とロック。
「問題はカエリコに残ってる人々だな」とシンジ。
「もう一度説得はしてみる!しかし、それ以上は・・」
「わかってるさ」
シンジもラルフの思いはよくわかっていた。