火のないところに煙は立たない
なんだか最近体が重たいな・・。この間までの軽やかさはいったいどこに行っちゃったんだ。季節は梅雨時。平吉は腰や膝に痛みをおぼえつつ、そんなことをブツブツひとりつぶやいていた。
「ボス、大変です!」
「どうしたシンシア、そんなに慌てて?」
「老いが始まっています!」
「何・・」
「あの実験中の男、若返りがとまり急速に老いてしまっているのです」
「そんなはずがあるか!私の送り込んだセルキラー達は、まだ活動しているはずだぞ」
「これを見てください」
シンシアは写真を並べた。そこには50代、60代、70代の平吉の顔があった。
「シンシア、並びが逆だろう!」
「いえ、これが正しい並びです!日付を見てください」
「・・・これは」
「明らかに、顔のしわも髪の毛の色も歳を重ねていってます」
いったい何が起こったというんだ!?セルキラーは繁殖能力にすぐれ、人間の体に半永久的に住み着くはずだ。そしてあらゆる細胞を攻撃し続ける。遺伝子を組み換えたセルキラーによって、人間の寿命でさえ大幅に延びるはずだ・・。
「シンシア、あの老人にまた接触しよう。原因を確かめる必要がありそうだ」
「わかりました」
私は元旦に義男と来た海辺に、今日はひとりで訪れタバコを吸っていた。こうやって砂の上に腰かけタバコを吸うのもいいものだ!
その時、見ず知らずの男が私のもとにやって来た。
「すみません、ちょっと火をかしていただけますか」
「ああ、いいよ」
私はライターを男に手渡してやった。
「ありがとうございます・・あれ、おじさん変わったタバコですね!それ」
「えっ、これがかい?」
「ええ、ちょっと銘柄を見せてもらえませんか」
「これだが・・昔からある安いタバコさ!」
「安い?」
「一箱250円だ。吸ってみるかい!?」
「じゃあ1本・・なんかキツそうな感じだなあ。おじさん、やっぱり僕自分のを吸うよ」
男は1本私のタバコこを抜き取ってはみたが、吸う直前でやめ私に返してきた。
「そうか!じゃあ私がもう1本吸うか・・」
私は男が取り出したタバコに火をつけた。
「おじさんはタバコが好きなんですか?」
「ああ!この歳になるとこれだけが楽しみなんだ」
「歳ってまだ若いでしょう」
「いくつに見えるね?」
「70歳前半かな!」
「100歳じゃよ」
「えっ!?全然見えないですよ」
「そうかい。数ヵ月前はもっと若く見られてたんだ。顔のしわなんか全然なくてな」
「えー、おじさん、それは言い過ぎでしょう。整形でもしてたの?」
「いや、なぜか知らんが急に体が若返ってきたんだ!まあ、信じられんだろうがね」
「へー・・でなんでまた歳をとり始めたんだい?」
「そっちの方も皆目見当がつかないね!」
「その頃何か変わったことはなかった?」
「変わった?」
「おじさんの体で・・」
「はて・・ああ、耳と鼻の穴から煙がもくもくと出てきたことがあったな。みんな私が燃えてるとかいって、顔に水を思いきり掛けられたよ!」
「煙が・・ですか?タバコの煙じゃなくてなの」
「私はその時タバコは吸ってなかったよ!」・・。
「ジョン、どうだった?」シンシアは聞いた。
「それが、数ヵ月前に体が燃えたって!」
「何よそれ?」
「なんでも耳と鼻の穴から煙がもくもくと出てきたことがあったって・・」
「タバコを吸えば鼻から煙ぐらい出るわよ」
「いや、吸ってなかったって!その時は」
「燃えてたの?本当に・・」
「さあー・・」
「そんなことボスに報告できないな」
「うん、でもボスなら何かひらめくかもよ!」
「だといいけどね」
二人は車を飛ばしボスのところへ急いだ。
「煙・・・なんだそれは」
「やっぱり関係ないですか」とジョン。
タバコも吸ってないのに、なぜ煙が体から出てくるんだ?
「火のないところに煙は立たない」
「何よそれ」とシンシア。
「ジョン、それだ!」
「えっ?」
「殺虫効果のある煙だ」
「蚊取り線香ね!」
「ああ」
「でも、体の中で火をたくのは不可能だよ」
「そうね、小人でもいないかぎりダメだわ」
「ボス、やはりムリがありそうですね」
「・・・」
「親父、最近老けたか?」
「そうね!顔のしわとかも少し目立ってきた感じだわ」
「でも、まだまだ普通よりは若いんじゃない!」
義男と美子と悟史は平吉に対する感想を口にした。しかし平吉は、淡々と酒を飲んでいるだけだった・・。
「ねーママ、夏休みは平じいのところに行くんでしょ!?」
「うん、お盆休みにね!」
「お盆って?」
「8月13日よ」
「そんなに遅いの!じゃあ僕、ひとりで先に行ってようかな」
「ひとりで?」
「だって僕もう2年生だよ!」
「まあ、新幹線に乗っちゃえばすぐだけどね」
「よし決まり!」