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絶滅記  作者: banbe
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勇者1

 ルインは闇の中に居た。

 光のないその空間は、何も見えず、何も聞こえない。ただ一人、膝をついてうなだれていた。


「……」

(ルイン?)


 いくらかの時間がたった後、ふと誰かに呼ばれる声が聞こえた。


(ルイン?大丈夫かい?)


 最初は何もわからなかったルインだが、何度も呼んでくれる声に意識を向けると、それは聞き慣れた声だった。


「ポル婆?」

(気が付いたかい?)

「なんで?俺の前で死んだのに……」

(ここは死の中。そのおかげで私は話しかけられているみたいだ)

「じゃあやっぱり……」

(私は死んでしまったよ。けど行くべきところへ行く前に、このままのあんたを放っておけないからね)

「でもポル婆……体がもう動かないんだ……」

(気をしっかり持ちなさい、私以外にも大切なものはあるだろう?それが今大変な事になっている)

「この黒いののおかげで何が起こってるかは何となくわかる、けど止め方が分からない……」

(大丈夫、信じるんだ。あんたの力は自分を困らせることはしないよ)

「……うん」


 だがルインは俯いたまま動こうとはしなかった。


(……あんな形でも、死は死さ。私は悔いはないんだよ、それにこうやって遺言も残せた。それより大事な人達を助けておやり)

「ポル婆……分かったよ」


 ルインは牢に寄りかかりながら弱々しく立ち上がる。


(さて、立てるね?私は長命種、もう十分生きたさ……)


 その言葉を最後に再びあたりに静寂が訪れた。


「何も聞こえない……みんな、ごめん」


 ルインが力を込めると、黒い靄は彼の体に吸い込まれるように集まり、まるで元に戻っていくようだった。



 最前線の至る所で靄が晴れていくのが確認される。


「なんだ黒いのが晴れていく……」

「助かったのか?」


 敵味方構わず飲み込んでいった黒い靄は晴れていき、逃げ惑っていた者は皆その場で生を実感する。

 西の都から逃れた両軍の戦いも黒い靄が晴れると、それに合わせて戦闘は収まる。


「じゃあ……人間の生き残りはここに居る俺達だけ……?」


 人間の軍は、靄が晴れた国中に広がる無数の死体を目にし、敗北を認めた。

 そして、軍師は西の都入口の門で宰相の遺体を確認し、宰相に助けられた亜人達と共に涙を流した。


「宰相殿……」



 南の都の亜人街の大通り、魔女は周囲の亜人達と共に無事を確認し合っていた。避難後、魔女は王都の王宮を見てつぶやく。


「ルイン、まだそこに居るのね」



 王都の東側、鬼人の周りの靄も急速に晴れていった。


「ふぅふぅ……これまでに勝った奴等など相手になるかぁ!」


 鬼人は左腕と首以外が動かないにもかかわらず、ルインの靄を耐え抜いていた。

 氷に覆われていない左腕や頭はボロボロで、勇者が決して解けないと言った氷には、いくつもの亀裂が入っており、激しい攻防の痕跡が残されていた。


「フン!」


 鬼人が力を込めると氷は粉々に砕け散る。


「あれだけヒビが入っていればあんな氷……ルイン、どうなった?」


 鬼人もまた王宮へ目を向けた。



「はぁはぁ、静かだ……」


 黒い靄が消えた宮殿の中、牢から出たルインは一人佇んでいた。

 周りには先程まで、ルインを捕えようとしていた人間達の死体。宮殿の内部にも無数の人間の死体が転がり、王都では兵も民も関係なく、すべてが死んでいた。

 そしてルインが居る部屋の前には、まるで誘う様に小さな光の玉が浮かんでいた。


「これは魔法?勇者か……?」


 その光にルインが少し近づくと光は少し離れ、まるでどこかへ案内するような動きをする。


「呼んでるのか?」


 光は廊下、王の玉座、地下牢とルインを案内し地下牢の一番奥へと連れて行く。


「ここが何か?」


 壁を調べてみると隠されていた扉が現れた。

 扉をくぐると光の玉は消える。階段を降りると、巨大な空間が現れる。


「ここは……」


 数本の大きな柱が部屋全体を支えており周囲を見渡すと檻、拷問器具、皿、ソファーや寝具そして骨、石に染みついた血の跡、そして部屋の中央には墓、ルインにはそれらの接点が見いだせなかった。


「なんなんだここは」

「ここはな、人間の欲の坩堝さ」

「勇者!」


 主柱の陰から勇者は静かに姿を現した。


「あの黒い靄、力は大した事なかったが相手をするには王宮では狭すぎてな。ここへ来るしかなかった」

「あんたはそれだけの数を殺してきたって事だろ?」


 ルインは怖気ず返す。


「そうだ、冒険の最中も魔王も、それにここに居た奴らもな」

「欲の坩堝とか言ってたな」

「……全ては前の魔王……いや、スタナを殺す遥か前から既に始まっていた」


 勇者の後ろには鬼人が前に見せてくれた剣が置かれており、置かれていた場所は墓だった。


「キドウの持ってた剣!キドウはどうした!」

「俺が戦った後は無事だった。最も動きを封じたからお前の靄に飲まれただろうがな」

「!」

「……少し昔話をしようか」


 勇者は目を閉じ語り始める。



 勇者のパーティ、それは今や勇者と四人の仲間の事を差していたが、元々は東の外れで農業をやっていた村の幼馴染達が発端だった。


「俺が冒険に出たらみんな手伝ってくれよ!そしてこの六人でこの国一番の冒険者になるんだ!」


 よくある子供の将来の夢。しかし、その言葉を信じ、全員が無我夢中で冒険者を目指した。

 最年少なのに一番体が大きいガイ。

 生まれつき魔力が多く、魔法使いを目指すマリア。

 最年長で本が大好きなディムワズ。

 誰にでも優しく治癒魔法を使えるエルハイナ。

 そして翼の生えた不思議な力を持つ亜人の少女ソラ。

 六人は楽しそうに将来を語った。



 その十年後、各々は冒険者にふさわしい力を持ち、既に一流の冒険者と名乗っても恥ずかしくない程有名になっていた。


「おい聞いたか、またあのパーティだ」

「南の大森林の主を倒して商人を助けたんだとよ」

「若いのに凄いな、まるで伝説に出てくる勇者だ」 


 当時、南の都を出てすぐに広がる大森林には、魔獣や人間に敵対する亜人が多かった。

 何をするにも大森林を迂回しなければいけず、冒険者や商人からは邪険に思われていた。

 南の大森林の道が開けた事により、その夜都は歓喜しギルドは祝杯を挙げることにした。


「今までは何をするにもあの大森林を迂回しないといけなかったから凄い便利になるぞ」

「いっそのこと木全部刈って平地にするのはどうだ。ガハハハ」


 大騒ぎのギルドの屋上で二つの影が静かに佇んでいた。


「商人達も大助かりだと言ってこの宴にかなりの額を出してくれたそうよ。みんな勇者って呼んでるし私もそう呼ぼうかな」

「やめてくれよ幼馴染にそう呼ばれたら鳥肌が立つ。それにみんなの力あってこそだ」


 若き勇者とソラが宴の最中、喧騒から外れ夜風を浴びていた。


「でも森の生き物達には可哀そうな事したわ」

「ソラは優しいな、けど被害が大きくなり過ぎた。国直々の依頼でもあったし冒険者がダメなら国の兵が動いていた、下手したらあの森は焼き尽くされたかもしれない」


 そう言う勇者の手を取ってソラは懇願する。


「……お願いがあるの。勇者を目指すなら、一方的に敵を倒すんじゃなくて弱い人達を守ってあげて」

「それはもちろん、勇者なんてならなくても俺はそのつもりだよ」

「なら……」


 ソラは勇者の手を取り、そっと甲にキスをした。

 すると勇者の体から光の柱が出現し、その光は天まで伸びる。


「今のは?」

「祝福よ、あなたが真の勇者となるなら必要になるから」


 しかしそれから数日後、ソラは勇者達の前から姿を消し、遥か南の国の王スタナが人間の国へ宣戦布告する。

 冒険者の依頼が開拓から、亜人や魔獣との戦いが主になりだした頃、人間の国は人間以外を排除しようとする人間至上主義を掲げる人が多くなってきていた。

 人間の間では徐々に亜人差別が広がり、国のあらゆる職業から亜人の姿が消えていった。


 各冒険者達が南の国へと進路を取っている最中、勇者達はひときわ優れた功績を挙げ続ける。

 それを皮切りに勇者達はついに王から直接依頼を受ける程になり、国を挙げて名実ともに勇者と呼ばれるまでになっていた。



 勇者達は最前で南への進路を切り開いていた。ある夜、野宿をする勇者のパーティの前に突然いなくなった仲間が空から降りてくる。

 故意か偶然か、見張りとして起きていたのは勇者だけだった。


「ソラ!?」

「みんな……こんな所まで来て……」


 久しぶりの再会にも拘わらずソラの顔は曇っていた。

 そんなソラとは裏腹に勇者は喜びソラに近づこうとする。だが、ソラは拒むように身を引く。


「どうした?いやそれ以前になぜ突然いなくなったんだ」

「私、人間に攫われたの……運良くすぐに助けられたけどもうあんな国にはいられない……南の国はそんな身寄りの無い私達を保護し受け入れてくれたわ」

「なんだって……なら犯人を捕まえよう!俺達の仲間に手を出すなんて……」


 怒る勇者の言葉を遮るようにソラは話した。


「無理よ。今のあの国は”人間の国”でしょ?最近のあの国の動向は知ってるわ、あなた達が今まさに南に侵攻しているのも……」

「待てよ!それは魔王が宣戦布告をしてきたからで……」

「国王はそんなことしてないわ!それとも「不当に扱うな」というのが宣戦布告になるの?」


 ソラの必死な言葉に勇者は何も言い返せなかった。

 そればかりか自国で亜人が追いやられていく様を勇者自身が見ていたのだ。

 最初は亜人が入っているパーティが仕事を貰えなくなった。

 そしてパーティメンバーも仲間であった亜人を次第に邪魔に思い排除しようとしていく。これは何も冒険者業だけに限らず国のどの仕事でも起こっている事実だった。


「だが魔王軍の被害は甚大だ。俺達は弱い立場の人間を守ってるに過ぎない」

「魔王軍?そんなものは居ないわ。全て人間の害から身を守った亜人達よ。その魔王っていうのも人間が勝手につけた称号で人間以外でそんな風に呼んでいる者は居ない!」


 ソラの強い否定の言葉に勇者はたじろぎ、何とか喉奥から言葉を絞り出す。


「……じゃあ、俺達はどうすればいい……?」

「あなたは今の地位と名声を捨てて本当に弱い者の為に戦える?」

「そ、それは……」


 勇者は即答できず、それがすべてを物語る。


「ごめんなさい、あなたが悪くないのは分かってる……けど私はもうあの国には居られない」


 ソラは翼を広げ羽ばたくと宙へ浮かぶ。勇者はそれを悲しげな顔で見送るしかなかった。


「“勇者”最後に聞かせて、あなた達は私を助けられなかった。なのに私は自分の身を守ることも許されないの?」

「それは……」


 またも勇者は答えられず今度はソラが悲しげな顔をする。


「弱い者を守ってって約束したのに……人間だけに力を使うあなたを祝福しなければよかった……さようなら」


 ソラは別れの言葉を最後に飛び去って行き、そしてもう二度と姿を現すことはなかった。

 勇者は、その夜の出来事を仲間達に伝えられなかった。

 ソラの言った正しさは既に自分達の国では悪となっていたからだ。

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