入園式
そして4月・・。
今日から凛も保育園に通い始めるらしい。別に呼ばれているわけではないが、ひ孫の晴れ姿を人目みたくて、こうして保育園まで来てしまった。
「おっ、やってるやってる」
私はそーっと会場に忍び込み、様子をうかがった。はて、凛はどこにいるかな・・?
保護者は、子供たちの母親と思われる若い女性が大半で、何人か年配のご婦人の姿も見受けられるが、みんな60歳代ぐらいだろうか。私からすると子供のような年頃だ!
その時だった。司会役の女性があることを言い出したのだ。
「この会場に唯一、男性の保護者の方がおみえです。お歳からお察しすると、お孫さんのためにいらしてくれたのでしょうか」
そして、主役の子供たちが一斉に後ろを振り向いた!
「あっ!平じい」
凛の大きな声が会場に響いた。
「あっ、わかりました。凛ちゃんのおじいちゃまですね!」
私は燃えるほどの熱さをりょうほうの頬っぺたに感じていた。
「せっかくですので、保護者を代表して何かお言葉をお願いできますか!?」
なにー!そんなことは聞いてないぞ。
「じゃあ凛ちゃん、おじいちゃまを迎えにいってあげようか!」
「はーい!」
そんなこんなで、私はひとつ高いところまで引っ張り出されてしまっていた。私の隣には凛が立っていてくれている。
「凛ちゃん、おじいちゃまのことはいつもなんて呼んでいますか?」
「平じい!」
「平じいですか!じゃあおじいちゃまは何歳ですか?」
「平じいは100歳です!」
「えー!」
凛のその言葉を聞いた瞬間、会場の保護者たちからは、信じられないといったざわめきが、大きく沸き起こった!
益々私は赤面してしまうことに・・。
「おじいちゃま、本当に100歳でいらっしゃいますか?随分とお若く見えますよ」
「本当に100歳よ!この間誕生日会やったもん」
「はい、お恥ずかしながら満100歳になりました」
「そうでしたか。それはおめでとうございます!」
「では、私はこれで・・」
「ありがとうございました。皆さん、この素敵なおじいちゃまにもう一度拍手をお願いします・・」
・・ああ、参った参った。
これじゃまるで私が主役じゃないか!まあ、めったにあることでもない。素直に感謝するとしよう。
いつものように3人で晩酌をしていると、不意に一本の電話が掛かってきた。
「親父、凛からだ」
「あーあ・・もしもし凛ちゃんかい」
「平じい、今日は凛のどこに来てくれてアリガトネ!」
「うん、保育園ではお友だちがたくさんできるといいな」
「うん」
「また、パパとママと一緒に遊びにおいで!」
「うん、じゃあねーバイバイ」
「バイバイ」
「凛は何だって?」
「何かおねだりでもされた?」と悟史。
「いや、凛は今日から保育園なんだよ」
「あっ、そうだったわね!」美子は思い出したように言った。
「平じい、よくそんなことは知ってたね」
「前に凛から聞いてたからな!・・とても可愛かったぞ」
「可愛かったって、親父行ったのか入園式に!?」
「うん、ちょっと覗いてみようと思ってな」
「すごい行動力じゃんか平じい」
「まあーな」
そこで前に出て挨拶までしたこと、とても若く見られたことを言おうとも思ったがやめておいた。
最近は、息子の義男が妙に老けて見える。おそらく私の体が若返っていることで、相対的にそう感じてしまうのだろう。
いったい私の体は、どこまで若返っていくのだろうか・・。