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絶滅記  作者: banbe
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人間の国、強襲8

 老婆の衣服はボロボロで、両膝からも血を流し、その姿は囚人の様な扱いを受けているのは明白だった。


「ポル婆!一体なぜ!?どういう事だ!」


 ルインは大臣に問い詰める。


「徹底的に調べたと言っただろう?お前が南の都で暴れた日には、戦争に貢献した亜人を我々に忠誠を誓わせる式を行う予定だった。ならば、事件を起こしたのはあの式に出た亜人と考えるのが自然だ。そしてあの日、宮殿は壊滅したが書類は残っていた。当然戦争に参加した亜人達の名簿もな。特に優秀だった亜人は詳細も書かれていたぞ、なあパン屋の息子ルイン?」

「!」


 大臣は兵から、手錠につながれた鎖を受け取った。


「さあ魔王よ、これから私の言葉には慎重に答えた方が良いぞ」

「卑怯だぞ、戦えもせず関係ない亜人を盾にするなんて……」

「関係なくはないだろう?お前の家族なんだから。それに戦争とはそういうものだ」

「っく!それでどうするつもりだ」

「まあ、焦るな。少し待て」

「?」


 しばらくすると、二人の兵が背丈より大きな箱を引いて部屋に入ってくる。


「これは牢?」


 ルインの言う通り箱の一面は格子が張られており、下には車輪が付いていた。


「わざわざお前の為に作らせた移動式の牢だ、だが我々が無理やりお前を入れる事は出来ない。だからお前が自分の運命を決めろ」


 大臣はこれ見よがしに鎖を掲げ、冷たく言い放った。


「俺に自ら牢へ入れって?」

「それも自由だ、我々には抵抗する術はない。この部屋を去ったとて追いかけはしない」

「追いかけては来ないがポル婆の命と引き換えなんだろう!」


 大臣はルインの問いに何も答えなかった。

 部屋の中で暫く沈黙が続き、先に言葉を発したのはルインだった。


「……中に入った後ポル婆を解放しろ」

「ああ、必ず」


 大臣からの返答を聞くとルインは自ら牢に入った。

 兵が外側から鍵を掛けルインの力では開かない事を確認すると、大臣は鎖を離し、約束通りポル婆を解放した。


「これでお前は自軍を裏切った訳だ」

「違う!みんなは俺無しでもお前達に勝てると信じてる!」


 解放されたポル婆はルインの牢の元へ駆け寄った。


「ルイン!」

「ごめんポル婆、こんな事に巻き込んで……急いでこの国から逃げるんだ!」

「でもあんたは……」

「俺はどうにでもなる!だから……」


 しかし会話の途中、老婆の鎖は人間の兵によって引っ張られる。


「おい!放せ!約束だろう!」


 老婆はそのまま引きずられ鎖は大臣に渡された。


「ああ、一度は逃がしたぞ」

「お前……最初から!」


 大臣は不敵に笑みを浮かべながら言う。


「青いな、若き魔王よ。約束というは互いの力関係が同等の時に初めて成立するものだ。今お前との約束を破ってもなにも損はしない」


 一人の兵が大臣に自分の剣を手渡す。


「おい!やめろ!」

「さて、汚らわしい亜人がこの王宮に入った罰を受けて貰うぞ」

「ルイ……」


 大臣は鎖を思い切り引き、剣を背中に突き刺した。

 ポル婆は大量の血を流しながらその場に倒れる。


「ふう、亜人は丈夫だからな、後はお前に任せる」

「ポル婆ぁぁ!くそ出せぇ!」


 牢の中でルインは格子を掴んで暴れる、しかし牢はビクともしない。

 大臣に指名された兵が、体に刺さったままの剣を抜いた。その瞬間、ポル婆は苦しげにうめき声をあげる。


「やはりしぶといな、この女見た所竜の長命種か。だが幾ら長生きだろうとこれが人間に逆らった種族の末路だ」


 その言葉の後兵はルインに見せつけるよう勢いよくポル婆の首を刎ねた。


「うああああああぁぁぁぁ!!」


 最も親しい者の斬首を見たルインは叫んだ。


「ッチ本当ならそのうるさい首も刎ねたい所だが、お前に害をなせばこちらもどうなるかわからない、我々が飼殺してやるからありがたいと思え」

「うぅ……」


 ルインは力なく膝をつく。


「さて、これで最大の障害は排除した。魔王を下した私は次期王となり長きに渡り語り継がれるだろう!あとは魔王軍の残党を片づければいい。この場にいる君らにも、確実な地位を約束しよう。あと一息だ!」


 大臣の鼓舞に、勝ち馬に乗ったと確信した周りの兵も盛り上がった。


「さあそいつを地下に連れて行け!私は作戦本部へ向かう」


 大臣の命で数人の兵がルインの檻を移動させようと動く、だが一人の兵が変異に気づき、指をさす。


「なんだこれ」


 もう一人の兵が指さす先を見ると、檻の下から黒い靄のようなものが漏れていた。


「おいなんだ!やめさせろ!」


 大臣が命じる。だが生気を失いへたり込んだルインの体は眩い光に包まれ、それは天へ向かって大きく伸びていった。

 その光源は凄まじく、王宮の上空に光の柱が出来上がり、王都の外からでもはっきりと目に映った。

 それは南の都で戦っていた、ルインの発する光を一番多く間近で見た、魔女の目に入る。


「あれは……ルイン?でもあんな大きな光……」


 大きな光の柱は戦場を混乱させる。人間の中は、各地であの光の柱が現れた直後に都が壊滅したことを知る者もいた。


「あれは……西で見たことあるぞ……」

「俺北だ」


 光の柱は大きく、戦場に居る誰もが目撃し、戦いを一瞬止めるのに十分だった。

 瞬時に魔女は通信機に手をかける。


「本部、撤退よ!全軍撤退させて!」

『どういうことだ?』


 いきなりの魔女の連絡にエルフは困惑する。


「嫌な予感がする、いやもうこれは予感ではなく確かな気配よ。ルインの力は死を操る、これがもし制御できず垂れ流しになったら……」


 エルフは魔女の曖昧な返答に反論する。


『そんな根拠のない理由で軍は引けん。大体撤退するにしてもまだ人間が多過ぎて、帰って危険だ』

「あなたも北でルインの光を見たでしょ、それよりも遥かに大きい光の柱が王都の王宮に現れた。とにかく、南の軍だけでも何としてでも撤退させるわ!」


 そうして魔女は通信を強制的に切断してしまった。


「みんなここは撤退よ!徐々に戦線を下げるわ!」


 突然の連絡に南の亜人軍は困惑する。


「なぜです?ようやく王都に行けそうなのに」

「嫌な気配が、どんどん大きくなってる……少し、間に合わないかもしれない……」


 感じた事のない悪寒に、魔女の顔は徐々に青くなっていった。

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