奇跡かあ
そして5月・・。
「平じい・・」
二郎は私の顔を見るなり言葉を失っていた。
そうなんだ、最近の私は、自分でも気づくほど人相が変わっていたのだった。やや白髪はあるものの、髪の毛はふさふさ、顔のしみはきれいにとれ、しわも目尻だけで肌もつやつや・・。どこからみても50歳代の初老の男性だ。二郎がぶったまげるのも無理はない、100歳の老人が、自分と変わらぬ外見をしているのだから。
「平じい、新陳代謝ってわかるだろう。人の体では古い細胞が新しい細胞にとって変わる新陳代謝が常に起こっている。年齢とともにその新陳代謝は活発さを失っていく。それが老化なんだ」
「すると私の体で起こっている新陳代謝は、若いときと同じぐらい活発だということなのか」
「うん、むしろそれをはるかに上回っているんだろうな」
「そんなことってあり得るのか?」
「人は少しでも若さを保とうと、この新陳代謝の衰えを食い止めるため色々試してはみるけど、なかなかうまくはいかないのがほんとのところさ。まして平じいのようなケースは通常では考えられない!」
「私は異常なのか?」
「異常ではなくて特殊って言った方が適切かな」
「まさかこのままどんどん進んで、やがて子供の体になり、赤ん坊になんてことはないよな!?」
「そんなことあるわけないじゃない!」
「そうか・・」
「でも、そんなことで体にはかなりの負担がかかっていることはまちがいないよ。それには用心しないといけない!」
「用心ねー・・」
若返るのはすごく嬉しいことだが、ものには何でも限度というものがある!この100歳にもなる老人の顔が、赤ん坊のようになってしまったらそれこそお化けだ!
その頃・・。
「シンシア、その後効果の方はどうだ?」
「我々の予想通り、1ヶ月に約10歳のペースで若返っています」
「うん、順調か!」
「はい!これが効果を示す証拠写真です」
「ほう、なるほど・・」
机に数枚の写真が並べられ、そこにはここ4ヶ月の平吉の顔がアップで写り、詳細の記されたメモが添付してあった。
100歳の老いた顔から始まり、95歳、90歳・・・70歳、65歳。並べる順が反対ではないかと錯覚してしまうが、この時間を後戻りする並び方こそが、今の平吉の人生なのだ!
ついには平吉の家族でさえ、この奇妙な若返りを不安に感じ始めていた。
「平じい、なんだか親父よりも若く見えるよ!」
「そうね、私も同感だわ!」
「息子の俺が言うのも変だけど、親子って感じが最近しなくてさ、まるで兄弟だよ!しかも俺の方が兄貴でさ」
「奇跡かあ!」そんな言葉が悟史の口をついた。
「そうだ、ゴールデンウイークに夏子ちゃん達が遊びに来るって!」
「そうか、正月以来だな!」
夏子は平吉の長女の子供。進は平吉のひ孫だ。