人間の国、強襲7
西の都、監獄の地下では、ワドファーの宰相が直接数人の部下を連れ、潜入していた。
「こっちです宰相さん」
宰相を案内する顔ぶれは、ワドファーの兵ではなく、西の都に住んでいた亜人達だった。
「あった、ここで最後だな」
地下牢を見つけ、各員は持っている武器で牢の鍵を壊し、捕らわれていた亜人達を解放する。
「迎えに来たぞ!さあ出ろ!」
牢から出た亜人達は憔悴している様子もなく、むしろこの時の為に力を蓄えていた様だ。
「待ってたぜ!」
「やっと暴れられる!」
「皆やる気が漲っている様だな、それに数も多い」
「ああ、あの日捕まった者達だ。皆戦力になる」
西の都では、かねてより人間達の支配に対し、密かに抵抗を続けていた亜人のグループが存在していた。
やがて亜人達による大規模なデモが発生し、それをきっかけに多くの亜人が捕らえられる事態となる。
その混乱の中、抵抗グループは戦えない者たちをワドファーへ逃がす一方で、自ら囮となってあえて捕らえられる道を選んだ。
この出来事は、後にワドファーへ逃れてきた亜人達の証言により明らかとなり、ワドファーの軍はそのグループを解放する事を作戦の一部として組み込んだ。
宰相は西の門で軍師達が戦っている間、少数先鋭で捕らえられていた捕虜を解放して回っていた。
「西の戦力は増える事を見越して立てた作戦でしたが、まさか他の都でも同じ事になるとは……こちら西の潜入班、目的は達成しました」
宰相は懐から魔力通信機を取り出しエルフへ報告する。
『これでやっと全部隊からの攻撃が出来る。ワドファー軍は既に限界に近い、早速暴れてくれ』
魔力通信機から作戦実行の命令が出る。
「よし皆さん、行動開始です、ですがなるべく奇襲を心掛けて下さい。他の所に居た捕虜も王都への門へ向かうように言ってあります。まずは合流地点を目指し、それから西の人間の戦力を削りましょう」
宰相の言葉に従い監獄から出る為、亜人達は出口へ向かう。
「だがこの大人数で隠れながら進むのは難しいんじゃないですかい?」
「想定しているより大分多いですね……」
「人間達も俺達を捕らえたは良いが魔王のおかげで人手不足だ、何人か処刑された者も居たが、復興や人員整理の混乱で、俺達に構っている余裕はなかったんだろう。だいぶ放っておかれたよ」
体型の大きな亜人が宰相に説明した。
「君は?」
「西の都での人間への抵抗グループをまとめていた者だ、これからワドファー軍の指揮下に入らせてもらう」
そう言って男は宰相に頭を下げた。
「これからワドファー本隊と人間達を挟み撃ちにします、頼みますよ」
「どうやら戦況はこちらに傾きつつあるみたいだ」
ルインは魔力通信機を耳に当て、エルフから状況を聞いた。
「何?」
「お前達がやろうとしていた人質作戦は今阻止し、これから各部隊は王都へ向かって来る。捕えられていた者達が加わりこっちの戦力はより多くなった」
「亜人共が王都に押し寄せて来るだと。それにそれはまさか……」
人間達はルインの使っていた物を目にし驚いていた。
「ああこれは魔王が西の都を襲った時、戦利品として頂いた物だ。有効に使えているだろう?」
「ならば我々の作戦は筒抜けだったか……」
老人達は大げさに困った振りをした。
「それで、次はどんな手を打ってくる?」
ルインは挑発する様に人間達に語り掛ける。
「だが今ここでお前を殺せば作戦も漏れず、ワドファーは王を失う!兵達よやれ!」
「結局力押しか、ここで全て出し切ってもいいかもな!」
ルインは再び戦う演技をする。
だが、重装備の兵はかなりの腕前で、ルインは演技が動きについていけず、徐々に遅れていく。
「こいつら強い……!」
それでもルインの力は容赦なく人間の兵達を倒していく。
「む?待て!」
大臣はその違和感に気づき戦闘を止める。
「!?」
そこに居る誰もが大臣に注目した。
「お前本当にワドフ王のせがれか?」
「……」
ルインは何も答えなかった。
「魔王は何かに化けて戦場に現れた、そしてこの王宮に混乱をもたらした者も将校に化けていたという……」
「ま、まさか……」
「よく考えれば、こんな所まで一介の亜人が来れるはずないのだ」
「ではやはり奴が、魔王……!」
老人達は狼狽し始めるが、大臣はそれを諫める。
「各々方安心してくれ、魔王の力は研究されている。奴が魔王ならば戦闘などする必要はない、そればかりか私は対策を練っていた」
「魔王だとして、確かめる方法はあるのか?」
「それは簡単だ、さあワドフの新王よ目の前に居る兵の首を飛ばしてみるがいい」
大臣が戦闘を止めた時、ルインの前に立っていた兵の一人を指し言った。
「お前は動くな。これは命令だ」
兵は大臣の命令通り、隙だらけのままルインの目の前に立つ。
「……」
ルインは短剣を構える。
「さあどうした?もし邪魔なら兵の装備も外させよう」
だがルインは力なく剣を下ろす。
「ふふ……ははは!これで我々は勝ったな!」
大臣は高らかに笑い声を上げる、だが周りはその意味が分からず大臣に問いかけた。
「これはどういうことだ、説明しろ」
「私はあの不毛の地で魔王に敗れてから、徹底的に奴を調べた。戦場に出ていた末端の兵にまで話を聞いてな。そして誰一人として、魔王が自ら攻撃するのを見た者はいなかったのだ。力の代償か制約なのかは分からん、だが魔王自身は攻撃力を持っていないんだ!」
「理屈は分かったが、それでどうやって魔王を倒す?」
「倒す?何もできない虫けらをわざわざ相手にする必要はないだろう」
「何も出来なくはないだろう、現にこうやってここに潜り込み、かなりの被害と混乱を出した」
「私に策がある、任せてくれれば見事魔王を捕らえてみせよう」
大臣は不敵に笑う。
その顔を見た評議院の老人達は、相談するかの様に顔を見合わせ頷いた。
「良いだろう、ここは任せる」
「ならば貴公らは作戦本部に場所を移し、そちらで指示を出してくれ。この部屋でのやり取りは、全て奴に筒抜けだったということだ」
「そうだな、ここ程快適ではないだろうが、直接全体指揮を立て直すなら作戦本部か」
老人達は警護の兵と共に部屋を後にした。
残ったのはルイン、大臣、それにここを守っていた数人の兵だけだった。
「俺の正体が分かった所でやる事は変わらない」
そう言ってルインは変身を解いた。
「なんならこれからはお前達の会議に参加して、情報を流し続けようか?」
ルインは振り返り、老人達が出て行った扉へ向かう。
しかし、二人の兵が扉の前でルインの行く手を遮る。
「確かに俺は自分から攻撃はしないが、無理に扉を通るくらいの事は出来る。それを止めるには武力が要るね。試しに俺を突き飛ばしてみるか?」
「まあ待て魔王、少し私のショーでも見ていけ」
「ショー?」
「それが終わればこの王宮内を幾らでも歩き回っていいぞ。おい、あれを」
大臣は隣にいる兵に指示を出すと、兵は部屋の奥に姿を消す。
「ワドファーと戦う以上、神出鬼没なお前を常に警戒しなければいけなかったからな。どこに行くにも大変だった」
再び兵が姿を現した時、ルインは驚愕した。
「ポ、ポル婆……」
兵の手には鎖が握られており、鎖はポル婆――の手錠に繋がっていた。




