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絶滅記  作者: banbe
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力の正体1

 人間との戦闘後、魔女はルインに殺気立つ獣人達を治め、ルインの正体を見極めると話すと獣人達は引き下がった。

 ルインは魔女に招かれ、森の奥にある魔女の家に到着する。

 だがその頃にはすでに辺りは暗くなり始めていた。

 魔女の家は、ノバ族の長が言っていた通り森の真ん中にある沼のすぐそばにあり、大きな木をくり抜いた形で、蔓のように大きく伸びた太い木の枝を登り、中に入るという仕組みだった。

 中に入るとテーブルと椅子や棚などが置いてあり、まるで客室のような簡素な室内でルインは拍子抜けする。


「魔女の家って言うからてっきりもっと怪しい物かと……」


 ルインは小さな声でボソッとつぶやくが、その言葉は魔女には聞こえたようだ。


「なに?」

「こほん。俺はルイン、まずは経緯とノバ族の言伝を……」


 ルインはノバ族の事と自分の要件を伝える。


「そう……彼女は逝ったのね」


 ノバ族に起こった悲劇を伝えると魔女は悲しい顔をした。


「……なるほどね、それであなたは自分の力の正体を知りたいと」

「人間の国で貴女の事を教えて貰い来ました」


 帽子と上着をポールハンガーに掛けた魔女は、ルインにイスを用意した後尋ねる。


「森の獣人は、貴方が人間の国に属してると言ってるわ。私達の居場所を奪おうとする人間の味方に協力する気にはなれないんだけど?」

「彼等が俺を憎むのは仕方ない事だけど……今は人間に追われる身です。人間に従うような事は絶対にない」


 ルインは魔女の目をまっすぐ見て言い切った。


「……まあさっきの戦闘と新聞もある、とりあえず私は信じるわ。あと敬語はいらないわよ」

「分かった、新聞って何の事?」

「これよ」


 魔女は机の上に畳まれた新聞を投げ渡す。

 新聞の一面には、南の都壊滅の文字と犯人であるルインの特徴が大きく載っていた。


「これは……」

「あの兵の言葉、この記事の事よね」

「なんか規模がデカくなってる気がする……これは人間が勝手に騒いで自爆しただけだよ。俺は誰一人殺しちゃいないし何も壊してない、ただ歩いてただけだよ」

「森の外でやったように、ね……だから貴方はあの力の正体を知りたいと?」

「今のままじゃ制御すらできてないからね」

「私達に危害を加える気じゃないなら良いわ、でもタダじゃないわよ?」

「お金が必要?」

「お金でも良いし……森の周りに住む者達の依頼では、食糧や生活に必要な物を貰ったりしてるわ」

「お金はこれだけ、これで間に合うといいんだけど」


 ルインは懐から、パンパンに膨れた財布を出し少し中を見せると魔女は驚く。


「うわ何これ、全部金貨じゃない」

「旅の軍資金は多い方が良いって聞いて……」

「まさか南の都の人間達の……」


 ルインは黙って目を反らす。


「はぁ……まあいいわ、料金はその袋の中の二枚で十分よ。準備するから待ってて」


 魔女は奥の棚から物を取り出し準備を始める。そんな中、ルインは準備をしている魔女に尋ねる。


「ねえ、あの兵はなぜ殺さず連れて来たの?」


 魔女は情報を吐かせた兵を殺さず捕えており、外で獣人に見張らせていた。


「使えそうだからよ」


 魔女は手を動かしながら話す。


「この森には人間を嫌ってる種族が亜人、魔獣問わず沢山いるわ。だから彼にはここに人間が来ない様報告してもらわなきゃ」

「なるほど……」

「さあ、準備が出来たわ、来て」


 魔女が部屋の奥の扉を開けると、上階と下階をつなぐ階段が現れる。

 地下を合わせると三階建ての家ということが分かり、ルインは驚いた。

 ルインが通された一階は本当に客間のようで、魔女が地下へ案内した。


 地下に降りてルインが見たのは大きな釜、棚に入りきれない程の本、中央の床には魔法陣、机の上には調合中と思われる怪しげな葉や薬など、いかにも魔女の部屋といった内装だった。


「おぉ……イメージ通り……」

「ごちゃごちゃしてるけど作業場なんだから勘弁してね。さて、これを……」


 魔女は尖った針と白いシャーレをルインに渡す。


「えっと……」

「調べるにはまずあなたの情報が必要なの、血を少し貰えないかしら?」

「俺の血……?」


 ルインは固まってしまった。


「どうしたの?」

「……いや、分かってるんだ。けど……」

「何?怖いの?私がやってあげましょうか?」


 魔女はニヤつきながらルインの手を取ると、持ってた針で指先を刺す。


「え?ちょっ……」


 ルインの制止は間に合わず針の先がルインの指先に触れた時。


「痛っ」


 魔女は痛みを感じた指先を見ると少し血が出ており、硝子の破片が刺さっていた。


「……なるほど、こういう風になるのね。自分ではできないの?」

「ごめん……体が動かない」

「謝る事ないわ、でもこれじゃ調べられないわね。血は魔術的にも肉体的にも大事な情報を持っているわ、それが取れないと出来ることはかなり狭まるの。あとできるのは……占いや催眠術くらいね」

「それでどうにかならない?」

「精度は格段に落ちるわ、かなり曖昧になるけど……それでいいならやるわよ?」

「わ、分かった、ちょっと時間が欲しい」

「いいけど……もう遅いし長くなるならその分料金貰うわよ?」

「お、おう……」



 ルインが自分の指と針を睨んでいると辺りはすっかり暗くなっていた。

 その間魔女は捕らえた人間の兵からさらに情報を聞き出し、催眠術で記憶の隠蔽を施した後帰す。

 またルインの事に文句を言う獣人達を、ルインと魔女二人でなだめ、数人の見張りを残し解散させた。

 魔女宅の客間ではまだルインは針を片手に持ち、ずっと指を見つめていた。


「……それがあなたの力なら、多分あなた自身にも自分を傷つけることは無理だと思うわよ?能力というより呪いに近いものなのかもね」

「……」

「あなた、怪我した事は?」

「分からない、あまり記憶にないけど……」


 ルインは指を見つつ答える。


「それは普通じゃないわ、多分あなたは怪我をしたことが無い。その力を自覚したのは戦争に参加した時と言っていたけど……恐らく幼少期からあなたを守ってきたはずよ」

「だったらこの力の正体はずっと分からないまま?」

「どうかしら、時間をかけて実験すれば何かわかるかもしれないけど……私はその気ないわよ?」

「そっか……」

「今日はもう遅いし泊まっても良いわ、もちろん宿泊料はいただくけどね」


 ルインは一階の客間をそのまま使わせてもらう事になった。

 ベッドなどは無いので床に荷物を置き枕にしただけの簡単な寝床を作り、仰向けに寝転び借りたシャーレを覗き込む。


「怪我した事がない、か」


 その言葉はルインに突き刺さり今までの人生を思い返す。


(そう言えば危ない事は何度かあったけどいつも無事だった……)


 自身の記憶の中で熱いオーブンを触った時も、転んだ時も、何かにぶつかった時も、いつも偶然怪我することは無かった。


(俺は事故でも怪我した事が無い?)

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