虫歯バイ菌
「あれ?こんなに減っちゃってるわ」
「どうしたのママ?」
ママはコロンの瓶を不思議そうに眺めている。
「量がだいぶ減ってるなと思って」
「そう・・」
僕は話題を変えた。
「ママ、鼻毛って意外と大事なんだよ。吸い込む空気の中のゴミをとってくれるんだから!」いきなりすぎる進。
「えっ、どうしたの進、そんなことを急に」
「だってママ、鼻毛をいつも切ってるじゃんか」
「そんなところまで見てたの。あれは身だしなみよ!ママだって、鼻毛が大事な役割をしてることぐらい知ってるからさ」
「ふーん、とにかく切りすぎ注意ね!」
「・・・」なんと言葉を返していいか迷う夏子だ
「ところでママ、この前、歯が痛いって言ってたよね」
「あーあ、でもいつの間にか治っちゃったわ」
「そうなの?!じゃあ虫歯バイ菌がおやすみ中なのかな」
「そうなのかもね」
せっかく虫歯の事を忘れてたのに、進のおかげで思い出しちゃったな。なんかまた疼きそうだわ・・。
夏子の予想通り、午後になって歯が痛みだした。
「ルイ起きて!ルイ」
『進どうした?』進の耳から顔だけだ出してきたルイ。
「ママが歯が痛いって!虫歯バイ菌がまたいたずらしてるんだ」
『虫歯バイ菌だって?』ルイは机の上にとびのった。
「だからこれでやっけてやろうと思って」
進の手には金づちが握られている。
そして進のからだは、ルイの魔法で小さくなった。
「はいこれ!」
『何これ?」
「釘を抜くバールさ」
『これで何をするの?』
「決まってるじゃん。虫歯バイ菌をやっつけるのさ!」
ルイは複雑な気持ちでバールを受け取った。
「ほら、ママ痛がってるだろう」
『そうだな』
「右下の奥歯だってさ!」
『そうみたいだね。右の頬っぺをさすってるから』
「よし、虫歯バイ菌退治に出発!」
進とルイはママの口の中に忍び込んだ。
「うわ、ベロが邪魔でなかなか奥まで行けないな!」
『進、ベロに吸い付かれたら逃れるのが大変だ。注意しろよ」
わかってるけどさ!くねくねしてて、よけるのが精一杯だよ。
『進、ママにはちょっと悪いが、ボクの腕のノコギリでベロの先端を突っついてやる。そしたらママは思わずベロを口の外にベーってするはずだ。その時に奥まで潜るぞ!』
「わかった」ママ、少しだけ辛抱してよ。
シャイーン!ルイのノコギリが鈍く光った。
そして一撃!
「痛いっ!」思った通り、ママはベロをベーっと外に出した。
僕は素早く奥歯のくぼみに入り込んだ。ルイもこちらにまっしぐらにやって来た!
『うまくいったな』
「うん、確かこの歯のはずなんだけどな・・」
『進、虫歯バイ菌ってやつ本当にいるのか?』
「いるよ!そいつがイタズラすることで歯が痛くなるんだから」
『なるほど』
「あっ!ここじゃないか。ほら」
『あっ、茶色っぽい穴があいてるな!』
「でも姿が見えないね?虫歯バイ菌の」
『しょうがない、この穴はおそらく虫歯バイ菌のすみかだよ。だから、ここを壊してしまえば、虫歯バイ菌はもう来なくなるんじゃないか』
「そうだね、きっとそうだ!」
『やるか?!』
「やろう!!」
僕は金づちを、ルイはバールを高々と構えた!
「せーの、えーい!」
僕とルイは、交互にその虫歯バイ菌のすみか?を攻撃した。
「よいしょ!」バキーン。
『よいしょ!』バキーン。
「ギャー!痛い痛い痛い・・」
こうして夏子の頬っぺは2倍、3倍に腫れ上がったのだった。