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地味職【重力使い】は不要と追放されたけど、元仲間が土下座しに来るくらい出世しました~荷物持ちと見下された俺、今や王国最強Sランクパーティの中心です~

作者: 茨木野

連載候補の短編です

「ガイア! おまえを、このパーティから追放する!」


 その言葉が出た瞬間、宿屋の一室がしん……と静まり返った。


 ここは、王都メルヴァール近郊。Sランク冒険者パーティ【黄昏の竜】が遠征から戻り、勝利の酒盛りをしていたはずの場所だ。


 その中心にいたのは、パーティのリーダー、オクレール=ウォートル。筋骨隆々の大剣使いで、勝気な性格の男だ。


 そして、その彼が真っ赤な顔で酒をあおりながら、俺に指を突きつけていた。


「……え?」


 一瞬、言葉の意味がわからなかった。


 俺――ガイア・グラヴィスは、Sランクパーティ【黄昏の竜】の一員として、今日まで任務に参加していた。


 特に今回は、危険等級Sの地岩竜ベヒーモスを討伐したばかりだったのだ。


「おまえ、もういらねえんだよ」


「……冗談だろ、オクレール」


「本気だ。おまえはもう、用済みだ」


 あまりに唐突な追放宣言に、俺は思わず立ち上がる。周囲には、他のメンバー――メスガッキとイエスマが座っていて、それぞれ嘲笑気味の顔をしていた。


「そーよガイア。あんた、戦闘じゃまっっったく役に立ってないしぃ~?」


「でゅふふ、後ろから付いてきて荷物持ってるだけの存在ですからな!」


 二人の言葉に、胸の奥がじわじわと熱くなる。


 ……こいつら、本気で言ってるのか?


 ──この世界では、生まれながらにして“職業ジョブ”と呼ばれる力を授かる。


 それは神より与えられる“生きるための才能”であり、冒険者という職業においては、戦闘能力を左右する最重要の要素だった。


 剣士、魔法使い、僧侶、盗賊――そういった戦闘系のジョブは、前線で敵と戦い、仲間を守り、パーティの力となる。


 ……そんな中で、俺に与えられた職業は【重力使い】だった。


 初めてそのジョブ名を聞いた時、俺自身も困惑した。


 重力を使う……?


 意味がわからなかった。攻撃力は無いし、回復もできない。火や氷のような魔法を操るわけでもない。


 ただ、物の“重さ”を変えることができるだけの、地味な職業。


 その能力で、俺は“ポーター”――荷物持ちとして、このパーティで役割を得ていた。


 アイテムや素材の持ち運びを補助し、魔法使いや盗賊の身軽さをサポートし、誰よりも地味に、裏方として貢献していた。


 ……それが、今日。


 討伐の帰り道、ある魔道具を手に入れたのだ。


「こいつを見ろ、ガイア。これが何かわかるか?」


 オクレールが見せつけるように、小さな革袋を持ち上げる。


 深い藍色の装飾がほどこされた、それは明らかに高級品だ。


「それ……【無限収納の魔法袋】か」


「そうだよ。容量無制限、重量無視。素材でもポーションでも、ガンガン詰め込める。これさえあれば……」


 にやりと笑うオクレールの顔が、まるで悪戯をたくらむ子供のようだった。


「おまえ、いらねぇんだよ」


 ──ああ、そういうことか。


 俺が今まで評価されていたのは、“荷物を軽くする”能力が便利だったから。


 でも、この魔法袋があれば、もう重さなんて関係ない。荷物も素材も、誰かが持つ必要なんて無い。


 なら、ポーターは用済み。


「おまえのジョブ、【重力使い】だっけ? 名前からして地味だし、何ができんだよって話だよなぁ?」


「ま、攻撃魔法もねーし、剣も振れねーし、せいぜい荷物軽くするだけって……それ、ジョブって言えるの?w」


 メスガッキとイエスマの追い打ちに、ぐっと唇を噛む。


 言いたいことは山ほどあった。


 たとえば、オクレールが使ってる【竜殺し】の大剣は、もともと重すぎて扱いきれない代物だった。


 それを俺が重力操作で軽くし、振れるようにした。


 たとえば、メスガッキが敵陣に潜入する時、俺が彼女の身体の重さを極限まで軽くし、無音で動けるようにした。


 たとえば、イエスマの土魔法も、岩弾を軽くすることで、より遠くまで撃ち出せるようにしていた。


 ……全部、言ってやろうかとも思った。


 でも、彼らは最初から、俺が“ただの荷物持ち”であることにしたかったのだ。


 俺の能力がチームに不可欠だと認めてしまえば、自分たちの見方が間違っていたことになる。


 だから、気づかないフリをした。都合のいい道具として扱って、それが壊れたら捨てるだけ。


 そんな扱いを、ずっと、されていたんだ。


「じゃ、そういうことで。ガイア、おまえは今日で追放だ」


「もう、あたしたちの前に顔出さないでね~。気分悪くなるしぃ」


 メスガッキが、オクレールの腕にしなだれかかりながら、にやりと笑う。


 その光景を、俺はただ黙って見つめた。


 何も言い返さず、何も主張せず。


 荷物も持たず、扉に手をかける。


「……わかった。じゃあ、元気でな」


 扉を閉める瞬間、背中越しに最後の声が届いた。


「二度と戻ってくんなよ、雑魚が!」


    ☆

 俺の名前はガイア・グラヴィス。職業ジョブは【重力使い】。


 十五の歳で、冒険者パーティから追放された。


 いや、正確には──最初から俺は、必要とされていなかったのかもしれない。


 ただ荷物を持つだけの“地味職”として、便利に扱われて、代替品が手に入ったら切られた。それだけのことだ。


「……あーあ。これが俺の冒険者人生だったってことか」


 街道沿いの丘を歩きながら、自嘲気味に呟く。


 剣も振れない。派手な魔法も撃てない。何かを回復できるわけでもない。


 “重さを変える”──それだけの能力。


 師匠は言っていた。


『重力は、見えない力だ。だからこそ、理解されにくい。だが、見えない力こそが、世界を支えているんだよ』


 けれど、誰もそのことを知らない。


 誰も、重さが“ある”ということの意味を、考えようともしない。


 俺自身ですら──心のどこかで、「この力には価値がない」と、そう思っていたのかもしれない。


 そんな思考を打ち切ったのは、前方から聞こえてきた、ガタン! という激しい衝突音だった。


「うわっ!? 完全に車輪外れてるってば!」


「リィナ……どうしよう……動かないよぉ……!」


 街道の先で、少女たちの悲鳴が上がっている。


 木製の荷車が、傾いた状態で道をふさいでいた。片輪が完全に外れており、地面に食い込んでいる。


 その傍らには、剣を背負った少女と、小柄な魔法使い風の少女。


 どちらも十代半ばくらい。駆け出しの冒険者……いや、まだ“なりかけ”かもしれない。


「くそっ、こんなとこで立ち止まってたら、魔物に狙われるってのに……!」


 剣士の少女が歯を食いしばる。


 その姿を見た瞬間、足が勝手に動いていた。


 ……ああ、俺ってやつは。

 助けを求める声を聞くと、やっぱり動いてしまう。

 ……村を追われ、途方に暮れていた自分に、重なって見えてしまうから。


「おーい、大丈夫か?」


 俺が声をかけると、ふたりが一斉に振り返った。


 剣士の少女が、やや警戒した目でこちらを見る。


「えっと……あなたは?」


「ただの通りすがり。もしよかったら、手伝おうか?」


 沈黙。視線。


 だが、すぐに魔法使いの少女が一歩前に出て、おずおずと頭を下げる。


「……おねがい、します。わたしたち、もうどうにもならなくて」


 荷物はびっしり積まれている。物資だけで数十キロはありそうだ。車輪の壊れた荷車を押すのは、素人には無理だろう。


「まずは、これを……軽くしてみるか」


 手をかざし、静かに息を吸う。


「──減重グラヴ・ライト


 荷車の下から、空気の層が浮き上がるような感覚。


 木製の骨組みが、わずかに持ち上がり、地面の沈み込みが消えた。


「え……? あれ……動いてない……?」


「試してみて。押してごらん」


 リィナが半信半疑で手をかける。


 ――スッ。


 さっきまでびくともしなかった荷車が、抵抗もなく前に進んだ。


「うそ……めっちゃ軽い!?」


「なんで!? これ、荷物抜いてないのに……!」


 ふたりの目が大きく見開かれる。


「重力を、軽くしたんだよ。中身も荷車も、ぜんぶまとめて」


「……あんた、何者……?」


 リィナがぽつりと呟いた、その瞬間だった。


 ――ぐおぉおおおっ!!


 森の奥から、耳をつんざくような咆哮。


 見ると、熊のような魔物が茂みをかき分けて現れた。筋肉質な体躯。鋭い牙。見た目でわかる、やばいやつだ。


「やばっ! マジで来たじゃん!」


「ノエル、逃げるよ!」


 ふたりが荷車を押して走り出す──が、荷車は道幅ギリギリでスピードが出ない。


 魔物の脚力なら、すぐ追いつく。


「っ……!」


 俺は魔物の進路に立ちふさがり、右手を構えた。


「止まれ……! 加重グラブ・ブースト!」


 大気が、びり、と揺れた。


 魔物の足元の地面が、ぐしゃりと潰れるように沈み込む。


 重力の圧力が、一点に集まる。


 ずしん。


 魔物の前脚が、地面にめり込んだ。


 身体が、止まった。


 動けない。這っても立ち上がれない。


「──いまだ、行け!!」


 ふたりが振り返り、全力で荷車を押し直す。


 俺も走り、後ろから押し加勢する。


 魔物の唸り声を背に、俺たちは走った。


 そして、数分後──


「見えた、街の門だ!!」


「やったぁ……!」


 門番の兵士が気づいて駆け寄ってくる。


 俺たちはそのまま荷車を押し込み、ようやく、安全圏へたどり着いた。


 魔物の姿は、もう見えなかった。


 俺はその場に膝をつき、大きく息を吐いた。


「……ふう。なんとか、なったか」


 すると、横から声がした。


「……あんた、すごいね」


 リィナが、じっと俺を見ていた。


「助けてくれて、本当にありがとう。あんなの……あたしたちだけじゃ、絶対無理だった」


「いえ、ほんとに……ありがとうございました」


 ノエルが深々と頭を下げる。


「おまえらこそ、よく頑張ったよ。あと少し遅れてたら、やばかったな」


「ねぇ……名前、教えてくれない?」


「……ガイア。ガイア・グラヴィス」


「わたしはリィナ。こっちはノエル、妹みたいなもん。ふたりで冒険者を目指してるの」


 ――ああ。


 見知らぬ誰かを支えたことで、今、ほんの少しだけ、自分の存在を許せた気がした。


 重力は、見えない力だ。


 けれど。


 誰かの“歩み”を、支えることはできる。


 俺は、もう一度そう思い直すことができた。


    ☆


 俺たちは一旦、街へ戻った。


 ギルド近くのベンチに腰を下ろしながら、リィナたちの事情を聞く。


「なるほど……お前たちは駆け出しの冒険者で、隣町に荷物を届ける依頼を受けてたわけか」


 赤毛の剣士リィナが、こくんとうなずいた。


「うん。でも……魔物が出るなんて思わなかったんだよ」

「……ギルドの人も、あの辺りじゃ魔物は出ないって言ってたしね」


 青髪の魔法使い、ノエルが小さくため息をついた。


 状況は日々変わる。前に出なかったからって、今も安全とは限らない。


「どうしよう……依頼、受けちゃったから。未達成だと、違約金取られちゃうよ……」


 依頼に失敗したときのペナルティ。それは駆け出しにとってはなかなか痛い。

 リィナが不安げに唇をかむ。


 ……なんというか、こういうのを見ると放っておけないんだよな。


「届け先は、隣町だったな?」


「うん。……けど?」


「だったら、俺も一緒に行く。俺もそっちに用がある」


 その言葉に、リィナの顔が一気に明るくなった。


「ほんと!? 助かるよっ!」


「……こちらとしてもありがたいです。あなたの重力魔法には興味がありますし、ぜひ同行を」


 ノエルは目を輝かせながら言った。

 この子は、俺の力に純粋な好奇心を抱いているようだ。


「よし、じゃあ三人で出発しよう」


「おー!」

「おーです!」


    ☆


 荷車を引いて、再び街道を進む。


 俺は【減重グラヴ・ライト】で荷車全体の重量をゼロに近づけている。魔物の素材や食料がどっさり詰まっているはずだが、リィナでも楽に押せるはずだ。


「うわぁ! 軽い軽い軽〜い! ガイアさんって、マジで重力いじれるんだね〜!」


「まあ、いじれるというか……操作してるだけだ」


 リィナはゲラゲラ笑いながら、ノエルは黙々とメモ帳に何かを書き込んでいた。


 そんな道中で――


「……あの熊の魔物だ」


 リィナが指差した先に、それはいた。


 前回リィナたちが襲われた場所。その中央に、巨体を地に伏せたまま動かない熊型の魔物がいた。


「……嘘でしょ。まだ魔法が継続してる……?」


 ノエルが目を見開く。


「魔法には射程と持続時間があるの。発動者が離れたら、効果は切れるはず……」


「まあ、正確には俺のは“魔法”じゃないからな」


「……え?」


「これは重力使いの“能力”。魔力じゃなく、重力そのものを操作してる」


「…………」


 ノエルが言葉を失っている間に、俺はリィナに言う。


「リィナ。あいつはもう動けない。剣士のお前なら、倒せるはずだ」


「……でも、前はあんなのに歯が立たなかったんだよ?」


「だから俺がサポートする」


 そう言って、俺はリィナの体に向けて右手をかざす。


「【減重グラヴ・ライト】」


 リィナの全身がふわりと軽くなった。


「うわっ!? ちょ、なにこれ!? 身体が、めっちゃ軽い!」


「体重も装備も、極限まで軽量化した。けど飛んでっちゃ困るから、ギリギリの数値に調整してある」


「へ、へぇ……? そんなこともできるんだ……?」


「リィナの筋力はそのまま。重さだけが消えてる」


「…………」


 ノエルがまた絶句してるけど、今はスルーだ。


「さらにもう一つ」


 俺はリィナの剣に軽く触れた。


「【加重グラヴ・ブースト】」


 リィナの剣がほんの一瞬だけ光を帯びる。


「これは……?」


「攻撃をサポートする技さ。さあ、行け」


「い、行くよぉおおおおおお!!」


 リィナが剣を握り、疾風のように走り出す。


 その動きはまるで、空気の抵抗すら受けていないかのようだった。


「くらえっ! 裂破斬!!」


 リィナの縦一文字の斬撃が、魔物の胴を正確に捉える。


 ――ズバアアアアァァァァァン!!


 重力を帯びた剣が、抵抗を許さず魔物の肉体を引き裂いた。


「真っ二つ!? やったあああああああ!!」


 リィナがぴょんぴょん跳ねながら駆け戻ってくる。


 ノエルはその様子を見て、静かに言った。


「……おかしい。絶対おかしい」


「な、なにが?」


「駆け出し冒険者が、一撃であんな魔物を倒せるわけがない。リィナのスペックで、あの威力は説明できない」


「あ、あたしもそう思うー!」


「……ガイア。あなた、他に何をしたの?」


「剣の重さを、1000倍にしたんだよ」


「「1000倍ぃいいいいいい!?」」


 ノエルが、信じられないといった顔でリィナの剣を持ち上げる。


「……普通の重さだよ?」


「だから言っただろ。攻撃が当たる、その瞬間だけ重くしてるんだって」


「な、なにそれ……そんな精密な魔法操作、できるわけない……!」


「魔法じゃないって言ってるだろ。これは“能力”なんだよ」


 ノエルが、震えるように呟いた。


「……重力使いって、こんなチート職だったの……?」


 リィナも大きくうなずく。


「すっごいよ、ガイアさん! マジでありがとっ!」


 ……なんというか、久しぶりに人から素直に感謝されたな。


 少しだけ、胸がくすぐったくなった。


「さ、先を急ごう。街までは、もうすぐだ」


    ☆


 俺はリィナたちと、隣町へと向かっている。

 体力のないノエルは、荷台の上に乗ってる。


 俺が荷台を引き、リィナは周囲を警戒していた。


「……なるほど。ガイアの職業ジョブは重力使いで、その能力が【重力操作】なんだ……」

「そうそう。重力魔法じゃないんだよ」


 リィナが「ねー」と、俺たちに声をかけてくる。


「何が違うの? じゅうりょくまほーと、能力」

「……重力魔法っていうのは、精霊に魔力を渡して、重力場を発生させるの」


「ガイアさんの力と一緒じゃん」

「……全然違う。ガイアは、触れた相手の重力を直接操作してる。魔法の場合は、間接的な重力操作」


「?????」


 リィナはこの説明じゃ、理解できないようだ。


「……つまり、通常は精霊の手を借りないとできないことを、ガイアは自分だけでできるってこと」

「??????????」


「……例えるなら……火を起こすとき、普通は木の棒と木の板を使って、こすって起こすでしょう?」

「うん、それならわかる。しゅごーってやるやつね!」


 手でくるくる、と棒を回すジェスチャーをする。


「……通常は、木の棒と木の板をこすり合わせて、摩擦熱を発生させて火をつける。でも、ガイアは道具を使わず火を発生させる」

「えー! やばすぎるじゃーん!」


 リィナはこれでやっと理解を――


「ガイアさんって、重力だけじゃなくて火まで出せるのー!?」


 ……あかん。理解してなかった。


「……ガイアは、規格外に凄いってことだよ」

「なるほど!」


 ノエルは、極限まで説明を省いた。それでやっとリィナは理解を――


「ところでキカクガイってなぁに?」

「……ごめん、ガイア。この子ちょっと……」

「いや、言わずともわかる。大丈夫」


 ちょっと頭が残念なんだろう。


 ややあって、俺たちは隣町へと到着した。


「ついたー! 街だー! すっごーい! もうついちゃった~!」


 くるっ、とリィナが俺を見て笑いかける。


「ガイアさんのサポートのおかげだねっ! ありがとーっ!」

「…………」


 俺のサポートのおかげ……か。いつぶりかな、そんなふうに言ってもらえたの……。

 オクレールのとこだったら、一度も言われたことなかったな……。


 言われると、なんだかこう、胸が温かくなる。リィナの笑顔も相まって、幸せな気持ちになった。


「……ガイア。ギルドまで付き合ってほしい。報酬金を山分けしたいし」


 ノエルが俺を見上げながら言う。


「付き合うのは了承した。でも、別に山分けなんて必要ないだろ。依頼を受けたのはおまえ達なんだし」


 するとノエルが、ふるふると首を横に振る。


「……でも、ガイアがいなかったら依頼は達成できなかった。あなたは対価を受け取るべき」

「そうだよっ! ガイアはお金もらってとーぜんっ!」

「おまえら……いいやつすぎない?」


 えへへ、と二人が照れくさそうに笑っている。

 本当に良い子たちだ。こんな子と一緒にパーティを組めたら、冒険も楽しいだろうな。


 ほどなくして、俺たちはギルドへとやってきた。

 荷台をギルドの外に置いて、中へ報告に向かうと――


「おいまじかよ、赤熊ブラッディ・ベアが出たって……?」

「ああ……隣町とをつなぐ街道に出たらしいぞ」

「まじか……もうあの道つかえないじゃん……」


 なにやら、ギルドが騒がしかった。なんだろう……?

 俺たちは受付へと向かう。


 ノエルが、受付嬢に声をかける。


「……すみません、依頼をこなしたので、その報告に来ました」

「はい、ではギルド証を確認しますね」


 ノエルがうなずいて、ギルド証を提出する。

 くわっ、と受付嬢が目を見開く。


「これ、本当ですか? 隣町から荷物を届ける……って依頼ですよね」

「……ええ。荷物は外に」


 受付嬢は一度、ギルドを出る。しばらくして戻ってきた。


「……依頼は、問題なく達成されました」


 ほっ、とリィナが安堵の息をつく。



「では、報酬を」

「あ、そーだ! あたしたち、道中で赤いクマの魔物も倒したんです! その分の報酬も欲しいです!」


 そのときだった。


「おいおいおいおい、嬢ちゃんら、嘘言っちゃあいけねえなぁ」


 柄の悪い男が、俺たちに絡んできたのだ。

 誰だこいつ……?


「おじさんだれ?」


 とリィナが真っ直ぐおっさんを見て尋ねる。


「おいおいおい、このおれ……ザコパンマン様を知らないたぁ……モグリかてめえ……?」

「モグラじゃあないもん!」


 はぁ……とノエルがため息をつく。


「モグラじゃないわ。モグリよ」


 すっ、とノエルが近づいてきて、リィナの前に立つ。


「……わたしたちは駆け出しの冒険者よ」

「そうか。じゃあこのザコパンマン様を知らなくて当然か」


 びしっ、とザコパンマンがきしょいポーズを取る。


「このザコパンマン様がよぉ、街道近くの森で発見された赤熊レッドベアとの死闘を繰り広げ、惜しくも引き分けちまったんだよ」

「……街道近くの森で?」


「ああ。んで、一旦ギルドに戻って、体勢を立て直そうってところに、嬢ちゃんらが虚偽報告をしたってわけだ」


 虚偽報告だって……?


「嘘じゃあないもん! 本当にあの熊モンスター、あたしが倒したもん!」

「ふはは! 嘘言っちゃあいけねえよ、嬢ちゃん。Aランクのおれでも倒せない相手を、駆け出しの嬢ちゃんが一体どうやって倒すっていうんだ? え?」


「ガイアさんのサポートのおかげで、倒せたんだもん!」


 じっ、とザコパンマンが俺を見やる。


「ん? てめえはたしか……黄昏の竜のお荷物サポーターじゃあねえか?」


 ……一部では、そう呼ばれてるな。たしかに。


「ハッ! お荷物サポーターのおかげ? バカ言っちゃいけない! こいつはなぁ、Sランクパーティに所属しながら、荷物を持つ以外なんもしねえ、まじのお荷物野郎だぜ? こいつになーにができるってんだよ! ぎゃーっはっは!」


 ……馬鹿にされるのは、しょうがない。俺が戦闘に直接役立たないのは事実……。


 パシンッ!


「………………あ?」

「ガイアさんを馬鹿にするなー! ガイアさんはすごいんだぞ! 本当にすごいサポーターなんだから!」


 ……リィナ。本気で怒ってるのが、わかる。俺なんかのために……。

 どうして……?


「仲間を馬鹿にされて、怒らないやつはいない……!」

「……!」


 ……仲間、だと。リィナ……俺のことを、仲間だって……言ってくれるのか?


「てめ……調子に乗るなよ女のくせにぃい!」


 ザコパンマンがキレると、リィナめがけて拳を振る。

 恐らく、武闘家の職業ジョブ持ちなのだろう。


 リィナよりも素早く動いていた。その拳を、躊躇なくリィナの顔面めがけて――


「……【××】」


 俺がつぶやくと――


 くんっ!


「な、なんだ!? 体が引っ張られ……ぷぎゃ!」


 ザコパンマンのパンチが空を切る。体勢を崩したやつは、俺の前で倒れる。

 俺はザコパンマンに触れる。


加重グラヴ・ブースト


 ズンッ……!


「ちくしょ……か、体がおもい……! て、てめ……! 何しやがる……!」


 俺はザコパンマンを無視して、受付へと向かう。

 背負っていたリュックから、赤熊ブラッディ・ベアの爪を取り出し、テーブルの上に置いた。


「討伐の証だ。魔物を倒したら、ちゃんと回収しないとな」

「さっすがガイアさんっ。ちゃんと回収しててくれたんだねー! ありがとー!」


 ……ありがとう、か。


「お礼を言うのは、俺のほうだ。ありがとう。俺のために、怒ってくれて」

「え? なんでお礼言われるの? 仲間ばかにされたら、怒るのとーぜんじゃん?」


 ……はは、仲間か。


 ノエルがため息をつく。


「リィナ……ガイアは別に、仲間になるなんて一言も言ってない」

「えー!? うそぉ! てっきりもうあたしたち、仲間だと思ってたよぉ!」


「……ガイアにもガイアの都合ってものがあるでしょう?」

「えー? そんなぁ~……ガイアさん、一緒にパーティ組もうよっ!」


 ふるふる、とノエルが首を横に振る。


「……無理よ。彼、Sランク冒険者だから」

「えー!? うそおぉ!? ガイアさんSなの!?」


 さっきザコパンマンが言っていたもんな。Sランクパーティに所属していたって。

 そこから、俺のランクを推し量ったのだろう。


「そ、そっかぁ……。Sじゃあ、あたしたちみたいな駆け出しとは、釣り合わないよねえ……しゅん……諦めるよぉ……」


 引き下がろうとする彼女に、俺は言う。


「いや、待ってくれ。俺を、仲間にしてくれないか?」

「え、えー!? 何言ってるの、ガイアさん、Sランクなんでしょ? 駆け出し冒険者とパーティなんて組んでも、メリットないよ?」


 たしかに、同じランクのやつとパーティを組むのが普通だ。でも……。


「俺は、駆け出し冒険者とパーティ組みたいんじゃあない。リィナとノエル、二人と……組みたいんだよ」


 俺のことを、仲間と呼んでくれたリィナ。

 俺の力を、ちゃんと評価してくれるノエル。


 俺は……この二人とパーティを組んで、冒険者をしたいのだ。


「???? どういうことかわからない……。同じこと言ってるんじゃ……。ま、いっか!」


 にぱっ、と笑うと、リィナが俺の手を握る。


「よろしくっ、ガイアさんっ!」


 こうして俺は、リィナとノエルと、パーティを組むことにしたのだった。


「……さっき、ザコパンマンの拳が、ガイアに引き寄せられたように見えた。……重力魔法は、敵を押し潰す・軽くするだけの魔法のはず。なにか……別の力を持ってるってことなの?」

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― 新着の感想 ―
重力の方向を変えることもできるんだとしたら、「真上に落ちる」や「真横に落ちる」も出来ますね
>……重力魔法は、敵を押し潰す・軽くするだけの魔法のはず。なにか……別の力を持ってるってことなの?」 いや前の方で重力魔法とは違うって説明されてたじゃねえか。 なのに結局重力魔法のくくりで認識してたの…
ザコパンマンとのやり取りより、元パーティーメンバーのメスガッキ達が、モンスターに襲われるのを主人公パーティーが助けて、元パーティーメンバーが土下座した方がしっくりいったのではと思います。 主人公も対等…
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