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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

乙女ゲームを舐めるな、死ぬぞ

作者: 旭日暮きと
掲載日:2026/05/18




「まず一つ。世間一般で流行ってる悪役令嬢モノは基本乙女ゲームの世界が舞台となってることが多いがアレは基準にしてはいけない」

「そうなの!?」

「アレらはあくまでも"乙女ゲームの中の悪役令嬢"までがセットで成立してる最早別ジャンルだから。悪役令嬢モノを基準に考えたら純粋な乙女ゲーム世界では生きて行けない」

「どう違うの?」

「まず悪役令嬢モノで多いのが"光"の主人公と"闇"の悪役令嬢の対比だ。基本主人公は光属性で平民だったり低位の貴族出身だったり高位でも理不尽に虐げられてたりするけれど、それとは対象的に身分の高い悪役令嬢がその光属性を妬んで主人公を虐め抜いたりする設定が数多い。何故ってわかり易いからね」

「うんうん」

「そこで悪役令嬢に転生した現代の草臥れたOLやらオタク喪女やらTSしちゃったオジサマやらが現代日本から持ち込んだ良識や知識で無双し気付けば逆ハーを築いていく。場合によっては主人公に転生した闇のオタクが逆に悪役令嬢を虐め抜いて自滅していく。その辺が様式美となっている」

「うんうん」

「しかし」

「うん」

「それ全部役に立たない」

「なんで!?」

「まず悪役令嬢って大抵の乙女ゲームに存在しないの」

「そうなの!?」

「ヒロインである主人公と敵対する存在は幾らか居るけども、それも攻略対象であることが多いんだわ。ていうかまず舞台が中世ヨーロッパをモチーフにしたファンタジーっていうのがあんま見たことない」

「じゃあなんで悪役令嬢モノって大体がそうなの!?」

「わかり易いからね」

「またそれ!!!!」

「キラキラした世界の非日常で、キラキラした攻略対象と華やかなファンタジー世界を生きる。みたいな?」

「まぁ確かに現代日本と比較したら大分わかり易い差別化が出来るね……」

「でも面白いよ。攻略対象たちを敵に回さないように普通に立ち振る舞ったら逆に全員から矢印向けられたとか、反対に何やっても悪役令嬢補正が働いて徹底的に疑われて結局攻略対象と主人公全員が国ごと自滅したりとか、そもそも家も国も婚約者ごと捨てて新しい人生歩み出すとか。土台は同じ筈なのに無限に色んなパターン出てくるの悪役令嬢モノ奥が深い」

「読んでるんだ……」

「読んでなきゃこんな話出来ないんだけど」

「そうでした」

「んでね、そういった悪役令嬢モノに出てくる乙女ゲームと何が違うかってね」

「うん」

「そもそも主人公のポジションが光であるとは限らない」

「おおっと」

「まず主人公が攻略対象全員から敵意向けられてるとこから始まるパターンも珍しくない」

「ドM嗜好なの???」

「そもそも主人公死にかけたり殺されかけたりデッドエンドも珍しくない」

「乙女ゲームなのに殺伐としてるよ!?」

「キャッキャウフフするだけが乙女ゲームではない」

「アッハイ」

「そもそも現代日本で生きていた主人公が唐突に血みどろの戦場放り込まれたり行方不明になった身内探しに行ったらヤバいもの見ちゃってそのまま軟禁監視して殺されないように頑張るとこから始まったり」

「乙女ゲームこわい」

「初手記憶喪失だったり天涯孤独で一人暮らししてたり唯一気を許した身内同然の相手にほんとは騙されてたり」

「乙女ゲームこわい」

「だからね、悪役令嬢なんていなくても基本主人公はハードモードなんだよ。勿論そんなことないキャッキャウフフから始まる系のものもちゃんとあるけど」

「それって結末は」

「場合によっては各ルートちゃんと死ぬ」

「ちゃんとって何!?」


「それでね、本題はね」

「はい」




「この世界、主人公ガッツリハードモード(戦闘アリ)で攻略対象全員味方とは限らない乙女ゲームです」

「だと思った!!!!!!!!!!」




血を吐くような叫びがとある神社の境内に木霊した。

石で出来たベンチには二つの人影。

頭を抱える特にコレと言って特筆すべき点のない容姿の男子高校生、強いて言うなら大きなメガネ掛けたメガネキャラ。それだけ。

あまり顔色を変えずに淡々と黙々と語っていた喉を潤す為にお茶のペットボトルを傾ける女子高生、焦げ茶のセミロングヘア。


この二人、パターン通りの転生者である。乙女ゲームに転生した系の。


「まぁどんくらいハードモードかっていうと、普通に暮らしてた女子高生だった筈の主人公がある日突然通学路近くの神社でバケモノに土手っ腹穴空けられて、瀕死の状態だったのをどうやったか生き延びてなんとか家に帰ったんだけど、自分が人間じゃなくなったことに気が付いて元に戻る為にバケモノ相手に死闘を繰り広げていくっていう程度のハードモードなんだけど」

「ねぇ待ってそれ乙女ゲームのあらすじ?バトル系少年漫画の間違いでしょ???」


頭を抱えながらメガネはツッコミを忘れない。

そして語る方の口も止まらない。


「それでまぁバケモノと戦っていく過程で出会うのが攻略対象キャラの面々な訳ね。そっちは面倒だから割愛するけど」

「ねぇ嘘でしょ一番大事なとこ端折ったよこの人???」

「総勢6名のクソ重たい10tトラック6台分のヘドロ無理矢理飲み下したみたいな話ここで全部聞きたい訳?」

「あっいいです続けてどうぞ」

「うん、それでそのハードモードヒロインがうちらのクラスメイトの御神本(おかもと)(ほまれ)ちゃんなんだけど」

「ごめんなさいやっぱちょっと待って」


情緒が忙しないメガネくんである。


「おかもと……御神本さん?って確か、今度体育祭のリレーでアンカーに決まったあの?」

「うんそう」

「お昼のお弁当にピーマン入れるか入れないかでお母さんと何度もバトってて、昼休みは友達とプチプラコスメの話題で盛り上がってて、放課後はコンビニで買い食いするのが生き甲斐と言って憚らない、あの?」

「うんそう」

「嘘でしょ何のバグだよ!!!!」

「君の情緒がバグってるよ」


メガネくんが発狂するのも無理はない。だって彼が今述べた通り、名前を出された御神本誉は至って何処にでも居そうな愉快タイプな女子高生だったからだ。

友人関係は広くはないが努めて明るい。容姿もそこそこ整ってはいるが日本人としては平均的で、とてもそんなハードモードなカルマを背負い込まされる主人公とは思えない性格をしている。


「って、アレ……その、御神本さんがバケモノに襲われた神社って……?」

「うん、ここ」

「なんっっっで!!!!!!」


飛び上がってメガネくんはキョロキョロ辺りを必死に警戒する。

木々に囲まれてはいるが鬱蒼とはしていない、空気の澄んだ普通の神社である。すぐ近くの道路には車も人通りもあるし、手水場の龍の口からはチョロチョロと水音が絶えない。


「なんっでそんな場所指定して長々話するかなぁ!!!!え?バケモノ?ここバケモノいるの!?」

「いないよもう。御神本さんが襲われたの先月だし」

「えっ」


もう話始まってた。

つまり今日もお昼にピーマンの肉詰めと格闘していた御神本誉はとっくに人間じゃなくなってたという訳だ。

メガネくんは頬を引き攣らせた。


「あ、あの……その、バケモノって一体……?御神本さん、人間じゃなくなったって……」

「バケモノは何ていうか……とある連中が外から持ち込んだ外来種みたいなもので、とある目的で持ち込んだはいいものの制御し切れずに解き放たれて、結果この町に居着いちゃった、みたいな?んで、それに襲われて生き残った御神本さんはそのバケモノと半分身体が融合しちゃって、そのままある程度時間が過ぎると完全に人間としての形を失っちゃうからバケモノの親玉倒して元に戻る方法を手に入れる、的な」

「やっぱりバトル漫画だ……」

「まぁでもとりあえずは人間として生活出来てるからまだいいんだよ。問題は何の手掛かりもなしに融合が進んだ場合。彼女は家に帰れなくなる」

「え……もう見た目が変わっちゃう、とか?」


恐る恐る聞いたメガネくんに落とされたのは、もっと悍ましい現実だった。


「人間を食べたくなる」

「…………え?」

「バケモノとの融合が進んだ彼女は、実の家族を美味しそうと思い始めてしまう。昼間に学校に居る間はまだ制御出来てるけど、自宅に戻って少しでも気が緩むと家族を食べたいと思ってしまうようになる。それは人間とバケモノの融合化を果たした彼女だけに現れる特有の症状で、それを自覚した彼女は家に帰れなくなり場合によってはそこでデッドエンドになるんだ」


あまりの展開にメガネくんは口元を押さえた。

ピーマンの肉詰めと格闘している彼女が……御神本さんが。家族を、人間を、食べたがるようになるだなんて。

込み上げてくる吐き気を懸命に堪えるメガネくんを一瞥し、焦げ茶の髪の少女は話を続ける。


「でもまぁ、それは何の進展もなく話が進んだ場合であって。そうじゃなきゃそんな症状も現れないよ」

「そうなの……?」

「それ以外にもデッドエンドフラグはいくらでもあるしね」

「なんにも安心出来ない!!」


慰めでも何でもない断言にメガネくんのメガネが曇る。

そんなメガネくんにふと少女は疑問をぶつけた。


「そう言えば、何でこの世界に疑問を持ったの?私は元からこのゲーム知ってたからすぐわかったけど、君は元ネタ知らなかったんだよね?」

「あ、うん……元ネタのゲームは知らなかったけど、悪役令嬢モノは従姉妹がよく読んでたから、何となくノリというか流れが理解出来て…………あと、」

「あと?」

「この、制服が……どうしても、二次元系のデザインにしか見えなくて……」

「…………ああ」


少女も納得するしかなかった。

二人が身に纏う制服。基本はセーラー服だが、白い襟に濃い焦げ茶を基調とした和風テイストが滲むデザインである。確かに現実というか、現代日本ではあまり見ないタイプだ。

ちなみにメガネくんのは学ランだが、何故か詰襟にタイブローチがついているのだ。謎デザインだ。

確かにそれなりの知識があれば疑問に思って発想が浮かぶかも知れない。


「私はこのデザインと世界観が気に入ってこのゲーム始めたからね。メガネくん見る目あるね」

「メガネくんって……名前で呼んでよ」

「あー………………何だったっけ?」

「席隣なのに!!!!!!」




うっかり教室で「これ何てアニメかゲームの世界かな」と溢してしまったメガネくんとそれをばっちり拾ってしまった少女の「乙女ゲームの世界だよ」から始まったこの物語。

もしかしたらラブコメになるかもわからない。

もしかしたら続く……かも。

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