1錠 100万円
「あっ!あれ親父じゃないか」テレビを見ていた義男が叫んだ。
「あっホントだわ」と美子。
「なんだって!」平吉も慌ててテレビ画面に目を移した。
そこには100歳から50歳代の平吉の写真が並べられていた。
「この写真は見たところ、同じ人の年代別の写真のようですが、並び方は若い方からこんな感じですよね」
司会者の男が写真を並び替えた。
「普通に年を取っていくならそれで正解です」
「ですよね」
「しかし、この老人の場合は違います」
「違う?・・と言いますと」
「こうなります!」
男は写真の並びをすっかり反対にした。
「これだと、年を取った老人がどんどん時間をさかのぼり若返っていってますけど・・」
「その通りです。この男性はこの時丁度満100歳でした。それがある時を境にどんどんと若返り、ついには50歳代の姿になっていったのです」
「えっ!そんなバカなことが・・」
「起こるのです!私の開発したこの秘薬を飲むだけで」
その男が手にしているのは、何の変鉄もないただのカプセル状の薬だ。
「このカプセルを1錠飲むだけで、誰でも理想の年代まで時を戻すことが出来る!」
「たった1錠ですか?」
「そうです。1カ月に10歳のペースで!」
「ボスのやつ、勝手に私をテレビにだしおって!」平吉はそうボヤいていた。
「これはそごい発明だ!おそらくこのあと問い合わせの電話やメールがどしどしと寄せられると思いますが・・この商品はどうしたら手に入るのですか?」
「通信販売でお分けしようと思います」
「気になるお値段ですが?」
「100万円」
「えっ!1錠100万円ですか」
「整形手術で若さを取り戻そうとすれば、この何倍ものお金がかかります。それを思えば決して高くはないと思いますよ!」
「ボスも強気ですね」とジョン。
「そうね!でもこの薬ならいくらだしても欲しいって女性はたくさんいるわ」
「そんなもんですかね。もちろんシンシアさんには無縁だと思いますけど」
「それどういうこと?私だっていつまでも若々しくいたいわ」
「それが女性の本音ってやつですか!」
「そう!」
「ああ、女性とは限らないか・・」
「・・そうかもね!」
「100万円!」ここにもテレビを見ていてぶっとんだ女性がいた!夏子だ。
「ママもこの薬欲しいの?」
「当たり前でしょう。今日からパパの小遣いは半分にしないと!」
「あちゃー・・」
『進、女って怖いな!』
「そうだね」
シンシアから平じいに連絡があったのは、その翌日のことだった。
「耐性セルキラーが完成したわ」
「わかった、早速ラルフ達に連絡しよう」
そして進たちは再び空を飛んだ。
「さすが有言実行、仕事が早いな!」とラルフ。
「預かったサンプルだが、やや複雑な構造式の毒素だった。少し戸惑ったよ」とボス。
「そうか、それは悪かったな」
「おかげで多種類の毒素にも耐えうるセルキラーが完成した。取り扱いには充分注意いてくれ!」
「わかった。ご忠告感謝するよ」
「よし、これを持ち帰って、ジャック星人たちをぎゃふんと言わせてやるさ!ジャン、手伝ってくれ」
「わかった!」
「うまくいくといいですね!」
「きっとうまくいくさ」
「じゃあ、気を付けて」
「進くん、また魔法の練習をしようね」
「うん」
そして、ラルフとジャンはカエリコに帰っていった。
『行っちゃったね』
「そうだね・・」
「シンシア、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか!」とボス。
「えっ?何を・・」
「とぼけないでくれ。1億匹もの耐性セルキラーだよ。どんなビジネスを始めるつもりだ!?」
「ボス、ビジネスって何のことですか?」とジョンも不思議に思い聞いた。
「何って、お前たちあのセルキラーで一儲けするんじゃないのか?」
「違いますよ!」
「じゃあ、何のために・・」
「ボスは信じてくれないかもしれないけど、ラルフは宇宙人なのよ」
「宇宙人!?」
「俺も最初に聞いたときは腰が抜けましたよ」とジョン。
「100歩譲って、ラルフが宇宙人であることはいい。その宇宙人のラルフがなぜ・・」
シンシアは最初から丁寧に説明していった。
「では、そのなんとか星人をやっつけるために耐性セルキラーを?」
「そういうことなの!」
「なんだって!」
ボスの顔がみるみる青ざめていった。体もわずかに震えているようだ。
「どうしたの?ボス」
「ボス・・?」
「あのセルキラーは元のセルキラーじゃない!」
「それってまさか・・」シンシアもジョンも凍りついた。