人間の国、強襲6
王宮に到着した勇者を見て、周囲の人々はその身なりに驚いた。衣服はボロボロでさらに全身の切り傷を負っており、普段は自らの強化魔法で移動する勇者が、馬に乗っていたからだ。
馬から降りた勇者はその足で軍の作戦本部へ向かう。
「おお、勇者よ戻ったか。その姿は……」
上官達は当然のように吉報を聞こうとワラワラと寄ってくる。
「東側の侵攻は止めた、すぐには動けないだろ」
「止めだけ?亜人共を倒した訳ではないのか!?」
一人の将が勇者の報告に疑問を唱える。
「そうだ、止めただけだ。大本は魔獣を従えた亜人だったからな、俺はこの戦争に加担する気はないし……なにより奴は強かった」
「おぉ勇者よなんと情けない……亜人だろうが魔獣だろうが国や人間に害の為す者は全て葬ってくれなくて」
将は額を抑えながら大げさに言う。
「この戦いの相手はそれほど大きいという事だ、神話である原初の魔王の様にこの辺りに住む全ての者が力を合わせている」
「は?それは全てを滅ぼそうとする魔王が相手だったからだろう?」
「奴等からしたら人間も似たようなものだろう?この十数年で一体幾つの種族を滅ぼした?俺はもう戻る、体力と魔力を回復させなくては」
勇者は報告を終え、本部が置かれている部屋から出て行った。
「くそっ!勇者め……何が似たようなものだ!戦争相手に手心加えるなどと!」
「奴め我々を裏切る気か?」
「だが東の侵攻を止めたのは大きい、勇者の処遇は戦いの後考えればよい」
「そうだな、先ずは戦力を残りの三方向に分けよう」
人間達の会議を変身しながら盗み聞いていたルインは、隠れながらワドファー本国のエルフに連絡する。
「キドウがやられたって聞いた、勇者も王宮に戻って来たし……」
『こちらでも確認している、残念ながら事実……東からの進攻は止まった』
「このままじゃ他の場所の負担が大きくなる、これからどうしようか?」
『君の魔鉱石はどれくらい減った?』
「もう半分は切ったかな……そろそろ俺が動く時かな?」
『そうだな南の動きが芳しくなく西も危ない、そちらでも動いて貰おう』
「皆の負担を減らさなきゃね」
ルインはマントを身にまとい再び変身し王宮を闊歩する。その姿は現在のワドファー王そのものだった。
「な……あれはワドファーの王?」
「本物か……?」
「何をしている!亜人が入り込んで来てるんだ、殺せ!」
ワドファー王の姿を見た人間達の反応は様々だった。
(全員が向かって来てくれる訳ではないか……)
攻撃を仕掛けてくる人間には反撃したように見せかけながら、堂々と王宮内を歩き、そのまま人間達の作戦本部の扉を開く。
「ワドファー王だと?」
「何故ここに!?兵は何をやっていた!」
部屋の中に居た人間達は、いきなりの敵の王の登場に驚く。
「何故だと?この戦争に勝ちに来たに決まってるだろう?父を殺したこの国を俺の手で直接滅ぼす!」
ルインは短剣を抜き構えた。
「単身一人乗り込んで来るとは愚かな!奴を殺せ!」
「勝算もなくこんな所まで来るか!体格は違っても俺はあの人の息子だ、机を囲んでいるだけの老人とその護衛など俺一人で十分だ!」
人間の兵達はルインに襲い掛かる、中には銃を持っている者もいてルインは演技力を試された。
将校の数をある程度減らした後、ルインは膝をつく。
「亜人め……本部がめちゃめちゃだ……」
「だがもう限界みたいだ、このまま一気に!」
「クソっ!」
室内の人間に囲まれかけたルインだが、一瞬の隙をつき咄嗟に部屋から逃げ出す。
「あまり一方的だとバレちゃうからな。これで軍の動きは抑えられればいいけど」
王宮内では既にワドファーの新王が入り込んでいると報告され、引っ切り無しに兵が襲い掛かって来た。
「ぎゃあ!」
「なんだ?奴はどこから攻撃してきてるんだ?」
兵は走り回るルインを攻撃し勝手に倒れて行く。
「前にもこんな事あったな」
「ああワドファーの新王と言って魔王が来た時だ……ひっ」
ワドファーの新王の強さは知れ渡り、腕に自信のない兵は挑みすらせずルインを素通りさせた。
しかし、戦闘回数が増える程、その理不尽な強さを不審に思う兵も増えていった。
そしてやがて、王宮内を走り回るルインに無暗に攻撃を仕掛ける者は減って行く。
「気付かれ始めたか?……こうなったら」
ルインはわざと兵が多い方へ向かっていく。
「ついに諦めたか!」
「おい待て!こいつなんか変だぞ!これ以上奥に行かせるな」
冷静な兵はこれ以上ルインを通すまいと、圧倒的な数の差で囲う。
それでも無理矢理通ろうとすれば兵達は攻撃するしかなく、攻撃を仕掛けた兵は倒れて行った。
しかし、そう何度も同じ手は通じず、追ってくる兵も減って行く。
「ハァ……ハァ……追手が来ない……」
目の前に居るのは追って来た兵達とは違い、鎧も武器も重装備の数人の兵だけ。それも自ら手を出さずジッとルインを観察し奥に通さない様構えているだけだった。
兵の奥には大きな扉があり、目の前の兵はその扉を守る様ルインの前に立ち塞ぐ。
「ここに何かあるのか……?」
「ここは通さん!」
ルインは兵の言うことを無視し、無理やり目の前に部屋に入ろうとする。それを防ごうと、兵はルインを攻撃するが、攻撃は返され兵は倒れる。
そうしてルインは扉を開けた。
「何者だ!」
そこには軍の者とは違う装いの人間の老人が数人集まっており、その中にはかつて人間の王の横に居た大臣の姿もあった。
「ワドファーの?そうかお前が今王宮内で暴れている亜人か」
老人達は逃げる様子もなく冷静に佇み、横に居た複数の重装備の兵が彼等を庇うように前に出る。
「あんた達は?軍人じゃなさそうだが……」
ルインは人間達に聞く。
「ああ、我々は軍人じゃない。王亡き今この国を支えている大評議院だ」
座席の真ん中に座る白く長い髭の老人が答えた。
「そうか……つまり国のトップ。お前たちを倒せばこの戦争は止まり、父の仇を討てるということか!」
「無駄だ、この戦争は我々が勝つ。東だけは素通りだが、他の方面では君の兵達はどこも王都に入ってきてないだろう……」
「だからここに俺が居る」
ルインは再び短剣を構える。しかし先程とは違い、誰もルインを排除する命令を出さずルインは焦りだす。
「ふっ、亜人一匹が王宮で暴れたところで結果は変わらない。間もなくこの地では我々人間が頂点の時代が来る」
「それより亜人の王である君なら、我々に貢献できるだろう。君が敗北を宣言すれば戦いは直ぐに終わる」
「もちろん、負けを認めれば王ではいられなくなるが……代わりに、自由を約束しよう。悪い話じゃないだろう?」
「時代は変わり人間の時代がやってくる。ならば、君も新しい時代に合わせ、自分を変えてみないか?」
人間の老人たちは口々にルインを説き伏せようとした。
「自分を変える?お前達の奴隷になるっていう事か?」
「この国では奴隷は禁止されているからなぁ。だがまあ……その程度の身分なら生も保証されるだろう」
「……自分が変われば世界は変わる、か。確かに、自分の世界に閉じこもる奴にその手の文句は道理かもしれない」
「分かったか?ならば……」
「だが、間違った世界の被害者にそれを言ったところで、何も変わりはしない。元が腐ってるのだから同じような者はこれからも出続け、負の連鎖は終わりはしない。お前達は勝った後、更に領土を広げ、同じ事をするだろう」
「それが発展と言う物だ。君はそれを止める救世主にでもなるとでもいうのか?」
「だったら滅びるべきはお前達だ!自分が変われば世界は変わるのだろ?他者に強要する前に自分達が変わり、滅びを受け入れてみせろ。この地からお前たちが居なくなれば、平穏は訪れる!」




