タバコで誘惑
「あなたたち本当に仲いいわね!」
「そう、僕達は兄弟だもん!」
「ええっ?・・よかったね弟とお兄ちゃんができて」
「ねージャン、あなたのパパはいつ迎えに来てくれるのかな?」
そういえばママまで君なしでジャン呼んでる。
「ん?わからない」
「ジャンに修行させてるんだって!」
「修行!?それはまた古風ね・・昔から、かわいい子には旅をさせよって言うから」
「何それ?」
「何って・・ちょっと待ってて」
「ママ、携帯で何してるの・・?」
「えー発表します。かわいい子には旅をさせよとは『 子供が可愛いと思うなら、親元で甘やかすのではなく、世間の厳しさを教えて育てた方が子供がしっかり育つ』と言う意味です」
「あれ?おばちゃん意味知らなかったの!?」ジャンのつっこみ!
「・・・」黙る夏子。
ストローの使い方さえ知らなかったジャンだったが、進たちとの暮らしの中で色々なことを学んでいった。『この地で修行を積め。力だけではどうにもできないこともあるんだ!』・・パパの言ってたことってこのことだったのかな。それにしてもパパは、この地球が大好きなんだよな・・。早く迎えに来てよ、パパ。
『カエリコでは今も争いが続いてるんだよな』とルイ。
「心配だね」
「うん。一緒に戦ってくれるセルキラーもどんどん数が減ってきてるし」
「でもセルキラーって、ゴキブリみたいにいっぱいいるんじゃないの?」
「それが、ジャック星人のやつらがセルキラーを殺す薬を作ったんだ。それで・・」
『セルキラー取り線香みたいなものか』
「何だいそれ?」
「僕達がセルキラーをこらしめるために使った煙」
「えー!かわいそうなセルキラー。でも仕方ないか・・」
『こうなったらセルキラーをいっぱい育てて、カエリコに送り込むか!」
「そんなこと出来るの?」とジャン。
「それに、すぐ薬でやられちゃうよ!」と進。
『だからその薬に負けないセルキラーをつくるんだ!』
「どうやって?」
『可能性はゼロではないよ・・』
「ルイ、可能性って、いったいどういう可能性があるの?」
『平じいだよ!』
「平じい・・?」
『思い出してみて!平じいの体にいたセルキラーは、明らかに普通のセルキラーではなかった。誰かがセルキラーをつくり変えたんだよ。おそらく頭のいい科学者だろうね。その人間なら薬に負けないセルキラーを生み出せるさ』
「でも、どこの誰だかもわからないよ」
『平じいなら知ってる可能性はあるよ。きっとどこかで会ってると思うから』
「平じいに聞いてみようか・・」
『そうだね』
「ママー、今度の連休に平じいのところに行ってもいい!?」
「何しに行くの?」
「何って、平じいも会いたいんじゃないかなあって・・」
「ふーん」
「よし、じゃあ、お金ちょうだい!」
「なんで?」
「新幹線のキップ買うからさ」
「そんなお金ないわよ!パパに頼みな・・」
そんなわけで、僕達は、優しいパパから新幹線のお金とお小遣いをもらって、再び平じいのところへ行ったのだった。
「平じい!」
「おお、進、それとジャンだったかな・・よく来たね」
「今日はちゃんと迎えに来てくれたんだね!」
「えっ!?」
「ほら、この前は平じいいなかったじゃん!」
「そうだったな!あの時は急にひとに連れ出されてしまって・・」
「ひとって誰?」
「私もよくわからないんだ。実はね」
『進、そのひとじゃないか?知らないひとと出掛けるなんて怪しいじゃないか・・』
「そっか!」
「平じい、その人って本当に知らないひとなの?」
「まったく知らないって訳ではないんだ。後で知ったんだが、前にも一度会ったことがある青年だった」
「その人はどこのひと?」
「さあなあ・・あっ!確か連絡先なら教えてもらったと思うがな」
「本当!?」
「ああ、たぶん家のどこかにしまってあると思う」
「進、なんでそんなことを聞くんだ?」
「うん、ちょっとね・・」
「ねー、いきなり会いに行ってもダメなんじゃない?」
「えっ?」
「会ったばかりのひとに、新しいセルキラーをつくってって言っても」
『ジャンの言う通りだ。何か作戦を考えないと』
「確かここにしまっておいたと思うがな・・おっ、これだこれだ」
「あっ、写真までついてる」
「最近の名刺は凝ってるの!」
「平じい、このお兄ちゃんに会ってみたいんだけどな!」
「ん、進が?」
「ダメかな?」
「そんなことはないがな。タバコをやると言えばすぐ来るだろうよ!」
「タバコ?」
『進、ボクたちだけだと、大人は相手にはしてくれないよ』
「じゃあ、どうする?」
『平じいを仲間に加えよう!』
「平じいを!?」
「ボクもそれに賛成!」とジャン。
「わかってくれるかなあ?平じいは・・」
・・「なんじゃと、進は宇宙人の友達がいたのか!時代も変わったもんだな・・」
「平じい、信じてくれるの?」
「当たり前さ!かわいい進のことを誰が疑うものか」
「ありがとう?平じい」
『意外と簡単だったな!』
「簡単だったね」とジャン。
「うん、簡単だった!」
そして平じいは、あの写真のお兄ちゃんに会う約束をしてくれた。タバコで誘惑したそうだ。
そして・・。
「こんにちは、お待たせしました」
「おう、来てくれたか!はら、約束のタバコじゃ」
「じいさん・・じゃあ遠慮なく」
「この子達は私のひ孫だ。進とジャン」
「はじめまして」
「それでじいさん、何か話があるんだろう?」
「ああ、お前さんの正体が知りたくてな!」
「正体が?」
「セルキラーの!」進は言った。
「えっ!」
「どうやら図星のようだな!」
平じいの鋭い視線がにらみをきかせた。
「ああ、僕はただの助手だけどね・・」