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絶滅記  作者: banbe
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人間の国、強襲9

「魔女めどういうつもりだ……」


 ワドファーの城、通信機の前ではエルフが魔女の言葉について考える。

 エルフはすかさず部下である北の部隊に通信する。北の都ではちょうど王都への門を破った所だった。


「王宮から光の柱が発せられたと聞いたが、本当か?」

『はい、前にここで見た光の柱よりはるかに大きいものを確認しました』

「魔女は嫌な気配すると言っていたがそちらはどうだ?」

『嫌な気配ですか……何か心がザワザワしますが……ですがこちらは王都の門を破った所です、高揚感の方がありますね』

「ふむ……」


 北の部隊の返答を聞いたエルフはしばらく考え込んでしまう。


『あの……』

「これは私も何かしらの準備はした方が良いと思うが、どうだろう?ワドファー王」


 通信機の傍の玉座には、若きワドファー王が静かに腰かけ、これまでの経緯を黙って聞いていた。


「予言すらできる魔女、彼女があそこまで取り乱し強行するのは何か確たる理由があるのだろう。言う事を聞いといた方が良いかもしれない」

「了解した、ならば全体に撤退の準備をさせる!」


 エルフは魔力通信機から全軍へ撤退の指令を出す、だがいきなりの指示に各地は混乱する。


 北側は今までのやり取りを経て渋々了承する。


「命令とあらば、ですが今部隊は士気が上がってます。ここで撤退は大きな士気低下を招くことはご容赦下さい」



 東側では魔獣や亜人達が鬼人の氷を砕こうと凍った地面を掘り返そうとしていた。

 鬼人は通信機を持つ亜人に、通信機を耳に当てて貰いながら反応する。


「いざとなればこいつらだけでも逃がすが……撤退とはどこまでだ?東の国境は海だぞ」

『事と次第によっては船で海に出る準備もしといた方がいいかもしれない』

「海に出るったって、魔獣もいるんだぞ……」


 鬼人は魔獣達を見ながらつぶやいた。



 一番最初に戦線を開いた西側だが、未だ西の都の門を守り市街戦をしていた。

 指揮を取っているオノは通信機に向かい怒鳴る。


「なぜこのタイミングでそんな命令を!士気が落ちる所か混乱を招きますよ!」



 少し進み西の戦力を集めていた宰相も、エルフの指示に反論する。


「今西軍に撤退されたらせっかく集めた戦力が孤立します!ここから撤退は不可能だ」


「分かってはいるがこれはワドフ王の勅命だ。王都で異常が発生した。だがそちらの状況も分かっている西は、市街の人間達を挟み撃ちし迎撃しながらなるべく早く撤退するんだ」


 エルフは各方の反対を押し切って命令した。


「魔女があれほど慌てるとは……魔王ルインよ、何をするつもりだ」


 エルフは通信の反応がないルインに語り掛けながら呟いた。



 王都の王宮、ルインが捕らわれた牢を動かそうと牢に最初に触れた兵は、黒い靄に包まれていた。

 靄の発生源は明らかにルインだった。


「キャスリンやめろ!あれは事故だ!それで解決したじゃないか?」


 兵の前に人間ほどの大きさで、さらに濃い靄が佇み兵はその靄に向かい狂い叫んでいた。


「キャスリンってあいつの死んだ元妻の名前だよな……確か事故で崖から落ちたって」


 同僚の兵達がその様を見て狼狽していた。


「ああするしかなかっただろ!お前が別れなかったから悪いんだ!やめろ……ぎゃああああ!」


 兵は濃い靄に包まれ、完全に全体が見えなくなると悲鳴が上がる。

 悲鳴の後、すぐ静かになり、兵に纏わりついていた靄が霧散していく。靄が無くなった後に残ったのは、死んだ兵の死体だった。

 それを見た周囲の兵達は狼狽する。


「なんだこれは……」


 その死体は転落死した様に、全身の骨が折れ血だまりが出来ていた。


「まるで高い所から落ちたような……」

「あいつの嫁、確か事故で転落死したって休んだ事あったよな。でもああするしかなかったって……」


 その場の人間は全て黒い靄を出しているルインを見る。


「そんなもの早く地下へ運んで密閉しろ!お前とお前、早くするんだ!」


 大臣は、牢の近くに居た二人の兵を指名する。

 兵二人は一瞬不安げに互いの顔を見た後、牢へ近づいた。

 しかし、牢を掴もうとした瞬間、二人は先程の兵のように靄に包まれてしまう。


「うわっうわぁぁぁ!」

「ぎゃぁぁぁ……」


 悲鳴の後、靄が薄れていくと、そこにはまた別の様子の死体があった。

 一人は全身焼け焦げ、もう一人は首を刎ねられていた。


「なんであの黒いのに触ると死ぬんだよ……」


 兵達はすっかり怯え、誰もルインの牢に近づこうとはしなかった。その場に居る誰もが、言葉少なく後退していく。


「わ、わかったあれを地下へ封印した者には賞金を出そう……それもこの王都に家を構えられる程の……」

「それなら……」


 大臣の言葉を聞き、一人の兵がロープを牢に投げ掛ける。


「これならわざわざ近づかなくても……」


 ロープを持つ兵が足元に目をやると、黒い靄が床を這うようにして忍び寄っている事に気づく。


「これ……広がっているのか……」


 次の瞬間、黒い靄が兵を飲み込んでしまう、それを見た室内はパニックを起こす。

 しかし、ルインの牢は部屋の扉の前に置いており、誰も扉に近づこうとはしなかった。

 代わりに兵達は、最もルインから距離のある位置にいた大臣。


「この部屋は出入口はあそこしかないのですか?」

「ここは評議院の部屋、緊急の抜け道くらいあるはずだ!」


 兵達は鬼気迫る表情で大臣を問い詰める。


「勿論あるが、まずアレをなんとかせねば王宮があの黒いのに溢れてしまう!」

「ならその方法は具体的にどうすればいいんですか!?」

「ぎゃあああああ!」


 兵が大臣に詰め寄っている間にまたも、兵一人が靄に包まれ死体になり果てる。それも牢からかなり距離がある所で。


「ル、ルインよ!その黒いのを止めろ!貴様の拘束は解く!」


 大臣の叫びを聞いてもルインはうなだれながら、座り込んでピクリとも動かなかった。


「お前、鍵を!あの牢を開けてやれ!」


 大臣は自分に付いていた部屋の中で一番屈強な兵に命令する。兵は盾で靄を払いながら牢に近づく。


「おお、あの黒いのは払える」


 だがそれも一時的で、牢の鍵を開ける頃には兵の下半身は既に黒い靄に染まっていた。


「おい亜人!牢を開けたぞ!早くこの黒いのを止めろ!」


 兵はルインの肩をつかみ大きく揺さぶるが、ルインの目は生気を失い、まるで死んだように動かなかった。


「くそっ、何の反応もありません。大臣!駄目です!俺もこのままじゃもう……」


 兵は靄を払いながら報告する。


「亜人め……だったら殺してしまえ!」


 大臣の命令に兵達は一瞬動きを止める。


「それが出来ないから捕えてるんじゃ……」

「無防備の今なら何とかなる!私を信じろ!」


 大臣の言葉を聞いた兵達は半ば自暴自棄にルインを襲う。しかし、それをきっかけにしてか、ルインから出ていた靄は一気に勢いを増し、兵達は全て飲み込まれてしまった。

 靄の中から次々と悲鳴が上がる。その中から何とか逃げてきた者居たが、全員が大怪我をしており、中には欠損している者もおり、全員が既に助からないのは明白だった。


「だ、大臣……ここは一旦逃げましょう」


 片目と腕を失った兵が、腕を抑えながら大臣に提案する。


「近づくな役立たずめ!」


 大臣は寄ってきた兵を蹴飛ばし、踵を返し走り出す。


「だがあれは止められん、ここは一旦……」


 壁際でランプの仕掛けをいじると、すぐ横の隠し扉が開く。

 しかし時既に遅く、黒い靄は大臣の足元まで来ており次の瞬間、大臣の全身は黒い靄に覆われる。


「しまっ……」


 大臣は驚き、顔を上げると、そこは広く黒く暗い空間で、幾人の人が立っていた。


「ここは……それに誰だ?」

「あんたに罪人にされた亜人だよ」


 立っている一人の男が喋る。


「罪人にした者の事は一々覚えてられないか?」

「だが俺達はみな覚えているぞ」

「あんたは私達に色々やってくれたな」


 大臣の周りに立っていた人達が口々に言うと、全員の首がぼとっと落ちる。


「さあ次はあんたの番だ」

「ひっ」


 落ちてもなお喋る首に、大臣は悲鳴を上げ後ずさる。

 しかし、首のない体は大臣を逃がさんと囲い込み、簡単に捕まっていしまう。


「無礼者!私を誰だと思ってる!」

「俺達を無実の死刑にかけた、最も死に値する悪人だ」


 捕まってなお気丈にふるまう大臣だが、男の言葉を聞き自身が既に靄の中に居る事を悟る。


「兵達が見てたのはこれか……!」


 大臣はそのまま大人数に担がれ、いつの間にか近くに有ったギロチンに、無理やり括りつけられる。


「そうだ、生きて出た者も居たはずだ!まだ間に合う、まだ……!」


 大臣はギロチン台の上で必死にもがく、だが無情にもギロチンの刃は落とされた。

 首元に金属が当たるわずかな瞬間、重い音がした。

 皮膚が裂け、筋が断たれ、骨の間を無理やり割るようにして頭部が揺れる。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ」


 あまりの激痛に悲鳴を上げる、だが首はまだ繋がっていた。しかしまるで本当に首が切断されたかのような痛みが残り続けた。


「ぅん?声が出る?まだ首は繋がってる?これで終わったのか?」


 首に激痛は走っているが、まだ自分が生きている事に大臣は安堵する。


「ああ、俺の分は終わりだ」

「そ、そうか……」


 その声を聞いた大臣は笑みを浮かべた。しかし、次の瞬間その笑みは凍り付く。


「次は俺の番だ」

「その次は私」

「俺の番が待ち遠しい……」


 最初の男の首の後方には、五十は下らない首が並んでいた。


「この数だけあの痛みを繰り返すのか……?」


 大臣は凍った笑みのまま涙を浮かべる。


「あんたは凄まじい数の死を作ったからな、こんな物はまだまだ温い方だよ」


 無数の首の後ろには、銃殺、焼死、圧死と様々な死の列が並んでいた。


「あはははこれは夢だ、なあそうだろう?あははあ」


 真っ黒い空間には恐怖で狂った大臣の笑い声が響いた。

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