シンジ
「ボス、解析の方はどうだ?」とラルフ。
「終了したさ」
「えっ!もう終わったのか」
「ああ、あっという間だ!」
「さすが世界一と言われるだけあるな」
「こんなもの子供でもできるさ」
「どういうことだ?」
「この怪物、実はただのゴリラだ!地球にいるゴリラなんだよ」
「しかし、カエリコの人々を襲う凶暴なやつらだぞ」
「そこなんだが、ただのゴリラが性格だけ凶暴な獣化している」
「育った環境かなにかが影響してるのか?」
「それでも性格は変わる。だがここまで激変はしないよ。元来ゴリラは親子愛や家族愛が強い、人間に近い面を多くもつ動物だ」
「・・例のマイクロチップが何か関係してる?」
「おそらくな!私はICの専門家ではないから断定はできないが、動物の性格を激変させるには、外部からの何らかの操作があったと考えるのが妥当だ」
「つまり、ジャック星人たちは、他の何者かによって操られているということか?!」
「そして、その陰の者こそが本当のジャック星人!」
「うっ!」
「どうしたのジョン」
「シンシアさん、あれ、あれ!」
「何よ・・キャー!」
捕らえていたジャック星人が目をさましたのだ。
「気がついたみたいだよ」
『がっちりと縛ってあるから大丈夫だよ』
「でも桁外れのパワーだよ!?」とおびえるジャン。
「パパ・・」
「ジャン、心配要らないよ」
ラルフはそう言うと、縛ってある縄をほどきはじめた。
『ラルフ、何をするんだ!』
「私らまで喰われてしまうぞ」平じいは叫んだ。
それでも構わず縄をほどいていくラルフ。
「よし、これでいい・・」
みんなそーっとラルフの陰に隠れた。
「あれ?なんか様子がおかしいな」と進。
『あの鋭い目つきがない!逆になんだか寂しそうな感じ』
「性格が変わっちゃった?」不思議な思いのジャン。
「パパ・・」
「こいつはただのゴリラだ!優しい動物の」
「えっ?」
「ボス、これはいったい?」とシンシア。
「ただのゴリラだ」
・・「つまり、これはただの普通のゴリラで、ジャック星人は他にいるってこと」
「そういうことだ」
「じゃあ、そのジャック星人の正体は?」
「まだ皆目見当がつかない。ただ、動物の性格をコントロールするなんて、かなりの科学力を持った文明の者であることは間違いない」
「そんなものが本当に我々の敵だとしたら恐ろしいことだ!」とラルフ。
「ルイ、なんだか大変なことになってきたね!」
『うん、宇宙最強の敵と戦うことになる!』
「おいルイ、脅かさないでよ」
『ラルフも言ってたろう、恐ろしいって・・』
「進、ここでもまた争いが激しくなる予感だな」
「平じい・・」
「人は欲というものがある。欲しくて欲しくてたまらないものがあると、力ずくでそれを手に入れようとするんだ。それが、どんどんどんどん大きくなったのが戦争だ!なんのために言葉があるんだ・・争いの後には何もいいことなどありはしないんだ」
『だけど平じい、向こうから攻めてきたらどうするのさ?このカエリコだって、ジャック星人が先に攻めてきたんだから、そしたらここを守るために戦うしかないんじゃないか!』
「そうだな、ルイの言う通りだ!時には、命にかえても守らなければならないものがある。特に男にはな・・」
「平じい・・」
「しかし、命とは尊いものなんだ!それだけは忘れてはいけないよ」
『ああ』
「うん」
「進!」
「何?ラルフさん」
「私はまだ進のパパに会ったことがないけど、名前は何て言うんだい?」
「シンジだよ」
「うっ!・・・」
「パパがどうかしたの?」
「いや、今度是非会ってみたいと思ってね!」
やはりあのシンジなのか・・。
「ラルフさん、シンジを知ってるのか?」
「えっ?」
「孫の夏子の旦那だよ。いいやつなんだが時々見せるあの眼光の鋭さ!あれはただ者ではない」
「平じい、気づいてたのか?」
「やはり何か秘密があるんだな」
「シンジは私の兄だ!」
「そうだったか・・」
「カエリコの人々は争うことを好まない。みんな平和主義者だ。しかし、兄は違った。戦うための魔法をいつも修行していた。いつどこから敵が攻めてくるかわからないと言ってね。そんな兄の姿が、カエリコの人々には凶暴に映ったんだろうな。兄への非難の声は日に日に強まり、ついにはこの星にはいられなくなってしまったんだ。私にも行く先を告げず姿を消してしまった。それからすぐのことだったんだ。ジャック星人立ちがこの星を侵略しようと牙を向いてきたのは・・。私は兄を必死に探したが見つからなかった」
「その男の血をひく進、だからあんな魔法が使えたということか」
「そうだ!」
「どうしたの平じい?怖い顔して・・」
「いや、何でもないよ」