勇者2
それから数年後、勇者はついに一騎打ちの果てに魔王と呼ばれていた隣国の王を倒す。
「スタナ!お前は……」
「喜んだらどうだ?……人間の天下だ」
その頃には、もう勇者は自身の戦いの意味を理解していた。
国というものの為に都合の良い戦いをさせられていただけだと。その証拠にかつて貰った祝福は十二分に力を発揮していなかった。
魔王スタナとは自身の国の為に立ち上がった、多少強いだけの単なる亜人だったのだ。
勇者一行が国へ凱旋すると、豪勢なパーティーが行われ王からは様々な地位が贈られた。
そんな煌びやかな生活が続く中、勇者は国の権力者の一人からあるパーティーの誘いを受ける。
「また政治的な会か……場所は?」
「それが招待制でして……誘った者、つまり私に付いてくるしか知る方法がありません。魔王を倒したあなたにはぜひ参加してほしいのですが……」
小太りで口を緩ませた政治家が勇者に諂う。
「分かってる、これからは戦う時代じゃなくなるだろうし、こういうのも大事だろう」
「良かった、これで我々の会にも箔がつきます。それとこの事は……」
「政治家はみんな同じこと言うな、秘密の集まりなんだろう?」
そして数日後、勇者は王都の広場で政治家と待ち合わせ、そこで馬車に乗せられる。
到着したのは王宮だった。
「王宮?なら秘密にしなくても入られる人は限られるはずじゃ……」
「まあ行けば分かりますよ、それとこれを」
馬車の中で勇者は仮面とフードを貰う。
「礼儀みたいなものです」
貰った物を身に着けると二人は宮殿の中へ入っていく。
魔王を討伐して王宮へ頻繁に出入りするようになった勇者だったが、今回案内された場所が、いつものホールや部屋と異なることに疑問を抱いた。
「こっちは確か……」
「牢です」
政治家はそれだけ言って進む。
牢番の兵は政治家の仮面を見ただけで道を開けていった。
そしてついに二人は最奥へと到達する。政治家が壁を調べると扉が現れ開かれた。
中に入った勇者は絶句する。
「これは…… 」
目に入ってくるのは凌辱や拷問、この世の地獄だった。
仮面をつけた人間達が亜人達を使って遊んでいた、痛めつけて反応を見る、亜人同士で殺し合わせる、凌辱して子を産ませる。
それを見た勇者は怒り政治家の胸ぐらをつかむ。
「なんだこれは!」
「彼らの仕事ですよ、この国では奴隷制はないから亜人などという劣等種がこの国に居る方法はこれしかない。最も我々が連れて来たのもいますがね」
「これじゃあ奴隷以下だ!」
「そうですよ、勇者……あんたは亜人の味方だったのですか?魔王を殺したくせに」
「それは防衛の為だっただろう!」
「ああそういえばそんな名目でしたね。いやうっかり」
「名……目?」
勇者は完全に理解する。魔王討伐は亜人の排除は単なる差別からくるものではなく、ごく一部の人間による欲の為の物だと。
そんな単なる殺戮を指導した国と手を貸してしまった自身への押さえきれない怒りへ包まれていった。
「人間のなりそこないが人間に逆らうからだ、まあこれを見た君が我々の仲間にならないのなら多少強引な手段を取らせてもらいますがね。おい」
政治家は、入口を守っていた大柄な獣人を呼んだ。獣人は鎖でつながれていた。
「どうやら彼は我々の考えに反するらしい、いつものように」
「はい」
獣人は返事をすると、勇者を片腕でつかみ拘束した。
「俺は勇者だぞ。この程度で俺を止められると思ってるのか?」
「我々はそんな称号いつでももみ消せる、これからの為に従った方が良いと思いませんか?」
「獣人、この手を離せばお前を助けてやるぞ」
勇者は獣人に言うが反応は無かった。
「無駄ですよ、ここに居る玩具は全部心を折ってからここに入れられる、たまに反抗的な態度が好みの者がいるから新鮮な玩具も来ますがね」
政治家の言う通り獣人の目に生気は無く、抵抗する事を諦めている様子だった。
「そうか……ならば」
勇者は剣を抜き一振りすると、獣人の腕を切り落とし、さらに政治家の胸も裂いた。
「!」
「ぎゃぁ!」
その後すぐに入口のドアを魔法で凍らせた後勇者は地下室の中央に向かい駆け出した。
政治家の悲鳴で遊んでいた人間達が入口のトラブルに気づく。
「また我等の考えに賛同できない人間か……行ってやれ」
護衛用の亜人達が人間達の命令で勇者に向かう。
やはり全ての亜人の目に意思はなく、ただ言われるがままの機械になり下がっていた。
「こいつらも……」
勇者はマスクとフードを外すと、向かってくる亜人達を一瞬で剣で肉塊に変えながら地下の中央に進んでいった。
亜人だけでは留まらず勇者は、この地獄を作り出した張本人の人間達をも斬り始めた。
「何で勇者がここに!?」
「あいつ亜人だけじゃなくて我々も斬ってるぞ」
勇者の行動を見て、面をつけた人間は一目散に逃げ始める。
しかし、逃げ場がふさがれた人間達はただ斬られることしか出来なかった。
「勇者よやめろ!魔王を倒した英雄がなぜこんな事をぎゃあ!」
人間の静止も聞かず、剣を振り続ける勇者は、自分達から斬られて行っている亜人達の行動に気づく。
とある鳥型の手足を持つ獣人の少女が、勇者の前で膝をつけ斬りやすいよう首を晒した。
(死にたがっている……これがスタナが戦っていたこの国の正体)
『勇者を目指すなら弱い人達を守ってあげて』
勇者の頭の中でいつかの幼馴染の言葉が反芻される。
「なんで俺は戦えない弱者を殺してるんだぁぁ!」
勇者は涙を流しながらそう叫び少女の首を刎ねその剣を手放す。
「ここが地獄なら俺が壊す!」
同時に巨大な魔法陣を展開させた。
「ギガ・デトネーション!」
超級の大爆発は、その場の勇者以外全てを巻き込み、王宮全体を揺らす。
その後、勇者は剣を拾い、かろうじて生き残った者に丁寧にトドメを刺して回った。
やがて、爆発の衝撃の元となった場所を突きとめた数人の兵が部屋に入ってくる。
事情を知らない兵達は現場を見ても状況が分からず、兵達はまだ息のある重傷者を殺して回る勇者を止めようとするがその制止は無視され勇者は殺戮を続けた。
一介の兵達ではどうにもできず、ついには王までもが現場に出てくる事になる。
「どうなってるんだこれは」
「諸悪の根源を絶った」
全身返り血を浴びた勇者はそれだけ答える。
「それだけでこんな……」
当然、人間の死体も目撃され勇者は捕らえられる。
「話を聞かせてもらおうか」
木製の錠を付けられた勇者はそのまま会議室に連れられ、王と数人の権力者に尋問を受けることになる。
緊急事態につき場には六人程の政治家しか集まらなかった。
「なぜあんなことを?」
王は勇者に問う。
「その前にお前達はあんな会がある事を知っていたのか?奴らは魔王討伐はあの会を正当化するための口実だったと言っていたぞ」
勇者からの威圧ある質問返しに一同は黙ってしまう。
「知っていたのか……やはり俺はこの国に使われただけだったんだな」
そうつぶやくと勇者は錠を力づくで破り剣を抜く。
「待て、我々は大臣と王だぞ!」
「俺は魔王を殺した勇者だ、ただの王など!」
勇者は椅子ごと王を貫く。
「ひいぃ!」
その光景を見た二人の政治家は、椅子から転げ落ちるように部屋の出口に向かう。だが、簡単に勇者に追いつかれ、一太刀で斬られてしまう。
残った者も始末しようと勇者は振り向く。しかし、残った政治家達は椅子から微動だにせず、中には拍手を送る者までいた。
「い……いや、よくやってくれた」
「?」
「王という最高権力があれではな、我々も困っていたんだ」
「困ってた?」
賞賛を送る政治家の中には後に、王の右腕になるあの大臣も居た。
「そうだ、正直に言えば、止められる段階はとうに過ぎていた。魔王の侵攻のおかげで亜人を怖がる民も多い。なのに王や他の連中があれでではな……今は亜人は遠ざけなければならん」
「奴をたきつけたのはこの国だろう!」
「確かに止められなかった責任は我らにあるが、今は南の国の王を討った事で多くの種族から恨みも買っているのも事実。広まってしまった亜人への恐怖と蔑視はすぐに収まる物でもない」
勇者も、たとえ元凶を討った所で、もはやこの国の人間至上主義は止まらないと理解していた。
「なので人間と亜人は一旦距離を取った方が良い、あの会は王含めごく一部の者にしか知らされて居ない、潰してくれたのはあの会を忌避していた我々としても非常に助かった」
「それで?会を潰したから王をも殺した俺でも無罪放免か?この国の今後はどなる」
「王など変わりはいくらでも用意できる。王の死の犯人は……これから距離を置く亜人という事にしておこう。君はその亜人を討ったまさに勇者だな」
こうして王は挿げ替えられ政治家は大臣になる。反奴隷派だった権力者達は更なる力を持つことになった。
勇者には新たな功績が一つ加わり、秘密裏に亜人を虐げる国から亜人を極端に排除する人間の国家が誕生した。
現代、王都の宮殿の地下で、勇者はつぶやいた
「その後俺はもう誰も犠牲にならぬよう、亜人を国から追い出した。だが追放の過程では俺は誰一人殺してはいない」
「なぜそんな話を俺に……それで贖罪したつもり?」
「……かもしれない。ソラも、俺だってこんな未来は望んでいなかった。あの時、会を壊さずにはいられなかった。でもそれまでだ。もう二度と同じ事をする勇気は俺にはなかった」
「その後結局、新たな王や大臣もかなりの亜人を殺した。距離を置くとは言っていたけど大臣は単に亜人が嫌いだから排除しただけなんじゃないか」
「結果的にはそうだな、俺はまた国に利用された。だが俺だって勇者という称号を与えられただけのただの人間だ。俺がこの国で出来た事は――なるべく亜人を逃がす事と、この墓を作る事だけだった」
勇者は自身の後ろにある墓を差しそう言って。
「その墓だって自己満足だろう。それよりワドファーと協力する方法だってあった!」
「言っただろ、俺は勇者でも特別でもないただの人間なんだよ。ソラの真実を語れなかった俺が仲間に反してまでそんな事出来る訳ない。俺には亜人より身近に居る人間の方が大事だった!だからこそこの国の、罪のない人間達やパーティの仲間達を殺したお前の事が素直に憎い!あいつらにやったことは許さない!」
勇者はそう言って剣を抜く。
「勿論人間の罪は受け入れよう。魔王らしく俺を殺して人間を滅ぼせ!だが同時に俺もお前を殺して人間を滅ぼす敵を討つ。これでお互い目的は達せられる……!」
「悪いけど、あんたと心中する気はないよ……!」
ルインもまた、同じように短剣を抜いた。そして勇者をまっすぐ見据えて、静かに構えた。




