二つの山の先端
ジョンはホテルの前に車を停車させると、シンシアを降ろしすぐに行ってしまった。
シンシアはエレベータに乗り込み最上階のボタンを押した。
「ここはどこだ?」
『ホテルだよ。食事をしたり泊まったりするところ』
「じゃあ、平じいの家と同じだ!」
『似たようなもんだね』
「ボス、急に連絡してしまってごめんなさい」
「いや、なんだい話っていうのは?」
「セルキラーのことよ」
「セルキラー・・ビジネスの話なら職場でしよう!今日はあくまでプライベートだ」
「そうなんだけど・・」
「とりあえずシャワーを浴びておいで!話はそれからだ」
「わかったわ」
『進、ジャン、早くここから逃げないとずぶ濡れになってしまうぞ!』
「うん、でも髪の毛が多すぎて全然動けないよ」
「ボクもだー!」
『うわ、シンシアさんが洋服を脱ぎ始めちゃったよ』
「どうするルイ」
『ダメだ!もう間に合わない』
シンシアは服を脱ぎ終わると、ついにシャワーに手を伸ばした!そしてシャワーの水が勢いよくタイルを叩いたかと思うと、それがシンシアの体に移動し、頭に・・。
『みんな髪の毛にしがみつくんだ!負けたら排水口に吸い込まれるぞ』
3人は、必死に髪の毛の根元ににしがみついた。そしてシャワーの水が・・。
「うーっ!すごい勢いだ。息ができないよ」
「あーあ、助けてー!」
そんな叫びも、シャワーの音でかき消されて、シンシアの耳には届いていない。
「はあはあはあ、終わったの?」とジャン。
『まだ!今度は泡地獄だよ』
「ギャー!」
ブクブクブク・・。
そして最後の激流に、なんとか3人は耐え抜いた。
「フウフウフウ、終わったの?」とまたジャン。
『まだ!今度は熱風地獄だよ』
「ギャー!」
そしてドライヤーの熱に頭がボーッとしてしまった3人は、ついに力尽きシンシアの体を滑り落ちていった!
「あー・・」
『誰か止めて・・』
そして3人は最後の力でしがみついた!ルイは右の山の先端に。進とジャンは左の山の先端に。
その時、シンシアの視界に何かが映った!二つのオッパイにしがみつく虫と小人たちだ。
「・・ギャー!!」
進たちは、シンシアの手におもいきり弾かれていた。
何?今のは・・。シンシアは、手で弾いたその物体の行方を確認しようと足元に目を向けた。
そこには鼻血を流す小人二人と、よだれを垂らす一匹の虫がこちらをじっと見つめていた!
「ギャー!!!」
シンシアはバスルームを飛び出して行った。
『ん?・・進、ジャン、鼻血!』
「えっ?」
『興奮しすぎ・・』
「そういうルイもすごく顔がデレーっとしてるけど!」
『えっ?』
慌てて飛び出してきたシンシア。
「シンシア・・」戸惑うボス。
「えっ・・キャー」そう、シンシアは何も着ていない。
「ごめんなさい。ちょっと慌ててて」
バスローブを着たシンシアはそう言った。
「何かあったのかい?叫び声が聞こえた気がしたけど」
「・・いや、何でもないの」
「ならいいけど・・」
言えるわけないよね、虫と小人がオッパイにいたなんて・・。
「ビールでも飲みながら聞こうか?!さっきの話」
「ええ」
「セルキラーで商売でも始めるのかい?」
「うんまあ・・実は最近変な噂を耳にしたんだけど」
「どんな?」
「セルキラーを殺してしまう殺虫剤を開発した人がいるらしいのよ」
「えっ!それは初耳だな。だいたいセルキラーの存在はそんなには知られていないことだ」
「うん、でも確かな情報よ」
「それが出回ると厄介だな!」
「ボス、その殺虫剤の成分がわかれば、それに耐性のセルキラーはつくれるわよね」
「ああ、簡単なことさ!」
「私がなんとか手にいれてくるわ!だからそれが出回る前に先手を打ちましょう」
「うん。しかしどこで手に入れるんだ?」
「それは今のところ・・」
「内緒か・・まあいい、よろしく頼むよ」
「わかったわ!」
『どうやら話はうまくいったみたいだ!』
「うん、あとはパパからその薬をもらわないと」
「いったいいつになるんだろうね?」
「ただいまー」
「お帰り、二人とも遅かったな」
「平じい、シンシアさんには会えたの?」
「ああ、ちゃんとセルキラーのことも頼んできたよ」
「キレイなお姉さんだったね!」
「ん?ジャン、知ってるのかいシンシアさんを」
「・・想像しただけだよねジャン」
「えっ、うん・・」
まさかシンシアさんのオッパイにしがみついたなんて言ったら、平じいは倒れてしまう?・・うらやましくて。
「お風呂が沸いてるぞ、入ってくるといい」
「今日はシンシアさんと入ったから・・」とジャン。
「なんだって!」
「夢、ジャンは夢をみたんだよね!シンシアさんとお風呂に入る・・」
「なんだそうか。それにしてもうらやましい夢じゃな!」
「ふうっ」危ない危ない。