地味職【重力使い】は不要と追放されたけど、元仲間が土下座しに来るくらい出世しました~荷物持ちと見下された俺、今や王国最強Sランクパーティの中心です~
連載候補の短編です
「ガイア! おまえを、このパーティから追放する!」
その言葉が出た瞬間、宿屋の一室がしん……と静まり返った。
ここは、王都メルヴァール近郊。Sランク冒険者パーティ【黄昏の竜】が遠征から戻り、勝利の酒盛りをしていたはずの場所だ。
その中心にいたのは、パーティのリーダー、オクレール=ウォートル。筋骨隆々の大剣使いで、勝気な性格の男だ。
そして、その彼が真っ赤な顔で酒をあおりながら、俺に指を突きつけていた。
「……え?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
俺――ガイア・グラヴィスは、Sランクパーティ【黄昏の竜】の一員として、今日まで任務に参加していた。
特に今回は、危険等級Sの地岩竜を討伐したばかりだったのだ。
「おまえ、もういらねえんだよ」
「……冗談だろ、オクレール」
「本気だ。おまえはもう、用済みだ」
あまりに唐突な追放宣言に、俺は思わず立ち上がる。周囲には、他のメンバー――メスガッキとイエスマが座っていて、それぞれ嘲笑気味の顔をしていた。
「そーよガイア。あんた、戦闘じゃまっっったく役に立ってないしぃ~?」
「でゅふふ、後ろから付いてきて荷物持ってるだけの存在ですからな!」
二人の言葉に、胸の奥がじわじわと熱くなる。
……こいつら、本気で言ってるのか?
──この世界では、生まれながらにして“職業”と呼ばれる力を授かる。
それは神より与えられる“生きるための才能”であり、冒険者という職業においては、戦闘能力を左右する最重要の要素だった。
剣士、魔法使い、僧侶、盗賊――そういった戦闘系のジョブは、前線で敵と戦い、仲間を守り、パーティの力となる。
……そんな中で、俺に与えられた職業は【重力使い】だった。
初めてそのジョブ名を聞いた時、俺自身も困惑した。
重力を使う……?
意味がわからなかった。攻撃力は無いし、回復もできない。火や氷のような魔法を操るわけでもない。
ただ、物の“重さ”を変えることができるだけの、地味な職業。
その能力で、俺は“ポーター”――荷物持ちとして、このパーティで役割を得ていた。
アイテムや素材の持ち運びを補助し、魔法使いや盗賊の身軽さをサポートし、誰よりも地味に、裏方として貢献していた。
……それが、今日。
討伐の帰り道、ある魔道具を手に入れたのだ。
「こいつを見ろ、ガイア。これが何かわかるか?」
オクレールが見せつけるように、小さな革袋を持ち上げる。
深い藍色の装飾がほどこされた、それは明らかに高級品だ。
「それ……【無限収納の魔法袋】か」
「そうだよ。容量無制限、重量無視。素材でもポーションでも、ガンガン詰め込める。これさえあれば……」
にやりと笑うオクレールの顔が、まるで悪戯をたくらむ子供のようだった。
「おまえ、いらねぇんだよ」
──ああ、そういうことか。
俺が今まで評価されていたのは、“荷物を軽くする”能力が便利だったから。
でも、この魔法袋があれば、もう重さなんて関係ない。荷物も素材も、誰かが持つ必要なんて無い。
なら、ポーターは用済み。
「おまえのジョブ、【重力使い】だっけ? 名前からして地味だし、何ができんだよって話だよなぁ?」
「ま、攻撃魔法もねーし、剣も振れねーし、せいぜい荷物軽くするだけって……それ、ジョブって言えるの?w」
メスガッキとイエスマの追い打ちに、ぐっと唇を噛む。
言いたいことは山ほどあった。
たとえば、オクレールが使ってる【竜殺し】の大剣は、もともと重すぎて扱いきれない代物だった。
それを俺が重力操作で軽くし、振れるようにした。
たとえば、メスガッキが敵陣に潜入する時、俺が彼女の身体の重さを極限まで軽くし、無音で動けるようにした。
たとえば、イエスマの土魔法も、岩弾を軽くすることで、より遠くまで撃ち出せるようにしていた。
……全部、言ってやろうかとも思った。
でも、彼らは最初から、俺が“ただの荷物持ち”であることにしたかったのだ。
俺の能力がチームに不可欠だと認めてしまえば、自分たちの見方が間違っていたことになる。
だから、気づかないフリをした。都合のいい道具として扱って、それが壊れたら捨てるだけ。
そんな扱いを、ずっと、されていたんだ。
「じゃ、そういうことで。ガイア、おまえは今日で追放だ」
「もう、あたしたちの前に顔出さないでね~。気分悪くなるしぃ」
メスガッキが、オクレールの腕にしなだれかかりながら、にやりと笑う。
その光景を、俺はただ黙って見つめた。
何も言い返さず、何も主張せず。
荷物も持たず、扉に手をかける。
「……わかった。じゃあ、元気でな」
扉を閉める瞬間、背中越しに最後の声が届いた。
「二度と戻ってくんなよ、雑魚が!」
☆
俺の名前はガイア・グラヴィス。職業は【重力使い】。
十五の歳で、冒険者パーティから追放された。
いや、正確には──最初から俺は、必要とされていなかったのかもしれない。
ただ荷物を持つだけの“地味職”として、便利に扱われて、代替品が手に入ったら切られた。それだけのことだ。
「……あーあ。これが俺の冒険者人生だったってことか」
街道沿いの丘を歩きながら、自嘲気味に呟く。
剣も振れない。派手な魔法も撃てない。何かを回復できるわけでもない。
“重さを変える”──それだけの能力。
師匠は言っていた。
『重力は、見えない力だ。だからこそ、理解されにくい。だが、見えない力こそが、世界を支えているんだよ』
けれど、誰もそのことを知らない。
誰も、重さが“ある”ということの意味を、考えようともしない。
俺自身ですら──心のどこかで、「この力には価値がない」と、そう思っていたのかもしれない。
そんな思考を打ち切ったのは、前方から聞こえてきた、ガタン! という激しい衝突音だった。
「うわっ!? 完全に車輪外れてるってば!」
「リィナ……どうしよう……動かないよぉ……!」
街道の先で、少女たちの悲鳴が上がっている。
木製の荷車が、傾いた状態で道をふさいでいた。片輪が完全に外れており、地面に食い込んでいる。
その傍らには、剣を背負った少女と、小柄な魔法使い風の少女。
どちらも十代半ばくらい。駆け出しの冒険者……いや、まだ“なりかけ”かもしれない。
「くそっ、こんなとこで立ち止まってたら、魔物に狙われるってのに……!」
剣士の少女が歯を食いしばる。
その姿を見た瞬間、足が勝手に動いていた。
……ああ、俺ってやつは。
助けを求める声を聞くと、やっぱり動いてしまう。
……村を追われ、途方に暮れていた自分に、重なって見えてしまうから。
「おーい、大丈夫か?」
俺が声をかけると、ふたりが一斉に振り返った。
剣士の少女が、やや警戒した目でこちらを見る。
「えっと……あなたは?」
「ただの通りすがり。もしよかったら、手伝おうか?」
沈黙。視線。
だが、すぐに魔法使いの少女が一歩前に出て、おずおずと頭を下げる。
「……おねがい、します。わたしたち、もうどうにもならなくて」
荷物はびっしり積まれている。物資だけで数十キロはありそうだ。車輪の壊れた荷車を押すのは、素人には無理だろう。
「まずは、これを……軽くしてみるか」
手をかざし、静かに息を吸う。
「──減重」
荷車の下から、空気の層が浮き上がるような感覚。
木製の骨組みが、わずかに持ち上がり、地面の沈み込みが消えた。
「え……? あれ……動いてない……?」
「試してみて。押してごらん」
リィナが半信半疑で手をかける。
――スッ。
さっきまでびくともしなかった荷車が、抵抗もなく前に進んだ。
「うそ……めっちゃ軽い!?」
「なんで!? これ、荷物抜いてないのに……!」
ふたりの目が大きく見開かれる。
「重力を、軽くしたんだよ。中身も荷車も、ぜんぶまとめて」
「……あんた、何者……?」
リィナがぽつりと呟いた、その瞬間だった。
――ぐおぉおおおっ!!
森の奥から、耳をつんざくような咆哮。
見ると、熊のような魔物が茂みをかき分けて現れた。筋肉質な体躯。鋭い牙。見た目でわかる、やばいやつだ。
「やばっ! マジで来たじゃん!」
「ノエル、逃げるよ!」
ふたりが荷車を押して走り出す──が、荷車は道幅ギリギリでスピードが出ない。
魔物の脚力なら、すぐ追いつく。
「っ……!」
俺は魔物の進路に立ちふさがり、右手を構えた。
「止まれ……! 加重!」
大気が、びり、と揺れた。
魔物の足元の地面が、ぐしゃりと潰れるように沈み込む。
重力の圧力が、一点に集まる。
ずしん。
魔物の前脚が、地面にめり込んだ。
身体が、止まった。
動けない。這っても立ち上がれない。
「──いまだ、行け!!」
ふたりが振り返り、全力で荷車を押し直す。
俺も走り、後ろから押し加勢する。
魔物の唸り声を背に、俺たちは走った。
そして、数分後──
「見えた、街の門だ!!」
「やったぁ……!」
門番の兵士が気づいて駆け寄ってくる。
俺たちはそのまま荷車を押し込み、ようやく、安全圏へたどり着いた。
魔物の姿は、もう見えなかった。
俺はその場に膝をつき、大きく息を吐いた。
「……ふう。なんとか、なったか」
すると、横から声がした。
「……あんた、すごいね」
リィナが、じっと俺を見ていた。
「助けてくれて、本当にありがとう。あんなの……あたしたちだけじゃ、絶対無理だった」
「いえ、ほんとに……ありがとうございました」
ノエルが深々と頭を下げる。
「おまえらこそ、よく頑張ったよ。あと少し遅れてたら、やばかったな」
「ねぇ……名前、教えてくれない?」
「……ガイア。ガイア・グラヴィス」
「わたしはリィナ。こっちはノエル、妹みたいなもん。ふたりで冒険者を目指してるの」
――ああ。
見知らぬ誰かを支えたことで、今、ほんの少しだけ、自分の存在を許せた気がした。
重力は、見えない力だ。
けれど。
誰かの“歩み”を、支えることはできる。
俺は、もう一度そう思い直すことができた。
☆
俺たちは一旦、街へ戻った。
ギルド近くのベンチに腰を下ろしながら、リィナたちの事情を聞く。
「なるほど……お前たちは駆け出しの冒険者で、隣町に荷物を届ける依頼を受けてたわけか」
赤毛の剣士リィナが、こくんとうなずいた。
「うん。でも……魔物が出るなんて思わなかったんだよ」
「……ギルドの人も、あの辺りじゃ魔物は出ないって言ってたしね」
青髪の魔法使い、ノエルが小さくため息をついた。
状況は日々変わる。前に出なかったからって、今も安全とは限らない。
「どうしよう……依頼、受けちゃったから。未達成だと、違約金取られちゃうよ……」
依頼に失敗したときのペナルティ。それは駆け出しにとってはなかなか痛い。
リィナが不安げに唇をかむ。
……なんというか、こういうのを見ると放っておけないんだよな。
「届け先は、隣町だったな?」
「うん。……けど?」
「だったら、俺も一緒に行く。俺もそっちに用がある」
その言葉に、リィナの顔が一気に明るくなった。
「ほんと!? 助かるよっ!」
「……こちらとしてもありがたいです。あなたの重力魔法には興味がありますし、ぜひ同行を」
ノエルは目を輝かせながら言った。
この子は、俺の力に純粋な好奇心を抱いているようだ。
「よし、じゃあ三人で出発しよう」
「おー!」
「おーです!」
☆
荷車を引いて、再び街道を進む。
俺は【減重】で荷車全体の重量をゼロに近づけている。魔物の素材や食料がどっさり詰まっているはずだが、リィナでも楽に押せるはずだ。
「うわぁ! 軽い軽い軽〜い! ガイアさんって、マジで重力いじれるんだね〜!」
「まあ、いじれるというか……操作してるだけだ」
リィナはゲラゲラ笑いながら、ノエルは黙々とメモ帳に何かを書き込んでいた。
そんな道中で――
「……あの熊の魔物だ」
リィナが指差した先に、それはいた。
前回リィナたちが襲われた場所。その中央に、巨体を地に伏せたまま動かない熊型の魔物がいた。
「……嘘でしょ。まだ魔法が継続してる……?」
ノエルが目を見開く。
「魔法には射程と持続時間があるの。発動者が離れたら、効果は切れるはず……」
「まあ、正確には俺のは“魔法”じゃないからな」
「……え?」
「これは重力使いの“能力”。魔力じゃなく、重力そのものを操作してる」
「…………」
ノエルが言葉を失っている間に、俺はリィナに言う。
「リィナ。あいつはもう動けない。剣士のお前なら、倒せるはずだ」
「……でも、前はあんなのに歯が立たなかったんだよ?」
「だから俺がサポートする」
そう言って、俺はリィナの体に向けて右手をかざす。
「【減重】」
リィナの全身がふわりと軽くなった。
「うわっ!? ちょ、なにこれ!? 身体が、めっちゃ軽い!」
「体重も装備も、極限まで軽量化した。けど飛んでっちゃ困るから、ギリギリの数値に調整してある」
「へ、へぇ……? そんなこともできるんだ……?」
「リィナの筋力はそのまま。重さだけが消えてる」
「…………」
ノエルがまた絶句してるけど、今はスルーだ。
「さらにもう一つ」
俺はリィナの剣に軽く触れた。
「【加重】」
リィナの剣がほんの一瞬だけ光を帯びる。
「これは……?」
「攻撃をサポートする技さ。さあ、行け」
「い、行くよぉおおおおおお!!」
リィナが剣を握り、疾風のように走り出す。
その動きはまるで、空気の抵抗すら受けていないかのようだった。
「くらえっ! 裂破斬!!」
リィナの縦一文字の斬撃が、魔物の胴を正確に捉える。
――ズバアアアアァァァァァン!!
重力を帯びた剣が、抵抗を許さず魔物の肉体を引き裂いた。
「真っ二つ!? やったあああああああ!!」
リィナがぴょんぴょん跳ねながら駆け戻ってくる。
ノエルはその様子を見て、静かに言った。
「……おかしい。絶対おかしい」
「な、なにが?」
「駆け出し冒険者が、一撃であんな魔物を倒せるわけがない。リィナのスペックで、あの威力は説明できない」
「あ、あたしもそう思うー!」
「……ガイア。あなた、他に何をしたの?」
「剣の重さを、1000倍にしたんだよ」
「「1000倍ぃいいいいいい!?」」
ノエルが、信じられないといった顔でリィナの剣を持ち上げる。
「……普通の重さだよ?」
「だから言っただろ。攻撃が当たる、その瞬間だけ重くしてるんだって」
「な、なにそれ……そんな精密な魔法操作、できるわけない……!」
「魔法じゃないって言ってるだろ。これは“能力”なんだよ」
ノエルが、震えるように呟いた。
「……重力使いって、こんなチート職だったの……?」
リィナも大きくうなずく。
「すっごいよ、ガイアさん! マジでありがとっ!」
……なんというか、久しぶりに人から素直に感謝されたな。
少しだけ、胸がくすぐったくなった。
「さ、先を急ごう。街までは、もうすぐだ」
☆
俺はリィナたちと、隣町へと向かっている。
体力のないノエルは、荷台の上に乗ってる。
俺が荷台を引き、リィナは周囲を警戒していた。
「……なるほど。ガイアの職業は重力使いで、その能力が【重力操作】なんだ……」
「そうそう。重力魔法じゃないんだよ」
リィナが「ねー」と、俺たちに声をかけてくる。
「何が違うの? じゅうりょくまほーと、能力」
「……重力魔法っていうのは、精霊に魔力を渡して、重力場を発生させるの」
「ガイアさんの力と一緒じゃん」
「……全然違う。ガイアは、触れた相手の重力を直接操作してる。魔法の場合は、間接的な重力操作」
「?????」
リィナはこの説明じゃ、理解できないようだ。
「……つまり、通常は精霊の手を借りないとできないことを、ガイアは自分だけでできるってこと」
「??????????」
「……例えるなら……火を起こすとき、普通は木の棒と木の板を使って、こすって起こすでしょう?」
「うん、それならわかる。しゅごーってやるやつね!」
手でくるくる、と棒を回すジェスチャーをする。
「……通常は、木の棒と木の板をこすり合わせて、摩擦熱を発生させて火をつける。でも、ガイアは道具を使わず火を発生させる」
「えー! やばすぎるじゃーん!」
リィナはこれでやっと理解を――
「ガイアさんって、重力だけじゃなくて火まで出せるのー!?」
……あかん。理解してなかった。
「……ガイアは、規格外に凄いってことだよ」
「なるほど!」
ノエルは、極限まで説明を省いた。それでやっとリィナは理解を――
「ところでキカクガイってなぁに?」
「……ごめん、ガイア。この子ちょっと……」
「いや、言わずともわかる。大丈夫」
ちょっと頭が残念なんだろう。
ややあって、俺たちは隣町へと到着した。
「ついたー! 街だー! すっごーい! もうついちゃった~!」
くるっ、とリィナが俺を見て笑いかける。
「ガイアさんのサポートのおかげだねっ! ありがとーっ!」
「…………」
俺のサポートのおかげ……か。いつぶりかな、そんなふうに言ってもらえたの……。
オクレールのとこだったら、一度も言われたことなかったな……。
言われると、なんだかこう、胸が温かくなる。リィナの笑顔も相まって、幸せな気持ちになった。
「……ガイア。ギルドまで付き合ってほしい。報酬金を山分けしたいし」
ノエルが俺を見上げながら言う。
「付き合うのは了承した。でも、別に山分けなんて必要ないだろ。依頼を受けたのはおまえ達なんだし」
するとノエルが、ふるふると首を横に振る。
「……でも、ガイアがいなかったら依頼は達成できなかった。あなたは対価を受け取るべき」
「そうだよっ! ガイアはお金もらってとーぜんっ!」
「おまえら……いいやつすぎない?」
えへへ、と二人が照れくさそうに笑っている。
本当に良い子たちだ。こんな子と一緒にパーティを組めたら、冒険も楽しいだろうな。
ほどなくして、俺たちはギルドへとやってきた。
荷台をギルドの外に置いて、中へ報告に向かうと――
「おいまじかよ、赤熊が出たって……?」
「ああ……隣町とをつなぐ街道に出たらしいぞ」
「まじか……もうあの道つかえないじゃん……」
なにやら、ギルドが騒がしかった。なんだろう……?
俺たちは受付へと向かう。
ノエルが、受付嬢に声をかける。
「……すみません、依頼をこなしたので、その報告に来ました」
「はい、ではギルド証を確認しますね」
ノエルがうなずいて、ギルド証を提出する。
くわっ、と受付嬢が目を見開く。
「これ、本当ですか? 隣町から荷物を届ける……って依頼ですよね」
「……ええ。荷物は外に」
受付嬢は一度、ギルドを出る。しばらくして戻ってきた。
「……依頼は、問題なく達成されました」
ほっ、とリィナが安堵の息をつく。
「では、報酬を」
「あ、そーだ! あたしたち、道中で赤いクマの魔物も倒したんです! その分の報酬も欲しいです!」
そのときだった。
「おいおいおいおい、嬢ちゃんら、嘘言っちゃあいけねえなぁ」
柄の悪い男が、俺たちに絡んできたのだ。
誰だこいつ……?
「おじさんだれ?」
とリィナが真っ直ぐおっさんを見て尋ねる。
「おいおいおい、このおれ……ザコパンマン様を知らないたぁ……モグリかてめえ……?」
「モグラじゃあないもん!」
はぁ……とノエルがため息をつく。
「モグラじゃないわ。モグリよ」
すっ、とノエルが近づいてきて、リィナの前に立つ。
「……わたしたちは駆け出しの冒険者よ」
「そうか。じゃあこのザコパンマン様を知らなくて当然か」
びしっ、とザコパンマンがきしょいポーズを取る。
「このザコパンマン様がよぉ、街道近くの森で発見された赤熊との死闘を繰り広げ、惜しくも引き分けちまったんだよ」
「……街道近くの森で?」
「ああ。んで、一旦ギルドに戻って、体勢を立て直そうってところに、嬢ちゃんらが虚偽報告をしたってわけだ」
虚偽報告だって……?
「嘘じゃあないもん! 本当にあの熊モンスター、あたしが倒したもん!」
「ふはは! 嘘言っちゃあいけねえよ、嬢ちゃん。Aランクのおれでも倒せない相手を、駆け出しの嬢ちゃんが一体どうやって倒すっていうんだ? え?」
「ガイアさんのサポートのおかげで、倒せたんだもん!」
じっ、とザコパンマンが俺を見やる。
「ん? てめえはたしか……黄昏の竜のお荷物サポーターじゃあねえか?」
……一部では、そう呼ばれてるな。たしかに。
「ハッ! お荷物サポーターのおかげ? バカ言っちゃいけない! こいつはなぁ、Sランクパーティに所属しながら、荷物を持つ以外なんもしねえ、まじのお荷物野郎だぜ? こいつになーにができるってんだよ! ぎゃーっはっは!」
……馬鹿にされるのは、しょうがない。俺が戦闘に直接役立たないのは事実……。
パシンッ!
「………………あ?」
「ガイアさんを馬鹿にするなー! ガイアさんはすごいんだぞ! 本当にすごいサポーターなんだから!」
……リィナ。本気で怒ってるのが、わかる。俺なんかのために……。
どうして……?
「仲間を馬鹿にされて、怒らないやつはいない……!」
「……!」
……仲間、だと。リィナ……俺のことを、仲間だって……言ってくれるのか?
「てめ……調子に乗るなよ女のくせにぃい!」
ザコパンマンがキレると、リィナめがけて拳を振る。
恐らく、武闘家の職業持ちなのだろう。
リィナよりも素早く動いていた。その拳を、躊躇なくリィナの顔面めがけて――
「……【××】」
俺がつぶやくと――
くんっ!
「な、なんだ!? 体が引っ張られ……ぷぎゃ!」
ザコパンマンのパンチが空を切る。体勢を崩したやつは、俺の前で倒れる。
俺はザコパンマンに触れる。
「加重」
ズンッ……!
「ちくしょ……か、体がおもい……! て、てめ……! 何しやがる……!」
俺はザコパンマンを無視して、受付へと向かう。
背負っていたリュックから、赤熊の爪を取り出し、テーブルの上に置いた。
「討伐の証だ。魔物を倒したら、ちゃんと回収しないとな」
「さっすがガイアさんっ。ちゃんと回収しててくれたんだねー! ありがとー!」
……ありがとう、か。
「お礼を言うのは、俺のほうだ。ありがとう。俺のために、怒ってくれて」
「え? なんでお礼言われるの? 仲間ばかにされたら、怒るのとーぜんじゃん?」
……はは、仲間か。
ノエルがため息をつく。
「リィナ……ガイアは別に、仲間になるなんて一言も言ってない」
「えー!? うそぉ! てっきりもうあたしたち、仲間だと思ってたよぉ!」
「……ガイアにもガイアの都合ってものがあるでしょう?」
「えー? そんなぁ~……ガイアさん、一緒にパーティ組もうよっ!」
ふるふる、とノエルが首を横に振る。
「……無理よ。彼、Sランク冒険者だから」
「えー!? うそおぉ!? ガイアさんSなの!?」
さっきザコパンマンが言っていたもんな。Sランクパーティに所属していたって。
そこから、俺のランクを推し量ったのだろう。
「そ、そっかぁ……。Sじゃあ、あたしたちみたいな駆け出しとは、釣り合わないよねえ……しゅん……諦めるよぉ……」
引き下がろうとする彼女に、俺は言う。
「いや、待ってくれ。俺を、仲間にしてくれないか?」
「え、えー!? 何言ってるの、ガイアさん、Sランクなんでしょ? 駆け出し冒険者とパーティなんて組んでも、メリットないよ?」
たしかに、同じランクのやつとパーティを組むのが普通だ。でも……。
「俺は、駆け出し冒険者とパーティ組みたいんじゃあない。リィナとノエル、二人と……組みたいんだよ」
俺のことを、仲間と呼んでくれたリィナ。
俺の力を、ちゃんと評価してくれるノエル。
俺は……この二人とパーティを組んで、冒険者をしたいのだ。
「???? どういうことかわからない……。同じこと言ってるんじゃ……。ま、いっか!」
にぱっ、と笑うと、リィナが俺の手を握る。
「よろしくっ、ガイアさんっ!」
こうして俺は、リィナとノエルと、パーティを組むことにしたのだった。
「……さっき、ザコパンマンの拳が、ガイアに引き寄せられたように見えた。……重力魔法は、敵を押し潰す・軽くするだけの魔法のはず。なにか……別の力を持ってるってことなの?」
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
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