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絶滅記  作者: banbe
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勇者3

 まず先に勇者が動いた。

 手始めとばかりに剣を振るい、ルインは短剣で防ぐ。


「能力だけじゃない、素人ではないな」

「あんたが俺の力を貫通すると分かったからね、身を守るくらいは。それに戦場だって経験済みだ」

「だが技量が違う、俺が少し力を入れれば」


 勇者はルインの構えを簡単に弾いてすかさず斬りかかる。

 しかし、その傷は腕の薄皮一枚切った程度だった。


「いっ……けどこんな傷で」


 そしてその直後、どこからか飛んできたガラスの破片が勇者の腕に刺さり、ルインの傷よりも深くはっきりとした傷をつけた。


「お前の力は自然現象を利用した反射のスキルだな。ならば」


 勇者は今一度ルインに切りかかる。

 短剣でガードしようとするが、今度は初手の一撃から防げず肩を斬られる。


「また……」


 再び、壁の破片が勇者の肩に飛んでくるが勇者はそれを剣で防いだ。


「天翼人の祝福を持っていて、お前よりも上の技量があればお前の力は防げるようだな」

「じゃあやっぱり俺のも……」

「かなり歪だが、お前からは俺と同じ気配を感じる。お前の、俺達の力は空翼人と呼ばれる亜人の能力付与だ」

「俺は何も感じないけど……やっぱりそうだったか」

「遥か昔、原初の魔王討伐に大きく貢献し、かつて俺のパーティにもいた……俺の力はお前程凶悪じゃないけどな」


 勇者は再びルインを斬り、反射を防ぐ。


「ぐッ!」

「これならまだ力を入れてもいいな、そら」


 勇者の攻撃動作と同時にルインも前に出る。


「思うようにはさせない!」


 ルインは短剣でガードの構えをしながら勇者に突っ込む。

 勇者が剣で弾こうとした瞬間ガードを解き、わざと剣を食らう。


「何を!?」

「ぐッこれでお前は!」


 勇者の剣はルインの腕を深く斬る。

 とっさの行動に驚き、タイミングをずらされた勇者はルインの力での反射をまともに受けてしまう。

 その傷はルインよりも深く、骨にまで達し、腕が千切れる寸前だった。


「ぐあああっヒ、ヒーリン!」


 勇者はとっさに回復魔法を腕に当てる。するとみるみるうちに傷が塞がれ、千切れかけた腕も元通りになった。

 ルインも同じように魔法石で傷を治す。


「身を削ったフェイントか……戦いなれているな」

「人間のおかげでこういう戦術を身につけざるを得なかった。そして俺に攻撃が通ると分かった事でみんなで対策を考えたんだ。あんたに主導権は渡さない!」

「言って出来るものでもあるまい。大臣が調べたお前の初陣は南の掃討戦だったな、こんな短期間でここまでの技術を身につけるとは」

「掃討戦だって?あの時の敵は侵略者と聞いていたけど……」

「逆だよ、あの戦いはスタナの国の残党を討つ為の戦いだった」

「亜人に亜人の始末をさせたのか!」


 ルインは勇者の連撃を受けるが全て短剣で防ぐ。しかしガードを見切られ、蹴りを貰ってしまう。

 当然、その蹴りの反射は防がれた。


「っく……でも強い攻撃じゃ迂闊には攻められないはず!ここからは長期戦だ!」

「攻撃が通る以上突破方法はいくらでもある!」


 再び勇者は攻める。攻撃の反射が強くなり過ぎないよう慎重に強弱を図っていく。


「ここまで攻撃に神経を使う戦いは初めてだな」


 攻撃が弱すぎるとルインは短剣で防ぎ、強すぎると自らに強力な反射が返ってくる。

 勇者としてはルインを傷つけ、なおかつ自らは反射を避けたり防ぎきれる攻撃をしなければならなかった。


「そこ!」


 勇者はルインの隙をつき攻撃する。だがルインはまたも勇者の剣を防ぐフリをし、タイミングをずらす。

 すると勇者の剣は浅くルインの腹に刺さってしまう。


「っく、言っただろ、主導権は渡さないと」

「しまっ……ぐあっ!」


 勇者の後ろから大きな石の欠片が飛んできて横腹を抉る。


「ヒっ……ヒーリン……」


 勇者は膝をつき、腹に回復魔法を当てるとルインも受けた傷を魔法石で回復した。


「これでも俺を殺すつもりか。少しでもタイミングがズレれば即死するかもしれないのに」

「出来るさ……力も魔力も技術も経験も俺の方が上だ!」


 勇者は立ち上がり再び剣を構える。


「それにお前に魔力はなく回復は魔法石頼み。確かに長期戦になるだろうがやりがいのある、丁度良いハンデだ」


 またしても勇者はルインに剣を向ける。

 二人は連続で斬り結び今度は勇者がフェイントを入れた。

 ルインはフェイントの攻撃に誘われわざと攻撃を食らうように体を出す。だが勇者は、ルインの思惑とは違う頬を軽く斬りつけた。


「ッ!」

「さすがに首から上の攻撃はヒヤヒヤするな」


 反射をはじきながらそう言った勇者は、まるでスリルを楽しんでいるようだった。


「やっぱり勇者は強い……。こんなに力があるなら俺なんか放っておいてどこへ行ったって上手くやれるだろうに!」

「勝機がある復讐を放置するほど間抜けではない!」


 その後幾度も剣をぶつけ合う二人。

 勇者は幾度も重症を受けながら魔法で回復、ルインもかすり傷とはいえ何か所も斬られ魔法石で回復していった。

 そしてお互い傷ついては回復の膠着状態についに終わりが見え始めた。


「「ヒーリン」」


 二人は同時に回復を行う。だがついにルインの方の魔法石が切れた。


「これで最後……」

「俺の魔力も減ったがまだ余裕はある。回復手段を持ち込める限度があるアイテムに依存してる事、これも勝機の一つだ」

「っく……」

「その力故に今までロクに傷なんて負ったことないだろ、お前は痛みに弱い。だからすぐ魔法石もなくなると思った」

「この戦法もお見通しだったって訳か……」

「あとは少しずつ斬り刻んでいってやるよ!本当は嬲るような殺し方はしたくないが自身の能力を呪え!」


 勇者は斬りつける手数を増やしルインは追いつけなくなる。


「っく!捌ききれない!」

「俺の今までの経験がそう簡単に捌かれてたまるか!」


 幾度となく勇者の剣はルインを傷つける、勇者は反射の力を完全に理解したのか攻撃しては躱しを繰り返す。


「このままじゃやられる!」


 そうつぶやいた瞬間、勇者の剣はルインの腹を裂いた。


「ぐあっ!」


 そして勇者にも巨大な鋭い瓦礫が向かってくる。

 しかし勇者は魔法で瓦礫を撃ち落とし防いで見せた。


「強力な反射ならより強力な攻撃で防げばいいだけの事。終わりだ!」


 トドメとばかりに明らかに急所を狙った一撃を放つ勇者。


「こうなったら!」


 一振り目を何とか短剣で防ぎ二振り目を食らう前に何とか間合いを取る。

 だが勇者も逃がすまいと踏み出し三振り目の剣先がルインの脇腹に刺さった。


「ぐあっ!」

「っち、浅かったか!むっ抜けない!?」


 ルインは刺さった剣が簡単に抜けないように全身に力を入れる、するとルインの全身から黒い靄が噴出した。


「何!?これはさっきの!」


 そしてその一瞬で黒い靄が勇者を包む。


「お前はスタナの部下達……!」


 靄の中、勇者は過去に殺した者達から剣を突き立てられる。だが勇者は即座に自由にならない剣を手放しガードをした事で致命傷だけは避けられた。

 そして攻撃が終わった一瞬の隙を突き魔法で靄を払う。


「フレイム!はぁはぁ……この靄なぜ今まで出さなかった?」

「ついさっき出来るようになった力だ、まだコントロールもできない」


 ルインはそう言いながら刺された剣を抜き投げ捨てる。その体からは黒い靄が溢れ出し続けていた。


「だけどもうそんなこと言ってる場合じゃ無い」

「手を抜かれてる訳じゃないようで安心したよ」


 溢れ出続ける靄はまるで意思を持つように勇者へと伸びていく。

 勇者はルインから距離を取り、魔法で靄を払う。


「剣は……まあいい、中途半端な魔法で攻撃しても返されそうだな」

「だったらどうする?」

「どのみち返されるならとことんやってやるさ、オーバーフレイム」


 勇者の掛け声とともに部屋中の地面から炎が噴出する。


「あつっ!」

「焼かれ続けても俺には回復魔法がある」


 そう言いながら勇者は宙に浮かんでいく。


「さあ逃げ場はないぞ。グラウンドサン!」


 宙に巨大な火球が現れる。

 その熱は部屋のありとあらゆる物に火をつけていった。


「全て燃えれば反射も関係ないだろう!」


 ルインの反射かそれとも自身の魔法の熱か、勇者自身の体にも火が付き燃え広がる。

 だがそんなことを気にせず、勇者は更に魔法に魔力を込め続ける。


「フフフ……全て燃えてしまえ!」


 二つの魔法が生んだ熱と煙が、ルインの体の内側にまで迫る。


「ごふっ、そ、そんなことさせない!」


 黒い靄はルインを守るように体を覆う。そのおかげかルインには火が燃え移らなかった。

 ルインの危機的状況に周囲の環境は変化する。上下の熱の温度差が激しい気流を生む。

 その気流は不自然な回転を始め、さらに炎を巻き込み火災旋風と化した。

 火災旋風は明らかに勇者を狙い動き出す。だが勇者は火災旋風と同じくらいの竜巻を魔法で出した。


「これが環境さえ味方に付けるお前の力の本領か!だが堅牢に守られた地下ならば威力にも限度があるようだな!」


 ルインは熱風が吹き荒れる中、少しでも温度が低い場所を探し主柱の隅に勇者から隠れるように避難していた。


「はぁはぁ……なんて熱気だ」

「それで隠れたつもりか!」


 勇者は主柱で見えないルインに向けて炎で作ったランスを放つ。ランスは器用に主柱を迂回しルインの四肢に突き刺さった。


「ぐああああっ!」


 ランスが突き刺さった四肢の傷からも血と同時に大量の黒い靄が漏れ出す。

 その反射は当然勇者にも行くが、竜巻であらゆる物が飛び交う中、勇者は自身に向かってくる物を全て魔法で弾いていた。


「反射はこの木片か?それともこの瓦礫だったかな?だがどれでも関係ない、向かってくるものは全て弾けば良いんだ……」


 炎のランスで主柱から引きずり出されたルインは宙に浮く勇者に見下ろされる。


「俺も最初はこの魔王制度に選ばれたスタナやお前を哀れに思った、だがここまで人間を滅ぼしたお前は正真正銘の魔王だよ!」

「俺に剣を向けて勝手に滅んだのは人間達だろう!」


 ルインは思い切り力を込める、すると全身から黒い靄が吹き出し、宙に浮いている勇者を襲い飲み込む。


「またか!こんな物!バーン!」


 勇者は真正面から自分に向けられた靄を魔法で払う。しかし靄は背面からも迫っていた。


「なっ挟み撃ち!?」


 靄に飲まれる一瞬、勇者は自分を中心に炎を破裂させる魔法を放ち、自分に迫る靄を全て消し飛ばす。


「ヒーリン……はぁはぁ、さっき習得した死せる靄をここまで操れるようになるとは、やはりお前はここで死ぬべきだ!オーバーン!」

「今更そんな魔法!」


 勇者が放った魔法から逃れようとルインは背を向け駆け出す。だが魔法は走り出したルインを追うように同じく角度を変えルインを追尾する。


「なっ!」


 勇者の放った炎の魔法はルインの背中に直撃して吹っ飛ばされる。勇者は手加減したのかルインの背中が少し焼かれただけだった。だが吹っ飛ばされた先は竜巻の近く、勇者はルインを暴風に巻き込むという狙いだった。


「っく、あつ……」


 しかしルインは背中の火傷を熱がっただけで暴風の中よろよろと立ち上がる。


「あの暴風の中巻き込まれないだと……化け物め!」


 勇者はそう言いながらルインの反射に備えて背後を警戒する為後ろを向き身構える。だがそれでも勇者の後ろから炎で熱せられた瓦礫が飛んできた。


「ぐぁ!タイミングがずらされた……奴の反射が俺の動きに順応している!?」


 瓦礫が直撃した勇者はそのまま地上に落ちる。

 背中にルインより大きな傷と火傷を負った勇者は落ちた瞬間回復魔法で自身を回復させた。


「ヒーリン……」


 その隙をルインは見逃さなかった。ルインは勇者に一気に近づき、全身から黒い靄を大量に放出させた。


「しまった!」


 靄に覆われた勇者は再び靄に人影を見る。


「今度は……スタナ!」


 勇者の瞳に映った影は過去に自らが屠った魔王と呼ばれた亜人だった。

 魔王スタナは、自分が殺されたときと同じ方法で、勇者の心臓を貫こうとする。しかし勇者はとっさに避け心臓は外すが体は貫かれる。


「ぐっ!邪魔だ!」


 勇者は火球を爆発させ、靄を払う。その瞬間、目の前の魔王スタナの姿が消えた。

 爆発は部屋中をさらに高熱で覆い、勇者自身も熱に晒され大きく吹き飛ばされる。

 ルインもとっさに瓦礫の陰に身を隠したが、部屋中の高熱は防ぎきれず全身にやけどを負い、空気中の熱で喉や肺にもダメージを負った。


「の、喉が……」

「ヒッ……ヒーリン……」


 掠れた声で回復魔法を使うが未だ燃え続けている体と貫かれた傷は完治することは無かった。


「魔力が……切れたか……だが部屋中燃やしたんだ、ダメージはあるだろう?」


 瓦礫の陰からルインがよろめきながら出てくる。


「ごほっ、はぁはぁ……本当に死を覚悟して攻撃するとは……」


 黒い靄を出しながらも熱で全身に火傷を負ったルインはゆっくり立ち上がる。


「けど魔力が切れたならもう攻撃手段は……あっ」


 ルインは勇者のすぐ横を見る、そこにはルインが投げ捨てたはずの勇者の剣が落ちていた。


「俺は運もあるらしい、丁度ここに吹き飛ばされた……」


 勇者はルインから目を離さず剣を拾う。

 それを見たルインも再び短剣を構えた。

 先に動いたのはルインでも勇者でもなく黒い靄。幾つもの靄が手のように伸び、勇者に迫る。

 その全てを剣で薙ぎ払いながら勇者はルインに突っ込んだ。


「おおおお!」


 ルインは勇者の一撃を防ごうと構える。

 しかしルインの行動は読まれていた。勇者の全力で斬り上げた一撃はルインの短剣を弾く為に放たれる。


「しまっ……」

「取ったぞ魔王ぉ!」


 ルインの至近距離、半ば靄に飲まれながらも最後の一刀を勇者は重力に任せて振り下ろす。

 ルインの体に剣が入った瞬間勇者は剣を手放し、膝をついてしまう。


「て、手ごたえはあったぞ……!」

「がふっ……」


 勇者の言う通り先に倒れたのはルインの方だった。


「た、倒したか……?」


 ルインが倒れたのを確認した後、勇者はそのまま臥し倒れ、掠れた声でつぶやいた。

 しかしルインから出続ける靄は止まることはなく、部屋中を充満していき勇者も飲み込まれていった。


「人間の仇は討てたのか……?ならもう未練はない。好きにしろ」


 勇者は黒い靄に包まれながら笑う。

 勇者が最後に見た光景は大勢の部下を従えた魔王スタナが、無言で剣を振り下ろす光景だった。

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